実話怪談「笑い声」

赤鈴

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 一通り動画を録り終えると、今度は同じような場所を写真として収めていく。今のところ人形たちに変化はなく、周囲からも人の気配は感じられない。



――もし、振り向いた先に人形がいたら

――もし、暗闇のなかから声が聞こえたら

――もし、今背後から見えない誰かに肩を叩かれたら



そんなホラー映画のワンシーンのような映像が頭のなかで再生される。よりにもよってこんな時にである。その度に手に変な汗が滲み、背筋に冷たいものが走った。
暗闇のなかに佇む人形、というジャパニーズホラーでは定番ともいうべきシチュエーションが恐怖感をあおり、想像力をかきたてる。この時ばかりは自分の怪異好きを呪った。
祭囃子が微かに聞こえるなか、「カシャ」というカメラのシャッター音が深い暗闇に包まれた境内で数回やけに大きく鳴った。



 写真も撮り終えると、ちょうど拝観時間の終わりが迫っていた。本殿に背を向け、暗闇から光へ向かって歩き出す。背中にまとわりつくような無数の視線を感じたが、なんとなく振り返ってはいけない気がして、そのまま境内を後にした。
鳥居をくぐり抜けると立ち止まり、境内の方へ向かって一礼した。それから、改めて駐車場へと向かい、停めてあった愛車に乗り込んでエンジンをかけると帰路に就いた。
 途中、いかにも焼き鳥が美味しそうなネーミングの居酒屋で夕食を済ませ、家に着く頃には午前1時を大きく回って日付が変わっていた。
帰り道も特に事故もなく、後部座席にいるはずのない何者かがバックミラーに映った、などという、怪談ではありがちな怪異も幸か不幸かなかった。



ただ夜中に神社へ行って参拝しただけで終わる――はずだった。
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