7 / 31
第ニ章 王都
それぞれの待ち人
しおりを挟む
色鮮やかな色のコントラストが目を引く街並みの王都アークレイリは、グヴズムンドゥル王国最西端に位置し、四方を川と運河で囲まれた中洲のような地形にある。政治、商業の要衝であり、人口密度のそれほど高くない王国内において、アークレイリの都は特別だ。家々はひしめき合うように建ち並び、人々の往来も盛んだ。
ブリョン宮殿は街の中心地にあった。石造りの壁は重々しく、頂は鋭く尖っている。窓は緩やかに弧を描き、大きなステンドグラスが嵌められている。町の教会に似ているが、それよりもずっと大きく荘厳で美しい。
ブリョン宮殿はアークレイリを見渡すように鎮座していた。
ブリョン宮殿の一角、天井の高い回廊をすらりとした男が颯爽と歩いていた。
頬や口、顎に髭を蓄えた壮年の男で、小さく細長い瞳には狡猾さが見え隠れしていた。
男の名は、ヘンリク・ケント・ベーヴェルシュタム。グヴズムンドゥル王国の国境山脈周辺ラップラントに領地を構える公爵だ。
王の即位にあたり臣籍降下したが、王の兄にあたる高貴な人物でもあり、普段王宮においては枢密院議長の地位についている。
「閣下、ゲオルグ・ヤンセンからの伝令です」
ヘンリクは呼び止められて振り返った。
すかさず臣下の一人が慇懃に紙の筒を差し出す。
ヘンリクは早速紐解いて紙に視線を走らせると、眉一つ動かさずに亜麻色の顎髭を撫でながら言った。
「近衛騎士団には団長と数人ばかりの護衛を残して、残りはラップラント国境の防衛ラインに配置せよ」
グヴズムンドゥル王国は小国ながらも二大帝国に挟まれた緩衝地帯だった。力のある二国間にいるからこそ王国は中立を保っていられるが、今も帝国は凌ぎを削って互いの領土を攻め合っている状況にある。
いつその火の粉が飛んでくるかは、誰にも予測はできなかった。
そのため、ヘンリクの治めるラップラントの国境には、防衛ラインとしてグヴズムンドゥル王国の軍備が増強されていた。
「は? よろしいのですか?」
臣下は目を丸くした。
近衛師騎士団は百人余りの規模で聖女の迎えと護衛、国の威信を見せつけることが目的で出発したのだから、臣下が疑問に抱くのも当然のことだった。
「構わん。聖女には内々に入城してもらおう」
訝る臣下の問いに、ヘンリクはあっさり答えて顎を突き出した。
(老婆のような娘だと……)
(何と醜いことか)
ヘンリクは鼻で笑った。
だが、この事が民衆に知られるのはまずい。話が広まる前に兵を国境ラインに送り、聖女入城の際も変装させて誤魔化せば何とかなるまいか。
ヘンリクはくつくつ肩を震わせながら、可哀想な甥っ子を思い出した。忌々しい弟の息子が不幸になるのが、ヘンリクはどうしようもなくおかしくて堪らなかった。
****
「アニタ様、明後日の舞踏会には何をお召しになるのかしら」
アニタと呼ばれた女は、自分にかけられた猫撫で声に思わずはっとした。
いつの間にか考え込んでいたらしいが、どうやら周りには気付かれていないようだ。
アニタはこっそり安堵の息を漏らした。
「ええ。父がこのためにドレスを新調してくれたみたいですの。私の目の色のドレスですわ」
「まぁ、素敵! 緑のドレスですわね! 当日拝見するのが楽しみですわ!」
アニタは指で摘まんでいた杯を受け皿ーに置いて、口元を扇子で覆い隠した。
卓を挟んでアニタを囲むように、若い女たちも扇子を広げてころころと笑った。
アニタ——名はアニタ・エイリーン・ベーヴェルシュタムと言い、ベーヴェルシュタム公爵の三人娘の末娘だ。
黄味がかった薄茶色の髪と、エメラルドの瞳を持ち、アニタはまだ少女のようなあどけなさが残る面影をしていた。
公爵位ではあるが、王太子であるソルヴィとは従兄妹同士でもあり、貴族の中では王族に最も近いと言えよう。
それだけではない。
アニタは王太子ソルヴィとは、幼い頃からの付き合いがあった。
年は二歳離れているが、二人並べば誰もがお似合いだと口を揃えた。
