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第壱幕:人と御伽
【3滴】血を吸う鬼
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いつもと同じ目覚めの合図が優也を夢世界から現実へと連れ戻した。瞼は閉じたまま手探りで音の発生源を探す。
それを音を止めると、まだ眠り足りない目をゆっくり開けようとするがカーテンの隙間から暗闇を掻き分けるように差し込む朝日がそれを阻もうとした。だが咄嗟に顔の前に出した左腕で影を作り朝陽から目を守る。
目の前に現れた少し日焼けの足りない腕。そこには牙の跡も無く、血も付着しておらずいつもとなんら変わらなかった。
いつもと同じ天井、いつもと同じベッド、いつもと同じ朝。優也はいつもと同じことにホッとし笑みを浮かべる。
「ははっ。なんだ、ただの夢か……そうだよね。あんなことがあるわけ無い。――少し働きすぎなのかも。今度休みを取ってゆっくり温泉っていうのもいいかなぁ」
するとその目と鼻の先ではたった今、夢だと笑った白いTシャツを着たあの女性が気持ちよさそうに寝ていた。
吃驚した優也は声を上げながら上半身を後ろに引く。だが勢いあまって後ろの壁に頭をぶつけてしまい痛みが最優先事項として割り込んできた。その箇所を両手で押さえ痛みに耐える。
近くで発せられた大声で目を覚ました女性は不機嫌そうに優也を睨んだ。
「うっせーなー。寝られねーだろーが」
「ご、ごめん。……じゃなくて! 何で居るの!?」
「なんでってそ――」
段々と小さくなっていく声はいつの間にか寝息へと変わっていた。彼女が睡魔に敗北したことに気が付いた優也は体を揺らし無理やり起こす。
「ちょっと! 寝ないでよ」
「あーもう。俺は眠いんだよっ」
睡眠を邪魔されたせいだろう声は苛立っていた。
そして女性は優也の手をぞんざいに掴むと口前まで引き寄せ、自分の唇を刺し血を付けた犬歯で手首に噛み付いた。鈍い痛みが手首から伝えられ刺さった犬歯の隙間からは少し血が溢れ出す。
「いった! ちょ、なにすr」
予想外の行動に混乱していた優也だったが麻酔でも打たれたように意識が遠のいていきいつの間にか眠りに落ちた。
それを確認した女性が手首から犬歯を抜き血の溢れる咬み跡を舌で軽く舐めると、傷どころか最初から無かったように痕すら消えてしまった。そして手を優也の方に投げ捨てると静かになった寝室へ二人分の寝息がひっそりと響き始めた。
それから随分と時間は経過し優也が再び目覚める頃には太陽はすでに活動を終えていた。最初は寝落ちから目を覚ましたような感覚だったが徐々に何があったかを思い出していく。そしてまだ目覚めきっていない頭を持ち上げながら起き上がり横を見るがそこには居たはずの女性が居なかった。
「おっ。起きたか」
不思議に思っているとベッド脇から声が聞こえ視線を向ける。そこにはサイズの合っていない白シャツがワンピースのようになっている女性が立っていた。
女性はスッキリとした表情で気持ちよさそうに伸びをしておりその後、優也の方を見て指差す。
「お前、寒くないのか?」
そう言われると寒気が襲ってきていることに気が付き思わず身震いをする。そして鳥肌の立った自分の体に目をやるとボクサーパンツしか身に着けておらず、ほぼ裸同然の格好に驚くというよりは疑問が浮かんだ。
「なんで僕こんな格好で寝てるの!?」
「そりゃ、俺が昨日脱がしてやったからだよ」
さらっと返ってきた答えに疑問は愕然へと変わる。だが更なる疑問が驚きの後ろに列を成していた。
「ぬが? えぇ!」
「お前の服、汚かったからな。あっ、この服借りてるぞー」
「あっどうぞ。……じゃなくて! 聞きたいことが山ほどあるんだけど!」
「へいへい。分かったから、とりあえず服着ろよ」
流すように言った女性は寝室を出て行った。
残された優也はベッドから出るとまず服を着るためクローゼットに向かう。開けっ放しにされたクローゼットの下には脱ぎ捨てられた2人分の服が。とりあえず適当に着たあと落ちていた服を拾い上げた。それはボロボロのスーツや所々に血の滲んだインナー、砂埃で汚れたスキニー。
