喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

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47.苗植え

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二棟の校舎の間にある中庭。
ここを一角にある花壇を前に、小さな苗がたくさん入っている箱を抱えたセオドアと、二人分のシャベルと軍手を持ったオフィーリアは呆然と佇んだ。

想像以上に広い花壇。ここにこの大量の苗を植えろと言う。こともあろうにこのわたくし達に・・・。

オフィーリアは軽く眩暈がした。

「思ったよりも広いな・・」

「そうですわね・・・」

セオドアは軽く溜息を付くと、苗の入った箱を地面に置いた。

「この花壇の淵に沿って均等に植えろって言っていたな。早速始めよう」

「ええ」

オフィーリアも小さく息を吐くと、一組の軍手とシャベルをセオドアに渡した。そして自らも覚悟を決め軍手を両手にはめた。

早速地面を掘りだしたセオドアの横に座り、彼の作業をじっと見る。
見よう見まねで自分も花壇の土を掘り返し始めた。

「オフィーリア、ちょっと間隔が狭くないか? もっと間を空けた方がいい気がする。苗の数は決まっているからこんなに近づけて植えると端までになくなってしまうぞ?」

セオドアは自分のすぐ隣で穴を掘るオフィーリアに苗の箱を指差して見せた。

「まあ、そうですか? 分かりましたわ」

オフィーリアはすぐにセオドアから離れると、距離を取って地面を掘りだした。

「オフィーリア、それだと空け過ぎだ」
「あら、そうですか?」
「そうだな・・・、もう少しこっちへ」
「ここら辺かしら?」

そんなことを言いないながら穴を掘る。
そこにニョロっとした細長い物体が土から出てきた。

「ひいいっ!!」

オフィーリアは恐怖で悲鳴を上げた。

「大丈夫だ、オフィーリア。それはミミズだ。刺したりしないから、落ち着いて」

落ち着き払った様子を見せるセオドアだが、よく見るとその笑みは引きつっている。地面を掘る手が途端に慎重になった。

オフィーリアの方は完全に手が止まってしまった。掘り返したらまたあのグロテスクな物体が現れるかと思うと、恐怖で地面が掘れない。

「オフィーリア、穴は俺が掘るから、君は苗を植えてくれ」

「よろしいのですか・・・? セオドア様」

「ああ」

「では、お言葉に甘えてそうさせていただきますわ・・・」

オフィーリアはヨロロと立ち上がると、フラフラしながら苗を取りに行った。

苗を一つ取ると花壇に戻り、セオドアの掘った穴に植える。植え終わるとまた一つ取りに戻る。これは効率が悪いと気が付き、苗を二つ持って花壇に戻る。次は三つ。次は四つ。次は五つ・・・。

「オフィーリア、それ以上は止めた方がいい」

たくさん抱えて落とさないように用心しながらヨチヨチ歩いているところをセオドアに注意されてしまった。


☆彡


役割を分担していたことが功を奏したのか、作業は想像以上に早く終わった。
最初以来、グロテスクな生き物も見ることが無く、気が付くとオフィーリアは苗植えに夢中になっていた。
ミミズを見ることが無かったのは、先に地面を掘り返していたセオドアが、オフィーリアの目に入らないように遠くに放ってくれていたからなのだが、そんな彼の配慮には全く気が付いていなかった。

二人して並んで植え終わった花壇の前に立った。

「思ったよりも早く終わりましたわね」

「そうだな」

土いじりなんてオフィーリアのような高位貴族のお嬢様にとってはとてつもない重労働だったが、やり遂げた達成感か、清々しく気持ちがいい。
セオドアを見ると、彼もどこか満足気な顔をして花壇を見ている。

「すごいですわね、セオドア様。とても綺麗に均等に植わっていますわ」

花壇の端から端まで美しく均等に植わっている苗を見て、オフィーリアは素直にセオドアを称賛した。
セオドアは元々器用なタイプで俗に言う文武両道、勉強も乗馬も武術もほとんどの事をそつなくこなしてしまう。まさか、土いじりまで難なくこなしてしまうとは。

ストレートに褒められて、セオドアは少し頬が緩んだ。

「植えたのはオフィーリアじゃないか」

「それはセオドア様だって。結局、わたくしは半分も植えたかしら?」

「ははは。半分以上はオフィーリアが植えたよ」

セオドアの笑顔に―――実際は柳だが―――オフィーリアは目を丸めた。

自分に向かって笑いかけている。
いつも厳しい顔しか見たことが無かったのに・・・。笑顔で自分を見つめている。

オフィーリアの胸は急に音を立てだした。
そして、改めて自分の態度にも気が付く。

(彼を素直に褒めたことなんて初めてだわ・・・)

今までの自分ならオリビアへの嫉妬から婚約者の雄姿を率直に褒めたことなんてなかった。褒めたくてもどうしても素直になれず、どこか捻くれた嫌味を混ぜ込んでいたのだ。

頬が熱くなってくるのを隠すようにそっぽを向くと、

「こなれていらっしゃるのね。実は経験がお有りなのでは?」

折角素直に褒めた後だというのに、今回もついそんなことを言ってしまった。

「そうだな。小さい頃、遊びがてら庭師の手伝いをしたことがあったな。でも、今は庭園の花を・・・薔薇を摘むくらいだ」

薔薇を摘む・・・。

その言葉にオフィーリアの熱くなった頬は急激に冷めた。
ゆっくりとセオドアに振り向いた。セオドアは植えた苗を優しい顔で見つめている。

(そうね、そうだったわ・・・)

オフィーリアは再び顔を背けた。
セオドアが自ら摘んだ薔薇をいつも誰に贈っているか思い出したからだ。
彼が薔薇を持って微笑んで見つめる先には常にオリビアがいたのだ。

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