実話怪談「笑い声」

赤鈴

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 A神社へ着く頃にはうに夜のとばりは下り、空は夜暗よあんに染まって地上に暗闇を落としていた。そのなかで街の灯りが点々と灯っている。
A神社の脇にある参拝者用の駐車場に前から突っ込む形で適当に車を停めた。私の車の他には、ただの一台も停まっていない。
目と鼻の先にある温泉宿から暖かな光が漏れ、それが安心感を与えてくれる。港町ということもあり、釣具店や海鮮料理を提供する店が目立つ。冷たい風が潮の香りを運び、ふっと香る。波の音は波止場はとばの方から聞こえる祭囃子でことごとく掻き消された。近々祭りでもあるのか、どうやらその練習を行っているようだ。わずかに灯りも漏れている。それらのおかげで、神社の周りはやけに明るく感じる。A神社だけが異様な雰囲気を醸し出していた。

 大きな口を開けた朱色の鳥居の前まで進むと、私はスマートフォンで動画撮影の準備をした。だが、不思議なことにライトがどうやっても点く気配がない。念のため、出発前にも点検したが、その時には問題なく点いたのだ。

――こんな急に壊れるもんかな……

怪訝けげんに思いながらもスマートフォンを片手に、そのまま境内へと向かった。時折、左手に持ったスマートフォンの画面に目を落とし、その太い人差し指で忙しなく操作する。やはり、どうやってもライトは点かない。
参道の近くには土産物店が数軒建ち並んでいる。昼間だと観光地らしい賑わいもあるのだろうが、帳も下りきった今となってはシャッターも下りて閑散かんさんとしている。侵入者を阻むように深い暗闇が境内に立ち込めている。そこに灯りは一切ない。

 境内に一歩踏み込んだ瞬間、単なる肌寒さとはまた違った、冷気ともいうべき冷たいものが全身を駆け巡り、ぞわっと鳥肌が立った。思わずその場で立ち止まって辺りを見渡す。しかし、誰もいない。陽気な祭囃子だけが絶えず聞こえている。
さらに歩を進め、社務所の前あたりまで来た時だった。



さっきまで点かなかったライトが突然、何の前触れもなく点いたのだ。



驚きつつも、これ幸いと動画撮影を開始した。石畳の参道が本殿まで続いており、階段を上りきった先で人の形をしたものが暗闇のなかから姿をのぞかせた。一瞬ぎょっとしたが、それは着物姿の顔出しパネルだった。自分の醜態を思い出し、可笑おかしくて吹き出しそうになるが、ぐっと堪える。

 本殿の前まで来ると、私はその異様な雰囲気に息を呑んだ。
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