47 / 105
47.苗植え
しおりを挟む
二棟の校舎の間にある中庭。
ここを一角にある花壇を前に、小さな苗がたくさん入っている箱を抱えたセオドアと、二人分のシャベルと軍手を持ったオフィーリアは呆然と佇んだ。
想像以上に広い花壇。ここにこの大量の苗を植えろと言う。こともあろうにこのわたくし達に・・・。
オフィーリアは軽く眩暈がした。
「思ったよりも広いな・・」
「そうですわね・・・」
セオドアは軽く溜息を付くと、苗の入った箱を地面に置いた。
「この花壇の淵に沿って均等に植えろって言っていたな。早速始めよう」
「ええ」
オフィーリアも小さく息を吐くと、一組の軍手とシャベルをセオドアに渡した。そして自らも覚悟を決め軍手を両手にはめた。
早速地面を掘りだしたセオドアの横に座り、彼の作業をじっと見る。
見よう見まねで自分も花壇の土を掘り返し始めた。
「オフィーリア、ちょっと間隔が狭くないか? もっと間を空けた方がいい気がする。苗の数は決まっているからこんなに近づけて植えると端までになくなってしまうぞ?」
セオドアは自分のすぐ隣で穴を掘るオフィーリアに苗の箱を指差して見せた。
「まあ、そうですか? 分かりましたわ」
オフィーリアはすぐにセオドアから離れると、距離を取って地面を掘りだした。
「オフィーリア、それだと空け過ぎだ」
「あら、そうですか?」
「そうだな・・・、もう少しこっちへ」
「ここら辺かしら?」
そんなことを言いないながら穴を掘る。
そこにニョロっとした細長い物体が土から出てきた。
「ひいいっ!!」
オフィーリアは恐怖で悲鳴を上げた。
「大丈夫だ、オフィーリア。それはミミズだ。刺したりしないから、落ち着いて」
落ち着き払った様子を見せるセオドアだが、よく見るとその笑みは引きつっている。地面を掘る手が途端に慎重になった。
オフィーリアの方は完全に手が止まってしまった。掘り返したらまたあのグロテスクな物体が現れるかと思うと、恐怖で地面が掘れない。
「オフィーリア、穴は俺が掘るから、君は苗を植えてくれ」
「よろしいのですか・・・? セオドア様」
「ああ」
「では、お言葉に甘えてそうさせていただきますわ・・・」
オフィーリアはヨロロと立ち上がると、フラフラしながら苗を取りに行った。
苗を一つ取ると花壇に戻り、セオドアの掘った穴に植える。植え終わるとまた一つ取りに戻る。これは効率が悪いと気が付き、苗を二つ持って花壇に戻る。次は三つ。次は四つ。次は五つ・・・。
「オフィーリア、それ以上は止めた方がいい」
たくさん抱えて落とさないように用心しながらヨチヨチ歩いているところをセオドアに注意されてしまった。
☆彡
役割を分担していたことが功を奏したのか、作業は想像以上に早く終わった。
最初以来、グロテスクな生き物も見ることが無く、気が付くとオフィーリアは苗植えに夢中になっていた。
ミミズを見ることが無かったのは、先に地面を掘り返していたセオドアが、オフィーリアの目に入らないように遠くに放ってくれていたからなのだが、そんな彼の配慮には全く気が付いていなかった。
二人して並んで植え終わった花壇の前に立った。
「思ったよりも早く終わりましたわね」
「そうだな」
土いじりなんてオフィーリアのような高位貴族のお嬢様にとってはとてつもない重労働だったが、やり遂げた達成感か、清々しく気持ちがいい。
セオドアを見ると、彼もどこか満足気な顔をして花壇を見ている。
「すごいですわね、セオドア様。とても綺麗に均等に植わっていますわ」
花壇の端から端まで美しく均等に植わっている苗を見て、オフィーリアは素直にセオドアを称賛した。
セオドアは元々器用なタイプで俗に言う文武両道、勉強も乗馬も武術もほとんどの事をそつなくこなしてしまう。まさか、土いじりまで難なくこなしてしまうとは。
ストレートに褒められて、セオドアは少し頬が緩んだ。
「植えたのはオフィーリアじゃないか」
「それはセオドア様だって。結局、わたくしは半分も植えたかしら?」
「ははは。半分以上はオフィーリアが植えたよ」
セオドアの笑顔に―――実際は柳だが―――オフィーリアは目を丸めた。
