3 / 24
「一色 神速・T・スカリ』
2
しおりを挟む
雲一つない蒼穹から燦々と降り注ぐ陽光と囁くような風。子ども達の活発な声がどこからともなく聞こえてきそうな平和な日。外でゆったりーー思わず全てを放り出し穏やかに過ごしたくなる中、その建物は降り注ぐ日差しに負けじと華やかな光を放っていた。
そんな真昼間とは相反する建物へ入っていく少し背中を丸めた男。オールバックに派手なシャツは胸元を開け、金のネックレスが睨みを利かせている。サングラスを掛けた男は、両手をポケットに入れたまま入口の中は見えないエアードアを通り抜けて行った。
「こんな時間からカジノ?」
カジノへと入って行くそんな男と距離を取りながら視線を送る女性は眉を顰め一人静かに呟いた。
物陰からそっと顔を覗かせる一人の女性。それはお洒落にまとめられた金髪にサングラスを寝そべらせた神速・T・スカリ。下にはカーゴパンツのようなパンツとブーツ、上には水着のようなクロップドトップスとその上から長袖のシャツを羽織っている。顔を見せる腹部は括れ程よく鍛えられていた。そして片耳では複数のピアスが反対側の片手では指輪が煌めく。
「チンピラって暇なのかな?」
一人で小首を傾げたスカリはサングラスを下ろすと物陰から離れ、カジノへと少し軽くなった足取りで向かった。
エアードアを通り中へ入ったスカリを迎えたのは、雨だろうが夏だろうが冬だろうが関係ない時間の止まったような煌びやかな内装の店内。入り口から真っ直ぐ中央廊下が伸びており、左手にスロット台、右手にテーブル台が幾つも並んでいる。
スカリは辺りをざっと見回し、テーブル台へ向かう男の後姿を見つけると同じ方向へと足を進めた。
その途中、スカリは男を目で追っていた所為かチップを両手に持ったお腹同様に懐もふくよかそうな男性と軽くぶつかった。
「あっ、すみません」
反射神経を見せつけるかのように瞬時に手元のチップへ落ちないよう片手を伸ばしたスカリは男性に軽く頭を下げながら謝った。
「いやいや。いいよ」
そんな彼女に対し大勝ちでもしたのだろう心の余裕を持った男性は微笑みを浮かべ返事をした。
そしてそのまま男性と背を向け合ったスカリは、男が着いたテーブル台の手前のルーレットテーブルへ。
「スピニングアップ」
スカリが来るのを待っていたタイミングでディーラーはウィールにボールを投入。テーブル客の期待を背負った白いボールはぐるぐると勢い良く回り始めた。
「白? 黒? んー。オッドかな」
すると独り言を呟いたスカリは手品師の如く手元に黒いチップを一枚出した。それは先程、ぶつかった男性からくすねたチップだった。
彼女は言葉の後、そのチップをオッドの文字へ。くすねたチップをお客の振りをする為か何の躊躇も無く――むしろ心躍らせながら賭けた。そして期待に口元を緩ませながら回るボールの行く末を見守る。だがその視界端ではしっかりと前方のテーブルに立つ男を捉え続けていた。
するとその時。スキップを踏みながら回るボールは突然、大きく跳躍しウィールから宙へ大脱走した。賭けたテーブル客の視線を独り占めしながら空中へと飛び出したボールは、高い天井を背に弧を描きながら空中散歩。
そしてボールは隣のポーカーテーブルへと落ちていった。一番奥のお客の元まで飛んだボールは丁度、投げつけるように捲られた二枚のカードの上へ。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
だがそんなボールなど見えていないのだろう勝負の結果に男は人目も憚らず声を荒げた。
そして怒りに身を任せた男が両手を振り上げると――。首筋の小さな紋様が独りでに光を放ち始め、それに呼応し彼の両腕は一瞬にして肥大した。人間より二回りほど大きなそれは誰が見ても明らかに常軌を逸している。
しかしその事に対し周囲が一驚に喫するより先に、男はその両腕をテーブルへと叩き付けた。勝利と敗北、その叫声はあれど決してカジノに響く事の無い轟音と共にテーブルは大きく破損。更にそれよりワンテンポの間を空けて、止まっていた時間が動き出し最初の悲鳴が上がる。
そこから伝染しカジノ内は瞬く間に混乱の渦に呑み込まれた。
「コントラクターだ!」
「コントラクターが暴れてるぞ! 逃げろ!」
そしてカジノ内は優雅に賭け事を楽しんでいた紳士淑女の一変した大声と我先に駆ける足音で瞬く間に溢れ返った。
だが逃げ惑う人の波の中、スカリは平然とした様子でコントラクターを眺めていた。
「あぁーあ。こんな事で暴れちゃって。って――あっ」
するとスカリは思い出したと慌てて辺りを見回した。慌てふためく人々を視線は縫うように確認していく。
しかし追っていた男の姿は消えてしまっていた。
「ってどこにもいないし」
一人別世界にいるかのようにスカリは悠長に溜息を零し、明らかにガクッと肩を落とした。そんな彼女の横を通り過ぎてゆくポーカーテーブル。共に舞い散るカード。スペードのエース、キング、クイーン、ジャック。
そして――弾丸。
テーブルにカードとすれ違った弾丸は空を貫きながら標的へと向かっていく。その直線上にいるのはコントラクター。
だが掴み引き寄せられた別のポーカーテーブルでそれは易々と防がれた。更にその一発を追って来た数発と共に。
「さて。アンタはどっちに賭ける?」
片手に黒を基調とした拳銃を握ったスカリは、銃弾を防がれたのを気にも止めずもう片方の手を軽く伸ばした。
そんな真昼間とは相反する建物へ入っていく少し背中を丸めた男。オールバックに派手なシャツは胸元を開け、金のネックレスが睨みを利かせている。サングラスを掛けた男は、両手をポケットに入れたまま入口の中は見えないエアードアを通り抜けて行った。
「こんな時間からカジノ?」
カジノへと入って行くそんな男と距離を取りながら視線を送る女性は眉を顰め一人静かに呟いた。
物陰からそっと顔を覗かせる一人の女性。それはお洒落にまとめられた金髪にサングラスを寝そべらせた神速・T・スカリ。下にはカーゴパンツのようなパンツとブーツ、上には水着のようなクロップドトップスとその上から長袖のシャツを羽織っている。顔を見せる腹部は括れ程よく鍛えられていた。そして片耳では複数のピアスが反対側の片手では指輪が煌めく。
「チンピラって暇なのかな?」
一人で小首を傾げたスカリはサングラスを下ろすと物陰から離れ、カジノへと少し軽くなった足取りで向かった。
エアードアを通り中へ入ったスカリを迎えたのは、雨だろうが夏だろうが冬だろうが関係ない時間の止まったような煌びやかな内装の店内。入り口から真っ直ぐ中央廊下が伸びており、左手にスロット台、右手にテーブル台が幾つも並んでいる。
スカリは辺りをざっと見回し、テーブル台へ向かう男の後姿を見つけると同じ方向へと足を進めた。
その途中、スカリは男を目で追っていた所為かチップを両手に持ったお腹同様に懐もふくよかそうな男性と軽くぶつかった。
「あっ、すみません」
反射神経を見せつけるかのように瞬時に手元のチップへ落ちないよう片手を伸ばしたスカリは男性に軽く頭を下げながら謝った。
「いやいや。いいよ」
そんな彼女に対し大勝ちでもしたのだろう心の余裕を持った男性は微笑みを浮かべ返事をした。
そしてそのまま男性と背を向け合ったスカリは、男が着いたテーブル台の手前のルーレットテーブルへ。
「スピニングアップ」
スカリが来るのを待っていたタイミングでディーラーはウィールにボールを投入。テーブル客の期待を背負った白いボールはぐるぐると勢い良く回り始めた。
「白? 黒? んー。オッドかな」
すると独り言を呟いたスカリは手品師の如く手元に黒いチップを一枚出した。それは先程、ぶつかった男性からくすねたチップだった。
