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第壱幕:人と御伽
【2滴】血の眷属
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もう追ってきた自らを犬族と呼ぶ人型の犬。犬族は手に持っている丸い機械を軽く上に投げては掴みを繰り返していた。
だが女性は犬族を無視し両腕に力を入れ体を縛るモノを引き千切ろうとするがビクともしない。
それを見ていた犬族が嬉しそうに笑った。
「そこまで消費した貴様じゃどうしようもないだろ! わん」
その挑発的な声に女性はやっと顔を上げると犬族へ目をやりながら口を開いた。
「チッ。大体お前ら多すぎなんだよ。百一匹ってどういうことだよ! 百一対一だぞ!」
初めて口を開いた女性の声は、口調も相俟ってか男勝りであろうその性格をよく表していた。そして言わずもがな苛立っていた。
「今は亡きその百にきの同胞のおかげでお前を捕らえることができたわん」
犬族はその同胞を思い出し感傷に浸っているのか遠くを見つめた双眸で空を見上げた。
その後、視線は優也の方を向く。
「その哀れな人間を殺してさっさと連れて帰るわん」
この言葉を聞いた女性も優也の方を見た。
「お前人間だったのか……」
「そう、だけど……」
ただ一人、状況についていけないまま優也がそう答えると女性の口角が上がった。どうやら優也が人間であることは都合が良いらしい。
「いやー、俺も運がいいなぁ」
「ん? 追い込まれてついにおかしくなったか? わん」
女性の頭にはこの状況の打開策が思い浮かんだようだった。
だが自分の勝利を信じて疑っていない様子の犬族はそうとは受け取らなかったらしい。
「おい、犬っころ! 良かったな。また百匹の同胞とやらに会えるぜ」
それを聞いた犬族は目を片手で覆うと天を仰ぎ大声で笑った。女性の気が狂ったか適当なことを言っていると思ったのだろうか。どちらにしろ犬族が女性を嘲笑っていることは確実だった。
「今更お前に何ができるって言うわん」
「俺じゃねーよ」
「まさか! 助けでも呼んだのか? わん」
一瞬にして瞠目した犬族からは先ほどまでの余裕は感じられない。
「んな訳ねーだろ。つーかどーやって呼ぶんだよ」
呆れた様子で否定する女性の態度は捕まっている者とは思えなかったがそれ程にその打開策とやらに自信があるのだろう。
一方、犬族は否定されたことで先ほどの感情は溶け去ったのか今は彼女へ探るような目を向けていた。
「じゃあ、誰のこと言ってるんだ? わん」
「ほら、居んじゃねーか。こんな近くにお前を倒すヤツが……」
女性はその人物を顎でしゃくった。それに導かれた犬族の視線はその人物へ向く。
そして優也は隣の女性を見た後に犬族の方を見ると目が合った。
「えっ? えぇぇぇ!」
優也はすぐさま女性に視線を戻した。
「ちょ、ちょっと何言ってるの? ムリ無理むり! 今まで喧嘩どろころか人に殴られたことも殴ったこともないから!」
「あぁー、うるせー」
だが面食らった優也の言葉を女性は全く聞こうとしなかった。聞く気を微塵も感じられないどころかそもそも意見など求めていないといった様子。
「こんな小僧に、しかも人間に俺が負けると思ってるのか? わん。勝負にすらならないわん」
「そ、そうですよね~。僕もそう思いますぅ」
宥めるように発せられた声はこの状況を考えなければ情けなく頼りない。だがこの状況を考えればそれも仕方ない。
すっかり腰が引けた優也は自分よりも圧倒的な強者に対して精一杯の苦笑いを浮かべるしかなかった。
「どうせお前もあの百匹と変わらないだろ? じゃ、余裕だ」
その言葉に一瞬にして怫然とする犬族。その表情だけでも彼の中でぐつぐつと怒りの火山が煮え始めるのが手に取るように分かった。
「俺ら犬族がそんな人間如きに劣ると? わん」
「ちゃんと理解できてるじゃねーか。頭でも撫でてやろーか?」
煽るような笑みを浮かべ悠然としている女性を犬族は鋭い目つきで睨みつける。
だが女性は犬族を無視し両腕に力を入れ体を縛るモノを引き千切ろうとするがビクともしない。
それを見ていた犬族が嬉しそうに笑った。
「そこまで消費した貴様じゃどうしようもないだろ! わん」
その挑発的な声に女性はやっと顔を上げると犬族へ目をやりながら口を開いた。
「チッ。大体お前ら多すぎなんだよ。百一匹ってどういうことだよ! 百一対一だぞ!」
初めて口を開いた女性の声は、口調も相俟ってか男勝りであろうその性格をよく表していた。そして言わずもがな苛立っていた。
「今は亡きその百にきの同胞のおかげでお前を捕らえることができたわん」
犬族はその同胞を思い出し感傷に浸っているのか遠くを見つめた双眸で空を見上げた。
その後、視線は優也の方を向く。
「その哀れな人間を殺してさっさと連れて帰るわん」
この言葉を聞いた女性も優也の方を見た。
「お前人間だったのか……」
「そう、だけど……」
ただ一人、状況についていけないまま優也がそう答えると女性の口角が上がった。どうやら優也が人間であることは都合が良いらしい。
「いやー、俺も運がいいなぁ」
「ん? 追い込まれてついにおかしくなったか? わん」
女性の頭にはこの状況の打開策が思い浮かんだようだった。
だが自分の勝利を信じて疑っていない様子の犬族はそうとは受け取らなかったらしい。
「おい、犬っころ! 良かったな。また百匹の同胞とやらに会えるぜ」
それを聞いた犬族は目を片手で覆うと天を仰ぎ大声で笑った。女性の気が狂ったか適当なことを言っていると思ったのだろうか。どちらにしろ犬族が女性を嘲笑っていることは確実だった。
「今更お前に何ができるって言うわん」
「俺じゃねーよ」
「まさか! 助けでも呼んだのか? わん」
一瞬にして瞠目した犬族からは先ほどまでの余裕は感じられない。
「んな訳ねーだろ。つーかどーやって呼ぶんだよ」
呆れた様子で否定する女性の態度は捕まっている者とは思えなかったがそれ程にその打開策とやらに自信があるのだろう。
一方、犬族は否定されたことで先ほどの感情は溶け去ったのか今は彼女へ探るような目を向けていた。
「じゃあ、誰のこと言ってるんだ? わん」
「ほら、居んじゃねーか。こんな近くにお前を倒すヤツが……」
女性はその人物を顎でしゃくった。それに導かれた犬族の視線はその人物へ向く。
そして優也は隣の女性を見た後に犬族の方を見ると目が合った。
「えっ? えぇぇぇ!」
優也はすぐさま女性に視線を戻した。
「ちょ、ちょっと何言ってるの? ムリ無理むり! 今まで喧嘩どろころか人に殴られたことも殴ったこともないから!」
「あぁー、うるせー」
だが面食らった優也の言葉を女性は全く聞こうとしなかった。聞く気を微塵も感じられないどころかそもそも意見など求めていないといった様子。
「こんな小僧に、しかも人間に俺が負けると思ってるのか? わん。勝負にすらならないわん」
「そ、そうですよね~。僕もそう思いますぅ」
宥めるように発せられた声はこの状況を考えなければ情けなく頼りない。だがこの状況を考えればそれも仕方ない。
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「どうせお前もあの百匹と変わらないだろ? じゃ、余裕だ」
その言葉に一瞬にして怫然とする犬族。その表情だけでも彼の中でぐつぐつと怒りの火山が煮え始めるのが手に取るように分かった。
「俺ら犬族がそんな人間如きに劣ると? わん」
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