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79.誤解か否か
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まるでスキップのような軽い足取りで去って行くオフィーリアの後ろ姿をジャックはポカンと見送った。セオドアその後ろ姿を見てキリリッと胸が痛くなった。無意識に胸元のシャツをギュッと握った。
「誤解ってどういうこと・・・? セオドア」
ジャックの後ろからオリビアが恐る恐る顔を出した。
セオドアはオリビアの声にハッと我に返って振り向いた。
「誤解って・・・、オフィーリア様とのことが誤解ということ・・・?」
「オリビア・・・」
「セオドア・・・、あなた・・・もしかして・・・!」
申し訳なさそうに自分を見つめるセオドアにオリビアはある確信に至ったようだ。
「もしかして、セオドア・・・!」
「何が、誤解だ! ふざけるな!」
オリビアの言葉をジャックが遮った。
「今まで散々オフィーリア嬢との仲を見せつけておいて! 今更誤解だ?? 都合のいいことを言うな!」
「やめて! ジャック!」
今度はオリビアがピシャリとジャックの言葉を遮ると、セオドアの前に駆け寄った。
「セオドア! もしかして、記憶が戻ったの? 元のセオドアに戻ったの?」
祈るように両手を前に組みセオドアの顔を覗き見る。セオドアは困惑するようにオリビアを見た。
「記憶が戻っただって・・・?」
どうしてかジャックも困惑したような顔をした。しかし、次の瞬間キッとセオドアを見据えると、
「今更記憶が戻ったって遅い! お前がオリビアに対して取った態度は最低だ! もうオリビアはお前になんか」
「黙ってってば! ジャック!」
捲し立てたがやはりオリビアに止められた。
「ねえ? どうなの? 戻ったの?」
自分を見つめるオリビアに、セオドアは静かに頷いた。
「ああ・・・。戻った」
「よかった!!」
オリビアの瞳が輝いた。両手でしっかりとセオドアの手を取った。
「よかった! よかったわ! 本当によかった・・・!」
「オリビア・・・」
「このままずっと嫌われてしまったらどうしようかと思ってたの・・・。このまま私から離れてしまうのではないかって・・・」
オリビアの麗しい瞳からポロリと美しい涙が零れ落ちた。その泣き顔はとても魅力的だ。
「オリビア・・・」
「もう私から離れないでね・・・」
「そんな・・・オリビア、もうセオドアことなんて知らないって言ってた・・・」
「ジャックは黙って!! ね? セオドア!」
セオドアが返事をする前に、サロン中にカンカンカンと大きな鐘の音が響き渡った。
サロンの使用時間終了を伝える鐘だ。
生徒達はいそいそと帰り支度を始める。
「じゃあね! セオドア! また明日!!」
嬉し涙を拭い、愛くるしい笑顔を浮かべて手を振る恋人。彼女は女子寮へ通じる扉へ向かって駆けて行った。
「チッ・・・」
舌打ちが聞こえ、そちらに振り向くとジャックが睨みを利かせていた。目が合うとフンッと顔を背け、足早に去って行った。
セオドアは一人その場に立ち尽くした。気が付くとサロンには自分一人になっていた。
無意識に自分の両手を見つめる。さっきオリビアに握られた温もりが残っている。しかし、自分が握りしめた人の手の感触の方が強く残る。陶磁器のように白くて華奢な手・・・。
「ついさっきまで、饅頭のように丸くて柔らかい手だったのに・・・、本物の手はあんなに華奢だったんだな・・・」
『もう自由ですわ! わたくし達!』
そう言って自分の手を握りしめたあの手・・・。あの時の手の柔らかを思い出した。
セオドアはギュッと手を握りしめた。
『誤解ですのよ! 本当に!』
突然、さっきのオフィーリアの言葉が頭を過った。
『これは・・・その、誤解だ・・・、オリビア』
続けて自分が口走った言葉も蘇る。セオドアはブンブンと頭を振った。
誤解―――。
なぜこの言葉に違和感を覚えるのだろう。なんでこんなにも胸がざわつくのか・・・。
「本当に『誤解』なんだろうか・・・」
誰もいなくなったサロンで一人呟いた。
☆彡
オフィーリアは部屋に戻ると、侍女を呼ぶベルの紐を引いた。
暫くするとマリーが部屋にやって来た。
「お帰りなさいませ。山田さん! 街の散策は如何でしたか? 活気があって楽しかったでしょう?」
ニコニコと笑いながら自分に話しかける。
そんなマリーをオフィーリアはジッと見つめた。
「『試練』なんて言ってましたけど、気晴らしになったでしょう? さあ、晩餐に向けてお着替えしましょう」
久しぶりに聞くマリーの声。自分に話しかける時よりもずっとフランクで楽しそうだ。それに少しだけヤキモチを焼いてしまうが、それでも懐かしさと嬉しさが込み上げる。気が付くと涙が溢れていた。
「え?! どうしました? 山田さん! 具合でも悪いのですか?」
マリーは慌ててオフィーリアの傍に駆け寄った。
「違うわ。マリー」
「え・・・」
オフィーリアの落ち着いた返事にマリーは言葉を詰まらせた。
「マリーはちゃんと椿様の面倒を見ていたのね。ありがとう・・・」
「お、お、おおおおお・・・おじょ、おじょ・・・」
「落ち着いて、マリー! わたくしよ! オフィーリアよ!」
オフィーリアは驚愕しているマリーの手を取った。そして力強くギュッと握る。
「ただいま。マリー。心配かけたわね」
「・・・お、お、おかえり・・・なさいませ・・・。お嬢様・・・」
マリーの目にも光るものがある。
「ふふふ、きっと椿様はあなたに優しかったでしょう? でも、残念ながら今日から元に戻るわよ! わたくしに対して粗相のないようにね!」
「はいいっ! お任せください! お嬢様!」
お互いしっかりと手を取り合ってにっこりと笑った。
「誤解ってどういうこと・・・? セオドア」
ジャックの後ろからオリビアが恐る恐る顔を出した。
セオドアはオリビアの声にハッと我に返って振り向いた。
「誤解って・・・、オフィーリア様とのことが誤解ということ・・・?」
「オリビア・・・」
「セオドア・・・、あなた・・・もしかして・・・!」
申し訳なさそうに自分を見つめるセオドアにオリビアはある確信に至ったようだ。
「もしかして、セオドア・・・!」
「何が、誤解だ! ふざけるな!」
オリビアの言葉をジャックが遮った。
「今まで散々オフィーリア嬢との仲を見せつけておいて! 今更誤解だ?? 都合のいいことを言うな!」
「やめて! ジャック!」
今度はオリビアがピシャリとジャックの言葉を遮ると、セオドアの前に駆け寄った。
「セオドア! もしかして、記憶が戻ったの? 元のセオドアに戻ったの?」
祈るように両手を前に組みセオドアの顔を覗き見る。セオドアは困惑するようにオリビアを見た。
「記憶が戻っただって・・・?」
どうしてかジャックも困惑したような顔をした。しかし、次の瞬間キッとセオドアを見据えると、
「今更記憶が戻ったって遅い! お前がオリビアに対して取った態度は最低だ! もうオリビアはお前になんか」
「黙ってってば! ジャック!」
捲し立てたがやはりオリビアに止められた。
「ねえ? どうなの? 戻ったの?」
自分を見つめるオリビアに、セオドアは静かに頷いた。
「ああ・・・。戻った」
「よかった!!」
オリビアの瞳が輝いた。両手でしっかりとセオドアの手を取った。
「よかった! よかったわ! 本当によかった・・・!」
「オリビア・・・」
「このままずっと嫌われてしまったらどうしようかと思ってたの・・・。このまま私から離れてしまうのではないかって・・・」
オリビアの麗しい瞳からポロリと美しい涙が零れ落ちた。その泣き顔はとても魅力的だ。
「オリビア・・・」
「もう私から離れないでね・・・」
「そんな・・・オリビア、もうセオドアことなんて知らないって言ってた・・・」
「ジャックは黙って!! ね? セオドア!」
セオドアが返事をする前に、サロン中にカンカンカンと大きな鐘の音が響き渡った。
サロンの使用時間終了を伝える鐘だ。
生徒達はいそいそと帰り支度を始める。
「じゃあね! セオドア! また明日!!」
嬉し涙を拭い、愛くるしい笑顔を浮かべて手を振る恋人。彼女は女子寮へ通じる扉へ向かって駆けて行った。
「チッ・・・」
舌打ちが聞こえ、そちらに振り向くとジャックが睨みを利かせていた。目が合うとフンッと顔を背け、足早に去って行った。
セオドアは一人その場に立ち尽くした。気が付くとサロンには自分一人になっていた。
無意識に自分の両手を見つめる。さっきオリビアに握られた温もりが残っている。しかし、自分が握りしめた人の手の感触の方が強く残る。陶磁器のように白くて華奢な手・・・。
「ついさっきまで、饅頭のように丸くて柔らかい手だったのに・・・、本物の手はあんなに華奢だったんだな・・・」
『もう自由ですわ! わたくし達!』
そう言って自分の手を握りしめたあの手・・・。あの時の手の柔らかを思い出した。
セオドアはギュッと手を握りしめた。
『誤解ですのよ! 本当に!』
突然、さっきのオフィーリアの言葉が頭を過った。
『これは・・・その、誤解だ・・・、オリビア』
続けて自分が口走った言葉も蘇る。セオドアはブンブンと頭を振った。
誤解―――。
なぜこの言葉に違和感を覚えるのだろう。なんでこんなにも胸がざわつくのか・・・。
「本当に『誤解』なんだろうか・・・」
誰もいなくなったサロンで一人呟いた。
☆彡
オフィーリアは部屋に戻ると、侍女を呼ぶベルの紐を引いた。
暫くするとマリーが部屋にやって来た。
「お帰りなさいませ。山田さん! 街の散策は如何でしたか? 活気があって楽しかったでしょう?」
ニコニコと笑いながら自分に話しかける。
そんなマリーをオフィーリアはジッと見つめた。
「『試練』なんて言ってましたけど、気晴らしになったでしょう? さあ、晩餐に向けてお着替えしましょう」
久しぶりに聞くマリーの声。自分に話しかける時よりもずっとフランクで楽しそうだ。それに少しだけヤキモチを焼いてしまうが、それでも懐かしさと嬉しさが込み上げる。気が付くと涙が溢れていた。
「え?! どうしました? 山田さん! 具合でも悪いのですか?」
マリーは慌ててオフィーリアの傍に駆け寄った。
「違うわ。マリー」
「え・・・」
オフィーリアの落ち着いた返事にマリーは言葉を詰まらせた。
「マリーはちゃんと椿様の面倒を見ていたのね。ありがとう・・・」
「お、お、おおおおお・・・おじょ、おじょ・・・」
「落ち着いて、マリー! わたくしよ! オフィーリアよ!」
オフィーリアは驚愕しているマリーの手を取った。そして力強くギュッと握る。
「ただいま。マリー。心配かけたわね」
「・・・お、お、おかえり・・・なさいませ・・・。お嬢様・・・」
マリーの目にも光るものがある。
「ふふふ、きっと椿様はあなたに優しかったでしょう? でも、残念ながら今日から元に戻るわよ! わたくしに対して粗相のないようにね!」
「はいいっ! お任せください! お嬢様!」
お互いしっかりと手を取り合ってにっこりと笑った。
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