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「一色 神速・T・スカリ』
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そう言われた真壁はゆっくりと顔を上げた。そしてサングラスを外すとニヤついてるようにも見えるスカリと目を合わせた。
「俺は組を抜けるつもりです。その交換条件の仕事を最近はしてて、今回が最後の仕事なんです」
真壁はバッグをテーブルに置くと、そのままスカリの前へと滑らせた。それを手に取ったスカリはチャックを開け中を覗いた。バッグの中身は、一丁の拳銃。
「これが終われば俺は堅気になります。そして光里と……」
「三割って意外と引けたりするもんなのか」
チャックを閉めたスカリはバッグを真壁の前へ。
「でもこれって鉄砲玉ってやつなんじゃ? 下手すりゃ死ぬんじゃない?」
「そうなるかもしれない。――けど、俺は鉄砲玉にはならない。必ず戻って正々堂々と光里に――」
それはブレる事のない強く硬い決意の眼差しだった。
「プロポーズする」
「ふーん。断られたら?」
そんな鋭い一刀が返ってくるとは思ってなかったのか、真壁は意表を突かれた様子だった。
「そ、それは……」
片手で顔を覆い脳裏では考えても無かった想像が行われているのだろう、少し間を開けてからガグッと顔を落とした。
「……泣く。かもしれないです」
「うん。なんかゴメン」
そこまで悪気のなかったスカリだったが、予想外に言葉の刃となった事に申し訳なさが込み上げる。
「でももしそうなったとしても構いません。彼女にはちゃんとしてから言いたいんです。嘘の事も全部。後めたい事が無くなってから俺の想いを伝えたいんです。それでもし駄目だったとしても構いません」
「愛だねぇ」
揺るぎないそんな心を目の前にスカリは感慨深そうに呟いた。
「決行は明日。標的はブラード組の組長。――もし失敗したら」
真壁の逸らした視線は一度バッグへ向き、それからスカリへと戻った。
「その時は浮気相手とどっかに逃げたって事にして下さい」
「考えとく」
* * * * *
年季が入り傾いた看板。それ同様に書かれた文字も今にも外れてしまいそうだった。
『ハングリーフル』
それは仄暗く、薄汚い路地裏に幽霊のように建つ飲食店。知る人ぞ知る、観光客だけでなく地元の人間でさえ知らない人の方が多そうな閑散とした場所だった。
「って感じでいつもとは違った依頼でさ」
吉川光里の依頼を受けたお店のカウンター席に座っていたスカリはフライ定食を食べていた。そんな彼女の向かいにあるキッチンに立っていたのは、黒を基調とした服装を身に纏い子供のように小柄なキッチン担当――ルエル・イール。ミディアムヘアの黒髪には黒いコック帽が乗り、表情は不機嫌そうだがどこか愛らしい女の子。
「てかよ。おめーに守秘義務って概念はねーのかよ!」
ただし口はその服装同様に黒い。
「どうせここから漏れるって事ないし」
そしてスカリの一つ席を開けた隣にも人影があった。白を基調とした服装の同じように小柄なホール担当――ベアル・ブゼルブル。白い頭巾から顔を見せる白銀のロングヘアは三つ編み混じりで、ルエルとは相反し柔らかな表情を浮かべた雲のような女の子だった。
「それは楽しそうですね」
「ていうかいいかげんここを事務所代わりにすんの止めろ!」
「まぁいいじゃん。いつもガラガラだし。むしろお客さんを呼んでる幸運の女神ってやつじゃ?」
自分で自分を指差すスカリは若干のドヤ顔を浮かべていた。
「てめぇのどの部分が女神なんだよ」
「この美しさ! とか」
スカリは座ったままポーズを取って見せた。
だがルエルの眉間にはそれとは相反し更に深く皺が寄る。
「雑種は感覚までとち狂ってんのか?」
「まぁまぁ。賑やかでいいじゃないですか」
