喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

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60.友達

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「お花を育てるのって大変ですわね。ただ水を上げていればいいのだと思ってましたわ」

肥料撒きの作業を終え、ヤレヤレとばかりにオフィーリアは中庭全体を見回した。

「俺もそう思っていた」

セオドアも疲れたように溜息を漏らした後、グーンと大きく伸びをした。

「戻ろうか、オフィーリア」

「そうですわね」

道具を持って二人並んで倉庫に戻った。そこには斉藤と美化委員長が後片付けをしていた。

「ご苦労様。二人とも、今日はどうもありがとう」
「お疲れ様。君たちが最後だよ」

二人がそれぞれ労いの言葉を掛けてくれた。

「斉藤さん。残りの場所ですけど、明日、僕が手伝いますから」

片付けながら美化委員長の泉谷いずみやが用務員の斉藤に話しかけた。

「いいよ、大丈夫だよ、泉谷君。終わらなかった場所は私がするから。明日以降はまたいつもの水やりをしてくれれば」

「水やりだって有志だからほとんどの生徒は来ないじゃないですか? 明日、僕来ますからね! 委員長だし! 一緒に作業しましょう」

「はい! ならば、わたくしも!」

オフィーリアは高く挙手して二人の会話に割り込んだ。

「山田さん。ありがとう。でも、山田さんは毎日有志で水やりをしてくれているのに、これ以上悪いよ」

ハハハと笑いながら、斉藤は大丈夫とばかりに顔の前で手を振った。

「いいえ! わたくしも美化委員の一人ですもの、当然でございます。委員長様だけにご負担を掛けるわけにはいきませんわ」

「いいの? 山田さん」

泉谷は嬉しそうな顔をした。

「もちろんです。お任せくださいませ!」

オフィーリアは自分の胸をポンと叩いて見せた。

「ありがとう、山田さん。じゃあ、明日よろしくね。一緒に頑張ろう!」

「俺も手伝います」

突然、セオドアが前に出てきた。いつの間にか、オフィーリアと泉谷の間に立っている。

「え? 君も? あれ? 君って美化委員じゃないよね? なのに今日も手伝ってくれたんだ?」

「明日も手伝いますよ」

「え・・・、でも・・・」

「山田さんは俺の友達なので協力します」

有無を言わさぬ強い口調に、用務員の斉藤も美化委員長の泉谷も頷くしかない。

「そ、そうか、じゃあ、明日よろしく。えっと・・・」

「柳です」

「うん、柳君ね」

「はい。では、また明日。じゃあ帰ろう、オフィ・・・山田さん」

セオドアは踵を返すと、オフィーリアに戻るよう促した。

「はい。では、失礼しますわ。明日、よろしくお願いします」

オフィーリアは斉藤と泉谷に頭を下げると、セオドアと並んで歩き出した。

セオドアの言った『友達』という言葉を思い返す。
その言葉にチクリと胸が痛むのだが、同時にそれを受け入れてもらったという安堵感も嬉しさも広がる。何とも複雑な気持ちになった。


☆彡


「セオドア様。よろしいのですか? 明日もお手伝いいただいて」

校舎に戻る道すがら、オフィーリアはセオドアに尋ねた。

「ああ。だって、俺達は友達だから」

セオドアは頷く。

「そうですか、友達だから・・・」

婚約者から友達になった途端、距離が縮まった気がする。
婚約者とは友達よりも距離があるものなのか? いいや、きっと想い人のいる彼にとって婚約者とは友達よりも、それどころかただの知り合いよりも遠くにやってしまいたい存在だったのかもしれない。

「ふふ、そうですね。お友達ですものね、わたくし達」

オフィーリアはにっこりと微笑んだ。

校舎の入り口までやって来てくると、オフィーリアは、

「では、今日はありがとうございました、セオドア様。また明日。ごきげんよう」

セオドアに別れの挨拶をした。カバンを取りに教室に向かおうと踵を返した時、

「オフィーリア、折角だし、一緒に帰ろう」

背中から声を掛けられた。
一瞬何を言われたのか分からず、振り向いてパチパチと目を瞬きさせた。

「一緒に帰ろう、オフィーリア。家まで送る」

「一緒に?」

「ああ。一緒に」

「お友達だから?」

「ああ。友達だから」

驚いた。
婚約者の時には一緒に帰ることなど叶いもしなかったのに―――学院から寮までのたった5分の距離でさえ―――友達だとこんなにも簡単に叶うものなのか?

「『お友達』ってすごいのね・・・」

「え?」

「いいえ、何でもありませんわ。分かりました。すぐ戻りますわね」

ニコッと微笑むと、教室に向かって駆けて行った。

(こんなことだったら、さっさと婚約解消していれば良かったわ)

恋焦がれている相手に憎まれ、疎まれる婚約者でいるくらいなら、ただの友人の一人として接してもらえる方がずっといい。婚約者ゆえのくだらない自負も嫉妬も、ただの友人ならば生まれないのだ。お陰でずっと素直になれる。
同じく実らない恋ならば、婚約者に抱くより友人に抱いた方がずっといいはずだ。

そんなことを考えながら教室に向かって走って行った。
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