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第壱幕:人と御伽
【14滴】通称コンダクター
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話を聞き終えた優也はこんなことをされておきながら彼女に対して憐憫の情を覚えていた。選択する事の出来ない生まれた環境が呪縛のように纏わり付き、今の彼女という人物を作り上げたのだと。そう思うとそんなが芽吹き始めたのだ。同時に何を考え何を感じているか分からず想像も出来ない――化物のように見えていた彼女が少し人に見えた。
「環境が違ったてたら……君もちゃんとした人間になれてたのかもしれない」
思わず考えていたことを独り言のように零す優也。その言葉はアイススプーンとカップを机に置いていた彼女の耳へちゃんと届いていた。
「私だってちゃんと人間だよ?」
そう言うと両腕を横へと伸ばす。その表面では拭いても拭いても溢れ出る汗が光に照らされ宝石のように煌いていた。
「きみと同じで暑くて汗かくし」
次は伸ばした腕を優也の顔に伸ばし顎と頬に掌で触れた。そして撫でるように肌を張った手は顎を優しく誘導されるように持ち上げる。されるがまま見上げると女性と目が合った。
「きみと同じで体温もある」
そして這わせるように頭へ腕を回し自分の胸に抱き寄せた。耳が心臓の位置にくるように。
「きみと同じで心臓も頑張ってるし。それに……」
言葉を止め優也から離れると女性は机へ行きナイフを片手に戻ってきた。そして見せつけるようにナイフを自分の左腕で何の躊躇も無く一閃。浅くも深くもない一本線の傷が白い肌には伸びた。
「きみと同じように流れてる血は赤いよ」
そう言ってナイフで傷口をなぞりながら血を掬うと、腕とナイフを優也に差し出し見せた。傷から更に溢れた血は腕を伝い汗と混じりながら掌に向かって流れていく。
その理解不能な行動に唖然としていた優也だったがその視線は傷口ではなく女性の顔に向いていた。彼女の――それがいたって自然でなんてことなく当たり前であるかのように笑みを浮かべていたその顔に。
すると女性はナイフを傷つけた方の手に移動させ、空いた手の人差し指で傷口から血を掬った。そして血の付いた指を優也の唇まで移動させると口紅のように塗り始めた。その間も優也は依然と動けないまま。
あっという間に真っ赤な色が唇を彩ると彼女は莞爾として笑った。
「きみって女装とかしたら意外と可愛いかもね」
それを言い残すと机へ行きナイフを置いた。そして新しいタオルを持って優也の前に戻ると傷など無いかのように無視しながらタオルで汗を拭き始めた。
「お腹空いたらいつでも言ってね。まだサンドイッチあるから。もし他のがいいなら出来る限りなら作ってあげるよ」
自分を拭き終えると次は優也。
「あぁ~。もし私のことを食べたいって言ったら……ん~、どーしよっかなぁ~」
すると拭く手を止め焦らしているつもりなのかあからさまに悩む素振りを見せる。
「なーんてね。そんなことはしないよ。何でかって言うと、結構前の話なんだけど。私はね大丈夫だと思ってたんだけど、一度そういうことをしようとした時に。もちろんその時は自分の意思でだよ。しようとした時に相手の男の人が父親に見えて気が付いたら殺しちゃってたんだよね」
彼女は申し訳なく罪悪感を感じているような表情を浮かべた。その表情を見る限りその出来事は彼女の心に幾分か爪痕を残しているのだろう。
そして言っていない事の聞いていない理由を答え終えると汗を拭くのを再開した。
「それが最初で最後の人殺し。知ってた? 人殺しって結構トラウマになるんだよ」
問いかけながら首を傾げるが、もはや安定的に優也からの返事は無い。
「私の友達に一人だけ殺し屋がいるんだけど、今まで何人も殺してるはずなのに会った時はいつもこうケロっと普通にしてられるんだよ。ここだけの話、あの子は完全にイっちゃってるよね」
彼女は頭を指差してどこかへ飛ばすジェスチャーを加えた。かと思えば急に深い溜息をひとつ。
「幼い頃のトラウマが思ったより根深いのかも。だから、いくらきみのこと大好きでも殺さない自信はないからそういうことは言わないでね。困っちゃうから」
彼女は優也の汗を拭き終えるとその間に溢れ出た自分の汗を拭きながら机へ。そしてタオルを机に置き円状に巻いてまとめられた鞭を手に取った。
「なんだか気分も下がっちゃったし早く始めよっか」
だが優也のところへ戻ろうとした彼女を引き留めるかのように着信音が鳴り響く。鳴っていたのはガラパゴス携帯の方。その音に「はいはーい」と言いながら携帯を手に取り耳に当てた。
「もしもーし」
相手の話を聞いているのか少しの間、黙る。だが優也はその間も次の痛みが襲い掛かることへの恐怖に心を支配されていた。
「あれ? もしもーし? もしもーし? おーい?」
何度か呼びかけると耳から携帯を離し画面を見た後に閉じる。女性は怒っている様子だった。
「全く用件だけ言って切るなんて信じられない。礼儀ってものを知らないのかな?」
話しかけているのかただ愚痴を零しているだけなのか定かではないが、その顔は優也の方を見遣り言葉を口にしていた。
「まぁ私、引き受けたなんて言ってないし。しーらない」
そんなことを言いながら携帯を置いた彼女は一時停止していた時間を動かし始め、優也の目の前へと立った。
「それじゃ、次こそ続きしよっか」
笑顔でそう告げると持っていた鞭を振り上げた。その言葉に顔を上げた優也が首を振り声を発しようとするより前に、
――パチンッ!
鞭自体の音は心地よかったがその後に続いた叫び声は悲惨そのものだった。
――鞭の音。叫び声。鞭の音。叫び声。鞭の音。叫び声……。
それは規則正しく交互に響いた。
「環境が違ったてたら……君もちゃんとした人間になれてたのかもしれない」
思わず考えていたことを独り言のように零す優也。その言葉はアイススプーンとカップを机に置いていた彼女の耳へちゃんと届いていた。
「私だってちゃんと人間だよ?」
そう言うと両腕を横へと伸ばす。その表面では拭いても拭いても溢れ出る汗が光に照らされ宝石のように煌いていた。
「きみと同じで暑くて汗かくし」
次は伸ばした腕を優也の顔に伸ばし顎と頬に掌で触れた。そして撫でるように肌を張った手は顎を優しく誘導されるように持ち上げる。されるがまま見上げると女性と目が合った。
「きみと同じで体温もある」
そして這わせるように頭へ腕を回し自分の胸に抱き寄せた。耳が心臓の位置にくるように。
「きみと同じで心臓も頑張ってるし。それに……」
言葉を止め優也から離れると女性は机へ行きナイフを片手に戻ってきた。そして見せつけるようにナイフを自分の左腕で何の躊躇も無く一閃。浅くも深くもない一本線の傷が白い肌には伸びた。
「きみと同じように流れてる血は赤いよ」
そう言ってナイフで傷口をなぞりながら血を掬うと、腕とナイフを優也に差し出し見せた。傷から更に溢れた血は腕を伝い汗と混じりながら掌に向かって流れていく。
その理解不能な行動に唖然としていた優也だったがその視線は傷口ではなく女性の顔に向いていた。彼女の――それがいたって自然でなんてことなく当たり前であるかのように笑みを浮かべていたその顔に。
すると女性はナイフを傷つけた方の手に移動させ、空いた手の人差し指で傷口から血を掬った。そして血の付いた指を優也の唇まで移動させると口紅のように塗り始めた。その間も優也は依然と動けないまま。
あっという間に真っ赤な色が唇を彩ると彼女は莞爾として笑った。
「きみって女装とかしたら意外と可愛いかもね」
それを言い残すと机へ行きナイフを置いた。そして新しいタオルを持って優也の前に戻ると傷など無いかのように無視しながらタオルで汗を拭き始めた。
「お腹空いたらいつでも言ってね。まだサンドイッチあるから。もし他のがいいなら出来る限りなら作ってあげるよ」
自分を拭き終えると次は優也。
「あぁ~。もし私のことを食べたいって言ったら……ん~、どーしよっかなぁ~」
すると拭く手を止め焦らしているつもりなのかあからさまに悩む素振りを見せる。
「なーんてね。そんなことはしないよ。何でかって言うと、結構前の話なんだけど。私はね大丈夫だと思ってたんだけど、一度そういうことをしようとした時に。もちろんその時は自分の意思でだよ。しようとした時に相手の男の人が父親に見えて気が付いたら殺しちゃってたんだよね」
彼女は申し訳なく罪悪感を感じているような表情を浮かべた。その表情を見る限りその出来事は彼女の心に幾分か爪痕を残しているのだろう。
そして言っていない事の聞いていない理由を答え終えると汗を拭くのを再開した。
「それが最初で最後の人殺し。知ってた? 人殺しって結構トラウマになるんだよ」
問いかけながら首を傾げるが、もはや安定的に優也からの返事は無い。
「私の友達に一人だけ殺し屋がいるんだけど、今まで何人も殺してるはずなのに会った時はいつもこうケロっと普通にしてられるんだよ。ここだけの話、あの子は完全にイっちゃってるよね」
彼女は頭を指差してどこかへ飛ばすジェスチャーを加えた。かと思えば急に深い溜息をひとつ。
「幼い頃のトラウマが思ったより根深いのかも。だから、いくらきみのこと大好きでも殺さない自信はないからそういうことは言わないでね。困っちゃうから」
彼女は優也の汗を拭き終えるとその間に溢れ出た自分の汗を拭きながら机へ。そしてタオルを机に置き円状に巻いてまとめられた鞭を手に取った。
「なんだか気分も下がっちゃったし早く始めよっか」
だが優也のところへ戻ろうとした彼女を引き留めるかのように着信音が鳴り響く。鳴っていたのはガラパゴス携帯の方。その音に「はいはーい」と言いながら携帯を手に取り耳に当てた。
「もしもーし」
相手の話を聞いているのか少しの間、黙る。だが優也はその間も次の痛みが襲い掛かることへの恐怖に心を支配されていた。
「あれ? もしもーし? もしもーし? おーい?」
何度か呼びかけると耳から携帯を離し画面を見た後に閉じる。女性は怒っている様子だった。
「全く用件だけ言って切るなんて信じられない。礼儀ってものを知らないのかな?」
話しかけているのかただ愚痴を零しているだけなのか定かではないが、その顔は優也の方を見遣り言葉を口にしていた。
「まぁ私、引き受けたなんて言ってないし。しーらない」
そんなことを言いながら携帯を置いた彼女は一時停止していた時間を動かし始め、優也の目の前へと立った。
「それじゃ、次こそ続きしよっか」
笑顔でそう告げると持っていた鞭を振り上げた。その言葉に顔を上げた優也が首を振り声を発しようとするより前に、
――パチンッ!
鞭自体の音は心地よかったがその後に続いた叫び声は悲惨そのものだった。
――鞭の音。叫び声。鞭の音。叫び声。鞭の音。叫び声……。
それは規則正しく交互に響いた。
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