するとドアの開く音が聞こえゆったりとした足取りの靴音が真っすぐカウンター席へと近づいた。その音はスカリに並ぶと椅子を引き隣へ腰を下ろした。
ハングリーフルへやってきたのは須藤。彼は席に座りながら注文をした。
「あー、んじゃ刺身定食」
ルエルは注文を聞くと流れるように料理を作り始めた。
「あれ? 須藤さんじゃん。お疲れー」
「ちゃんと働いてっか?」
「はぁ? 今日、無償で働いてあげたじゃん」
「あれか。あれは楽させてもらった。まぁ、あの程度なら面倒にもならんがな」
「そう言えばあれってどっちだったの?」
「デビラ―だな。どうせ下級だろ」
「ふーん」
唸るような返事をしながらスカリは白身フライを一口。サクッと触感だけで白米を食べられそうな衣と肉のような白身、オリジナルのタルタルソースと手を取り合い口の中では舞踏会が開かれた。
「ほらよ」
言葉と共にカウンターの向こうから雑に渡された刺身定食。お膳の上には五種の刺身と汁物、小鉢と白米が乗っていた。
「そういやお前さん。明日は暇か?」
「全部奢ってくれるならいいかなぁ」
「何の話だ? だが、間接的に奢ってやる」
そう言って須藤は懐から少し太った茶封筒を取り出し彼女の前へ。
「依頼だ」
「そう言う事なら」
スカリはその封筒を中身は確認せずにそのまま懐へ。
「最近だが少し派手にやってる詐欺グループが潜んでる場所が割れたらしくてな。その事務所を不意打ちする」
「そういうのは二課の仕事でしょ? あっ、でも須藤さんに回ってきてるってことは犯人はコントラクターか」
「最近は忙しいらしくてな。可能性とかいう体で回してきやがった」
「事件を盥回しにしてんじゃねーよ」
カウンター越しにお玉を突き付けるルエル。
「ちゃんと解決すりゃあいーんだよ」
「刑事さんはお忙しいんですね」
「コントラクターも増えてるからな」
「契約を交わした悪魔か天使は生きてる限り別の人間と契約を交わせば良いだけですからね。数は減りにくいですよね」
「そいつらが大人しくしてくれてりゃ何の問題も無いんだがな」
今にも溜息をつきそうな表情のまま須藤は定食へ箸を伸ばした。
「俺は組を抜けるつもりです。その交換条件の仕事を最近はしてて、今回が最後の仕事なんです」
真壁はバッグをテーブルに置くと、そのままスカリの前へと滑らせた。それを手に取ったスカリはチャックを開け中を覗いた。バッグの中身は、一丁の拳銃。
「これが終われば俺は堅気になります。そして光里と……」
「三割って意外と引けたりするもんなのか」
チャックを閉めたスカリはバッグを真壁の前へ。
「でもこれって鉄砲玉ってやつなんじゃ? 下手すりゃ死ぬんじゃない?」
「そうなるかもしれない。――けど、俺は鉄砲玉にはならない。必ず戻って正々堂々と光里に――」
それはブレる事のない強く硬い決意の眼差しだった。
「プロポーズする」
「ふーん。断られたら?」
そんな鋭い一刀が返ってくるとは思ってなかったのか、真壁は意表を突かれた様子だった。
「そ、それは……」
片手で顔を覆い脳裏では考えても無かった想像が行われているのだろう、少し間を開けてからガグッと顔を落とした。
「……泣く。かもしれないです」
「うん。なんかゴメン」
そこまで悪気のなかったスカリだったが、予想外に言葉の刃となった事に申し訳なさが込み上げる。
「でももしそうなったとしても構いません。彼女にはちゃんとしてから言いたいんです。嘘の事も全部。後めたい事が無くなってから俺の想いを伝えたいんです。それでもし駄目だったとしても構いません」
「愛だねぇ」
揺るぎないそんな心を目の前にスカリは感慨深そうに呟いた。
「決行は明日。標的はブラード組の組長。――もし失敗したら」
真壁の逸らした視線は一度バッグへ向き、それからスカリへと戻った。
「その時は浮気相手とどっかに逃げたって事にして下さい」
