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第弐幕:狐日和
【40滴】月夜と蝶
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そこへ一歩遅れて姿を現したマーリンとノア。
「戻ってたのね」
「今来たとこだ」
一言を交わすとレイとマーリンはテーブルを挟んで椅子に座り、優也とノアはソファに腰を下ろした。
「これやろうぜユウ」
座るや否やノアは目の前のテーブルに置いてあったコントローラーを優也に手渡し、二人テレビゲームを始めた。
「なんでここにゲームがあるんだよ」
その光景を後ろのテーブル席から眺めていたレイが独り言のように呟く。
「さぁ?」
「息抜きにいいかと思いまして……。他にも、トランプやボードゲームなども揃えております」
レイの疑問に対して紅茶を運んできたアモがポケットからカードゲーム類を出しながら答えた。
「おかげで暇はしなさそうだな」
「それより掃除は終わったの?」
「はい。外回りの掃除も終わりました」
「お疲れさま。アンタもたまにはゆっくりしたらどう?」
「そうですね。特にやることもないですし」
そう言うとアモは椅子を引いて座り、マーリンはカップを手に取り紅茶を一口。
「さてと。そっちは何かあった?」
「狐の面をつけた奴に襲われたぐらいだな」
するとアモがその言葉に反応を見せた。
「もしかしてそれは毛槍を持ち槍を操る少女じゃありませんでしたか?」
「あぁ、そうだった」
「知ってるの?」
「私の知っている妖怪ならば、それは――槍毛長のアゲハだと思います」
「その子は玉藻家?」
「はい。青鬼の百鬼と共に玉藻家の柱となる人物です」
「その百鬼っていう鬼はアタシたちの所に来てたわ」
三人が話をしている最中、ノアは突然コントローラーを片手に持ったまま両手を上げて立ち上がると歓声を上げた。その一方で落ち込んだように肩を落とす優也。そしてノアはコントローラーを置くと前髪を上げ額を晒している優也にデコピンを喰らわせた。
それからも二人は楽しそうに盛り上がっていた。
「ですが少々おかしいですねー」
「どういうこと?」
「玉藻前はあまり争いを好まない性格と聞きます。ですが今回は些か好戦的ではないでしょうか?」
「そりゃ勝手に敷地内に入られたら排除しようともするだろう」
「それもそうですが、百鬼とアゲハの投入が早すぎる気がするのです」
二人の会話を黙って聞きいていたマーリンは何か考えている様子だった。
「もしそうなら先客がいるかもしれないわね。確かその百鬼って言うのが妙なことを言ってたわ。『アイツらとは関係無さそうだ』って」
「先に何者かが上陸している可能性は高いかもしれません。タイミングが悪かったですね」
「何言ってるの? 逆よ。ここで玉藻側に力を貸せば交渉もし易くなるのってものよ」
マーリンは如何にも悪巧みをしているような笑みを浮かべていた。
「マーリン様そのような笑みはあまりしないほうがよろしいかと」
「うるさいわね」
その言葉に今度は少し顔を顰める。
「どちらにせよその為にはまず屋敷を見つける必要があるな」
「アモ、アンタ彼女の幻術見破れる?」
「違和感ぐらいなら分かるかもしれません。玉藻前の力がどれほどか分かりませんので、もしかしたら何も感じ取れないかもしれませんが」
「じゃあ、明日はアタシとアモの二つのグループに分かれて探しましょう」
「りょーかい」
すると今度はさっきとは逆に優也の歓声とノアの叫換が小屋内を駆け巡った。
「盛り上がり過ぎだろ」
「部屋の割り当てはどういたしましょう?」
アモはテーブル上に乗せた腕を枕代わりにしてだらりとするマーリンを見るとそう尋ねた。
「アタシとアモ、あっちの二人、アンタは一人でいいでしょ」
そう言うマーリンの指はレイを指差していた。
「まぁいいけどよ」
「寂しいなら一緒に寝てもいいわよ」
「いいのか!?」
「アモがね」
レイの前傾姿勢を闘牛士の如くひらりと躱したマーリンの指はアモの方を向いていた。
「ご一緒しましょうか?」
「いや、一人でいいかな」
「そうですか」
それからは各々適当に時間を過ごした。
