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第壱幕:人と御伽
【19+滴】対御伽のエキスパート2
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だが、戦闘の合図が鳴る前にまるで喧嘩の仲裁にでも入るように手を叩く音が鳴り響いた。その音のする方へ二人の視線が向けられると、そこには黒山が立っていた。周りには少しでも動けばすぐに撃てるように銃を構える部下。
「はいはい。そこまででお願いしますよ」
そう言いながら黒山が近づくと青年は戦闘体勢を解いた。彼の様子を見る限り黒山がこの場所に訪れるのが分かっていたのかもしれない。
「清明さんありがとうございました」
「茶番に付き合うのもこれが最後だからな」
「覚えておきましょう」
清明は睨みつけるような視線と共にそう告げるとその場を去って行った。彼が階段を下りて行ったのを見届けると黒山はノアの方へ向き直す。
「さて、初めましてですね吸血鬼さん」
「誰だお前?」
既に戦闘態勢を解き腕組みをしていたノアは率直な疑問を返した。
「私はINC対策機関対策本部研究開発局局長、黒山健三郎です」
黒山は所属を早口で捲し立てるように言うと名前は少しゆっくり丁寧と口にし、最後は紳士的なお辞儀をした。
そして頭をゆっくりあげた黒山はノアをまっすぐ見ながら再度口を開く。
「本題に入らせていただく前に、あなたが本物の吸血鬼だという証拠が欲しいんですよ。いやぁ私、自分の目で見ないと信じないタイプでして」
「何でわざわざんなことしてやんねーといけねんだよ」
「ごもっともの意見です」
すると黒山の言葉の直後、間髪をいれずに乾いた銃声が叩きつけられた。それと同時にノアの肩には風穴が一つ。
銃弾により押された肩に手を伸ばし正面へ向き直すとノアは、真っ先に黒山を敵意の目で睨みつける。そんなそのまま刺し殺してしまいそうな視線を向けられた黒山の真っすぐ伸びた腕の先には、煙を吐き出す銃が握られていた。
そしてその場にいた全員が沈黙を守る中、ノアが睨む目つきは逸らさず押さえていた手をどけると、もうそこに銃弾による傷口はなく穴が綺麗に塞がった肌が覗き込むように姿を見せた。残っていたのは返り血のように付着する鮮血だけ。
「その再生の早さ、資料にあった吸血鬼の特徴と一致しますね。清明さんの報告もありますし吸血鬼と判断してもよさそうです。仮ではありますが」
「いきなり撃ったってことは殺されても文句はねーよな?」
突然の攻撃で本能的に戦闘態勢に入ると、攻撃性を隠すことなく言葉に詰めた。
「突然の発砲は申し訳ありません。文句はありませんが、殺されるのは嫌ですね」
「先に仕掛けてきたのはそっちだろ」
「まぁまぁ」
銃をしまった黒山は両手を宥める様に動かした。
だがしかしその人を苛立たせるほど冷静な態度は、逆にノアの怒りの炎に油を注いだ。
「まずは相談なんですが、そのまま抵抗せずに捕まってくれませんか?」
「は? お前ふざけてるのか?」
「まさか! むしろ尊敬さえしています。私はただ吸血鬼という未知のあなたを研究したいだけなのです。あなたの能力を人間にも活かせないかどうか。もし活かせなくともその不死身に近い体で様々な研究ができるはずです」
まだ見ぬ研究を思い浮かべているのか黒山は満面の笑みを浮かべていた。
「どうですか? 極力あなたの要求は受け入れますよ」
そんな黒山に対しノアは返事をする前に指の関節を気持ちよく鳴らした。
「俺の要求は、邪魔をするな。だ」
その言葉に黒山は呆れたような残念そうな様子で肩をすくめ顔をゆっくり横へ振った。
「致し方ありませんね」
そう言うと懐から一部が赤く染みたハンカチを取り出した。それを丸めノアへ投げると、ジェスチャーで『匂いを嗅げ』と伝える。訝しげにしながらもノアは目の前に落ちたハンカチを拾い上げると匂いを嗅いだ。
「誰かは言わずとも分かりますね?」
ハンカチの赤い染みから鼻に吸い込まれた匂いは嗅覚を刺激し脳にある人物の姿を映し出した。その瞬間、先ほどよりも鋭い眼光が黒山を睨みつける。
「どういうことだ?」
「彼は私の手中にあるとでも言っておきましょうか。さすがに同じ人間を痛めつけるのは心が痛むのですが、あなたが協力してくれないというのなら致し方ないですね」
行き場のない怒りが唇を噛ませていたノアの中では感情と理性が鎬を削っていた。その間、しばらくその場に鎮座する沈黙。
そして彼女の中で勝者が決すると手からハンカチが零れ落ちた。重力に導かれ落ちていくハンカチはコンクリートの地面に鳥のように優しく着地。一方、ハンカチを手放したノアは両手を上げていた。
それを見た満足気な黒山の指示で二人の部下が近づく。
「これで彼の安全は約束しますよ」
ノアに抵抗する気は無かったが部下の一人は頭に銃を突きつけ、その間にもう一人が首に注射器を突き刺した。
そして中の液体を注入すると彼女の全身の力あっという間に抜けていった。注射をした部下が支えなければ地面へ抵抗なく倒れてしまいそうなほどに。
「吸血鬼にもこの特製の睡眠薬は効くようですね」
そう呟きながら黒山は懐から取り出したメモ帳にペンを走らせた。
「しっかりと死なない程度に血を抜き続けてくださいね」
ノアを運んでいる部下にそう指示をすると地面に落ちたハンカチまで歩きそれを拾い上げる。そしてそこに付いた血を眺めながら嬉々とした笑みを浮かべた。
「やはり、貰っておいて正解でしたね」
ハンカチを懐に戻した黒山は階段へ向かった。
「はいはい。そこまででお願いしますよ」
そう言いながら黒山が近づくと青年は戦闘体勢を解いた。彼の様子を見る限り黒山がこの場所に訪れるのが分かっていたのかもしれない。
「清明さんありがとうございました」
「茶番に付き合うのもこれが最後だからな」
「覚えておきましょう」
清明は睨みつけるような視線と共にそう告げるとその場を去って行った。彼が階段を下りて行ったのを見届けると黒山はノアの方へ向き直す。
「さて、初めましてですね吸血鬼さん」
「誰だお前?」
既に戦闘態勢を解き腕組みをしていたノアは率直な疑問を返した。
「私はINC対策機関対策本部研究開発局局長、黒山健三郎です」
黒山は所属を早口で捲し立てるように言うと名前は少しゆっくり丁寧と口にし、最後は紳士的なお辞儀をした。
そして頭をゆっくりあげた黒山はノアをまっすぐ見ながら再度口を開く。
「本題に入らせていただく前に、あなたが本物の吸血鬼だという証拠が欲しいんですよ。いやぁ私、自分の目で見ないと信じないタイプでして」
「何でわざわざんなことしてやんねーといけねんだよ」
「ごもっともの意見です」
すると黒山の言葉の直後、間髪をいれずに乾いた銃声が叩きつけられた。それと同時にノアの肩には風穴が一つ。
銃弾により押された肩に手を伸ばし正面へ向き直すとノアは、真っ先に黒山を敵意の目で睨みつける。そんなそのまま刺し殺してしまいそうな視線を向けられた黒山の真っすぐ伸びた腕の先には、煙を吐き出す銃が握られていた。
そしてその場にいた全員が沈黙を守る中、ノアが睨む目つきは逸らさず押さえていた手をどけると、もうそこに銃弾による傷口はなく穴が綺麗に塞がった肌が覗き込むように姿を見せた。残っていたのは返り血のように付着する鮮血だけ。
「その再生の早さ、資料にあった吸血鬼の特徴と一致しますね。清明さんの報告もありますし吸血鬼と判断してもよさそうです。仮ではありますが」
「いきなり撃ったってことは殺されても文句はねーよな?」
突然の攻撃で本能的に戦闘態勢に入ると、攻撃性を隠すことなく言葉に詰めた。
「突然の発砲は申し訳ありません。文句はありませんが、殺されるのは嫌ですね」
「先に仕掛けてきたのはそっちだろ」
「まぁまぁ」
銃をしまった黒山は両手を宥める様に動かした。
だがしかしその人を苛立たせるほど冷静な態度は、逆にノアの怒りの炎に油を注いだ。
「まずは相談なんですが、そのまま抵抗せずに捕まってくれませんか?」
「は? お前ふざけてるのか?」
「まさか! むしろ尊敬さえしています。私はただ吸血鬼という未知のあなたを研究したいだけなのです。あなたの能力を人間にも活かせないかどうか。もし活かせなくともその不死身に近い体で様々な研究ができるはずです」
まだ見ぬ研究を思い浮かべているのか黒山は満面の笑みを浮かべていた。
「どうですか? 極力あなたの要求は受け入れますよ」
そんな黒山に対しノアは返事をする前に指の関節を気持ちよく鳴らした。
「俺の要求は、邪魔をするな。だ」
その言葉に黒山は呆れたような残念そうな様子で肩をすくめ顔をゆっくり横へ振った。
「致し方ありませんね」
そう言うと懐から一部が赤く染みたハンカチを取り出した。それを丸めノアへ投げると、ジェスチャーで『匂いを嗅げ』と伝える。訝しげにしながらもノアは目の前に落ちたハンカチを拾い上げると匂いを嗅いだ。
「誰かは言わずとも分かりますね?」
ハンカチの赤い染みから鼻に吸い込まれた匂いは嗅覚を刺激し脳にある人物の姿を映し出した。その瞬間、先ほどよりも鋭い眼光が黒山を睨みつける。
「どういうことだ?」
「彼は私の手中にあるとでも言っておきましょうか。さすがに同じ人間を痛めつけるのは心が痛むのですが、あなたが協力してくれないというのなら致し方ないですね」
行き場のない怒りが唇を噛ませていたノアの中では感情と理性が鎬を削っていた。その間、しばらくその場に鎮座する沈黙。
そして彼女の中で勝者が決すると手からハンカチが零れ落ちた。重力に導かれ落ちていくハンカチはコンクリートの地面に鳥のように優しく着地。一方、ハンカチを手放したノアは両手を上げていた。
それを見た満足気な黒山の指示で二人の部下が近づく。
「これで彼の安全は約束しますよ」
ノアに抵抗する気は無かったが部下の一人は頭に銃を突きつけ、その間にもう一人が首に注射器を突き刺した。
そして中の液体を注入すると彼女の全身の力あっという間に抜けていった。注射をした部下が支えなければ地面へ抵抗なく倒れてしまいそうなほどに。
「吸血鬼にもこの特製の睡眠薬は効くようですね」
そう呟きながら黒山は懐から取り出したメモ帳にペンを走らせた。
「しっかりと死なない程度に血を抜き続けてくださいね」
ノアを運んでいる部下にそう指示をすると地面に落ちたハンカチまで歩きそれを拾い上げる。そしてそこに付いた血を眺めながら嬉々とした笑みを浮かべた。
「やはり、貰っておいて正解でしたね」
ハンカチを懐に戻した黒山は階段へ向かった。
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