喪女に悪役令嬢は無理がある!

夢呼

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22.優しい柳

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「あとは、一体何がトリガーだったのかを調べるだけだ」

「トリガー?」

ガッツポーズをしたままの柳に椿は首を傾げた。

「きっと何かきっかけがあったはずだ。本物のセオドアとオフィーリアと話してみたら何か思い当たるかもしれないぜ?」

「きっかけ・・・」

呟く椿に柳は大きく頷いた。

(すごい、柳君。ちゃんと考えてた・・・。興奮してるだけじゃなかった・・・)

てっきり、ただはしゃいでいるだけかと思っていたら見た目とは裏腹にしっかりと考えている柳に椿は目を丸めた。それどころか、途方に暮れているだけの自分よりもよっぽどしっかり考えているのでは?

「ヤベーな! 夜まで待ちきれねーよ! 楽しみだな、いろんな意味で!」

「そうですね。山田もそんな気持ちになってきました」

椿も両手を握りしめ、フンっと少し鼻息荒めに頷いた。

「俺的には俺たちが階段から落ちたことがきっかけだと思うんだよな。だから、あいつら二人にも階段から落ちてもらえばいいんじゃね? 例の小説片手にさ」

「え・・・、それは・・・」

確かにそれは一理ある。一理どころか濃厚な気かする。
しかし、そんな単純な事か? そんな疑問も湧いてくる。

「でもそれは危険ですよ、大怪我してしまうかもしれませんよ? もし頭から落ちたら・・・打ち所が悪ければ本当に死んでしまうかも・・・」

椿は眉を寄せた。

「そうなったら、オフィーリア様とセオドア様は元に戻れるかもしれませんが、私たちはもう戻る体がありません」

「うーん、それ困るな~」

柳も首を捻る。

「骨折程度だったらどうってことないけどなぁ・・・」

「え゛・・・?」

「骨を折るくらいで元の世界に帰れるんなら安いもんだけど、死んじまったら意味ねーもんなぁ・・・」

大怪我することなど全く気にも留めていない言葉に椿は面食らった。
ちょっとした怪我でもビビりまくっている椿とは雲泥の差。改めて柳に畏敬の念を抱くのと同時に自分の弱さを思い知らされた。

「それに俺だけならいいけど、山田にまで怪我させられねーしなぁ・・・」

「・・・!」

更に椿の事まで気を遣う懐の深さ!
益々自分の弱さを恥じ入って、椿は俯いてしまった。

「どうした? 山田?」

柳は黙ってしまった椿を不思議に思い、首を傾げながら顔を覗き込んだ。

「・・・いいえ・・・。柳君は本当に強いですね・・・すごいです」

「え?」

「そして、優しいですね。それに比べて山田は・・・臆病で・・・情けないです・・・」

「何言ってんだよ! 山田は~」

柳はカラカラと笑うと山田の背中をパシパシ叩いた。

「優しいって、何褒めてんだよ~、止めろよ~、照れるじゃん!」

「いいえ、本当に優しいですよ。山田の事まで気遣ってくれて」

「だって、山田は女の子じゃん。万が一顔に怪我でもしたら大変じゃん。俺は男だからいいの。怪我なんて勲章!」

ニッと笑う柳。そんな柳の顔に椿は目を細めた。

(本当に優しいです。柳君・・・)


☆彡


「あ、あの、柳君。きょ、今日のランチはオフィーリア様のお友達と一緒にしてきてもいいですか?」

三時限目の授業を終えた時、椿はしどろもどろに柳にお伺いを立てた。

「え? 別に良いけど・・・。でも、山田一人で大丈夫かよ? 俺は行かなくていいの?」

柳は落胆と心配が入り混じった顔で椿を見た。

「えっと・・・、もちろん柳君が一緒だと心強いのですが・・・。でも柳君はご迷惑なのでは・・・?」

「全然! むしろ一緒がいい!」

「ありがとうございます! 助かります!」

椿は柳にペコリと頭を下げた後、教室を見渡した。オフィーリアガールズの姿はすでにない。
彼女たちの後を追って二人で食堂に向かった。

「でも、どうしたんだよ? 急にさ」

廊下を歩きながら柳は椿に尋ねた。

「今日のお礼をまだ言えていないので・・・。山田の為に嘘までついて廊下に立ってくれたのに。彼女たちが宿題を忘れるなんてきっと有り得ないですよ。山田が不甲斐ないせいで、彼女たちの淑女の品位を下げてしまいました・・・」

「山田の為ってより、オフィーリアの為だけどな」

「そうですけど・・・。でも、オフィーリア様だったらあんな失態犯さなかったはずなんです。しっかりしているから」

「どうだかな・・・」

「だからきちんとお礼と謝罪をしないと。それにオフィーリア様から言われたんです、社交は大事だって。オフィーリアとしてオフィーリアらしく人と交流しなさいって」

「うわっ、山田にはハードル高そう」

「はい・・・とっても・・・。だけどオフィーリア様に山田らしく生活してもらう事をお願いしている以上、山田も頑張らないと・・・。それにはまずはお取巻きのお嬢様方から・・・」

「律儀だな~、山田は」

そんなことを話しながら歩いているうちに食堂に辿り着いた。
二人お揃いのランチを注文し、トレーを持ちながら広い食堂内でオフィーリアガールズを探す。

―――いた。

少し広めのテーブルで仲良く三人でお行儀よく食事をしている。

椿はゴクッと息を呑んだ。

(勇気を出せ! 早く傍に行くんだ!)

自分に言い聞かせるが、一歩足を踏み出せない。
躊躇している椿の横をスタスタと速足で柳が通り過ぎる。

「失礼! 俺達も一緒に飯食っていい?」

「まあ! セオドア様! もちろんですわ!」

「良かった! おーい、オフィーリア! こっちー!」

何の躊躇もなく彼女たちのテーブルにトレーを置いた柳が椿に手招きをする。
椿は口をアングリ開けて柳を見た。

(またまた柳君に助けられてしまった)

もう行くしかない椿はテーブルに向かって歩き出した。

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