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90.目撃者
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ラリーがポケットから取り出したのは数枚の金貨だった。彼はオリビアの手を取ると、彼女の手のひらにチャリンとその金貨を乗せた。
「嫌っ! 触らないで!」
オリビアはラリーの手を勢いよく振り払った。お陰で金貨が床にばら撒かれてしまった。
「あーあ、折角返すって言っているのに・・・」
ラリーは床の方々に散らばった金貨を見ながら呆れたように呟いた。だが、すぐにオリビアに向き合うと、
「まあ、オリビア嬢が要らないと言っても俺も受け取れないよ、そんな金。でも、もったいないからね、何なら孤児院にでも寄付したらいいさ」
大げさに肩を竦め、両手を広げて見せた。
「あら、それは素敵な考えですわね、ラリー様」
「本当? ダリア嬢。どう? 惚れた?」
「いいえ」
「釣れないなぁ~」
「これだけの証言を前にしても、まだ違うと言い続けるつもりなのか? オリビア」
ラリーとダリアの会話を無視して、セオドアが一歩前に踏み出した。
「セオドア・・・、違うの・・・私は・・・」
変わらず瞳を潤ませ縋るように自分を見つめるオリビアに、セオドアの我慢は限界になりつつある。
「これ以上言わせる気か? オリビア・・・」
セオドアはギリッと彼女を睨みつけた。己の怒りを抑えるように両手の拳をギュッと握る。
「仮にオフィーリアのアリバイが成立しなかったとしても、リリアナという下女が捕まらなかったとしても、きっとオフィーリアのせいにはならない」
目の前にいるのは可憐なはずの少女・・・。しかし、その彼女の流す涙はとても薄汚く見える。可憐と思っていた顔は、今は驚くほど醜く見える。それはきっと気のせいではない。
彼女は本当にオリビアか? 自分が恋したオリビアか? 自分が恋した女性は誰だったんた・・・。
「君の言う通り、あの階段の周りにはたくさんの人がいた。皆が目撃者だ。彼らも赤髪の女も見ているだろう。でもそれだけじゃない、君が・・・君が自ら階段を落ちたところも見ているはずだ!」
「な、何だって?!」
ジャックが叫んだ。
「セオドア! いくら何でもそれは言い過ぎだ! オリビアはリリアナに背中を押されて・・・」
「いいや。自分から転がり落ちてたよ。このリリアナって女はオリビア嬢の後ろを通り過ぎただけだ。俺は見てたから」
ラリーがジャックの言葉を遮った。
「俺だけじゃない。その場にいた友達も見てる。まあ、角度によってはブライトン君のように突き落とされたように見えていた人もいるだろうけどね。必要ならいくらでも証言するよ、セオドア」
ジャックはラリーを睨みつけた。しかし、これは八つ当たりだ。己の目がいかに節穴だったかを指摘されたようで、悔しさ恥ずかしさが沸いてきたのだ。ラリーはそんなジャックの睨みなど気にもしていないようだ。
「本当ならリリアナに背中を押させるべきだったな。そうすれば真実味は増したのに。でも、分かっていても突き落とされるのは怖かったんだろうね。自分から転げ落ちる方が怪我するリスクは減りそうだ」
「そうかしら・・・? それでもかなりの博打ですわよ・・・」
「うん。体張ってるよな、彼女。度胸あるよ、感心する」
「本当ですわ。凄いですわね、オリビア様って・・・。わたくしには到底真似できません」
ラリーとダリアの会話をオリビアは顔を真っ赤にしてプルプル震えながら聞いている。
「もう十分だろう、オリビア? いい加減認めるね?」
セオドアの言葉にオリビアはハッと我に返った。
「今までのオフィーリアへの仕打ち、君の口からきちんとオフィーリアへ謝罪してもらいたい」
「・・・私から・・・」
「当然だろう? どれだけ彼女を侮辱したと思っているんだ?」
「分かったわ・・・。でも、オフィーリア様へ謝ったら、セオドアは私のことを許してくれる?」
「は?」
これはセオドアだけが漏らした言葉ではなかった。
その場にいた全員から発せられた言葉。全員の目が点になった。
「謝るわ、オフィーリア様に。だからセオドアは私の傍から離れないでね!」
