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45.クラス
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竹田は一つの教室の前で立ち止まった。
「いいか? お前たちのクラスはここ、1組だ」
そういって入り口の上にある表札を指差した。
『2年1組』と書いてある。
「じゃあ入るぞ。その前に深呼吸しろ、深呼吸。はい、スーハ―スーハ―」
生徒二人の緊張が伝わったのか、竹田は軽く手を広げ大きく深呼吸して見せた。
セオドアとオフィーリアも彼を真似る。三人して大きな深呼吸を2、3回繰り返した。
「よし、入るぞ」
竹田はガラガラと扉を開けて、教室に入って行った。二人も後に続く。竹田にそっと席を教えられ、空いていた自席に座った。残念ながら二人の席は離れていた。オフィーリアは窓側の後ろ。セオドアは廊下側の中央だ。
「きりーつ」
一人の生徒が号令をかける。その号令に合わせて生徒が全員立ち上がる。オフィーリアも慌てて立ち上がった。
「礼! 着席!」
ワタワタししながら周りに合わせ一礼をし、席に座る。チラリとセオドアを見た。セオドアも動揺したようだが、オフィーリアに振り返るようなことはなかった。今はシャンと座りしっかり前を見ている。オフィーリアも彼に見習い、姿勢を正して前を見た。
「えー、みんなも心配していたと思うが・・・ゴールデンウイーク前の昼休みに柳と山田が階段から落ちて病院へ連れて行ったわけだが、この通り、二人とも元気だ。ただな、少しだけ二人とも記憶が混乱しているところがある。どうか、みんなで支えてやってくれ。授業に付いていけないところがあったらフォローしてやってくれ。特に、田中、佐々木、後藤!」
竹田は教壇から生徒たちを見回すと数名の男子を次々に指差した。
「お前らが一緒にふざけていたせいで・・・まあ、柳もだな・・・二人は階段から落ちたんだ。大怪我しなかった事が幸いだ。しっかり二人をフォローするんだぞ!」
名指しされた男子生徒は「へーい」とか「うぃーすっ」などと言いながら頷いた。
(品のない人たちね・・・)
紳士らしからぬその態度に、オフィーリアは顔を顰めた。
この人たちが柳のお友達としたら・・・。
オフィーリアの中で不安が過る。
椿は友達がいないと言っていたので、友人関係に頭を悩ませることは無さそうだが、セオドアは・・・。
(大丈夫かしら? セオドア様・・・)
だが、人の心配をしているゆとりはすぐに消えた。
ホームルームが終わると続けて一時限目の授業が始まったからだ。
母親から事前に渡されていた時間割表のお陰で今日のスケジュールはしっかり頭に入っている。一時限目は化学。
不思議なことに、こちらの世界の文字が読めるお陰で、教科書を読む事自体には苦労は無い。しかし、書かれている内容を理解するのは別の話だ。
(全然分からない・・・)
ポカンとしている間に授業が終わってしまった。
☆彡
授業の終わりを知らせるチャイムの音でオフィーリアは我に返った。
そして愕然とした。呆けているうちに授業が終わってしまうなんて、今までの自分ではあり得ない。常に優等生だった自分が授業に付いていけないなんて! 何たる屈辱!
(これはいけないわ! 竹田先生に相談しなければ! 個別に授業を受けられないかしら?)
思わずシャーペンを握る手に力が籠る。
だが、すぐに大事なことを思い出した。
昨日の夜の出来事をセオドアに報告しなければならない!
オフィーリアは急いで席を立つと、セオドアのところに向かった。
しかし、直前でセオドアとの接触は阻止されてしまった。
「柳ぃ~! 大丈夫だったかよ~!」
「柳っち! マジで心配したんだけどー!」
「LIN●も既読にならねーしよぉ~!」
セオドアのもとに例の男子三人が集まってきたのだ。
何も言わず、ただ目を丸めているセオドアに対し、各々声を掛ける。
「気失ったからマジでビビったぜ! 死んだかと思った!」
一人の生徒がセオドアに抱き付き、頭をグリグリと撫でまわす。
「ちょ、ちょっと、何して・・・! 放したまえ!」
セオドアは驚いてすぐに振り払ったが、別の男子がセオドアの頭をガシャガシャと撫でる。
「いや~~、お前、石頭だったんだな~! 良かった、良かった!」
「ちょ、ちょっと! 止めないか!」
「頭打っただけじゃなくって、腕も怪我したんだろ? 大丈夫かよ?」
さらに別の男がセオドアの腕を取って、ワイシャツを捲った。そこには大きめの絆創膏が貼られている。
「うへ~、痛そう! マジごめんなぁ!」
「ちょ・・・、は、放さないか!」
「わぁ、ホントだぁ、大きな絆創膏! 痛ったそう。大丈夫? 柳君」
セオドアの抗議も空しく、男たちに構われ倒されているところに女子生徒も混ざってきた。
「ねえ、記憶障害って本当? 何か忘れちゃったの? もしかして、私が彼女だって忘れちゃった?」
「あはは! 何言ってんの~、早紀! 違うから柳君、私が彼女だし~」
「馬鹿言わないでって、二人とも~。私、私、柳っち!」
セオドアの周りはあっという間に賑やかになってしまった。とてもオフィーリアの入る隙がない。
呆然とその光景を眺めていると、その内の一人の女子生徒がオフィーリアに気が付いた。
「っつかさ、あんた達、山田さんに謝んなさいよ。彼女、一番の被害者じゃん」
ボーっと立ち尽くしているオフィーリアを指差した。
「そーでしたぁ!」
「ごめんなさーい! 山田さん!」
「その節は~、本当に申し訳なく~!」
三人の男子が一斉にオフィーリアの前に集まり頭を下げた。
呆然としているところに突然押し寄せられて、さすがのオフィーリアもたじろぎ、一歩後ろに下がった。
「ちょい! ビビってんじゃん、山田さんが!」
女子生徒が三人の男子の頭をポカポカと軽く叩く。
その行為にオフィーリアは目を丸めた。驚いたのはそれだけではない。彼女たちの服装も・・・。
同じ制服のはずなのに異常にスカート丈が短い。膝よりも上。足が丸出しだ!
「い、いいえ・・・。大丈夫です・・わ・・・」
仰天し過ぎて呟くように答えるのが精一杯だった。
「いいか? お前たちのクラスはここ、1組だ」
そういって入り口の上にある表札を指差した。
『2年1組』と書いてある。
「じゃあ入るぞ。その前に深呼吸しろ、深呼吸。はい、スーハ―スーハ―」
生徒二人の緊張が伝わったのか、竹田は軽く手を広げ大きく深呼吸して見せた。
セオドアとオフィーリアも彼を真似る。三人して大きな深呼吸を2、3回繰り返した。
「よし、入るぞ」
竹田はガラガラと扉を開けて、教室に入って行った。二人も後に続く。竹田にそっと席を教えられ、空いていた自席に座った。残念ながら二人の席は離れていた。オフィーリアは窓側の後ろ。セオドアは廊下側の中央だ。
「きりーつ」
一人の生徒が号令をかける。その号令に合わせて生徒が全員立ち上がる。オフィーリアも慌てて立ち上がった。
「礼! 着席!」
ワタワタししながら周りに合わせ一礼をし、席に座る。チラリとセオドアを見た。セオドアも動揺したようだが、オフィーリアに振り返るようなことはなかった。今はシャンと座りしっかり前を見ている。オフィーリアも彼に見習い、姿勢を正して前を見た。
「えー、みんなも心配していたと思うが・・・ゴールデンウイーク前の昼休みに柳と山田が階段から落ちて病院へ連れて行ったわけだが、この通り、二人とも元気だ。ただな、少しだけ二人とも記憶が混乱しているところがある。どうか、みんなで支えてやってくれ。授業に付いていけないところがあったらフォローしてやってくれ。特に、田中、佐々木、後藤!」
竹田は教壇から生徒たちを見回すと数名の男子を次々に指差した。
「お前らが一緒にふざけていたせいで・・・まあ、柳もだな・・・二人は階段から落ちたんだ。大怪我しなかった事が幸いだ。しっかり二人をフォローするんだぞ!」
名指しされた男子生徒は「へーい」とか「うぃーすっ」などと言いながら頷いた。
(品のない人たちね・・・)
紳士らしからぬその態度に、オフィーリアは顔を顰めた。
この人たちが柳のお友達としたら・・・。
オフィーリアの中で不安が過る。
椿は友達がいないと言っていたので、友人関係に頭を悩ませることは無さそうだが、セオドアは・・・。
(大丈夫かしら? セオドア様・・・)
だが、人の心配をしているゆとりはすぐに消えた。
ホームルームが終わると続けて一時限目の授業が始まったからだ。
母親から事前に渡されていた時間割表のお陰で今日のスケジュールはしっかり頭に入っている。一時限目は化学。
不思議なことに、こちらの世界の文字が読めるお陰で、教科書を読む事自体には苦労は無い。しかし、書かれている内容を理解するのは別の話だ。
(全然分からない・・・)
ポカンとしている間に授業が終わってしまった。
☆彡
授業の終わりを知らせるチャイムの音でオフィーリアは我に返った。
そして愕然とした。呆けているうちに授業が終わってしまうなんて、今までの自分ではあり得ない。常に優等生だった自分が授業に付いていけないなんて! 何たる屈辱!
(これはいけないわ! 竹田先生に相談しなければ! 個別に授業を受けられないかしら?)
思わずシャーペンを握る手に力が籠る。
だが、すぐに大事なことを思い出した。
昨日の夜の出来事をセオドアに報告しなければならない!
オフィーリアは急いで席を立つと、セオドアのところに向かった。
しかし、直前でセオドアとの接触は阻止されてしまった。
「柳ぃ~! 大丈夫だったかよ~!」
「柳っち! マジで心配したんだけどー!」
「LIN●も既読にならねーしよぉ~!」
セオドアのもとに例の男子三人が集まってきたのだ。
何も言わず、ただ目を丸めているセオドアに対し、各々声を掛ける。
「気失ったからマジでビビったぜ! 死んだかと思った!」
一人の生徒がセオドアに抱き付き、頭をグリグリと撫でまわす。
「ちょ、ちょっと、何して・・・! 放したまえ!」
セオドアは驚いてすぐに振り払ったが、別の男子がセオドアの頭をガシャガシャと撫でる。
「いや~~、お前、石頭だったんだな~! 良かった、良かった!」
「ちょ、ちょっと! 止めないか!」
「頭打っただけじゃなくって、腕も怪我したんだろ? 大丈夫かよ?」
さらに別の男がセオドアの腕を取って、ワイシャツを捲った。そこには大きめの絆創膏が貼られている。
「うへ~、痛そう! マジごめんなぁ!」
「ちょ・・・、は、放さないか!」
「わぁ、ホントだぁ、大きな絆創膏! 痛ったそう。大丈夫? 柳君」
セオドアの抗議も空しく、男たちに構われ倒されているところに女子生徒も混ざってきた。
「ねえ、記憶障害って本当? 何か忘れちゃったの? もしかして、私が彼女だって忘れちゃった?」
「あはは! 何言ってんの~、早紀! 違うから柳君、私が彼女だし~」
「馬鹿言わないでって、二人とも~。私、私、柳っち!」
セオドアの周りはあっという間に賑やかになってしまった。とてもオフィーリアの入る隙がない。
呆然とその光景を眺めていると、その内の一人の女子生徒がオフィーリアに気が付いた。
「っつかさ、あんた達、山田さんに謝んなさいよ。彼女、一番の被害者じゃん」
ボーっと立ち尽くしているオフィーリアを指差した。
「そーでしたぁ!」
「ごめんなさーい! 山田さん!」
「その節は~、本当に申し訳なく~!」
三人の男子が一斉にオフィーリアの前に集まり頭を下げた。
呆然としているところに突然押し寄せられて、さすがのオフィーリアもたじろぎ、一歩後ろに下がった。
「ちょい! ビビってんじゃん、山田さんが!」
女子生徒が三人の男子の頭をポカポカと軽く叩く。
その行為にオフィーリアは目を丸めた。驚いたのはそれだけではない。彼女たちの服装も・・・。
同じ制服のはずなのに異常にスカート丈が短い。膝よりも上。足が丸出しだ!
「い、いいえ・・・。大丈夫です・・わ・・・」
仰天し過ぎて呟くように答えるのが精一杯だった。
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