御伽の住み人

佐武ろく

文字の大きさ
上 下
41 / 85
第壱幕:人と御伽

【24+滴】ウェアウルフと吸血鬼2

しおりを挟む
 そしてまだ慣れないことが一目で分かるような右フックで顔を狙う。レイはそれを悠々と屈んで躱すと、右拳を顎目掛けて突き上げるが避けられたそれは頬を掠めながら真横を通過していった。
 直後、優也はレイのガラ空きになった脇腹へ透かさず左足をお見舞いしようとする。隙を突いたということもあり蹴り飛ばせると思っていたが飛ばすどころか大木でも蹴ったようにその場で耐えられ、逆に左足を掴まれてしまった。
 だが優也は咄嗟の判断により掴まれ固定された左足で体を支えながら右足で横顔を一蹴。これは防がれることも躱されることもなくモロに横顔を捉えた。
 しかし、綺麗に受け流しそのまま受け身を取ったレイに目立ったダメージはない。優也と目が合うとどうだと言わんばかりに笑みを浮かべるが、遅れて口元からは血が一滴、顔を出した。その血を親指で拭うと視線を落とし確認した。

「さすが吸血鬼ってとこか」
「まだまだこれからだよ」
「おっ! 言うねー。ボコボコにしてやるよ」

 そう威勢よく言ったものの本当のところは、自分が意外と戦えていることに内心一驚に喫していた。殴られ蹴られても思っていたほど痛みはなく冷静で、体は軽く自分でもハッキリと分かるほど身体能力が高くなっている。そして何より攻撃のタイミングやどう動けばいいのかなどまるで戦闘経験や知識があるかのように直感的に理解出来た。それは彼が人間を止めて吸血鬼になったということを実感できる部分であり証。全く戦闘経験どころか喧嘩のひとつもしたことがない優也が吸血鬼になったというだけである一定の戦闘技術を有したのだ。それだけで如何に吸血鬼という種族が戦闘に優れているのかが伺える。
 そしてそれから日が沈み月が屋敷を照らすまで二人は戦い続けた。結果としては意気込み充分だったが宣言通りレイにボコボコにされた。

「今日はこれくらいにしとくか」

 そう言って拾い上げたスクイズボトルを投げるレイ。それを受け取った優也は両膝に手を着け肩で息をしていた。

「そう……だね」

 そしてスクイズボトルを手に二人は壁際に座り少し休憩をしていた。優也は今日の戦闘訓練における総合的な攻撃の八~九割を受けていたはずだが、その体や顔に傷などはなく血の跡しかなかった。
 そしてレイは単純に攻撃を受けておらず、受けたとしてもガードなどによりダメージを最小限にしていたため口元に傷が一つあるだけ。
 するとスクイズボトルを飲んでいる優也に隣からレイが興味深そうな声を掛けてきた。

「それって血だろ? 美味いのか?」

 その質問に飲む手を止めレイの方に顔をやる。

「意外と普通の飲み物と変わらないかな。飲んでみる?」

 優也からスクイズボトルを受け取ったレイは一瞬の躊躇いの後、口へ血を勢いよく流し込んだ。
 だが血が入り込んだ瞬間、顎の力が抜け開いた口から赤い液体が零れ落ちる。

「まっずぅ~。なんだこれ鉄飲んでるみたいだ」
「まぁ、気持ちは分からないでもないけどね」

 それから少しして休憩を終えた二人はまずお風呂で汗を流した。
 そしてマーリンも加わり夕食の時間を迎える。今夜のメインメニューは肉厚のステーキ。ナイフが抵抗無く入るほどの柔らかさで噛めば噛むほど肉汁が広がり旨みが溢れ出る。そんな頬が落ちるほど美味しい夕食だったがその途中、優也はあまりの疲れで眠ってしまっていた。

「食べながら寝る人初めて見たわ。――アモ!」

 マーリンの声でアモが部屋にやって来る。

「少年を部屋まで運んであげて」
「かしこまりました」

 そしてアモに部屋まで運ばれた優也はそのままベッドでぐっすりと眠りについた。



 優也が眠りについた後も引き続き夕食を食べていたマーリンとレイ。

「少年はどうなの?」
「さすが吸血鬼って感じだな。コイツらは遺伝子レベルに戦いの基礎でも埋め込まれてるのか? 聞いてたより全然出来るぞ」

 食べる手を止めたレイは少し信じられないといった様子だった。

「それは嬉しい誤算ね。もしかしたら本当にそうかもよ」
「おまけに吸収も早いときた」
「あなたが越されるのもすぐかもね」

 マーリンは流れるようにそう揶揄う。
 だがレイの反応は意外にも否定的なものではなかった。

「案外、洒落にならないかもな」
「あら意外ね。『俺が吸血鬼なんかに負けるわけねーだろ』って言うのかと思ったわ」

 あまり似せる気のないレイの物真似を少しだけするマーリン。だがレイは特に文句を言う訳でもなく流した。

「自信と傲慢の違いぐらい弁えてるつもりだ。ウェアウルフが吸血鬼に劣ってるとは思ってないが、アイツは俺より強くなる気がするんだよ」
「あなたって実は結構自分に自信無いでしょ?」

 マーリンは頬杖をつきながらレイの本性を見透かすように目を細めた。

「なっ! ち、ちげーよ! 冷静って言ってくれ。だが……」

 レイ自身にも思うところがあるのかそれともそう思われたくないだけなのか少し慌て気味で否定した。

「だが、なによ?」
「まだ完全じゃないな」
「どういうこと?」
「まだ吸血鬼の力を百パーは引き出せてない。もしくは引き出せるほど融合仕切ってないかだな」
「なるほど……そっちは嬉しくない誤算ね」

 良いとは言えない報告に先ほどまでのおちゃらけた様子と打って変わり自然と溜息が交じる。

「時間が解決してくれるのか、他に術があるのか。もしくはずっとこのままなのかは俺には全く分からないけどな」
「それは私も同じよ」

 そう言うとマーリンは食べ掛けの一切れを口に入れる。そしてまだ肉が残ったお皿をレイのところに寄せて立ち上がった。

「あげるわ。育ち盛りなんだから沢山食べなさい」

 そしてレイの頭を何度かぽんぽんと叩くとドアへ向かった。だがドアを開け出る前に顔だけで振り返る。

「明日は頼んだわよ」

 最後にそう言い残しマーリンは部屋を出て行った。

「はいはい。――てかこれ、食べ切れない分を俺に押し付けただけだろ」

 そうぼやきつつもレイはしっかりとマーリンの分と食べきる前に眠った優也の分も完食した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

処理中です...