アニタもまた満更でもなかった。周囲の影響ももちろんあったが、アニタは物心つく頃からソルヴィを愛していた。寝入りばなよく母が聞かせてくれた『聖なる矢』の話は、当然のことながら自分が主人公であるとさえ思っていたほど。
今日のようにアニタはラップラントの本宅より王都の別宅の方を好んで滞在した。両親には茶会が楽しいからと言い繕っていたが、誰の目から見てもソルヴィ目当てであったことは言うに及ばない。
誰よりも長く、誰よりも強く、また誰よりもずっと近くでソルヴィを愛してきたのは、アニタだ。アニタはそう自負している。
「それより皆さん聞いたかしら。昨日近衛騎士団のゲオルグ様が聖女を歓待するためにラップラントに向かったそうよ。城や王都中この話題で持ちきりねぇ」
一人の女が白々しく高い声で言った。
扇子で隠れたアニタの口元が震える。
「ええ、もちろん」
「聖なる矢はどんな方を選んだのかしら。明後日の舞踏会でお目にかかれると良いわね」
「本当にぜひお近づきになりたいものだわ」
「ずっとお側でお仕えしていたアニタ様も、どんな女性が聖女か確かめなくてはなりませんね」
同意を求めるように周りは微笑みながらアニタを見た。
ついこないだまで聖女はアニタで決定だと言うような連中だ。
アニタは内心怒りの炎をたぎらせつつ、しかし表面上は笑顔で武装した。静かに扇子を閉じると言う。
「そうですわね。その方が皆々様の納得のいくような、見目麗しい素敵な方だと良いですわね」
聖女はとうに選ばれ、ソルヴィの妻になることは叶わなかったというのに、アニタはそれでも諦め切れなかった。
きっとソルヴィからの愛が獲られれば、自分の勝利だと確信している。
アニタのエメラルドの瞳は燃えていた。
****
ソルヴィの一日は忙しい。
王太子という身分はただ生まれを指し示すだけだ。特別な役職があるわけではない。下手をすると、どこそこの令嬢と同じように、裁縫と茶会に興じたって言いのだ。ぼんくらも良いところだが。
しかし、ソルヴィは十の頃より父に張り付いて学んでいた。
今年やっと成人したばかりで大した決定権などあろうはずもないが、ソルヴィは枢密院や評議会で政策に関する議論の場に毎回参加していた。国内の穀物、税金、関税、支払いなどの報告も聞く。家臣や民衆から知らせ、戦争、事件などの話だけでなく、不平不満や問題を聞く場にもいた。それが終わると近衛騎士団の鍛錬場で剣と魔法の練習をし、自室に戻ると家庭教師から政治、経済、軍事、帝王学、魔法学の座学を受けた。
正に休みなしの日程だ。
だが、誰かに強制されたわけではない。あくまでソルヴィの自主性だ。
ソルヴィは自分の見てくれがあまり好きではなかった。
容姿は良いに越したことはないが、良すぎるのも問題である。
なぜなら中身を見てもらえないからだ。
高い身分にあるせいもあり、誰もが口々にソルヴィを褒めそやし、ごまをすり、腹に一物を抱えて近付いてきた。
何が真実で何が嘘なのか。騙されなかったことがないと言えば、そんなことはない。二度三度、いや、何度もある。
忘れられない事件の一つに、子どもの頃気のおけないと思っていた執事の裏切りがあった。あのときは誘拐され危うく殺されそうにもなり、自分の人生においてあれほど激怒したことはないくらいだった。ソルヴィを一人の人間として見てくれていたと思っていたのに……
女にしてもそうだ。
ソルヴィの上っ面だけ見て、素敵、美しいなどといった甘言を口を揃えて言うが、誰一人としてソルヴィの中身を見ようとしなかった。能力も見た目に呼応するとでも思っているのかもしれない。あの人は格好良いのだから魔法も勉学もできて当然だわ、と。
そもそもソルヴィの地位と財産目当てだったのは否めないが。
ソルヴィも始めの内はころっと騙されて関係を持ったこともあったが、今では女にすっかり興味を失ってしまった。
ソルヴィにとって、そういう強かな連中から身を守る術というのが、自ら学ぶ姿勢だったのだ。
中身を見てほしいという心の奥底の願望も、自己研鑽に励ませたのだろう。
