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52.NO修道院
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家に帰り自分の部屋に入ると、オフィーリアはベッドに腰かけ、そのままパタンと横になった。
(セオドア様に失礼な態度を取ってしまったわ・・・)
セオドアから昼休みに声を掛けれらたのにもかかわらず、辛くてとても顔を見ることが出来ず、無視してしまった。そして、帰りも話しかけようと自分の席に近づいてきたところを、逃げるように教室から飛び出してきてしまった。
「はあ~~・・・」
自分の情けない振舞いを思い出し、両手で顔を覆って大きく溜息を付く。同時に物語の内容も蘇り、目頭が熱くなってくる。
しかし、泣いている場合ではない。まだ、全部読み終わっていないのだ。肝心なクライマックスが待っている。婚約破棄されるというクライマックスが。
椿はギュッと唇を噛み締めた。顔を覆っていた両手でパシパシと頬を叩いた。気合を入れてガバッと起き上がったその時だ。
「椿ー! じゃなかった、フィーちゃん! おやつにどら焼き買ってきたからー、早く降りといでー!」
階段下から母親の呼ぶ声がした。
オフィーリアはその声に折角入れた気合が崩れてしまった。すっかり拍子抜けし、呆れるように溜息を付いた。しかし、その誘いに安堵した自分がいるのも確か。僅かな時間でも辛いことから背を向けるきっかけをくれた母に感謝した。
母がいつも淹れてくれるお茶は若草色で美しい。
温かい緑茶に心をホッと慰められた。椿のお気に入りという栗の入ったどら焼きを一緒に頂く。パンケーキと餡子の品の良い甘さが口に広がり、益々心が穏やかになっていく。
今だけは穏やかに過ごそう。続きに挑むための糧にしよう。
そう思い、今度は「あんバター」と書かれたどら焼きに手を伸ばした。
☆彡
最後まで読み終わった後、オフィーリアは魂の抜けた人形のようになっていた。
ラストは想像以上に辛かった。
輝かしい卒業パーティーの会場で、婚約者のセオドアから婚約破棄を言い渡されるシーン。横にオリビアを侍らせ見せつけるように腰を抱き、自分を睨みつける。そして、皆が見ている前で今まで散々オリビアを苦しめた虐めの数々を並び立てるのだ。お陰で周りからは非難の目が自分に集中する。
オフィーリアは必死に言い訳をするが、返って醜態を晒すだけ。終いには全員から白い目で見られ、さらには暴言を浴びせられることになる。もはや血祭状態だ。
そして、何より驚いたのは、婚約破棄で終わらなかったこと。
「修道院へ行け! オフィーリア!」
最後にそう言い放たれる。
そして無様に一人会場を去るのだ。
オフィーリアはそっと本を閉じた。
ふらりと倒れるようにベッドに横になり、ボーっと天井を眺めた。
(もうそろそろ、お母様にお夕食に呼ばれるわ・・・)
ぼんやりとそんなことを思う。
ボーっと眺めている天井が霞んできた。霞み始めた視界はどんどん悪くなる。
止めどもなく溢れてくる涙を抑えることが出来ない。
泣き腫らした顔を母親が見たら驚くだろう。涙を止めないといけないのに、どうやっても止めることが出来ない。
目頭を強く抑え、必死に声を押し殺し、母に呼ばれるまで泣き続けた。
夕食時に母親は泣き腫らしたオフィーリアの顔を見て驚いたが、悲しい小説を読んだというオフィーリアの嘘を容易に信じてくれたおかげで、深く追及されることはなかった。
夜の10時までに寝支度を整え、椿との鏡越しの対面に備えた。
こんな顔を見たら驚くだろう。椿に心配させないように平静を装った。彼女の絶句した顔を見てよほどひどい顔をしているのだと自覚するが、それでもなお、自分自身の尊厳を守るためにも平静を装い続けた。
しかし、彼女と話しているうちに堪え切れず再び涙が溢れ出した。
「わたくしはセオドア様に恋をしてしまったの・・・。愚かね・・・。好きにならなければ、きっと平常心を保てて、オリビア様に冷たい態度なんて取らなかったはずなのに・・・」
そんな言葉を口にして俯くと、
「人を好きになって愚かだなんて・・・! そんなこと絶対ない! 絶対ないです!」
椿はそう励ましてくれた。
更にはとんでもない情報を教えてくれた。
「傍から見たらオフィーリア様とセオドア様はとっても仲良しで、オリビアは捨てられている状態なんです」
え・・・。
これは朗報なのか???
「そ、それを知ったセオドア様はどう思うの・・・? 怒り狂うんじゃないかしら・・・?」
物語の中の自分を激しく憎悪するセオドアを思い浮かべて軽く混乱する。
しかし、このまま断罪され修道院送りはどうあっても避けたい。それには自分の世界で椿と柳が仲良くしていることは有難いことだとしよう。
婚約破棄は避けられない可能性は高いが、せめて修道院送りは回避せねばならない。
そうだ。自分のためだけじゃない。ラガン家のためにもこちらの世界でセオドアに誤解を解かなければ! 二人の仲を少しでも改善するように努力しよう!
「頑張りましょう、オフィーリア様! 断固断罪回避です! NO修道院です!」
椿の励ましの言葉に、オフィーリアは大きく頷いた。
(セオドア様に失礼な態度を取ってしまったわ・・・)
セオドアから昼休みに声を掛けれらたのにもかかわらず、辛くてとても顔を見ることが出来ず、無視してしまった。そして、帰りも話しかけようと自分の席に近づいてきたところを、逃げるように教室から飛び出してきてしまった。
「はあ~~・・・」
自分の情けない振舞いを思い出し、両手で顔を覆って大きく溜息を付く。同時に物語の内容も蘇り、目頭が熱くなってくる。
しかし、泣いている場合ではない。まだ、全部読み終わっていないのだ。肝心なクライマックスが待っている。婚約破棄されるというクライマックスが。
椿はギュッと唇を噛み締めた。顔を覆っていた両手でパシパシと頬を叩いた。気合を入れてガバッと起き上がったその時だ。
「椿ー! じゃなかった、フィーちゃん! おやつにどら焼き買ってきたからー、早く降りといでー!」
階段下から母親の呼ぶ声がした。
オフィーリアはその声に折角入れた気合が崩れてしまった。すっかり拍子抜けし、呆れるように溜息を付いた。しかし、その誘いに安堵した自分がいるのも確か。僅かな時間でも辛いことから背を向けるきっかけをくれた母に感謝した。
母がいつも淹れてくれるお茶は若草色で美しい。
温かい緑茶に心をホッと慰められた。椿のお気に入りという栗の入ったどら焼きを一緒に頂く。パンケーキと餡子の品の良い甘さが口に広がり、益々心が穏やかになっていく。
今だけは穏やかに過ごそう。続きに挑むための糧にしよう。
そう思い、今度は「あんバター」と書かれたどら焼きに手を伸ばした。
☆彡
最後まで読み終わった後、オフィーリアは魂の抜けた人形のようになっていた。
ラストは想像以上に辛かった。
輝かしい卒業パーティーの会場で、婚約者のセオドアから婚約破棄を言い渡されるシーン。横にオリビアを侍らせ見せつけるように腰を抱き、自分を睨みつける。そして、皆が見ている前で今まで散々オリビアを苦しめた虐めの数々を並び立てるのだ。お陰で周りからは非難の目が自分に集中する。
オフィーリアは必死に言い訳をするが、返って醜態を晒すだけ。終いには全員から白い目で見られ、さらには暴言を浴びせられることになる。もはや血祭状態だ。
そして、何より驚いたのは、婚約破棄で終わらなかったこと。
「修道院へ行け! オフィーリア!」
最後にそう言い放たれる。
そして無様に一人会場を去るのだ。
オフィーリアはそっと本を閉じた。
ふらりと倒れるようにベッドに横になり、ボーっと天井を眺めた。
(もうそろそろ、お母様にお夕食に呼ばれるわ・・・)
ぼんやりとそんなことを思う。
ボーっと眺めている天井が霞んできた。霞み始めた視界はどんどん悪くなる。
止めどもなく溢れてくる涙を抑えることが出来ない。
泣き腫らした顔を母親が見たら驚くだろう。涙を止めないといけないのに、どうやっても止めることが出来ない。
目頭を強く抑え、必死に声を押し殺し、母に呼ばれるまで泣き続けた。
夕食時に母親は泣き腫らしたオフィーリアの顔を見て驚いたが、悲しい小説を読んだというオフィーリアの嘘を容易に信じてくれたおかげで、深く追及されることはなかった。
夜の10時までに寝支度を整え、椿との鏡越しの対面に備えた。
こんな顔を見たら驚くだろう。椿に心配させないように平静を装った。彼女の絶句した顔を見てよほどひどい顔をしているのだと自覚するが、それでもなお、自分自身の尊厳を守るためにも平静を装い続けた。
しかし、彼女と話しているうちに堪え切れず再び涙が溢れ出した。
「わたくしはセオドア様に恋をしてしまったの・・・。愚かね・・・。好きにならなければ、きっと平常心を保てて、オリビア様に冷たい態度なんて取らなかったはずなのに・・・」
そんな言葉を口にして俯くと、
「人を好きになって愚かだなんて・・・! そんなこと絶対ない! 絶対ないです!」
椿はそう励ましてくれた。
更にはとんでもない情報を教えてくれた。
「傍から見たらオフィーリア様とセオドア様はとっても仲良しで、オリビアは捨てられている状態なんです」
え・・・。
これは朗報なのか???
「そ、それを知ったセオドア様はどう思うの・・・? 怒り狂うんじゃないかしら・・・?」
物語の中の自分を激しく憎悪するセオドアを思い浮かべて軽く混乱する。
しかし、このまま断罪され修道院送りはどうあっても避けたい。それには自分の世界で椿と柳が仲良くしていることは有難いことだとしよう。
婚約破棄は避けられない可能性は高いが、せめて修道院送りは回避せねばならない。
そうだ。自分のためだけじゃない。ラガン家のためにもこちらの世界でセオドアに誤解を解かなければ! 二人の仲を少しでも改善するように努力しよう!
「頑張りましょう、オフィーリア様! 断固断罪回避です! NO修道院です!」
椿の励ましの言葉に、オフィーリアは大きく頷いた。
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