可愛らしく首を傾げるオリビア。
そんな彼女を見て、全員が言葉を失ってしまったのは無理もないことだろう。
「嫌っ! 触らないで!」
オリビアはラリーの手を勢いよく振り払った。お陰で金貨が床にばら撒かれてしまった。
「あーあ、折角返すって言っているのに・・・」
ラリーは床の方々に散らばった金貨を見ながら呆れたように呟いた。だが、すぐにオリビアに向き合うと、
「まあ、オリビア嬢が要らないと言っても俺も受け取れないよ、そんな金。でも、もったいないからね、何なら孤児院にでも寄付したらいいさ」
大げさに肩を竦め、両手を広げて見せた。
「あら、それは素敵な考えですわね、ラリー様」
「本当? ダリア嬢。どう? 惚れた?」
「いいえ」
「釣れないなぁ~」
「これだけの証言を前にしても、まだ違うと言い続けるつもりなのか? オリビア」
ラリーとダリアの会話を無視して、セオドアが一歩前に踏み出した。
「セオドア・・・、違うの・・・私は・・・」
変わらず瞳を潤ませ縋るように自分を見つめるオリビアに、セオドアの我慢は限界になりつつある。
「これ以上言わせる気か? オリビア・・・」
セオドアはギリッと彼女を睨みつけた。己の怒りを抑えるように両手の拳をギュッと握る。
「仮にオフィーリアのアリバイが成立しなかったとしても、リリアナという下女が捕まらなかったとしても、きっとオフィーリアのせいにはならない」
目の前にいるのは可憐なはずの少女・・・。しかし、その彼女の流す涙はとても薄汚く見える。可憐と思っていた顔は、今は驚くほど醜く見える。それはきっと気のせいではない。
彼女は本当にオリビアか? 自分が恋したオリビアか? 自分が恋した女性は誰だったんた・・・。
「君の言う通り、あの階段の周りにはたくさんの人がいた。皆が目撃者だ。彼らも赤髪の女も見ているだろう。でもそれだけじゃない、君が・・・君が自ら階段を落ちたところも見ているはずだ!」
「な、何だって?!」
ジャックが叫んだ。
「セオドア! いくら何でもそれは言い過ぎだ! オリビアはリリアナに背中を押されて・・・」
「いいや。自分から転がり落ちてたよ。このリリアナって女はオリビア嬢の後ろを通り過ぎただけだ。俺は見てたから」
ラリーがジャックの言葉を遮った。
「俺だけじゃない。その場にいた友達も見てる。まあ、角度によってはブライトン君のように突き落とされたように見えていた人もいるだろうけどね。必要ならいくらでも証言するよ、セオドア」
ジャックはラリーを睨みつけた。しかし、これは八つ当たりだ。己の目がいかに節穴だったかを指摘されたようで、悔しさ恥ずかしさが沸いてきたのだ。ラリーはそんなジャックの睨みなど気にもしていないようだ。
「本当ならリリアナに背中を押させるべきだったな。そうすれば真実味は増したのに。でも、分かっていても突き落とされるのは怖かったんだろうね。自分から転げ落ちる方が怪我するリスクは減りそうだ」
「そうかしら・・・? それでもかなりの博打ですわよ・・・」
「うん。体張ってるよな、彼女。度胸あるよ、感心する」
「本当ですわ。凄いですわね、オリビア様って・・・。わたくしには到底真似できません」
ラリーとダリアの会話をオリビアは顔を真っ赤にしてプルプル震えながら聞いている。
「もう十分だろう、オリビア? いい加減認めるね?」
セオドアの言葉にオリビアはハッと我に返った。
「今までのオフィーリアへの仕打ち、君の口からきちんとオフィーリアへ謝罪してもらいたい」
「・・・私から・・・」
「当然だろう? どれだけ彼女を侮辱したと思っているんだ?」
「分かったわ・・・。でも、オフィーリア様へ謝ったら、セオドアは私のことを許してくれる?」
「は?」
これはセオドアだけが漏らした言葉ではなかった。
その場にいた全員から発せられた言葉。全員の目が点になった。
「謝るわ、オフィーリア様に。だからセオドアは私の傍から離れないでね!」
可愛らしく首を傾げるオリビア。
そんな彼女を見て、全員が言葉を失ってしまったのは無理もないことだろう。
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