初めはそういう連中から守ってもらいたくて父に付きまとっていた。
しかし、父は守ってくれなかった。父は家族よりも政務ばかりに目が行っていたのだ。
ソルヴィは次第に自ら学ぶため、飽きもせず金魚の糞よろしく父の後について回った。
それは心のどこかで、父の愛を求めていたからではないかと思う。
十三で近衛騎士団に配属され、十五で異例の若さで連隊長にまで登り詰めたが、父は何も言わなかった。正しく努力の賜物だったが、父に認められなかったソルヴィは人知れず涙したものだ。
ソルヴィは眉間を押さえて溜め息をついた。
政務中毒のソルヴィにもさすがに疲れの色が見える。婚約式をきっかけに近頃考え込むことが多くなった。
筆頭王宮魔法使いゲオルグの知らせでは、聖なる矢の行方が判明したという。近衛騎士団が仰々しく旅立っていったのは昨日の話だ。
国境のラップラントまで普通の旅なら五日ほどかかるが、魔法使いのいる騎士団は早駆けの魔法が使える。途中で休憩を入れても一日足らずで到着する頃だろう。だとすると、戻ってくるのは今日の夜半過ぎくらいだろうか。
ソルヴィは煌めく金の睫毛を震わせ、前髪を掻き上げた。サファイアの双眸は泳ぐように揺れている。
(聖女とはどんな女性なのだろうか)
(——愛せるのだろうか)
答えのない疑問にいよいよ問いが得られる日が近付き、ソルヴィの心には期待と不安が入り混ざっていた。
ブリョン宮殿は街の中心地にあった。石造りの壁は重々しく、頂は鋭く尖っている。窓は緩やかに弧を描き、大きなステンドグラスが嵌められている。町の教会に似ているが、それよりもずっと大きく荘厳で美しい。
ブリョン宮殿はアークレイリを見渡すように鎮座していた。
ブリョン宮殿の一角、天井の高い回廊をすらりとした男が颯爽と歩いていた。
頬や口、顎に髭を蓄えた壮年の男で、小さく細長い瞳には狡猾さが見え隠れしていた。
男の名は、ヘンリク・ケント・ベーヴェルシュタム。グヴズムンドゥル王国の国境山脈周辺ラップラントに領地を構える公爵だ。
王の即位にあたり臣籍降下したが、王の兄にあたる高貴な人物でもあり、普段王宮においては枢密院議長の地位についている。
「閣下、ゲオルグ・ヤンセンからの伝令です」
ヘンリクは呼び止められて振り返った。
すかさず臣下の一人が慇懃に紙の筒を差し出す。
ヘンリクは早速紐解いて紙に視線を走らせると、眉一つ動かさずに亜麻色の顎髭を撫でながら言った。
「近衛騎士団には団長と数人ばかりの護衛を残して、残りはラップラント国境の防衛ラインに配置せよ」
グヴズムンドゥル王国は小国ながらも二大帝国に挟まれた緩衝地帯だった。力のある二国間にいるからこそ王国は中立を保っていられるが、今も帝国は凌ぎを削って互いの領土を攻め合っている状況にある。
いつその火の粉が飛んでくるかは、誰にも予測はできなかった。
そのため、ヘンリクの治めるラップラントの国境には、防衛ラインとしてグヴズムンドゥル王国の軍備が増強されていた。
「は? よろしいのですか?」
臣下は目を丸くした。
近衛師騎士団は百人余りの規模で聖女の迎えと護衛、国の威信を見せつけることが目的で出発したのだから、臣下が疑問に抱くのも当然のことだった。
「構わん。聖女には内々に入城してもらおう」
訝る臣下の問いに、ヘンリクはあっさり答えて顎を突き出した。
(老婆のような娘だと……)
(何と醜いことか)
ヘンリクは鼻で笑った。
だが、この事が民衆に知られるのはまずい。話が広まる前に兵を国境ラインに送り、聖女入城の際も変装させて誤魔化せば何とかなるまいか。
ヘンリクはくつくつ肩を震わせながら、可哀想な甥っ子を思い出した。忌々しい弟の息子が不幸になるのが、ヘンリクはどうしようもなくおかしくて堪らなかった。
****
「アニタ様、明後日の舞踏会には何をお召しになるのかしら」
アニタと呼ばれた女は、自分にかけられた猫撫で声に思わずはっとした。
いつの間にか考え込んでいたらしいが、どうやら周りには気付かれていないようだ。
アニタはこっそり安堵の息を漏らした。
「ええ。父がこのためにドレスを新調してくれたみたいですの。私の目の色のドレスですわ」
「まぁ、素敵! 緑のドレスですわね! 当日拝見するのが楽しみですわ!」
アニタは指で摘まんでいた杯を受け皿ーに置いて、口元を扇子で覆い隠した。
卓を挟んでアニタを囲むように、若い女たちも扇子を広げてころころと笑った。
アニタ——名はアニタ・エイリーン・ベーヴェルシュタムと言い、ベーヴェルシュタム公爵の三人娘の末娘だ。
黄味がかった薄茶色の髪と、エメラルドの瞳を持ち、アニタはまだ少女のようなあどけなさが残る面影をしていた。
公爵位ではあるが、王太子であるソルヴィとは従兄妹同士でもあり、貴族の中では王族に最も近いと言えよう。
それだけではない。
アニタは王太子ソルヴィとは、幼い頃からの付き合いがあった。
年は二歳離れているが、二人並べば誰もがお似合いだと口を揃えた。
アニタもまた満更でもなかった。周囲の影響ももちろんあったが、アニタは物心つく頃からソルヴィを愛していた。寝入りばなよく母が聞かせてくれた『聖なる矢』の話は、当然のことながら自分が主人公であるとさえ思っていたほど。
今日のようにアニタはラップラントの本宅より王都の別宅の方を好んで滞在した。両親には茶会が楽しいからと言い繕っていたが、誰の目から見てもソルヴィ目当てであったことは言うに及ばない。
誰よりも長く、誰よりも強く、また誰よりもずっと近くでソルヴィを愛してきたのは、アニタだ。アニタはそう自負している。
「それより皆さん聞いたかしら。昨日近衛騎士団のゲオルグ様が聖女を歓待するためにラップラントに向かったそうよ。城や王都中この話題で持ちきりねぇ」
一人の女が白々しく高い声で言った。
扇子で隠れたアニタの口元が震える。
「ええ、もちろん」
「聖なる矢はどんな方を選んだのかしら。明後日の舞踏会でお目にかかれると良いわね」
「本当にぜひお近づきになりたいものだわ」
「ずっとお側でお仕えしていたアニタ様も、どんな女性が聖女か確かめなくてはなりませんね」
同意を求めるように周りは微笑みながらアニタを見た。
ついこないだまで聖女はアニタで決定だと言うような連中だ。
アニタは内心怒りの炎をたぎらせつつ、しかし表面上は笑顔で武装した。静かに扇子を閉じると言う。
「そうですわね。その方が皆々様の納得のいくような、見目麗しい素敵な方だと良いですわね」
聖女はとうに選ばれ、ソルヴィの妻になることは叶わなかったというのに、アニタはそれでも諦め切れなかった。
きっとソルヴィからの愛が獲られれば、自分の勝利だと確信している。
アニタのエメラルドの瞳は燃えていた。
****
ソルヴィの一日は忙しい。
王太子という身分はただ生まれを指し示すだけだ。特別な役職があるわけではない。下手をすると、どこそこの令嬢と同じように、裁縫と茶会に興じたって言いのだ。ぼんくらも良いところだが。
しかし、ソルヴィは十の頃より父に張り付いて学んでいた。
今年やっと成人したばかりで大した決定権などあろうはずもないが、ソルヴィは枢密院や評議会で政策に関する議論の場に毎回参加していた。国内の穀物、税金、関税、支払いなどの報告も聞く。家臣や民衆から知らせ、戦争、事件などの話だけでなく、不平不満や問題を聞く場にもいた。それが終わると近衛騎士団の鍛錬場で剣と魔法の練習をし、自室に戻ると家庭教師から政治、経済、軍事、帝王学、魔法学の座学を受けた。
正に休みなしの日程だ。
だが、誰かに強制されたわけではない。あくまでソルヴィの自主性だ。
ソルヴィは自分の見てくれがあまり好きではなかった。
容姿は良いに越したことはないが、良すぎるのも問題である。
なぜなら中身を見てもらえないからだ。
高い身分にあるせいもあり、誰もが口々にソルヴィを褒めそやし、ごまをすり、腹に一物を抱えて近付いてきた。
何が真実で何が嘘なのか。騙されなかったことがないと言えば、そんなことはない。二度三度、いや、何度もある。
