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私の腹黒さがこの純真無垢な弟に知られたらどうなるか。
きっと、マイケルは私に幻滅するだろう。この美しい瞳に軽蔑の眼差しを向けらるのは相当辛い。
今まで散々レオナルドに冷たい目を向けられても、屁とも思わなかった私だが、この弟に同じ目を向けられたら、いくら私でも泣いてしまいそう。

「ホホホ! マイケル! ありがとう! 優しい弟を持ってわたくしは幸せ者だわっ!」

私は焦りを感じ、この話を終わらせるべく、出来るだけ声を弾ませ、笑顔を作ってみせた。

「オペラ座も誘ってくれて嬉しいわ! 楽しみね!」

「お姉様・・・。僕の前では無理しなくてもいいですよ?」

憐れみの籠った目を向けるマイケル。母親そっくりだ。

「泣いたっていいですよ、お姉様・・・って、え? ミランダちゃん?」

マイケルは驚いたように目を丸くした。
いつの間にかレオナルドが私とマイケルの間に入り込んでおり、マイケルの手を私の手から振り払った。
そして、私の膝の上に座ると、両手を組んでフンッとのけ反った。

「???」

自分を牽制するような女の子の態度にマイケルはキョトンと首を傾げた。

「気にしないで、マイケル。この子、わたくしにとっても懐いてちゃって、ホホホ!」

私は笑ってその場を誤魔化した。それを見て、マイケルは急に優しい顔になった。

「お母様が言っていました。この子のお陰でお姉様が元気そうだって。本当にそうみたいだ。良かった・・・。ありがとう、ミランダちゃん」

マイケルはふんぞり返っているレオナルドの頭を優しく撫でた。

「それにしても、僕はレオナルド殿下を許せません。王家に忠誠を誓う騎士になるわけですから、こんなことを言ってはいけないことは分かっています。けれど、暫くはレオナルド殿下のお顔は見たくありません。まあ、どうせ学院在学中はお会いすることはありませんけどねっ!」

レオナルドの本人の頭を撫でながら、マイケルはプリプリと怒る。レオナルドがどんな顔をしているのか気になって仕方がない。

「でも、これで僕は腹を決めましたよ。お姉様が嫁ぐからレオナルド殿下にお仕えする騎士になろうと思っていましたけど止めます。僕は将来、フェルナン王太子殿下をお支えする騎士になります!」

マイケルはフンッと鼻息荒く、ガッツポーズをして見せた。

「え、ええ・・・、それが、いいわ・・・」

私は吹き出しそうなのを必死に堪えて頷いた。レオナルドがキッと私に振り向いたが、こっちは笑いを耐えるのが精一杯。目を合わせたら絶対吹き出してしまうので、慌てて目を逸らした。


☆彡


「笑い過ぎだぞ! エリーゼ!!」

マイケルが部屋から出て行った後、私は笑いを堪え切れず、ソファに突っ伏して大笑いしていた。そんな私をレオナルドは仁王立ちして睨んでいる。

「だって・・・だって・・・、可笑しくて・・・、本人の前で・・・、アハハ、お腹・・・痛い・・・」

「マイケルの奴も何なんだ! あの言い方! 小さい頃、一緒に遊んでやったこともあるのに!」

「マイケルのこと・・・、わ、悪く・・・思わないでください・・・ませ。姉想いの、いい子でしょう? ププッ!」

笑いを一生懸命止めようとするのだが、プリプリ怒っているレオナルドを見ると、笑いがぶり返してきてしまい、止まらない。

「いい加減、笑い止め!」

「はい、分かって、ます・・・。ふふふっ!」

私は目尻を拭きながら立ち上がると、レオナルドをヒョイッと抱き上げた。

「マイケルのことは許してくださいませ。ご機嫌直してくださいな。おやつの時間にはまだ早いですけど、甘いものでも召し上がる?」

レオナルドはプイッと顔を背けた。

「もう。どうすればご機嫌がよくなるの?」

「ブランコ・・・」

「え?」

「ブランコに乗れば直るかも・・・」

レオナルドは顔を背けたままボソッと呟いた。

「ふふ、じゃあ、ブランコに乗りましょう! お一人でお乗りになれる? 背中を押してあげますわね」
「嫌だ! お前に押されるなんて、嫌な予感しかしない!」
「失礼ねっ」
「身の危険を感じるから、お前と一緒に乗る! 一緒なら落とされることもないしな!」
「いくら殿下にたくさん恨みがあるからって、落とすなんて乱暴なことはしませんわよ?」
「信用ならん! 一緒に乗る!」
「はいはい、分かりました」

そんなことを話しながら、私たちは庭園のブランコまで手を繋いで歩いて行った。

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