「考えとく」
* * * * *
年季が入り傾いた看板。それ同様に書かれた文字も今にも外れてしまいそうだった。
『ハングリーフル』
それは仄暗く、薄汚い路地裏に幽霊のように建つ飲食店。知る人ぞ知る、観光客だけでなく地元の人間でさえ知らない人の方が多そうな閑散とした場所だった。
「って感じでいつもとは違った依頼でさ」
吉川光里の依頼を受けたお店のカウンター席に座っていたスカリはフライ定食を食べていた。そんな彼女の向かいにあるキッチンに立っていたのは、黒を基調とした服装を身に纏い子供のように小柄なキッチン担当――ルエル・イール。ミディアムヘアの黒髪には黒いコック帽が乗り、表情は不機嫌そうだがどこか愛らしい女の子。
「てかよ。おめーに守秘義務って概念はねーのかよ!」
ただし口はその服装同様に黒い。
「どうせここから漏れるって事ないし」
そしてスカリの一つ席を開けた隣にも人影があった。白を基調とした服装の同じように小柄なホール担当――ベアル・ブゼルブル。白い頭巾から顔を見せる白銀のロングヘアは三つ編み混じりで、ルエルとは相反し柔らかな表情を浮かべた雲のような女の子だった。
「それは楽しそうですね」
「ていうかいいかげんここを事務所代わりにすんの止めろ!」
「まぁいいじゃん。いつもガラガラだし。むしろお客さんを呼んでる幸運の女神ってやつじゃ?」
自分で自分を指差すスカリは若干のドヤ顔を浮かべていた。
「てめぇのどの部分が女神なんだよ」
「この美しさ! とか」
スカリは座ったままポーズを取って見せた。
だがルエルの眉間にはそれとは相反し更に深く皺が寄る。
「雑種は感覚までとち狂ってんのか?」
「まぁまぁ。賑やかでいいじゃないですか」
するとドアの開く音が聞こえゆったりとした足取りの靴音が真っすぐカウンター席へと近づいた。その音はスカリに並ぶと椅子を引き隣へ腰を下ろした。
ハングリーフルへやってきたのは須藤。彼は席に座りながら注文をした。
「あー、んじゃ刺身定食」
ルエルは注文を聞くと流れるように料理を作り始めた。
「あれ? 須藤さんじゃん。お疲れー」
「ちゃんと働いてっか?」
「はぁ? 今日、無償で働いてあげたじゃん」
「あれか。あれは楽させてもらった。まぁ、あの程度なら面倒にもならんがな」
「そう言えばあれってどっちだったの?」
「デビラ―だな。どうせ下級だろ」
「ふーん」
唸るような返事をしながらスカリは白身フライを一口。サクッと触感だけで白米を食べられそうな衣と肉のような白身、オリジナルのタルタルソースと手を取り合い口の中では舞踏会が開かれた。
「ほらよ」
言葉と共にカウンターの向こうから雑に渡された刺身定食。お膳の上には五種の刺身と汁物、小鉢と白米が乗っていた。
「そういやお前さん。明日は暇か?」
「全部奢ってくれるならいいかなぁ」
「何の話だ? だが、間接的に奢ってやる」
そう言って須藤は懐から少し太った茶封筒を取り出し彼女の前へ。
「依頼だ」
「そう言う事なら」
スカリはその封筒を中身は確認せずにそのまま懐へ。
「最近だが少し派手にやってる詐欺グループが潜んでる場所が割れたらしくてな。その事務所を不意打ちする」
「そういうのは二課の仕事でしょ? あっ、でも須藤さんに回ってきてるってことは犯人はコントラクターか」
「最近は忙しいらしくてな。可能性とかいう体で回してきやがった」
「事件を盥回しにしてんじゃねーよ」
カウンター越しにお玉を突き付けるルエル。
「ちゃんと解決すりゃあいーんだよ」
「刑事さんはお忙しいんですね」
「コントラクターも増えてるからな」
「契約を交わした悪魔か天使は生きてる限り別の人間と契約を交わせば良いだけですからね。数は減りにくいですよね」
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