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31.憶測

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「なあ、誰から聞いたんだよ? もしかして言えねーの?」

「そ、それは・・・」

柳の凄みに臆したのか、それとも痛いところ突かれたのか、ジャックは言葉に詰まった。

「オリビアじゃねーの?」

「・・・」

「そもそも、俺とオフィーリアの会話を何でオリビアが知ってんだよ? だとしたら盗み聞きしてるってことになるじゃん。それって結構お下品じゃね?」

「オリビアがそんなことするか! お前がいきなりオリビアを突き放してオフィーリア嬢と常に一緒にいるから・・・」

「つまり憶測で物を言ってるって事だろ? 俺が離れてしまったのはオフィーリアが悪口言っているに違いないってさ」

「・・・っ!」

「でも、実際言ってねーし。あ、ちなみに俺は嘘付いていません。神様に誓います」

柳は片手を挙げ、もう片方の手を胸に添えて宣誓のポーズを取った。

「だから、虐めについても同じことが言えるってわけだよ。虐めた相手をよく確かめもしないで、憶測でオフィーリアのせいにしてる可能性が高い。自分の事を嫌っているんだから虐めもオフィーリアに決まってるってな」

「そ、そんなこと・・・」

ジャックは言葉を濁した。

「もしくは、本当は犯人を知っているのに、オフィーリアのせいにしたか」

「なっ!」
「っ!?」

その言葉に椿も息を呑んだ。目をパチクリさせて柳を見た。

「そんなこと信じられるか!」

「まあな、さすがに俺もそこまでは信じたくねーよ。可能性の話?」

柳はワザとらしく肩を竦めて見せた。

「ふ、ふ、ふざけるな・・・! どこまでオリビアを侮辱するつもりだ・・・!」

ジャックはそんな柳をギッと睨みつけた。怒りで握る拳がプルプルと震えている。

「うーん、そんなつもりねーけど。でもよ、憶測だってのに事実と決め込んで他人に吹聴するのってどうかと思わねぇ?」

「もういい!! お前がそんなにひどい奴だったなんて! お前とオリビアのために・・・オリビアのために身を引いたっていうのに・・・間違いだった!!」

ジャックは耐えきれないとばかりに大声で叫んだ。

「お前なんかにオリビアは任せられない! お前なんかに・・・お前なんかにオリビアは渡さない! 俺は・・・俺はオリビアを信じる!」

「いいんじゃねーの、それで。俺はオフィーリアを信じる」

「貴様ぁ!」

柳のシレっとした態度が益々ジャックの怒りに火を注ぐ。

「記憶が戻った時に後悔するなよ! もうオリビアは渡さないからな! お前のその態度、オリビアの信頼だって地に落ちてるはずだ!」

「あー、そこなぁ・・・、記憶が戻ったらセオドアの奴、どうすんだろ・・・?」

柳は首を捻ってポリポリと頭を掻いた。

「何言ってんだ!! ふざけるのもいい加減にしろよ!」

「もー、うるせーなぁ。お前の方こそ、いい加減に着替えたら? その恰好で授業受けんの? しょんべん漏らしたみたいだぜ?」

「!」

ジャックはハッとしたように自分の股間に目をやった。

「まだ時間あるし、一旦寮に帰って着替えても間に合うんじゃね? 急いだ方がいいと思いますよ、ジャック君」

「く・・・っ! 覚えてろよ!」

「おー、気が向いたら覚えといてやる。人に見られる前に早く帰れって。漏らしたって噂になるぜ?」

自分の捨て台詞に対し、シッシっと気怠そうに手を振る柳にカーっと血が上る。しかし、ここは柳の言う通り。そろそろ生徒達が登校する時間だ。

「くそっ・・・!」

今度こそ本当に捨て台詞を吐いてその場から走り出した。
しかし、残念なことに、既に学校に向かう道は登校する生徒がたくさんいた。その中をジャックは男子寮に急ぐ。
登校時間に反対方向に駆けて行く生徒が目立たないわけがない。大勢の注目を浴びるのは必至。そして誰もが彼の濡れたズボンに気が付く。何より濡れた箇所が悪かった。
恥ずかしそうに俯きながら全力疾走する彼に、当然のごとく湧く疑惑。

生徒達の憐れみの視線の中、彼は男子寮に向かってひた走った。

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