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49.報告
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「そ、そうですわ、セオドア様! 実は報告することがありますのよ!」
オフィーリアは話題を変えようと頭をフル回転させた時、大切なことを思い出した。
本日の本題。一番大切な報告!
センチメンタルに浸っている場合ではない。
「昨日とても不思議なことがありましたの! わたくし、昨日の夜、わたくしに会いましたのよ!」
「?!」
セオドアは突然のオフィーリアの変化に驚いたように目を丸めた。
「夜に自分の部屋の鏡を覗いたらわたくしが映っていて!」
「それは映るだろう・・・鏡なんだから・・・」
さらに、彼女の言っている意味が解らずに眉を寄せた。
「違いますわ! わたくしが映っていましたの、わたくしが! オフィーリア・ラガンが!」
「うん、君はオフィーリア・ラガンだね?」
益々困惑顔で首を傾げた。
「もう! 何をおっしゃっているの? セオドア様ったら。今のわたくしは山田椿でしょう! 本当だったら鏡に映る姿はこの姿、山田椿様のはずですわ!」
オフィーリアは自分の胸をポンと叩いた。
「ところがわたくしが映っていたのですよ! 本当の姿が! オフィーリア・ラガンが!」
「!」
やっとセオドアも理解できたらしい。驚いて言葉に詰まらせた。
「そして、その鏡の中のわたくし、オフィーリアには山田椿様が入り込んでいたのです!」
「なん・・・だって・・・?」
「それだけじゃないですわ! セオドア様の中には柳様が」
オフィーリアは人差し指でセオドアの胸をチョンチョンと突いた。
「この柳健一様が入り込んでいるのです!」
「い、入れ替わっているという事か・・・?」
「はい!」
オフィーリアは大きく頷いた。
☆彡
オフィーリアは昨日の不思議な出来事を出来るだけ詳しく説明した。
興奮気味に話す彼女の言葉を途中で遮ることなく、セオドアはジッと耳を傾けて聞いていた。
「つまり、山田椿と柳健一は俺たちの世界で俺達に成り代わって生きているという事か・・・」
「はい。椿様達が階段から落ちたことは間違いないそうですわ。そこで記憶が途絶えているそうです。気が付いたら鏡台の前に座っていてマリーに髪を梳かれていたとか。私もマリーに髪を梳かれている時に突然眩暈がして気を失ったのです」
「そうか・・・、でも、どうして俺たちが入れ替わったのだろう・・・?」
セオドアは顎に手を当てて考え込んだ。
「それは分かりませんわ・・・。何の因果でこうなってしまったのか・・・」
オフィーリアも眉を潜めながら首を振った。
「でも、俺達の肉体が消えて無くなっていたわけではなかったんだな。もしかしたら、滅びてしまったのかと・・・そう考えてしまって、不安だったんだ」
「そうですわね。わたくしも・・・本物のわたくしは死んでしまったのではないかと思うととても不安で、出来るだけ考えないようにしてました」
何も解決したわけではないが、セオドアは少しホッとした顔をした。
「俺たちが突然姿を消したことになってなくて、それはよかったな。そうなっていたら向こうの世界じゃ大事だ。下手したら王室も動きかねない。大勢の人に迷惑をかけることになる」
グレイ侯爵は国家の要人の一人だ。ラガン侯爵も然り。その子息令嬢が忽然と姿を消すなんて事になったら・・・。国中を上げての大捜索になる。
オフィーリアも大きく頷いた。
「ただ、心配なのはお二人がわたくし達として問題なく過ごせているかですわね・・・」
ふと昨日の椿の態度を思い出した。侯爵令嬢とは程遠い情けない態度。ラガン家の令嬢として非の打ち所の無いよう厳しく躾けられ、常に凛とした態度を崩さなかった自分が突然にあのようにビクビクペコペコしている姿を見たら周りはどう思うのか? 軽く眩暈がする。
「確かに心配だな・・・。健一という人物は俺とはまるで違うようだし・・・」
「まあ、椿様もそうなのですよ!」