「高そうなレザージャケットなのにもったいないなぁ。僕のスーツも、もう使い物にならないか」
スーツを片手に自然とため息が口から零れてしまう。だがとりあえず散らばった衣類を拾うと近くにまとめて置いておき後で片付けようと心に決めた。
そして寝室から出ると先ほどの女性がソファの上で胡坐をかいて座っていた。そんな女性を一見するとカウンターキッチンへ向かう。
「君も何か飲む?」
「おん」
気の抜けた返事を聞くと二人分のカップを出しココアを入れた。
そして湯気の立ち上るカップを女性の前に置き自分のは持ったまま向かいのソファに腰を下ろす。
「それじゃあ色々と聞く前に……。まず僕は六条優也、よろしく」
名前だけの簡単な自己紹介をした優也は握手の為に手を差し出す。その差し出された手をすぐには握り返さず見つめる女性。
優也は中々返って来ない自己紹介に首を傾げる。
「君は?」
「俺の名前は……」
言いたくないのか言葉に詰まった。しかし優也は急かすことなく手を差し出したまま女性からの言葉を待つ。言いたくなければ無理聞く必要はないと思っていた。
だが開かれた口から出てきたのは意外な言葉だった。
「わかんねぇ」
「え?わかんないって……」
「思い出せねーんだよ」
その言葉に思わず差し出した手をゆっくり戻す。
「記憶喪失?」
「さぁーな。まぁそういうこった」
「でも、名前が思い出せないんじゃなんて呼べばいいかな?」
「適当に呼んでくれ」
「んー、適当にって言われても」
とは言いつつも右手を顎につけ考え始める。結婚をしてもいない優也はもちろん子どもなどおらず名付けなどしたこともなかった。その所為で苦戦を強いられ、浮かんでは消える数々の名前。
そして一つの名前が思い浮かぶと女性の顔を見てその名前と合わせてみる。
「じゃー、ノアで」
頭の中で良いと思った名前を言葉に出しながら女性を軽く指差す。自分では良いと思ったが女性が気に入るかどうかは分からず、気に入ってくれればいいな程度で考えていた。
「いいんじゃねーの」
だがノアは気に入らなかったのか、ただただどうでもよかったのかは定かではないが興味なさそうに答えた。
でもその反応を見た優也は嫌そうではなかったという理由だけで良しとした。
「じゃあ色々聞かせてもらおうかな。まず、昨日のアレは何?」
「アレ?」
「ほら、僕たちを襲ってきた」
優也は手を動かし当てにならないジェスチャーで補足を入れた。気でいた。だが彼女の理解力がいいのか意外にも伝わった。
「あぁ~。自分で犬族って言ってただろ」
「そういうことじゃなくて犬族って何?あれって着ぐるみ?」
「わかんねーよ」
それはめんどくさそうで投げやりな返事。
「じゃあ君は誰?」
「俺か? 俺は吸血鬼だ」
「きゅうけつき? それって何かの団体?」
「団体? はぁ? 何言ってんだ?」
このあとも色々と質問をしたが結局、優也の疑問は何一つ解決されなかった。
「あぁ~。全然まともな返事が返ってこないよぉ~」
「そうなんだよなぁ。――ん?」
すると突然、心の中を音読したような声が聞こえた。声は正面に座るノアとは明らかに別の女性。自然に反応してしまった後、現れた違和感に導かれ声の聞こえた隣を見る。
そこには腰まである三つ編み、太もも丈の黒いタイツと編み上げのロングブーツを履いた女性が脚を組み座っていた。タイツの上ではもち肌の細すぎず太すぎない太ももが顔を覗かせている。そして立てた襟に開いた胸元、手首まで伸びた袖は少し薄く丈は膝裏近くまであったが、前は腰辺りで三角形を描いて二手に分かれそこからホットパンツと脚が見えていた。
そんな上半身だけを優也に向けて座っていた女性の格好は黒を基調としたいかにも魔女という感じの服装。特に頭に被った大きなとんがり帽子は物語の中で見るそれ。また女性は豊満な胸に対しお腹部分はしっかりとくびれ他の女性が羨むようなスタイルだった。
そして胸元には首にかけた南国の海をその中に収めたような青い宝石のネックレスが肌を背に輝き、その他にも耳ではいくつかのピアスが光を浴びている。
そして大人びた美人で頭が切れそうといった印象の顔には何かを期待しているような微笑みを浮かべていた。
それを音を止めると、まだ眠り足りない目をゆっくり開けようとするがカーテンの隙間から暗闇を掻き分けるように差し込む朝日がそれを阻もうとした。だが咄嗟に顔の前に出した左腕で影を作り朝陽から目を守る。
目の前に現れた少し日焼けの足りない腕。そこには牙の跡も無く、血も付着しておらずいつもとなんら変わらなかった。
いつもと同じ天井、いつもと同じベッド、いつもと同じ朝。優也はいつもと同じことにホッとし笑みを浮かべる。
「ははっ。なんだ、ただの夢か……そうだよね。あんなことがあるわけ無い。――少し働きすぎなのかも。今度休みを取ってゆっくり温泉っていうのもいいかなぁ」
するとその目と鼻の先ではたった今、夢だと笑った白いTシャツを着たあの女性が気持ちよさそうに寝ていた。
吃驚した優也は声を上げながら上半身を後ろに引く。だが勢いあまって後ろの壁に頭をぶつけてしまい痛みが最優先事項として割り込んできた。その箇所を両手で押さえ痛みに耐える。
近くで発せられた大声で目を覚ました女性は不機嫌そうに優也を睨んだ。
「うっせーなー。寝られねーだろーが」
「ご、ごめん。……じゃなくて! 何で居るの!?」
「なんでってそ――」
段々と小さくなっていく声はいつの間にか寝息へと変わっていた。彼女が睡魔に敗北したことに気が付いた優也は体を揺らし無理やり起こす。
「ちょっと! 寝ないでよ」
「あーもう。俺は眠いんだよっ」
睡眠を邪魔されたせいだろう声は苛立っていた。
そして女性は優也の手をぞんざいに掴むと口前まで引き寄せ、自分の唇を刺し血を付けた犬歯で手首に噛み付いた。鈍い痛みが手首から伝えられ刺さった犬歯の隙間からは少し血が溢れ出す。
「いった! ちょ、なにすr」
予想外の行動に混乱していた優也だったが麻酔でも打たれたように意識が遠のいていきいつの間にか眠りに落ちた。
それを確認した女性が手首から犬歯を抜き血の溢れる咬み跡を舌で軽く舐めると、傷どころか最初から無かったように痕すら消えてしまった。そして手を優也の方に投げ捨てると静かになった寝室へ二人分の寝息がひっそりと響き始めた。
それから随分と時間は経過し優也が再び目覚める頃には太陽はすでに活動を終えていた。最初は寝落ちから目を覚ましたような感覚だったが徐々に何があったかを思い出していく。そしてまだ目覚めきっていない頭を持ち上げながら起き上がり横を見るがそこには居たはずの女性が居なかった。
「おっ。起きたか」
不思議に思っているとベッド脇から声が聞こえ視線を向ける。そこにはサイズの合っていない白シャツがワンピースのようになっている女性が立っていた。
女性はスッキリとした表情で気持ちよさそうに伸びをしておりその後、優也の方を見て指差す。
「お前、寒くないのか?」
そう言われると寒気が襲ってきていることに気が付き思わず身震いをする。そして鳥肌の立った自分の体に目をやるとボクサーパンツしか身に着けておらず、ほぼ裸同然の格好に驚くというよりは疑問が浮かんだ。
「なんで僕こんな格好で寝てるの!?」
「そりゃ、俺が昨日脱がしてやったからだよ」
さらっと返ってきた答えに疑問は愕然へと変わる。だが更なる疑問が驚きの後ろに列を成していた。
「ぬが? えぇ!」
「お前の服、汚かったからな。あっ、この服借りてるぞー」
「あっどうぞ。……じゃなくて! 聞きたいことが山ほどあるんだけど!」
「へいへい。分かったから、とりあえず服着ろよ」
流すように言った女性は寝室を出て行った。
残された優也はベッドから出るとまず服を着るためクローゼットに向かう。開けっ放しにされたクローゼットの下には脱ぎ捨てられた2人分の服が。とりあえず適当に着たあと落ちていた服を拾い上げた。それはボロボロのスーツや所々に血の滲んだインナー、砂埃で汚れたスキニー。
「高そうなレザージャケットなのにもったいないなぁ。僕のスーツも、もう使い物にならないか」
スーツを片手に自然とため息が口から零れてしまう。だがとりあえず散らばった衣類を拾うと近くにまとめて置いておき後で片付けようと心に決めた。
そして寝室から出ると先ほどの女性がソファの上で胡坐をかいて座っていた。そんな女性を一見するとカウンターキッチンへ向かう。
「君も何か飲む?」
「おん」
気の抜けた返事を聞くと二人分のカップを出しココアを入れた。
そして湯気の立ち上るカップを女性の前に置き自分のは持ったまま向かいのソファに腰を下ろす。
「それじゃあ色々と聞く前に……。まず僕は六条優也、よろしく」
名前だけの簡単な自己紹介をした優也は握手の為に手を差し出す。その差し出された手をすぐには握り返さず見つめる女性。
優也は中々返って来ない自己紹介に首を傾げる。
「君は?」
「俺の名前は……」
言いたくないのか言葉に詰まった。しかし優也は急かすことなく手を差し出したまま女性からの言葉を待つ。言いたくなければ無理聞く必要はないと思っていた。
だが開かれた口から出てきたのは意外な言葉だった。
「わかんねぇ」
「え?わかんないって……」
「思い出せねーんだよ」
その言葉に思わず差し出した手をゆっくり戻す。
「記憶喪失?」
「さぁーな。まぁそういうこった」
「でも、名前が思い出せないんじゃなんて呼べばいいかな?」
「適当に呼んでくれ」
「んー、適当にって言われても」
とは言いつつも右手を顎につけ考え始める。結婚をしてもいない優也はもちろん子どもなどおらず名付けなどしたこともなかった。その所為で苦戦を強いられ、浮かんでは消える数々の名前。
そして一つの名前が思い浮かぶと女性の顔を見てその名前と合わせてみる。
「じゃー、ノアで」
頭の中で良いと思った名前を言葉に出しながら女性を軽く指差す。自分では良いと思ったが女性が気に入るかどうかは分からず、気に入ってくれればいいな程度で考えていた。
「いいんじゃねーの」
だがノアは気に入らなかったのか、ただただどうでもよかったのかは定かではないが興味なさそうに答えた。
でもその反応を見た優也は嫌そうではなかったという理由だけで良しとした。
「じゃあ色々聞かせてもらおうかな。まず、昨日のアレは何?」
「アレ?」
「ほら、僕たちを襲ってきた」
優也は手を動かし当てにならないジェスチャーで補足を入れた。気でいた。だが彼女の理解力がいいのか意外にも伝わった。
「あぁ~。自分で犬族って言ってただろ」
「そういうことじゃなくて犬族って何?あれって着ぐるみ?」
「わかんねーよ」
それはめんどくさそうで投げやりな返事。
「じゃあ君は誰?」
「俺か? 俺は吸血鬼だ」
「きゅうけつき? それって何かの団体?」
「団体? はぁ? 何言ってんだ?」
このあとも色々と質問をしたが結局、優也の疑問は何一つ解決されなかった。
「あぁ~。全然まともな返事が返ってこないよぉ~」
「そうなんだよなぁ。――ん?」
すると突然、心の中を音読したような声が聞こえた。声は正面に座るノアとは明らかに別の女性。自然に反応してしまった後、現れた違和感に導かれ声の聞こえた隣を見る。
そこには腰まである三つ編み、太もも丈の黒いタイツと編み上げのロングブーツを履いた女性が脚を組み座っていた。タイツの上ではもち肌の細すぎず太すぎない太ももが顔を覗かせている。そして立てた襟に開いた胸元、手首まで伸びた袖は少し薄く丈は膝裏近くまであったが、前は腰辺りで三角形を描いて二手に分かれそこからホットパンツと脚が見えていた。
そんな上半身だけを優也に向けて座っていた女性の格好は黒を基調としたいかにも魔女という感じの服装。特に頭に被った大きなとんがり帽子は物語の中で見るそれ。また女性は豊満な胸に対しお腹部分はしっかりとくびれ他の女性が羨むようなスタイルだった。
そして胸元には首にかけた南国の海をその中に収めたような青い宝石のネックレスが肌を背に輝き、その他にも耳ではいくつかのピアスが光を浴びている。
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