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77.好きな花
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「素敵なお花が買えて良かったわ! セオドア様の買ったカーネーションも素敵ですわね。カスミソウとの組み合わせがとっても素敵!」
母の日のプレゼントの花束を大切そうに抱え、オフィーリアは嬉しそうに微笑んだ。
「私の好きな花ばかりだけど喜んでくれると嬉しいわ! お付き合いくださってありがとうございました。セオドア様」
「いいや、こっちこそ・・・。君が言ってくれなければ俺は健一の母君に何もプレゼントできないところだった」
セオドアは自転車を押しながらオフィーリアと並んで歩いた。
「来月には『父の日』もあるんですって。いいですわよね、そういう日があるのって。素直に感謝の気持ちを伝えられますもの」
「そうだな・・・」
セオドアは呟くように返事をした。どこか上の空のように見える。その目はジッと自転車の前のカゴに入れているカーネーションの花束を見つめていた。
真っ赤なカーネーション。オフィーリアはオリビアが抱えていた真っ赤な薔薇の花束を思い出した。セオドアもそれを思い出しているのかもしれない。
オフィーリアは立ち止まった。
「セオドア様。わたくしはここで失礼しますわ」
「え・・・?」
セオドアは驚いたように顔を上げた。
「家まで送っていただかなくても大丈夫です」
「でも・・・」
「セオドア様。今日は本当にありがとうございました。とってもいい日でしたわ」
オフィーリアはにっこりと微笑んだ。
「セオドア様のお陰で自転車にも乗れるようになって・・・。たくさん走れてとっても楽しかったですわ。それに、最後にこんな風に一緒にお買い物まで出来て・・・本当に楽しかった・・・。わたくし、この日をきっと忘れませんわ!」
最後に―――。
この言葉にセオドアの胸にズキンと痛みが走った。
「最後って・・・」
その意味は? 今日一日の最後という意味か? それとも・・・。
「それでは、セオドア様。ごきげんよう」
優雅にお辞儀をしてその場を去ろうとするオフィーリアを見て、セオドアは強い焦りを感じた。
「待って! 待ってくれ! オフィーリア!」
思わず叫んだ。オフィーリアも驚いて振り向いた。
「待って、オフィーリア! ここで待っていてくれ! すぐ戻るから!」
そう言うと自転車に飛び走って何処かに行ってしまった。
「え? あの、セオドア様? え?」
いきなり一人残されてポカンとしてしまったが、すぐに我に返った。
「どうしたのかしら・・・? 何があったの?」
待っていろと言われた手前、勝手に帰るわけにもいかない。ポツンとその場に佇んでいた。
☆彡
突然一人にされて何事かと思ったが、想像以上に早くセオドアは戻ってきた。
「どうしたのですか? セオドア様」
セオドアはそれには答えず自転車を止めると、オフィーリアの前に立った。
「?」
オフィーリアは何も言わずに自分の前に立ったセオドアに首を傾げた。
「その・・・、自転車に乗れるようになったお祝いと言うか・・・、頑張ったご褒美と言うか・・・その・・・」
セオドアは気恥ずかしそうに顔を背けながら、可愛らしくラッピングされた一輪の花を差し出した。
それは黄色いガーベラだった。
「え・・・?」
オフィーリアはそれを見て目を丸めた。
「オフィーリアは・・・この花が好きだったんだな。薔薇ではなくて」
「・・・わたくしに、くださるの・・・?」
オフィーリアはガーベラからセオドアに視線を移した。セオドアは静かに頷いた。
「ごめん、オフィーリア。本当に俺は君のことを何も知らなかった。君の言う通りだ。知ろうとしなかった。でも、今は君のことを少しは分かったと思う」
セオドアの顔は優しい。オフィーリアは瞬きもせず、彼の顔に見入った。
「君は・・・、俺が思っていた人と全然違った。正義感も強いしも責任感も強い。人が嫌がる仕事も進んで引き受けるし、何かを守るために自分の身を投げ出す勇気も持っている・・・。それでいて子供達には優しく諭すこともできて・・・」
オフィーリアの目頭がどんどん熱くなってくる。少しずつセオドアの顔が霞んできた。
「何より頑張り屋で好奇心旺盛な女性だったんだな」
気が付くとポロポロと大粒の涙がオフィーリアの頬を伝って流れ落ちていた。
「ありがとうございます・・・。セオドア様・・・」
その涙を拭いもせず、オフィーリアはセオドアの差し出す一輪のガーベラを受け取った。