オフィーリアは思わず力強く同調する。
「向こうの二人も俺たちのように訳も分からず苦労しているのだろうな」
「ええ、そう思いますわ」
「周りも人が変わった俺達に心配しているだろうな・・・」
「ええ。でしょうね」
「オリビアも・・・」
「・・・」
ええと頷く言葉が出てこなかった。
急に心に冷たい風が吹き込んだ。
婚約者の女性を目の前にして別の女性の名前を呟くセオドアのデリカシーの無さに怒りよりも切なさが湧いてくる。無意識が故に残酷だ。そこまでオリビアへの想いが強いのだと否応なく思い知らされる。
オフィーリアは冷たくなった指先を温めるようにキュッと拳を握りしめた。
「さあ、セオドア様。道具を片付けてしまいましょう!」
オフィーリアはワザとらしく大きな声で話を打ち切った。
そんなオフィーリアの態度に、セオドアは自分が何を口走ったのか気が付いたようだ。気まずそうに顔を逸らした。
オフィーリアもプイっと顔を背けると、倉庫に向かって足早に歩き出した。
セオドアは空の箱を持つと無言でその後を付いて行った。
☆彡
倉庫前では例の柳の友人三人が待っていた。
「遅ーよ、柳ぃ!」
「お疲れぃ!」
「早く帰ろうぜー」
三人を見てセオドアはゲッソリとした顔をした。
そんな柳の顔など気にも留めず、三人は柳からは空箱を、椿からはシャベルと軍手を受け取ると倉庫にしまってくれた。
「皆様もお疲れ様でした。お手伝いいただきありがとうございました」
オフィーリアは三人にお礼を言った。
「おう! 山田さんもお疲れ!」
「いい汗かかせていただきましたー!」
「じゃあなー、山田さん。バイバーイ」
「いや・・・、俺は一人で帰れるから・・・」
抵抗空しく三人に引きずられて行くセオドアをオフィーリアは黙って見送った。
倉庫を見ると扉が開けっぱなしだ。三人は道具をしまってくれたのはいいが、扉まで閉めてくれなかったようだ。オフィーリア倉庫の中に誰もいないことを確かめ、扉をそっと閉めた。ふと倉庫脇に広がる花壇に目をやった。
そこには可憐な薔薇が咲いていた。
「嫌いだわ・・・、薔薇なんて・・・」
思わず小さく呟いた。
オフィーリアは話題を変えようと頭をフル回転させた時、大切なことを思い出した。
本日の本題。一番大切な報告!
センチメンタルに浸っている場合ではない。
「昨日とても不思議なことがありましたの! わたくし、昨日の夜、わたくしに会いましたのよ!」
「?!」
セオドアは突然のオフィーリアの変化に驚いたように目を丸めた。
「夜に自分の部屋の鏡を覗いたらわたくしが映っていて!」
「それは映るだろう・・・鏡なんだから・・・」
さらに、彼女の言っている意味が解らずに眉を寄せた。
「違いますわ! わたくしが映っていましたの、わたくしが! オフィーリア・ラガンが!」
「うん、君はオフィーリア・ラガンだね?」
益々困惑顔で首を傾げた。
「もう! 何をおっしゃっているの? セオドア様ったら。今のわたくしは山田椿でしょう! 本当だったら鏡に映る姿はこの姿、山田椿様のはずですわ!」
オフィーリアは自分の胸をポンと叩いた。
「ところがわたくしが映っていたのですよ! 本当の姿が! オフィーリア・ラガンが!」
「!」
やっとセオドアも理解できたらしい。驚いて言葉に詰まらせた。
「そして、その鏡の中のわたくし、オフィーリアには山田椿様が入り込んでいたのです!」
「なん・・・だって・・・?」
「それだけじゃないですわ! セオドア様の中には柳様が」
オフィーリアは人差し指でセオドアの胸をチョンチョンと突いた。
「この柳健一様が入り込んでいるのです!」
「い、入れ替わっているという事か・・・?」
「はい!」
オフィーリアは大きく頷いた。
☆彡
オフィーリアは昨日の不思議な出来事を出来るだけ詳しく説明した。
興奮気味に話す彼女の言葉を途中で遮ることなく、セオドアはジッと耳を傾けて聞いていた。
「つまり、山田椿と柳健一は俺たちの世界で俺達に成り代わって生きているという事か・・・」
「はい。椿様達が階段から落ちたことは間違いないそうですわ。そこで記憶が途絶えているそうです。気が付いたら鏡台の前に座っていてマリーに髪を梳かれていたとか。私もマリーに髪を梳かれている時に突然眩暈がして気を失ったのです」
「そうか・・・、でも、どうして俺たちが入れ替わったのだろう・・・?」
セオドアは顎に手を当てて考え込んだ。
「それは分かりませんわ・・・。何の因果でこうなってしまったのか・・・」
オフィーリアも眉を潜めながら首を振った。
「でも、俺達の肉体が消えて無くなっていたわけではなかったんだな。もしかしたら、滅びてしまったのかと・・・そう考えてしまって、不安だったんだ」
「そうですわね。わたくしも・・・本物のわたくしは死んでしまったのではないかと思うととても不安で、出来るだけ考えないようにしてました」
何も解決したわけではないが、セオドアは少しホッとした顔をした。
「俺たちが突然姿を消したことになってなくて、それはよかったな。そうなっていたら向こうの世界じゃ大事だ。下手したら王室も動きかねない。大勢の人に迷惑をかけることになる」
グレイ侯爵は国家の要人の一人だ。ラガン侯爵も然り。その子息令嬢が忽然と姿を消すなんて事になったら・・・。国中を上げての大捜索になる。
オフィーリアも大きく頷いた。
「ただ、心配なのはお二人がわたくし達として問題なく過ごせているかですわね・・・」
ふと昨日の椿の態度を思い出した。侯爵令嬢とは程遠い情けない態度。ラガン家の令嬢として非の打ち所の無いよう厳しく躾けられ、常に凛とした態度を崩さなかった自分が突然にあのようにビクビクペコペコしている姿を見たら周りはどう思うのか? 軽く眩暈がする。
「確かに心配だな・・・。健一という人物は俺とはまるで違うようだし・・・」
「まあ、椿様もそうなのですよ!」
オフィーリアは思わず力強く同調する。
「向こうの二人も俺たちのように訳も分からず苦労しているのだろうな」
「ええ、そう思いますわ」
「周りも人が変わった俺達に心配しているだろうな・・・」
「ええ。でしょうね」
「オリビアも・・・」
「・・・」
ええと頷く言葉が出てこなかった。
急に心に冷たい風が吹き込んだ。
婚約者の女性を目の前にして別の女性の名前を呟くセオドアのデリカシーの無さに怒りよりも切なさが湧いてくる。無意識が故に残酷だ。そこまでオリビアへの想いが強いのだと否応なく思い知らされる。
オフィーリアは冷たくなった指先を温めるようにキュッと拳を握りしめた。
「さあ、セオドア様。道具を片付けてしまいましょう!」
オフィーリアはワザとらしく大きな声で話を打ち切った。
そんなオフィーリアの態度に、セオドアは自分が何を口走ったのか気が付いたようだ。気まずそうに顔を逸らした。
オフィーリアもプイっと顔を背けると、倉庫に向かって足早に歩き出した。
セオドアは空の箱を持つと無言でその後を付いて行った。
☆彡
倉庫前では例の柳の友人三人が待っていた。
「遅ーよ、柳ぃ!」
「お疲れぃ!」
「早く帰ろうぜー」
三人を見てセオドアはゲッソリとした顔をした。
そんな柳の顔など気にも留めず、三人は柳からは空箱を、椿からはシャベルと軍手を受け取ると倉庫にしまってくれた。
「皆様もお疲れ様でした。お手伝いいただきありがとうございました」
オフィーリアは三人にお礼を言った。
「おう! 山田さんもお疲れ!」
「いい汗かかせていただきましたー!」
「じゃあなー、山田さん。バイバーイ」
「いや・・・、俺は一人で帰れるから・・・」
抵抗空しく三人に引きずられて行くセオドアをオフィーリアは黙って見送った。
倉庫を見ると扉が開けっぱなしだ。三人は道具をしまってくれたのはいいが、扉まで閉めてくれなかったようだ。オフィーリア倉庫の中に誰もいないことを確かめ、扉をそっと閉めた。ふと倉庫脇に広がる花壇に目をやった。
そこには可憐な薔薇が咲いていた。
「嫌いだわ・・・、薔薇なんて・・・」
思わず小さく呟いた。
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