御伽の住み人

佐武ろく

文字の大きさ
上 下
18 / 85
第壱幕:人と御伽

【11+滴】最高の快楽をきみに2

しおりを挟む
 だが優也に選択肢などなかった。

「だーめ。美味しいから食べて」

 女性はそう言うとキュウリを咥えナイフから抜く。それをそのまま優也の口へと持っていった。
 そして強引に押し込まれる形で口の中に入ってくるキュウリ。女性は唇と唇が重なり合うと最後は舌で押し込んだ。キュウリが完全に優也の口に移ると女性の口は彼から離れていった。

「美味しいでしょ?」

 平然とした様子の女性に対し、必死に頷く優也だったが本心を言えば味など全く分からない。
 だが彼女はそれを見て満足気な笑みを浮かべると机まで戻っていった。そしてまたキュウリをひとつ、今度は手で摘まむと口に放り込み道具の数を数え始める。一つ、二つ、三つ……。数え終えると何かを思い出した様子を見せ、優也の方を向いた。

「忘れ物取って来るからちょっと待っててね」

 そう言って奥にある古い階段を上りどこかへ行ってしまった。随分と明るさにも慣れ眉間から皺が消えると脱出する為の何かがないかと辺りを必死に見回す。
 窓はなく一面が壁。地面は一面コンクリート。少し大きめの流し台と腰ぐらいの台に乗ったミニ冷蔵庫、複数の棚。換気扇とエアコン、大きなテレビとその前に革製のソファ。ダイニングチェアとその上に置かれたノートPC。そして壁の四つ角に取り付けられたスピーカー。スピーカー以外はどの家にもありそうな物ばかり。
 特に何の役にも立たなそうな情報ばかり得ている間に、ドアの開く音と耳障りな階段の軋む音が聞こえてきた。それは女性が戻ってきたという合図。再び姿を見せた彼女が手に持っていたのはスタンガン。

「よし! これで全部」

 道具を一通り見ると頷きながら言った。

「さて、始めよっか。――の前に」

 女性はポケットからスリムさに欠けるガラパゴス携帯とスマホを取り出した。スマホは机に置きガラパゴス携帯を開くと優也へ向けた。

「笑ってー」

 その言葉の後に、カシャ。突然そう言われてもこのような状況と精神状態では笑えるはずもなく、表情が変わらぬまま写真を撮られた。写真を撮ると手慣れた様子で操作し始める女性。

「これでよし。あとは……」

 女性はガラパゴス携帯を置きスマホを手に取るとまた操作し始めた(こっちも手慣れた様子)。少しすると四つのスピーカーから音楽が流れ出す。大き目の音量で流れてきたのはPOPな洋楽。

「やっぱり音楽があると気分も上がるね!」

 女性は音楽に合わせ首を揺らしながらスマホを置くと刃の短いナイフを手に。そして優也の前まで行きナイフをマイクのようにして持ったかと思うと、曲に合わせて歌い出した。それに身振り手振りなどのパフォーマンスも加わる。更に椅子の周りを回ったりしながらも歌い続け、それは流れていた曲が終わるまで続いた。
 歌い終わり最後のポーズをキメている女性の表情は、さながらステージ上で自他共に満足のいくパフォーマンスをし最高の拍手喝采を浴びる歌手。激しく動いたせいか、エアコンがついていないせいか、ただ汗をかきやすい体質なのか。その全ての所為なのか、少し息の上がった女性の額や腕などには汗が落ち着いた調子で流れていた。
 一方、状況についていけてない優也は最後のポーズのまま動かない彼女を唖然としながら見ていた。

「あぁ~さいっこう!」

 余韻の余韻まで味わい尽くした女性は、突然スイッチが入れられたように動き始めた。そして彼女が満足感に浸っている間に音楽は打って変わってヴァイオリンのクラシックへと変わる。

「待たせてごめんね。それじゃ始めよっか」
「え? 始めるって何を?」
「拷問だよっ」

 女性はさらっと、しかも先ほどの満足感溢れる笑みを表情に残したままとは思えない言葉を口にした。あまりにも突拍子もない言葉にハッキリと聞こえていたが、意味をすぐに理解する事はできない。まるでその単語を初めて聞くかのように訳が分からず混乱してしまっていた。



 ※ここから『【14滴】通称コンダクター』の半分辺りまで拷問シーンがあります。そのような表現が苦手な方はお気を付けください。




「えっ? ちょっ! どういう……。えっ? 今何て言っ――」

 すると動揺に動揺を重ねた優也の言葉が終りを迎える前に、女性は持っていたナイフの刃先が下になるように持ち替え太ももに一刺し。

「あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 突然の痛みに透かさず上がる声。その痛みに暴れるも地面に固定された椅子はガタガタと揺れるだけ。その所為で人生で初めてナイフに刺され、痛いなどという言葉では表現しきれないほどの激痛に襲われた優也は、ただ暴れ叫び声を上げるしかなかった。

「はぁああ」

 そんな優也に対し叫び声を聞いた女性はナイフを握ったまま顔を赤らめ、目は潤み。今にも蕩けそうな表情をしながら漏らすように、吐息混じりの声を出していた。

「きみの鳴き声って堪らない。私、ドキドキしちゃった」

 まるで恋する乙女のように言うとナイフを抜き、何の躊躇もなく場所をズラし再度突き刺す。もう一度襲い掛かる肉を刃先が裂く感覚に痛覚は叫び声を上げ、それに共鳴するよに優也もこれでもかという声で悲鳴を上げた。その叫び声に女性はまたもやあの表情を浮かべ声を漏らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

処理中です...