そして夕飯も食べ終わりそろそろ寝ようかと優也が割り当てられた部屋へ入ると、そこでは抱き枕を抱えたノアがベッドで胡坐を掻いていた。天井からの照明に照らされた部屋の中でベッド横にある棚上では微力なランプが自分の出番を今か今かと待ちながら光を放っている。
「これ二人で寝るにしては小さいと思わねーか?」
そう言いながらノアは座っていたベッドを軽く叩く。
「んー、確かに二人用ではない気がするね。一人半?」
そう言いながら照明を消しベッドに座る優也。
「もしあれだったら僕はソファで寝ようか?」
優也は小さなソファを指差しながら尋ねた。
「俺はここで寝てお前はソファ?」
「そう」
「そんな目覚めが悪そうなことは止めてくれ。大丈夫だってちゃんと収まるよ」
「ちゃんと収まるか……。それは君がスリムなおかげかな? それか僕が夕食後のパイを食べなかったからかも」
そう言いながら優也は自分のお腹を摩った。
「あれは美味かったぞ。損したな」
「明日食べるからいいよ」
「あるといいな」
如何にも意味ありげな笑みを浮かべるノアに優也は顔を顰めた。
「まさか、僕の分まで食べた?」
「明日になれば分かるんじゃないか?」
「そんな……気になって夜も寝れないよ」
「寝ろよ」
そう言うと壁際のノアは優也の方を向きながら横になる。だが二人の間には壁を作るようにノアの両腕と両足が絡みついた抱き枕があった。
そして遅れて優也も背中をベッドへと預ける。
「この感じ懐かしい」
それはノアがまだ家にいた時のことを思い出し無意識に口から零れ出た一言だった。
「懐かしい? お前と一緒に寝たことなんてねーだろ」
直ぐに反応したノアはそう言うと少し間を空けハッとしたように口を開いた。
「まさかお前、俺が寝た後に勝手に忍び込んでたのか?」
「ま、まさか! そんなことしないよ」
思わぬ疑いに優也は両手を振りながら慌てて否定する。
「ほんとかぁ?」
だがそノアの双眸は訝し気に優也を見つめていた。
「本当だって!」
「よ~し。信じよう。でももし、寂しかったらちゃんと言えよ? 安心しろ断ったりしねーから。朝から予期してねー出来事で目覚めが悪くなる方がごめんだからな」
「はいはい。ちゃんと言いますよ」
そんなノアに対し優也は少し投げやりに返事をした。
「そもそもノアの目覚めが良かった朝なんて見たことないよ」
ちょっとした抵抗のようなそれはノアに聞こえないほどの小さな声だった。
「なんか言ったか?」
「何でもないよ。おやすみ」
「あぁ」
そして優也は棚上のライトへ手を伸ばし部屋を暗闇で埋め尽くした。
それから暫くして。時刻は深夜の全員が寝静まった頃、優也は一人眠れずにいた。隣を見遣ると抱き枕を抱き心地好い寝息を立てるノアの姿。
このまま寝転がってても寝付けそうになかった優也は気分転換も兼ねベッドから静かに出ると喉を潤しにキッチンへ。
月明りに照らされながらお茶をコップに移し一口飲んでいると不意に目の前へ蝶が飛んできた。それはどこか神秘的で美しい青藍蝶。釣られるように優也が指を差し出すと周りを少し飛び指先へと静かに止まった。
「綺麗な蝶々だなぁ」
莞爾とした笑みを浮かべながら眺めていると蝶は再び羽搏き始めた。そのまま玄関へと向かった蝶は、開けてと言わんばかりに何度かドアに体をぶつけていた。
「ちょっと待ってね」
コップを置きドアまで行った優也が開けてやると蝶は月明りでその身を輝かせた。
すると少し進んだ後に止まった蝶は、振り返りその場で羽搏き続けた。まるで、優也を待っているように。
「ん? なに?」
そして優也が蝶に近づくと、少し進んではまた止まりその場で羽搏く。また近づくと先に進み、また止まる。
それを繰り返しそのまま蝶を追い掛けた優也は導かれるように森へ入り、更に奥へと進んだ。やがて草木が行く手を阻み始め深い茂みへと入っていく。邪魔な草木を掻き分けながら吸い込まれるようにどんどん歩いていくと、突然茂みは終わりを迎えた。
その瞬間、優也は眼前に広がった光景にまず自分の目を疑った。
そこに広がっていたのは、金色の麦畑。しかもつい先程まで夜だったはずが、今は昼間のように明るくお日様のような暖かさも感じる。
そして目線の先には、綺麗な麦畑の中に横を向いて佇む人影がひとつ。
優也を導いた蝶はその人影の方へ飛んで行くと紅葉色の爪が美しい指にそっと止まった。
「戻ってたのね」
「今来たとこだ」
一言を交わすとレイとマーリンはテーブルを挟んで椅子に座り、優也とノアはソファに腰を下ろした。
「これやろうぜユウ」
座るや否やノアは目の前のテーブルに置いてあったコントローラーを優也に手渡し、二人テレビゲームを始めた。
「なんでここにゲームがあるんだよ」
その光景を後ろのテーブル席から眺めていたレイが独り言のように呟く。
「さぁ?」
「息抜きにいいかと思いまして……。他にも、トランプやボードゲームなども揃えております」
レイの疑問に対して紅茶を運んできたアモがポケットからカードゲーム類を出しながら答えた。
「おかげで暇はしなさそうだな」
「それより掃除は終わったの?」
「はい。外回りの掃除も終わりました」
「お疲れさま。アンタもたまにはゆっくりしたらどう?」
「そうですね。特にやることもないですし」
そう言うとアモは椅子を引いて座り、マーリンはカップを手に取り紅茶を一口。
「さてと。そっちは何かあった?」
「狐の面をつけた奴に襲われたぐらいだな」
するとアモがその言葉に反応を見せた。
「もしかしてそれは毛槍を持ち槍を操る少女じゃありませんでしたか?」
「あぁ、そうだった」
「知ってるの?」
「私の知っている妖怪ならば、それは――槍毛長のアゲハだと思います」
「その子は玉藻家?」
「はい。青鬼の百鬼と共に玉藻家の柱となる人物です」
「その百鬼っていう鬼はアタシたちの所に来てたわ」
三人が話をしている最中、ノアは突然コントローラーを片手に持ったまま両手を上げて立ち上がると歓声を上げた。その一方で落ち込んだように肩を落とす優也。そしてノアはコントローラーを置くと前髪を上げ額を晒している優也にデコピンを喰らわせた。
それからも二人は楽しそうに盛り上がっていた。
「ですが少々おかしいですねー」
「どういうこと?」
「玉藻前はあまり争いを好まない性格と聞きます。ですが今回は些か好戦的ではないでしょうか?」
「そりゃ勝手に敷地内に入られたら排除しようともするだろう」
「それもそうですが、百鬼とアゲハの投入が早すぎる気がするのです」
二人の会話を黙って聞きいていたマーリンは何か考えている様子だった。
「もしそうなら先客がいるかもしれないわね。確かその百鬼って言うのが妙なことを言ってたわ。『アイツらとは関係無さそうだ』って」
「先に何者かが上陸している可能性は高いかもしれません。タイミングが悪かったですね」
「何言ってるの? 逆よ。ここで玉藻側に力を貸せば交渉もし易くなるのってものよ」
マーリンは如何にも悪巧みをしているような笑みを浮かべていた。
「マーリン様そのような笑みはあまりしないほうがよろしいかと」
「うるさいわね」
その言葉に今度は少し顔を顰める。
「どちらにせよその為にはまず屋敷を見つける必要があるな」
「アモ、アンタ彼女の幻術見破れる?」
「違和感ぐらいなら分かるかもしれません。玉藻前の力がどれほどか分かりませんので、もしかしたら何も感じ取れないかもしれませんが」
「じゃあ、明日はアタシとアモの二つのグループに分かれて探しましょう」
「りょーかい」
すると今度はさっきとは逆に優也の歓声とノアの叫換が小屋内を駆け巡った。
「盛り上がり過ぎだろ」
「部屋の割り当てはどういたしましょう?」
アモはテーブル上に乗せた腕を枕代わりにしてだらりとするマーリンを見るとそう尋ねた。
「アタシとアモ、あっちの二人、アンタは一人でいいでしょ」
そう言うマーリンの指はレイを指差していた。
「まぁいいけどよ」
「寂しいなら一緒に寝てもいいわよ」
「いいのか!?」
「アモがね」
レイの前傾姿勢を闘牛士の如くひらりと躱したマーリンの指はアモの方を向いていた。
「ご一緒しましょうか?」
「いや、一人でいいかな」
「そうですか」
それからは各々適当に時間を過ごした。
そして夕飯も食べ終わりそろそろ寝ようかと優也が割り当てられた部屋へ入ると、そこでは抱き枕を抱えたノアがベッドで胡坐を掻いていた。天井からの照明に照らされた部屋の中でベッド横にある棚上では微力なランプが自分の出番を今か今かと待ちながら光を放っている。
「これ二人で寝るにしては小さいと思わねーか?」
そう言いながらノアは座っていたベッドを軽く叩く。
「んー、確かに二人用ではない気がするね。一人半?」
そう言いながら照明を消しベッドに座る優也。
「もしあれだったら僕はソファで寝ようか?」
優也は小さなソファを指差しながら尋ねた。
「俺はここで寝てお前はソファ?」
「そう」
「そんな目覚めが悪そうなことは止めてくれ。大丈夫だってちゃんと収まるよ」
「ちゃんと収まるか……。それは君がスリムなおかげかな? それか僕が夕食後のパイを食べなかったからかも」
そう言いながら優也は自分のお腹を摩った。
「あれは美味かったぞ。損したな」
「明日食べるからいいよ」
「あるといいな」
如何にも意味ありげな笑みを浮かべるノアに優也は顔を顰めた。
「まさか、僕の分まで食べた?」
「明日になれば分かるんじゃないか?」
「そんな……気になって夜も寝れないよ」
「寝ろよ」
そう言うと壁際のノアは優也の方を向きながら横になる。だが二人の間には壁を作るようにノアの両腕と両足が絡みついた抱き枕があった。
そして遅れて優也も背中をベッドへと預ける。
「この感じ懐かしい」
それはノアがまだ家にいた時のことを思い出し無意識に口から零れ出た一言だった。
「懐かしい? お前と一緒に寝たことなんてねーだろ」
直ぐに反応したノアはそう言うと少し間を空けハッとしたように口を開いた。
「まさかお前、俺が寝た後に勝手に忍び込んでたのか?」
「ま、まさか! そんなことしないよ」
思わぬ疑いに優也は両手を振りながら慌てて否定する。
「ほんとかぁ?」
だがそノアの双眸は訝し気に優也を見つめていた。
「本当だって!」
「よ~し。信じよう。でももし、寂しかったらちゃんと言えよ? 安心しろ断ったりしねーから。朝から予期してねー出来事で目覚めが悪くなる方がごめんだからな」
「はいはい。ちゃんと言いますよ」
そんなノアに対し優也は少し投げやりに返事をした。
「そもそもノアの目覚めが良かった朝なんて見たことないよ」
ちょっとした抵抗のようなそれはノアに聞こえないほどの小さな声だった。
「なんか言ったか?」
「何でもないよ。おやすみ」
「あぁ」
そして優也は棚上のライトへ手を伸ばし部屋を暗闇で埋め尽くした。
それから暫くして。時刻は深夜の全員が寝静まった頃、優也は一人眠れずにいた。隣を見遣ると抱き枕を抱き心地好い寝息を立てるノアの姿。
このまま寝転がってても寝付けそうになかった優也は気分転換も兼ねベッドから静かに出ると喉を潤しにキッチンへ。
月明りに照らされながらお茶をコップに移し一口飲んでいると不意に目の前へ蝶が飛んできた。それはどこか神秘的で美しい青藍蝶。釣られるように優也が指を差し出すと周りを少し飛び指先へと静かに止まった。
「綺麗な蝶々だなぁ」
莞爾とした笑みを浮かべながら眺めていると蝶は再び羽搏き始めた。そのまま玄関へと向かった蝶は、開けてと言わんばかりに何度かドアに体をぶつけていた。
「ちょっと待ってね」
コップを置きドアまで行った優也が開けてやると蝶は月明りでその身を輝かせた。
すると少し進んだ後に止まった蝶は、振り返りその場で羽搏き続けた。まるで、優也を待っているように。
「ん? なに?」
そして優也が蝶に近づくと、少し進んではまた止まりその場で羽搏く。また近づくと先に進み、また止まる。
それを繰り返しそのまま蝶を追い掛けた優也は導かれるように森へ入り、更に奥へと進んだ。やがて草木が行く手を阻み始め深い茂みへと入っていく。邪魔な草木を掻き分けながら吸い込まれるようにどんどん歩いていくと、突然茂みは終わりを迎えた。
その瞬間、優也は眼前に広がった光景にまず自分の目を疑った。
そこに広がっていたのは、金色の麦畑。しかもつい先程まで夜だったはずが、今は昼間のように明るくお日様のような暖かさも感じる。
そして目線の先には、綺麗な麦畑の中に横を向いて佇む人影がひとつ。
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