自分に向かって笑いかけている。
いつも厳しい顔しか見たことが無かったのに・・・。笑顔で自分を見つめている。
オフィーリアの胸は急に音を立てだした。
そして、改めて自分の態度にも気が付く。
(彼を素直に褒めたことなんて初めてだわ・・・)
今までの自分ならオリビアへの嫉妬から婚約者の雄姿を率直に褒めたことなんてなかった。褒めたくてもどうしても素直になれず、どこか捻くれた嫌味を混ぜ込んでいたのだ。
頬が熱くなってくるのを隠すようにそっぽを向くと、
「こなれていらっしゃるのね。実は経験がお有りなのでは?」
折角素直に褒めた後だというのに、今回もついそんなことを言ってしまった。
「そうだな。小さい頃、遊びがてら庭師の手伝いをしたことがあったな。でも、今は庭園の花を・・・薔薇を摘むくらいだ」
薔薇を摘む・・・。
その言葉にオフィーリアの熱くなった頬は急激に冷めた。
ゆっくりとセオドアに振り向いた。セオドアは植えた苗を優しい顔で見つめている。
(そうね、そうだったわ・・・)
オフィーリアは再び顔を背けた。
セオドアが自ら摘んだ薔薇をいつも誰に贈っているか思い出したからだ。
彼が薔薇を持って微笑んで見つめる先には常にオリビアがいたのだ。
ここを一角にある花壇を前に、小さな苗がたくさん入っている箱を抱えたセオドアと、二人分のシャベルと軍手を持ったオフィーリアは呆然と佇んだ。
想像以上に広い花壇。ここにこの大量の苗を植えろと言う。こともあろうにこのわたくし達に・・・。
オフィーリアは軽く眩暈がした。
「思ったよりも広いな・・」
「そうですわね・・・」
セオドアは軽く溜息を付くと、苗の入った箱を地面に置いた。
「この花壇の淵に沿って均等に植えろって言っていたな。早速始めよう」
「ええ」
オフィーリアも小さく息を吐くと、一組の軍手とシャベルをセオドアに渡した。そして自らも覚悟を決め軍手を両手にはめた。
早速地面を掘りだしたセオドアの横に座り、彼の作業をじっと見る。
見よう見まねで自分も花壇の土を掘り返し始めた。
「オフィーリア、ちょっと間隔が狭くないか? もっと間を空けた方がいい気がする。苗の数は決まっているからこんなに近づけて植えると端までになくなってしまうぞ?」
セオドアは自分のすぐ隣で穴を掘るオフィーリアに苗の箱を指差して見せた。
「まあ、そうですか? 分かりましたわ」
オフィーリアはすぐにセオドアから離れると、距離を取って地面を掘りだした。
「オフィーリア、それだと空け過ぎだ」
「あら、そうですか?」
「そうだな・・・、もう少しこっちへ」
「ここら辺かしら?」
そんなことを言いないながら穴を掘る。
そこにニョロっとした細長い物体が土から出てきた。
「ひいいっ!!」
オフィーリアは恐怖で悲鳴を上げた。
「大丈夫だ、オフィーリア。それはミミズだ。刺したりしないから、落ち着いて」
落ち着き払った様子を見せるセオドアだが、よく見るとその笑みは引きつっている。地面を掘る手が途端に慎重になった。
オフィーリアの方は完全に手が止まってしまった。掘り返したらまたあのグロテスクな物体が現れるかと思うと、恐怖で地面が掘れない。
「オフィーリア、穴は俺が掘るから、君は苗を植えてくれ」
「よろしいのですか・・・? セオドア様」
「ああ」
「では、お言葉に甘えてそうさせていただきますわ・・・」
オフィーリアはヨロロと立ち上がると、フラフラしながら苗を取りに行った。
苗を一つ取ると花壇に戻り、セオドアの掘った穴に植える。植え終わるとまた一つ取りに戻る。これは効率が悪いと気が付き、苗を二つ持って花壇に戻る。次は三つ。次は四つ。次は五つ・・・。
「オフィーリア、それ以上は止めた方がいい」
たくさん抱えて落とさないように用心しながらヨチヨチ歩いているところをセオドアに注意されてしまった。
☆彡
役割を分担していたことが功を奏したのか、作業は想像以上に早く終わった。
最初以来、グロテスクな生き物も見ることが無く、気が付くとオフィーリアは苗植えに夢中になっていた。
ミミズを見ることが無かったのは、先に地面を掘り返していたセオドアが、オフィーリアの目に入らないように遠くに放ってくれていたからなのだが、そんな彼の配慮には全く気が付いていなかった。
二人して並んで植え終わった花壇の前に立った。
「思ったよりも早く終わりましたわね」
「そうだな」
土いじりなんてオフィーリアのような高位貴族のお嬢様にとってはとてつもない重労働だったが、やり遂げた達成感か、清々しく気持ちがいい。
セオドアを見ると、彼もどこか満足気な顔をして花壇を見ている。
「すごいですわね、セオドア様。とても綺麗に均等に植わっていますわ」
花壇の端から端まで美しく均等に植わっている苗を見て、オフィーリアは素直にセオドアを称賛した。
セオドアは元々器用なタイプで俗に言う文武両道、勉強も乗馬も武術もほとんどの事をそつなくこなしてしまう。まさか、土いじりまで難なくこなしてしまうとは。
ストレートに褒められて、セオドアは少し頬が緩んだ。
「植えたのはオフィーリアじゃないか」
「それはセオドア様だって。結局、わたくしは半分も植えたかしら?」
「ははは。半分以上はオフィーリアが植えたよ」
セオドアの笑顔に―――実際は柳だが―――オフィーリアは目を丸めた。
自分に向かって笑いかけている。
いつも厳しい顔しか見たことが無かったのに・・・。笑顔で自分を見つめている。
オフィーリアの胸は急に音を立てだした。
そして、改めて自分の態度にも気が付く。
(彼を素直に褒めたことなんて初めてだわ・・・)
今までの自分ならオリビアへの嫉妬から婚約者の雄姿を率直に褒めたことなんてなかった。褒めたくてもどうしても素直になれず、どこか捻くれた嫌味を混ぜ込んでいたのだ。
頬が熱くなってくるのを隠すようにそっぽを向くと、
「こなれていらっしゃるのね。実は経験がお有りなのでは?」
折角素直に褒めた後だというのに、今回もついそんなことを言ってしまった。
「そうだな。小さい頃、遊びがてら庭師の手伝いをしたことがあったな。でも、今は庭園の花を・・・薔薇を摘むくらいだ」
薔薇を摘む・・・。
その言葉にオフィーリアの熱くなった頬は急激に冷めた。
ゆっくりとセオドアに振り向いた。セオドアは植えた苗を優しい顔で見つめている。
(そうね、そうだったわ・・・)
オフィーリアは再び顔を背けた。
セオドアが自ら摘んだ薔薇をいつも誰に贈っているか思い出したからだ。
彼が薔薇を持って微笑んで見つめる先には常にオリビアがいたのだ。
17
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
目覚めたら妊婦だった私のお相手が残酷皇帝で吐きそう
カギカッコ「」
恋愛
以前書いた作品「目覚めたら妊婦だった俺の人生がBLになりそう」を主人公が女子として書き直してみたものです。名前なども一部変更しました。
他サイト様にも同じのあります。以前のは小説家になろう様にあります。
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!
断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!
ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。
気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
本の通りに悪役をこなしてみようと思います
Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。
本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって?
こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。
悪役上等。
なのに、何だか様子がおかしいような?
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる