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第壱幕:人と御伽
【17滴】日常と溶けた非日常
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「本当に入るの?」
頼りなく尋ねる優也の声は怯えていた。
「当たり前だろ。『最高の恐怖をあなたに』なんて言われたら行かない訳にはいかねーからな」
「いや、でも僕こういうの苦手なんだよねー。やっぱりやめない?」
既に顔が恐怖に染まりつつある優也と楽しげな表情を浮かべるノアの前に聳え立つはお化け屋敷。なんでもこのお化け屋敷は元々は病院だったとか。
「脅かしてくるのは人間だろ? 大丈夫だって」
「そういう問題じゃないんだけどなぁ」
「よし! 行くぞー」
結局ノリノリな彼女を止めることは出来ず一度入れば二度と出られなさそうなお化け屋敷へと優也は足を踏み入れる事になった。中へ入ってみると様々な仕掛けやお化けが二人に襲い掛かり優也は終始ずっと叫んでいたが、ノアは笑みを絶やさず楽しげ。優也は何度も叫んだ所為で出口のドアを通る頃には、疲れきった表情を浮かべていた。
「楽しかった」
「はぁ~、もう二度と行くもんか」
その言葉には後悔と決意が詰まっていた。
だがどこか楽しかったという気持ちがあったことも否めなかった。それがほんの少しだったとしても。
「次はあれ行こうぜ!」
すると疲れとは無縁とでも言うようにノアは高揚したまま指を差す。その方向にあったのはジェットコースター。
しかしお化け屋敷で疲れてしまった優也は休憩がしたかった。だが多少の疲れでは彼女を止めることは出来ず、
「ちょっと休ませ――」
優也が言い切るより先に手を掴み走り出す。
それから、他の絶叫系やメリーゴーランドやアヒルボート・コーヒーカップ・フリーフォールなど様々なアトラクションに連続で乗り込んだ。どれも久しぶりで楽しく、優也はいつの間にか疲れを忘れて子どものように楽しんでいた。だが楽しい時間ほど時が過ぎるのが早いのは世の常。充分に堪能し終えた頃には日が沈み星々が夜空で皓々と輝き始めていた。
「あぁ~楽しかった。最後はアレだな」
「観覧車かー。最後にはうってつけだね」
そして回ってきたゴンドラに乗り込み向かい合って座る二人。ゴンドラはゆっくりと頂上へと上り始めた。
「人間はいつでもこんな楽しい所に来られるのか」
ノアは今日という日を思い返しているのか外を眺めながら煌々とした声で呟いた。
「また、いつでも連れて来てあげるよ」
「そしたらまたお化け屋敷に」
「それは嫌だ」
自分の方を見てノアが発したお化け屋敷という単語に反射レベルで反応する優也。それは彼がどれほど嫌だったのかをよく表していた。
「何んだよ。驚きまくるお前が最高に面白かったのに」
その姿を思い出しノアは笑った。だが自分でも情けないと思っていた優也は恥を隠すように腕を組み少し顔を顰めそっぽを向いた。
「何度もあんな所行ったら寿命が縮んじゃうよ」
「おっ! あそこでなんかやってるぞ」
すると突然話題を変えたノア。彼女の方を見遣ると窓の外を見ていた。
「ん? どこ?」
それに釣られ窓外に目をやると近くの広場ではパレードが行われていた。可愛らしいキャラクターたちが、イルミネーションで彩られた乗り物に乗りながらリズミカルな生演奏に合わせ踊ったり手を振ったりしている。手筒花火や辺りに設置された花火から噴射される火柱はシャワーのように降り注ぎそれを見た観客は更なる盛り上がりを見せていた。
そんな煌びやかなパレードに二人はついつい見入ってしまう。
「明日、この街から出て行くよ」
それはパレードを眺め始め少ししてからの事だった。突然過ぎる宣言に優也は聞き間違えではないかと耳を疑いながらゆっくりとノアの方へ顔を向けた。
「え? 何?」
「明日出て行く」
隠す余裕すらなく表に出てきた動揺はまるで恋人から突然の別れ話を切り出されたような反応。聞き間違えではなったその言葉が冗談ではないかと――そうであってほしいと心のどこかで思いながら優也は窓の外を見るノアを唖然としながら見つめていた。
「え? ――急にどうしたの?」
「このまま居座ったらお前にもっと迷惑かけちまうだろ。もしお前を守りながら狙ってくる奴らを潰せたとしても、お前は今まで通り同じ生活はできなくなる。俺がこのまま一緒に居たらお前の人生ぶっ壊しちまうんだよ。それにマーリンのやつが何を考えてるかわからねーがお前はこっち側に来るべきじゃねぇ。こっち側に来ても良いことなんてね-からな」
こっち側に来ても良いことはない。それは裏舞台を知りながら優也と共に暮らし人間の世界に触れた彼女だからこそ言える言葉なのだろう。しかしそう言うノアは少し寂しげな表情をしていた。ように見えた。
「……」
まだ動揺収まらぬ優也は何も答えられずにいた。
「初めて関わった人間がお前みたいな奴でよかったよ。俺とお前は住む世界が違いすぎる。だから俺はここに残るべきじゃねーし、お前もこっち側に来るべきじゃない」
するとノアが急に立ち上がり隣へ移動してきた。優也はその姿を顔で機械的に追う。
そしてゴンドラがもうすぐ頂上に到達しようとしていた頃。
「世話になったな。ありがとう」
その言葉の後にノアは顔を近づけ――唐突にキスをした。唇同士が触れ合った瞬間、あまりにも不意の行動に完全に思考は一時停止。
頼りなく尋ねる優也の声は怯えていた。
「当たり前だろ。『最高の恐怖をあなたに』なんて言われたら行かない訳にはいかねーからな」
「いや、でも僕こういうの苦手なんだよねー。やっぱりやめない?」
既に顔が恐怖に染まりつつある優也と楽しげな表情を浮かべるノアの前に聳え立つはお化け屋敷。なんでもこのお化け屋敷は元々は病院だったとか。
「脅かしてくるのは人間だろ? 大丈夫だって」
「そういう問題じゃないんだけどなぁ」
「よし! 行くぞー」
結局ノリノリな彼女を止めることは出来ず一度入れば二度と出られなさそうなお化け屋敷へと優也は足を踏み入れる事になった。中へ入ってみると様々な仕掛けやお化けが二人に襲い掛かり優也は終始ずっと叫んでいたが、ノアは笑みを絶やさず楽しげ。優也は何度も叫んだ所為で出口のドアを通る頃には、疲れきった表情を浮かべていた。
「楽しかった」
「はぁ~、もう二度と行くもんか」
その言葉には後悔と決意が詰まっていた。
だがどこか楽しかったという気持ちがあったことも否めなかった。それがほんの少しだったとしても。
「次はあれ行こうぜ!」
すると疲れとは無縁とでも言うようにノアは高揚したまま指を差す。その方向にあったのはジェットコースター。
しかしお化け屋敷で疲れてしまった優也は休憩がしたかった。だが多少の疲れでは彼女を止めることは出来ず、
「ちょっと休ませ――」
優也が言い切るより先に手を掴み走り出す。
それから、他の絶叫系やメリーゴーランドやアヒルボート・コーヒーカップ・フリーフォールなど様々なアトラクションに連続で乗り込んだ。どれも久しぶりで楽しく、優也はいつの間にか疲れを忘れて子どものように楽しんでいた。だが楽しい時間ほど時が過ぎるのが早いのは世の常。充分に堪能し終えた頃には日が沈み星々が夜空で皓々と輝き始めていた。
「あぁ~楽しかった。最後はアレだな」
「観覧車かー。最後にはうってつけだね」
そして回ってきたゴンドラに乗り込み向かい合って座る二人。ゴンドラはゆっくりと頂上へと上り始めた。
「人間はいつでもこんな楽しい所に来られるのか」
ノアは今日という日を思い返しているのか外を眺めながら煌々とした声で呟いた。
「また、いつでも連れて来てあげるよ」
「そしたらまたお化け屋敷に」
「それは嫌だ」
自分の方を見てノアが発したお化け屋敷という単語に反射レベルで反応する優也。それは彼がどれほど嫌だったのかをよく表していた。
「何んだよ。驚きまくるお前が最高に面白かったのに」
その姿を思い出しノアは笑った。だが自分でも情けないと思っていた優也は恥を隠すように腕を組み少し顔を顰めそっぽを向いた。
「何度もあんな所行ったら寿命が縮んじゃうよ」
「おっ! あそこでなんかやってるぞ」
すると突然話題を変えたノア。彼女の方を見遣ると窓の外を見ていた。
「ん? どこ?」
それに釣られ窓外に目をやると近くの広場ではパレードが行われていた。可愛らしいキャラクターたちが、イルミネーションで彩られた乗り物に乗りながらリズミカルな生演奏に合わせ踊ったり手を振ったりしている。手筒花火や辺りに設置された花火から噴射される火柱はシャワーのように降り注ぎそれを見た観客は更なる盛り上がりを見せていた。
そんな煌びやかなパレードに二人はついつい見入ってしまう。
「明日、この街から出て行くよ」
それはパレードを眺め始め少ししてからの事だった。突然過ぎる宣言に優也は聞き間違えではないかと耳を疑いながらゆっくりとノアの方へ顔を向けた。
「え? 何?」
「明日出て行く」
隠す余裕すらなく表に出てきた動揺はまるで恋人から突然の別れ話を切り出されたような反応。聞き間違えではなったその言葉が冗談ではないかと――そうであってほしいと心のどこかで思いながら優也は窓の外を見るノアを唖然としながら見つめていた。
「え? ――急にどうしたの?」
「このまま居座ったらお前にもっと迷惑かけちまうだろ。もしお前を守りながら狙ってくる奴らを潰せたとしても、お前は今まで通り同じ生活はできなくなる。俺がこのまま一緒に居たらお前の人生ぶっ壊しちまうんだよ。それにマーリンのやつが何を考えてるかわからねーがお前はこっち側に来るべきじゃねぇ。こっち側に来ても良いことなんてね-からな」
こっち側に来ても良いことはない。それは裏舞台を知りながら優也と共に暮らし人間の世界に触れた彼女だからこそ言える言葉なのだろう。しかしそう言うノアは少し寂しげな表情をしていた。ように見えた。
「……」
まだ動揺収まらぬ優也は何も答えられずにいた。
「初めて関わった人間がお前みたいな奴でよかったよ。俺とお前は住む世界が違いすぎる。だから俺はここに残るべきじゃねーし、お前もこっち側に来るべきじゃない」
するとノアが急に立ち上がり隣へ移動してきた。優也はその姿を顔で機械的に追う。
そしてゴンドラがもうすぐ頂上に到達しようとしていた頃。
「世話になったな。ありがとう」
その言葉の後にノアは顔を近づけ――唐突にキスをした。唇同士が触れ合った瞬間、あまりにも不意の行動に完全に思考は一時停止。
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