彼女は言葉の後、そのチップをオッドの文字へ。くすねたチップをお客の振りをする為か何の躊躇も無く――むしろ心躍らせながら賭けた。そして期待に口元を緩ませながら回るボールの行く末を見守る。だがその視界端ではしっかりと前方のテーブルに立つ男を捉え続けていた。
するとその時。スキップを踏みながら回るボールは突然、大きく跳躍しウィールから宙へ大脱走した。賭けたテーブル客の視線を独り占めしながら空中へと飛び出したボールは、高い天井を背に弧を描きながら空中散歩。
そしてボールは隣のポーカーテーブルへと落ちていった。一番奥のお客の元まで飛んだボールは丁度、投げつけるように捲られた二枚のカードの上へ。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
だがそんなボールなど見えていないのだろう勝負の結果に男は人目も憚らず声を荒げた。
そして怒りに身を任せた男が両手を振り上げると――。首筋の小さな紋様が独りでに光を放ち始め、それに呼応し彼の両腕は一瞬にして肥大した。人間より二回りほど大きなそれは誰が見ても明らかに常軌を逸している。
しかしその事に対し周囲が一驚に喫するより先に、男はその両腕をテーブルへと叩き付けた。勝利と敗北、その叫声はあれど決してカジノに響く事の無い轟音と共にテーブルは大きく破損。更にそれよりワンテンポの間を空けて、止まっていた時間が動き出し最初の悲鳴が上がる。
そこから伝染しカジノ内は瞬く間に混乱の渦に呑み込まれた。
「コントラクターだ!」
「コントラクターが暴れてるぞ! 逃げろ!」
そしてカジノ内は優雅に賭け事を楽しんでいた紳士淑女の一変した大声と我先に駆ける足音で瞬く間に溢れ返った。
だが逃げ惑う人の波の中、スカリは平然とした様子でコントラクターを眺めていた。
「あぁーあ。こんな事で暴れちゃって。って――あっ」
するとスカリは思い出したと慌てて辺りを見回した。慌てふためく人々を視線は縫うように確認していく。
しかし追っていた男の姿は消えてしまっていた。
「ってどこにもいないし」
一人別世界にいるかのようにスカリは悠長に溜息を零し、明らかにガクッと肩を落とした。そんな彼女の横を通り過ぎてゆくポーカーテーブル。共に舞い散るカード。スペードのエース、キング、クイーン、ジャック。
そして――弾丸。
テーブルにカードとすれ違った弾丸は空を貫きながら標的へと向かっていく。その直線上にいるのはコントラクター。
だが掴み引き寄せられた別のポーカーテーブルでそれは易々と防がれた。更にその一発を追って来た数発と共に。
「さて。アンタはどっちに賭ける?」
片手に黒を基調とした拳銃を握ったスカリは、銃弾を防がれたのを気にも止めずもう片方の手を軽く伸ばした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
世界よ優しく微笑んで
えくれあ
恋愛
世界一の魔力を持つといわれた少女は自分が生まれた世界に絶望し、自らの意思で異世界転移を決意します。
転移先の世界で出会ったのは、1人の侯爵様。
思わぬ形で侯爵様の恩人かのようになってしまった少女は、侯爵様のところでまるで貴族令嬢かのような生活を送ることに。転移先では思うように魔法は使えず、また、今まで貴族社会とは無縁の生活を送っていたので、少女には戸惑うことも多々あるけれど、新しい世界でちょっとずつ幸せを見つけていきます。
少女が願うのはただ1つ。この世界が自分に優しい世界であることだけ。
※はじめて書いた小説です。生暖かい目で見守っていただけますと幸いです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる