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第壱幕:人と御伽
【24+滴】ウェアウルフと吸血鬼2
しおりを挟む そしてまだ慣れないことが一目で分かるような右フックで顔を狙う。レイはそれを悠々と屈んで躱すと、右拳を顎目掛けて突き上げるが避けられたそれは頬を掠めながら真横を通過していった。
直後、優也はレイのガラ空きになった脇腹へ透かさず左足をお見舞いしようとする。隙を突いたということもあり蹴り飛ばせると思っていたが飛ばすどころか大木でも蹴ったようにその場で耐えられ、逆に左足を掴まれてしまった。
だが優也は咄嗟の判断により掴まれ固定された左足で体を支えながら右足で横顔を一蹴。これは防がれることも躱されることもなくモロに横顔を捉えた。
しかし、綺麗に受け流しそのまま受け身を取ったレイに目立ったダメージはない。優也と目が合うとどうだと言わんばかりに笑みを浮かべるが、遅れて口元からは血が一滴、顔を出した。その血を親指で拭うと視線を落とし確認した。
「さすが吸血鬼ってとこか」
「まだまだこれからだよ」
「おっ! 言うねー。ボコボコにしてやるよ」
そう威勢よく言ったものの本当のところは、自分が意外と戦えていることに内心一驚に喫していた。殴られ蹴られても思っていたほど痛みはなく冷静で、体は軽く自分でもハッキリと分かるほど身体能力が高くなっている。そして何より攻撃のタイミングやどう動けばいいのかなどまるで戦闘経験や知識があるかのように直感的に理解出来た。それは彼が人間を止めて吸血鬼になったということを実感できる部分であり証。全く戦闘経験どころか喧嘩のひとつもしたことがない優也が吸血鬼になったというだけである一定の戦闘技術を有したのだ。それだけで如何に吸血鬼という種族が戦闘に優れているのかが伺える。
そしてそれから日が沈み月が屋敷を照らすまで二人は戦い続けた。結果としては意気込み充分だったが宣言通りレイにボコボコにされた。
「今日はこれくらいにしとくか」
そう言って拾い上げたスクイズボトルを投げるレイ。それを受け取った優也は両膝に手を着け肩で息をしていた。
「そう……だね」
そしてスクイズボトルを手に二人は壁際に座り少し休憩をしていた。優也は今日の戦闘訓練における総合的な攻撃の八~九割を受けていたはずだが、その体や顔に傷などはなく血の跡しかなかった。
そしてレイは単純に攻撃を受けておらず、受けたとしてもガードなどによりダメージを最小限にしていたため口元に傷が一つあるだけ。
するとスクイズボトルを飲んでいる優也に隣からレイが興味深そうな声を掛けてきた。
「それって血だろ? 美味いのか?」
その質問に飲む手を止めレイの方に顔をやる。
「意外と普通の飲み物と変わらないかな。飲んでみる?」
優也からスクイズボトルを受け取ったレイは一瞬の躊躇いの後、口へ血を勢いよく流し込んだ。
だが血が入り込んだ瞬間、顎の力が抜け開いた口から赤い液体が零れ落ちる。
「まっずぅ~。なんだこれ鉄飲んでるみたいだ」
「まぁ、気持ちは分からないでもないけどね」
それから少しして休憩を終えた二人はまずお風呂で汗を流した。
そしてマーリンも加わり夕食の時間を迎える。今夜のメインメニューは肉厚のステーキ。ナイフが抵抗無く入るほどの柔らかさで噛めば噛むほど肉汁が広がり旨みが溢れ出る。そんな頬が落ちるほど美味しい夕食だったがその途中、優也はあまりの疲れで眠ってしまっていた。
「食べながら寝る人初めて見たわ。――アモ!」
マーリンの声でアモが部屋にやって来る。
「少年を部屋まで運んであげて」
「かしこまりました」
そしてアモに部屋まで運ばれた優也はそのままベッドでぐっすりと眠りについた。
優也が眠りについた後も引き続き夕食を食べていたマーリンとレイ。
「少年はどうなの?」
「さすが吸血鬼って感じだな。コイツらは遺伝子レベルに戦いの基礎でも埋め込まれてるのか? 聞いてたより全然出来るぞ」
食べる手を止めたレイは少し信じられないといった様子だった。
「それは嬉しい誤算ね。もしかしたら本当にそうかもよ」
「おまけに吸収も早いときた」
「あなたが越されるのもすぐかもね」
マーリンは流れるようにそう揶揄う。
だがレイの反応は意外にも否定的なものではなかった。
「案外、洒落にならないかもな」
「あら意外ね。『俺が吸血鬼なんかに負けるわけねーだろ』って言うのかと思ったわ」
あまり似せる気のないレイの物真似を少しだけするマーリン。だがレイは特に文句を言う訳でもなく流した。
「自信と傲慢の違いぐらい弁えてるつもりだ。ウェアウルフが吸血鬼に劣ってるとは思ってないが、アイツは俺より強くなる気がするんだよ」
「あなたって実は結構自分に自信無いでしょ?」
マーリンは頬杖をつきながらレイの本性を見透かすように目を細めた。
「なっ! ち、ちげーよ! 冷静って言ってくれ。だが……」
レイ自身にも思うところがあるのかそれともそう思われたくないだけなのか少し慌て気味で否定した。
「だが、なによ?」
「まだ完全じゃないな」
「どういうこと?」
「まだ吸血鬼の力を百パーは引き出せてない。もしくは引き出せるほど融合仕切ってないかだな」
「なるほど……そっちは嬉しくない誤算ね」
良いとは言えない報告に先ほどまでのおちゃらけた様子と打って変わり自然と溜息が交じる。
「時間が解決してくれるのか、他に術があるのか。もしくはずっとこのままなのかは俺には全く分からないけどな」
「それは私も同じよ」
そう言うとマーリンは食べ掛けの一切れを口に入れる。そしてまだ肉が残ったお皿をレイのところに寄せて立ち上がった。
「あげるわ。育ち盛りなんだから沢山食べなさい」
そしてレイの頭を何度かぽんぽんと叩くとドアへ向かった。だがドアを開け出る前に顔だけで振り返る。
「明日は頼んだわよ」
最後にそう言い残しマーリンは部屋を出て行った。
「はいはい。――てかこれ、食べ切れない分を俺に押し付けただけだろ」
そうぼやきつつもレイはしっかりとマーリンの分と食べきる前に眠った優也の分も完食した。
直後、優也はレイのガラ空きになった脇腹へ透かさず左足をお見舞いしようとする。隙を突いたということもあり蹴り飛ばせると思っていたが飛ばすどころか大木でも蹴ったようにその場で耐えられ、逆に左足を掴まれてしまった。
だが優也は咄嗟の判断により掴まれ固定された左足で体を支えながら右足で横顔を一蹴。これは防がれることも躱されることもなくモロに横顔を捉えた。
しかし、綺麗に受け流しそのまま受け身を取ったレイに目立ったダメージはない。優也と目が合うとどうだと言わんばかりに笑みを浮かべるが、遅れて口元からは血が一滴、顔を出した。その血を親指で拭うと視線を落とし確認した。
「さすが吸血鬼ってとこか」
「まだまだこれからだよ」
「おっ! 言うねー。ボコボコにしてやるよ」
そう威勢よく言ったものの本当のところは、自分が意外と戦えていることに内心一驚に喫していた。殴られ蹴られても思っていたほど痛みはなく冷静で、体は軽く自分でもハッキリと分かるほど身体能力が高くなっている。そして何より攻撃のタイミングやどう動けばいいのかなどまるで戦闘経験や知識があるかのように直感的に理解出来た。それは彼が人間を止めて吸血鬼になったということを実感できる部分であり証。全く戦闘経験どころか喧嘩のひとつもしたことがない優也が吸血鬼になったというだけである一定の戦闘技術を有したのだ。それだけで如何に吸血鬼という種族が戦闘に優れているのかが伺える。
そしてそれから日が沈み月が屋敷を照らすまで二人は戦い続けた。結果としては意気込み充分だったが宣言通りレイにボコボコにされた。
「今日はこれくらいにしとくか」
そう言って拾い上げたスクイズボトルを投げるレイ。それを受け取った優也は両膝に手を着け肩で息をしていた。
「そう……だね」
そしてスクイズボトルを手に二人は壁際に座り少し休憩をしていた。優也は今日の戦闘訓練における総合的な攻撃の八~九割を受けていたはずだが、その体や顔に傷などはなく血の跡しかなかった。
そしてレイは単純に攻撃を受けておらず、受けたとしてもガードなどによりダメージを最小限にしていたため口元に傷が一つあるだけ。
するとスクイズボトルを飲んでいる優也に隣からレイが興味深そうな声を掛けてきた。
「それって血だろ? 美味いのか?」
その質問に飲む手を止めレイの方に顔をやる。
「意外と普通の飲み物と変わらないかな。飲んでみる?」
優也からスクイズボトルを受け取ったレイは一瞬の躊躇いの後、口へ血を勢いよく流し込んだ。
だが血が入り込んだ瞬間、顎の力が抜け開いた口から赤い液体が零れ落ちる。
「まっずぅ~。なんだこれ鉄飲んでるみたいだ」
「まぁ、気持ちは分からないでもないけどね」
それから少しして休憩を終えた二人はまずお風呂で汗を流した。
そしてマーリンも加わり夕食の時間を迎える。今夜のメインメニューは肉厚のステーキ。ナイフが抵抗無く入るほどの柔らかさで噛めば噛むほど肉汁が広がり旨みが溢れ出る。そんな頬が落ちるほど美味しい夕食だったがその途中、優也はあまりの疲れで眠ってしまっていた。
「食べながら寝る人初めて見たわ。――アモ!」
マーリンの声でアモが部屋にやって来る。
「少年を部屋まで運んであげて」
「かしこまりました」
そしてアモに部屋まで運ばれた優也はそのままベッドでぐっすりと眠りについた。
優也が眠りについた後も引き続き夕食を食べていたマーリンとレイ。
「少年はどうなの?」
「さすが吸血鬼って感じだな。コイツらは遺伝子レベルに戦いの基礎でも埋め込まれてるのか? 聞いてたより全然出来るぞ」
食べる手を止めたレイは少し信じられないといった様子だった。
「それは嬉しい誤算ね。もしかしたら本当にそうかもよ」
「おまけに吸収も早いときた」
「あなたが越されるのもすぐかもね」
マーリンは流れるようにそう揶揄う。
だがレイの反応は意外にも否定的なものではなかった。
「案外、洒落にならないかもな」
「あら意外ね。『俺が吸血鬼なんかに負けるわけねーだろ』って言うのかと思ったわ」
あまり似せる気のないレイの物真似を少しだけするマーリン。だがレイは特に文句を言う訳でもなく流した。
「自信と傲慢の違いぐらい弁えてるつもりだ。ウェアウルフが吸血鬼に劣ってるとは思ってないが、アイツは俺より強くなる気がするんだよ」
「あなたって実は結構自分に自信無いでしょ?」
マーリンは頬杖をつきながらレイの本性を見透かすように目を細めた。
「なっ! ち、ちげーよ! 冷静って言ってくれ。だが……」
レイ自身にも思うところがあるのかそれともそう思われたくないだけなのか少し慌て気味で否定した。
「だが、なによ?」
「まだ完全じゃないな」
「どういうこと?」
「まだ吸血鬼の力を百パーは引き出せてない。もしくは引き出せるほど融合仕切ってないかだな」
「なるほど……そっちは嬉しくない誤算ね」
良いとは言えない報告に先ほどまでのおちゃらけた様子と打って変わり自然と溜息が交じる。
「時間が解決してくれるのか、他に術があるのか。もしくはずっとこのままなのかは俺には全く分からないけどな」
「それは私も同じよ」
そう言うとマーリンは食べ掛けの一切れを口に入れる。そしてまだ肉が残ったお皿をレイのところに寄せて立ち上がった。
「あげるわ。育ち盛りなんだから沢山食べなさい」
そしてレイの頭を何度かぽんぽんと叩くとドアへ向かった。だがドアを開け出る前に顔だけで振り返る。
「明日は頼んだわよ」
最後にそう言い残しマーリンは部屋を出て行った。
「はいはい。――てかこれ、食べ切れない分を俺に押し付けただけだろ」
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