その時、微かに糸の切れる音がしたと同時に、ポトリと足元に何かが落ちた。
糸の切れたミサンガが二人の間に落ちていた。
母の日のプレゼントの花束を大切そうに抱え、オフィーリアは嬉しそうに微笑んだ。
「私の好きな花ばかりだけど喜んでくれると嬉しいわ! お付き合いくださってありがとうございました。セオドア様」
「いいや、こっちこそ・・・。君が言ってくれなければ俺は健一の母君に何もプレゼントできないところだった」
セオドアは自転車を押しながらオフィーリアと並んで歩いた。
「来月には『父の日』もあるんですって。いいですわよね、そういう日があるのって。素直に感謝の気持ちを伝えられますもの」
「そうだな・・・」
セオドアは呟くように返事をした。どこか上の空のように見える。その目はジッと自転車の前のカゴに入れているカーネーションの花束を見つめていた。
真っ赤なカーネーション。オフィーリアはオリビアが抱えていた真っ赤な薔薇の花束を思い出した。セオドアもそれを思い出しているのかもしれない。
オフィーリアは立ち止まった。
「セオドア様。わたくしはここで失礼しますわ」
「え・・・?」
セオドアは驚いたように顔を上げた。
「家まで送っていただかなくても大丈夫です」
「でも・・・」
「セオドア様。今日は本当にありがとうございました。とってもいい日でしたわ」
オフィーリアはにっこりと微笑んだ。
「セオドア様のお陰で自転車にも乗れるようになって・・・。たくさん走れてとっても楽しかったですわ。それに、最後にこんな風に一緒にお買い物まで出来て・・・本当に楽しかった・・・。わたくし、この日をきっと忘れませんわ!」
最後に―――。
この言葉にセオドアの胸にズキンと痛みが走った。
「最後って・・・」
その意味は? 今日一日の最後という意味か? それとも・・・。
「それでは、セオドア様。ごきげんよう」
優雅にお辞儀をしてその場を去ろうとするオフィーリアを見て、セオドアは強い焦りを感じた。
「待って! 待ってくれ! オフィーリア!」
思わず叫んだ。オフィーリアも驚いて振り向いた。
「待って、オフィーリア! ここで待っていてくれ! すぐ戻るから!」
そう言うと自転車に飛び走って何処かに行ってしまった。
「え? あの、セオドア様? え?」
いきなり一人残されてポカンとしてしまったが、すぐに我に返った。
「どうしたのかしら・・・? 何があったの?」
待っていろと言われた手前、勝手に帰るわけにもいかない。ポツンとその場に佇んでいた。
☆彡
突然一人にされて何事かと思ったが、想像以上に早くセオドアは戻ってきた。
「どうしたのですか? セオドア様」
セオドアはそれには答えず自転車を止めると、オフィーリアの前に立った。
「?」
オフィーリアは何も言わずに自分の前に立ったセオドアに首を傾げた。
「その・・・、自転車に乗れるようになったお祝いと言うか・・・、頑張ったご褒美と言うか・・・その・・・」
セオドアは気恥ずかしそうに顔を背けながら、可愛らしくラッピングされた一輪の花を差し出した。
それは黄色いガーベラだった。
「え・・・?」
オフィーリアはそれを見て目を丸めた。
「オフィーリアは・・・この花が好きだったんだな。薔薇ではなくて」
「・・・わたくしに、くださるの・・・?」
オフィーリアはガーベラからセオドアに視線を移した。セオドアは静かに頷いた。
「ごめん、オフィーリア。本当に俺は君のことを何も知らなかった。君の言う通りだ。知ろうとしなかった。でも、今は君のことを少しは分かったと思う」
セオドアの顔は優しい。オフィーリアは瞬きもせず、彼の顔に見入った。
「君は・・・、俺が思っていた人と全然違った。正義感も強いしも責任感も強い。人が嫌がる仕事も進んで引き受けるし、何かを守るために自分の身を投げ出す勇気も持っている・・・。それでいて子供達には優しく諭すこともできて・・・」
オフィーリアの目頭がどんどん熱くなってくる。少しずつセオドアの顔が霞んできた。
「何より頑張り屋で好奇心旺盛な女性だったんだな」
気が付くとポロポロと大粒の涙がオフィーリアの頬を伝って流れ落ちていた。
「ありがとうございます・・・。セオドア様・・・」
その涙を拭いもせず、オフィーリアはセオドアの差し出す一輪のガーベラを受け取った。
その時、微かに糸の切れる音がしたと同時に、ポトリと足元に何かが落ちた。
糸の切れたミサンガが二人の間に落ちていた。
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