忘れられない事件の一つに、子どもの頃気のおけないと思っていた執事の裏切りがあった。あのときは誘拐され危うく殺されそうにもなり、自分の人生においてあれほど激怒したことはないくらいだった。ソルヴィを一人の人間として見てくれていたと思っていたのに……
女にしてもそうだ。
ソルヴィの上っ面だけ見て、素敵、美しいなどといった甘言を口を揃えて言うが、誰一人としてソルヴィの中身を見ようとしなかった。能力も見た目に呼応するとでも思っているのかもしれない。あの人は格好良いのだから魔法も勉学もできて当然だわ、と。
そもそもソルヴィの地位と財産目当てだったのは否めないが。
ソルヴィも始めの内はころっと騙されて関係を持ったこともあったが、今では女にすっかり興味を失ってしまった。
ソルヴィにとって、そういう強かな連中から身を守る術というのが、自ら学ぶ姿勢だったのだ。
中身を見てほしいという心の奥底の願望も、自己研鑽に励ませたのだろう。
初めはそういう連中から守ってもらいたくて父に付きまとっていた。
しかし、父は守ってくれなかった。父は家族よりも政務ばかりに目が行っていたのだ。
ソルヴィは次第に自ら学ぶため、飽きもせず金魚の糞よろしく父の後について回った。
それは心のどこかで、父の愛を求めていたからではないかと思う。
十三で近衛騎士団に配属され、十五で異例の若さで連隊長にまで登り詰めたが、父は何も言わなかった。正しく努力の賜物だったが、父に認められなかったソルヴィは人知れず涙したものだ。
ソルヴィは眉間を押さえて溜め息をついた。
政務中毒のソルヴィにもさすがに疲れの色が見える。婚約式をきっかけに近頃考え込むことが多くなった。
筆頭王宮魔法使いゲオルグの知らせでは、聖なる矢の行方が判明したという。近衛騎士団が仰々しく旅立っていったのは昨日の話だ。
国境のラップラントまで普通の旅なら五日ほどかかるが、魔法使いのいる騎士団は早駆けの魔法が使える。途中で休憩を入れても一日足らずで到着する頃だろう。だとすると、戻ってくるのは今日の夜半過ぎくらいだろうか。
ソルヴィは煌めく金の睫毛を震わせ、前髪を掻き上げた。サファイアの双眸は泳ぐように揺れている。
(聖女とはどんな女性なのだろうか)
(——愛せるのだろうか)
答えのない疑問にいよいよ問いが得られる日が近付き、ソルヴィの心には期待と不安が入り混ざっていた。
0
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
ドリンクバーさえあれば、私たちは無限に語れるのです。
藍沢咲良
恋愛
同じ中学校だった澄麗、英、碧、梨愛はあることがきっかけで再会し、定期的に集まって近況報告をしている。
集まるときには常にドリンクバーがある。飲み物とつまむ物さえあれば、私達は無限に語り合える。
器用に見えて器用じゃない、仕事や恋愛に人付き合いに苦労する私達。
転んでも擦りむいても前を向いて歩けるのは、この時間があるから。
〜main cast〜
・如月 澄麗(Kisaragi Sumire) 表紙右から二番目 age.26
・山吹 英(Yamabuki Hana) 表紙左から二番目 age.26
・葉月 碧(Haduki Midori) 表紙一番右 age.26
・早乙女 梨愛(Saotome Ria) 表紙一番左 age.26
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
※完結まで毎日更新です。
竜王の花嫁
桜月雪兎
恋愛
伯爵家の訳あり令嬢であるアリシア。
百年大戦終結時の盟約によりアリシアは隣国に嫁ぐことになった。
そこは竜王が治めると云う半獣人・亜人の住むドラグーン大国。
相手はその竜王であるルドワード。
二人の行く末は?
ドタバタ結婚騒動物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる