63 / 97
62
しおりを挟む
「ところで、こちらの小さい女の子は?」
マイケルは私の隣に座っているレオナルドを見て尋ねた。
「ああ、この子? この子は・・・」
「この子はエリーゼのお友達のお嬢様で、ミランダちゃんというのよ。可愛いでしょう?!」
ここも私よりも先に母が弾んだ調子で答える。
「お姉様のお友達?」
「ちょっと事情がお有りのようで、今だけエリーゼが預かっているのよ。貴方もご挨拶なさい。はい~、ミランダちゃん~~、いらっしゃ~い」
母はそう言うと、私たちの傍にやって来て、レオナルド抱き上げた。
レオナルドは不審そうな顔をしている。嫌な予感でもしているのか?
果たして、その嫌な予感は当たった。
「ほら、マイケル」
母はマイケルにレオナルドを渡した。マイケルは驚いたようだが、満面な笑みの母の手前、拒絶することもできず、レオナルドを受け取った。
レオナルドは半目の顔で私の方に振り向いた。
〔え・が・お!〕
私は人差し指で自分の口角を上げて見せる。レオナルドは渋々小さく頷くと、パアッと花の咲いたような笑顔をマイケルに向けた。
「わあ、可愛い子ですね! よろしく! ミランダ嬢」
マイケルはレオナルドの手を取ると、その甲にチュッとキスをした。
レオナルドの髪が一瞬総毛立って見えたのは気のせいか?
私は可笑しくって、下を向いて笑いを堪えるのに必死だった。
☆彡
夕方からマイケルと出かけることが決まったので、それまでは母が彼を独占することになり、二人揃って庭園に散歩に出かけた。
「弟と二人だけでオペラ座へ行くのか?」
私の部屋に戻り、二人きりになった途端、レオナルドは少し不機嫌な様子で私に話しかけてきた。
「うーん、こればかりは仕方がありませんわね・・・。殿下を一人残していくのは不安なので、本当はお連れしたいところだけれど、マイケルと一緒なのでわたくしは変装するわけにはいきませんし・・・」
私は首を捻った。
「このわたくしが幼児を連れているところを黒幕に見られたら、確実に疑われそうではありませんか? いくらミランダちゃんのお姿であっても」
「そうだが・・・」
レオナルドは渋い顔をしたままだ。
「しかも、オペラ座。そもそも幼児は入場できません」
「だったら、行かなくたって・・・」
不貞腐れたようにレオナルドは目を伏せた。
「何をおっしゃっているの。マイケルは貴重なお休みを、誰かさんのせいで憔悴しきっている姉を心配してわざわざ帰って来てくれたのですよ? その親切を無にするわけにはいきません」
「実際は憔悴なんてしていないのに・・・」
ブツブツ呟くレオナルド。しつこいな。
「パトリシアに世話をさせますから、良い子にお留守番なさっていてくださいませ。よろしいですわね?」
気に入らないのか、レオナルドはフイッと顔を背けたが、
「・・・早く帰るんだぞ」
蚊の鳴くような声でそう言った。
☆彡
昼食後、やっと母に解放されたのか、マイケルが私の部屋にやって来た。
「お姉様。本当に大丈夫ですか?」
部屋に入るなり、神妙な顔で私を見る。
「元気そうにされていますけど、本当はお辛いのじゃないかって・・・。僕、心配で・・・」
弟のマイケルは容姿も中身も母譲り。容姿だけ母親似で、中身は父親似の私のような腹黒さは持っておらず、とても純粋だ。
私はマイケルの手を引き、ソファに座らせると、そのまま隣に腰かけた。
「ありがとう、マイケル。わたくしが婚約破棄なんて驚いたでしょう? ごめんなさいね、心配をかけて。でも、わたくしは本当に大丈夫なのよ」
「でも・・・」
「それは、もちろん驚きはしたけれど。でも、殿下とは上手くいっていなかったのだから仕方がないわ」
「だからって!!」
マイケルは声を荒げた。
「あんな、あんな夜会の場で! 大勢の人の前で婚約破棄を言い渡すなんて! レオナルド殿下は酷過ぎます! お姉様が笑いものにして楽しんでいるとしか思えない!」
マイケルは私の両手をギュッと握り、ギリッと歯を喰いしばった。
「僕が・・・、僕がその場にいたら・・・、お姉様をお守りできたのに・・・」
うーん、その場にいなかったのだから、その時の雰囲気まで知らないのは仕方がない。実際は、私が畳みかけたせいで、レオナルドは引くに引けなくなったというのが正解なのだが・・・。
まあ、それでも、あの場で婚約破棄を言い放てば、その後、破棄された婚約者が笑いものになるのは至極当然。まともな人間なら一秒も考えずとも分かるはず。それを怠ったのは確かにレオナルドだ。
しかし、本当のところ、私が確信犯だと知ったら、この可愛い弟は姉をどう思うだろう?
マイケルは私の隣に座っているレオナルドを見て尋ねた。
「ああ、この子? この子は・・・」
「この子はエリーゼのお友達のお嬢様で、ミランダちゃんというのよ。可愛いでしょう?!」
ここも私よりも先に母が弾んだ調子で答える。
「お姉様のお友達?」
「ちょっと事情がお有りのようで、今だけエリーゼが預かっているのよ。貴方もご挨拶なさい。はい~、ミランダちゃん~~、いらっしゃ~い」
母はそう言うと、私たちの傍にやって来て、レオナルド抱き上げた。
レオナルドは不審そうな顔をしている。嫌な予感でもしているのか?
果たして、その嫌な予感は当たった。
「ほら、マイケル」
母はマイケルにレオナルドを渡した。マイケルは驚いたようだが、満面な笑みの母の手前、拒絶することもできず、レオナルドを受け取った。
レオナルドは半目の顔で私の方に振り向いた。
〔え・が・お!〕
私は人差し指で自分の口角を上げて見せる。レオナルドは渋々小さく頷くと、パアッと花の咲いたような笑顔をマイケルに向けた。
「わあ、可愛い子ですね! よろしく! ミランダ嬢」
マイケルはレオナルドの手を取ると、その甲にチュッとキスをした。
レオナルドの髪が一瞬総毛立って見えたのは気のせいか?
私は可笑しくって、下を向いて笑いを堪えるのに必死だった。
☆彡
夕方からマイケルと出かけることが決まったので、それまでは母が彼を独占することになり、二人揃って庭園に散歩に出かけた。
「弟と二人だけでオペラ座へ行くのか?」
私の部屋に戻り、二人きりになった途端、レオナルドは少し不機嫌な様子で私に話しかけてきた。
「うーん、こればかりは仕方がありませんわね・・・。殿下を一人残していくのは不安なので、本当はお連れしたいところだけれど、マイケルと一緒なのでわたくしは変装するわけにはいきませんし・・・」
私は首を捻った。
「このわたくしが幼児を連れているところを黒幕に見られたら、確実に疑われそうではありませんか? いくらミランダちゃんのお姿であっても」
「そうだが・・・」
レオナルドは渋い顔をしたままだ。
「しかも、オペラ座。そもそも幼児は入場できません」
「だったら、行かなくたって・・・」
不貞腐れたようにレオナルドは目を伏せた。
「何をおっしゃっているの。マイケルは貴重なお休みを、誰かさんのせいで憔悴しきっている姉を心配してわざわざ帰って来てくれたのですよ? その親切を無にするわけにはいきません」
「実際は憔悴なんてしていないのに・・・」
ブツブツ呟くレオナルド。しつこいな。
「パトリシアに世話をさせますから、良い子にお留守番なさっていてくださいませ。よろしいですわね?」
気に入らないのか、レオナルドはフイッと顔を背けたが、
「・・・早く帰るんだぞ」
蚊の鳴くような声でそう言った。
☆彡
昼食後、やっと母に解放されたのか、マイケルが私の部屋にやって来た。
「お姉様。本当に大丈夫ですか?」
部屋に入るなり、神妙な顔で私を見る。
「元気そうにされていますけど、本当はお辛いのじゃないかって・・・。僕、心配で・・・」
弟のマイケルは容姿も中身も母譲り。容姿だけ母親似で、中身は父親似の私のような腹黒さは持っておらず、とても純粋だ。
私はマイケルの手を引き、ソファに座らせると、そのまま隣に腰かけた。
「ありがとう、マイケル。わたくしが婚約破棄なんて驚いたでしょう? ごめんなさいね、心配をかけて。でも、わたくしは本当に大丈夫なのよ」
「でも・・・」
「それは、もちろん驚きはしたけれど。でも、殿下とは上手くいっていなかったのだから仕方がないわ」
「だからって!!」
マイケルは声を荒げた。
「あんな、あんな夜会の場で! 大勢の人の前で婚約破棄を言い渡すなんて! レオナルド殿下は酷過ぎます! お姉様が笑いものにして楽しんでいるとしか思えない!」
マイケルは私の両手をギュッと握り、ギリッと歯を喰いしばった。
「僕が・・・、僕がその場にいたら・・・、お姉様をお守りできたのに・・・」
うーん、その場にいなかったのだから、その時の雰囲気まで知らないのは仕方がない。実際は、私が畳みかけたせいで、レオナルドは引くに引けなくなったというのが正解なのだが・・・。
まあ、それでも、あの場で婚約破棄を言い放てば、その後、破棄された婚約者が笑いものになるのは至極当然。まともな人間なら一秒も考えずとも分かるはず。それを怠ったのは確かにレオナルドだ。
しかし、本当のところ、私が確信犯だと知ったら、この可愛い弟は姉をどう思うだろう?
66
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。
傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。
そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。
自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。
絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。
次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。
オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。
それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが…
ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。
自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。
正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。
そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが…
※カクヨム、なろうでも投稿しています。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる