【R18】異世界転生したので婚活に励もうとしたら、なぜかマシュマロ(※のち美形の悪魔)王子にロックオンされました

深石千尋

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◆◆◆◆

 それからさらに一年が経つころには、私の目論見通り、ルキウスはみながあっと驚くほどの美貌の王子様になった。
 ムキムキがいいなと私が言ったころから士官学校に入学し、今年から陸軍に配属、少尉の階級を保有することが決まっている。
 マルセルが言うには、小説のルキウスは痩せて見違えることはあってもあくまでも王子様らしい線の細さを保っていたらしい。原作よ、どこへいった?
 ルキウスは『ぜんぶイネスのおかげだよ』とニコニコしながら言っているが、私がやったことといえば『もっと自分に自信を持って!』『筋トレっていいよ!』などと声をかけたくらいなので、ここで『私のおかげなんだからね』と偉そうにするのは少し違うのではないかと思っている。
 実戦し、それを自分のものにしたのはルキウス本人だ。私ではない。
 彼は変われたのだ。それが自分のことのように嬉しい。
 手のひらを返したように態度を一変させた人々を見れば、『ギャフンと言わせる』計画は無事に成功したといえるだろう。
 あのエドヴァルトとケティの悔しそうな顔も見てほしい。初めて反撃できたようでこちらまで胸がすくのを感じる。

 そしてそして! ときを同じくして私も婚活にリベンジすることになった!!
 昨年の社交シーズンは失敗してしまったが、今年こそ素敵な恋をしようと思う。

「イネス、とっても綺麗だよ。俺が贈ったドレスを着てくれたんだね」

 社交シーズンに入ってすぐの夜会。
 両親と兄を言葉巧みに懐柔した(心が読めちゃうもんね)ルキウスは、大勝負に出た私のエスコート役を買って出た。
 きっと私の荒ぶる心を心配してくれたのだろう。婚活頑張るぞおおおおと息込む私に、ルキウスは優しく声をかけてくる。

「ありがとうございます、ルキウスさま。背中と胸が開いたエッチなドレスを仕立ててくださって嬉しいです」
「きみの好みは熟知しているからね。さすがにスカートにスリットだけは入れられなかったけど。ただでさえきみは匂い立つような色香を放っているのだから、それ以上色っぽくなってしまったら会場じゅうの男たちが卒倒してしまうよ」
「嫌だわ、ルキウス様ったら。ヤキモチですか? ちょっと脚を見せたところで減るものでもありませんのに」

 ルキウスが私に贈ってくれたのは鮮やかなコバルトブルーのドレスだ。豊満な体をマーメイドラインの美しいドレスが包んでいる。
 そもそも夜会などのパーティーでは、その日エスコートしてくれる相手の色を身につけるのが一般的なマナーである。
 当然ルキウスも私の色である紫のクラヴァットとカフスをつけている。

「だけど、なんだかルキウスさまの女って感じがしますねぇ」

 ついつい感慨深げに言ってみれば、とたんにルキウスの目元が赤くなった。
 あ……可愛くなった。
 精悍さと美しさで絶妙なバランスを取った彼の顔には、一年前に感じた柔らかな雰囲気の面影が残っている。
 だが魅力はちっとも損なわれていない。それどころかイケメン度マシマシである。
 ルキウスがはぁ、と小さな溜息をこぼした。

「まったくきみって人は……お色気お姉さんを目指していると言っているだけに容赦なく人を煽ってくるね」

 ルキウスは口を尖らせるが、私自身挑発した覚えはない。前衛的なドレスは否定しないものの、色めいた発言はしていないはずだ。
 むしろ煽っているというなら、会場入りするやいなや令嬢たちからキャーキャー騒がれている彼のほうがよっぽど煽りまくっていると思う。

 そんなふうにしばらく歓談していると、会場がさらなる黄色い悲鳴に包まれた。
 王太子ファブリスが現れたのだ。
 金髪碧眼で、細面のザ・王子様。ルキウスと兄弟というだけあってやはり美丈夫だ。
 そしてその横にはぴったり寄り添うように令嬢も立っている。おそらく彼女こそマリウスが言うヒロインノエルなのだろう。ケティとは比べものにならないほどの美少女だ。

「とっても素敵……!」
 
 すごいわ! と興奮のあまり声をうわずらせれば、突然後ろから目隠しをされる。

「ダメだよ、イネス。よそ見をしては」
「え?」
「小説には興味がないんでしょう?」
「ええと……? だけど」

 一応ヒロインとヒーローよ? 仮にも主要キャラであるルキウスは気にならないのだろうか。
 戸惑う私にルキウスが答える。

「きみと同じように、俺も当て馬なんて役には興味がないんだ」

 ヒロインはあんなに可愛いのに? ヒーローもかっこいいよ?

「可愛い女の子は彼女だけじゃないだろう? 当然かっこいい男も」

 そうかもしれないけど……。

「そもそも俺が小説のヒロインに恋をして立派な当て馬役になれないんだとしたら、それはイネス、きみのせいだ」
「……え? ど、どういうことです?」

 不覚にも舌がもつれた。
 私は慌ててルキウスの手を解いて彼のほうに向き直る。

「イネス……」

 キスでもしそうなほどすぐそばにルキウスが立っていた。
 碧い瞳がいつになく熱っぽく私を見下ろしていて……。

「どういうことも何も……イネスは俺と結婚してくれるんだろう? もうヒロインもヒーローもどちらも忘れてほしいよ。俺以外の人間を見つめないで」

 ルキウスは懇願した。
 その妙に甘ったるく低い声に、私のうなじのあたりがゾクゾクと粟立つ。

「だってそんな……今まで何度も会っていたのに、一度もそれっぽいことは……」
「俺のお嫁さんに立候補すると、結婚してときみは言った。いいや、心から思ってくれた、というのが正しいのかな?」
「け、結婚?」

 いや、確かに思ったけど!!

「あのとき、きみが勇気づけてくれたからこそ俺は変われた。これでもなるべく早くきみにふさわしい男になれるよう頑張ったほうなんだよ。そうでないと、きみったらいろんな男たちを獲物に定めてしまうだろう?」
「え……」
「俺の目にはもうきみしか映らない」
「あの……え、ええと」

 私は魚のように口をパクパクと動かした。
 いつもの私ならここでドーンッと来いと返すところなのに、ルキウスの表情が真剣すぎてすんなりと言葉を返せない。
 異性からのアプローチはこれが初めてで、実のところこういうことにまったく免疫がなかったのだ。
 よくよく考えてみれば、家族以外で親しい異性はルキウスしかいなかったけれど!!
 あたふたしている私を見て、ルキウスの形のいい唇がニッと上がり、ひどく凄艶せいえんに見える。

「だから、責任を取って俺と結婚して――ね?」

 気づけば私はルキウスに連れられて人気ひとけのないテラスまで来ていた。
 頭上にクエスチョン、ビックリマークを乱舞させる私をよそに、ルキウスは落ち着いていて、どこか手慣れたような感じさえする。
 まるで私の知らない大人の男性みたいで、心臓がドキリとバウンドした。

「それとも……イネスは俺がヒロインとやら別の女の子のところに行ってしまってもいいの?」

 ルキウスが切なさを滲ませた声で問いかけてくる。
 だけどいざルキウスがヒロインに恋焦がれているところを想像してみると、チリッと胸が焼けつくように痛くなった。
 あれ……? 私、もしかしてルキウスさまのことを……?

「好きだよ、イネス」

 そして彼の唇が近づいてきたところで、なぜだかそれが当たり前のことのように思えて、私は自然と目を瞑り口づけを受け入れていた。

 初めてのキスは柔らかくて熱かった。
 私は爪先立ちになってルキウスの腕にしがみつく。
 二度目のキスは最初のキスよりも激しくて、ルキウスの舌が私の舌を搦め捕って苦しいくらいだった。
 それなのに頭の芯がじんと熱くなり、酩酊感と高揚感に腰から力が抜けそうになる。

「んん……ああっ」

 キスのかたわら、ルキウスの大きな手がドレス越しに私の胸を包んだ。
 その瞬間、自分の声とは思えないような艶っぽい声が漏れる。

「あんっ、あ……」

 ルキウスの長い指がふくらみの先端を見つけて、そこを執拗にこすってくる。
 変なの。キスだけでも気持ちいいのに、胸を触られるともっと気持ちよくなる。

「ふぁ……ああ」

 ルキウスのたくましい腕に抱かれながら、私はもっとキスして、もっと触ってほしくてたまらなくなった。
 次第に物足りなさにお腹の奥が疼き、足の間が濡れていくのを感じる。
 私、もしかしたらこのままルキウスさまと一線を越えてしまうのでは……?

「フフッ……」

 不意にルキウスが唇を離して、堪えきれないといったように笑い出した。
 私は胸をせわしく上下させながらも、なぜ途中でやめたのかと抗議の目を向ける。

「……ルキ、ウスさま?」
「さすがに初めてが外なんて嫌でしょう? 何がどうなってアンアン言っているのかきみが知りたいのだとしても、ここにいるみんなに聞かせるわけにはいかないよ」
「なっ……!」

 顔を真っ赤にする私に、ルキウスが笑みを深めた。

「……たまにはこういうのもいいね。いつもは俺が可愛いってきみにからかわれてばかりだけど、今は逆だ。きみの恥じらう姿が見られるなんて最高だよ。可愛い」
「ななっ……!」
「少なくとも、こういうことに関してはきみよりも俺のほうが知っていると思うよ。王族は年頃になると閨教育を受けなければいけないから。もちろん、誓ってきみ以外に抱きたいと思う女性がいたわけではないけど」
「ず、ずるい!!」
「ねぇ、何がどうなってイッちゃうのか、いろいろ試してみようよ」

 ついに腰が抜けてまともに立っていられなくなった私を力強く抱き留めながら、ルキウスが耳元で囁いてくる。
 悪魔だ。あんなに可愛かったマシュマロ王子がいつの間にか美形の悪魔王子になっている。
 ここは本当に禁欲が美徳とされる世界なの!? と我が目を疑わずにはいられない。

「ルキウスさまのエッチ!!!!」

 どうやらヒロインに代わってルキウスを励まし、彼のハートを射止めていたのは私だったようだ。
 その事実を今になって思い知る。

 なぜルキウスを男としてきちんと意識してこなかったのか。
 彼だって魅力的な人なのに。

 ――一緒にいて楽しい人なのに。

 今、私はどんな顔をしているのだろう?

 心臓がドキドキと脈打ち、頬どころか体じゅうが熱に包まれていく。










 かくして新しい世界での私の素敵な恋は、まだ、始まったばかり。

―Fin―
 もちろん、このあとめちゃめちゃイかされました。
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