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「そろそろ昼食時だぞ?」

膝の上に座っているレオナルドに声を掛けられて、私は我に返った。
庇うような真似をされ、不覚にもレオナルドを見入っていた。

「そ、そうですわね、お腹が空きましたわね!」
「?」

誤魔化すように、馬車の窓から外に視線を移した。すると、そこは昨日と同じセントラルパークの前だった。

「殿下! セントラルパークですわ!」
「本当か?!」

レオナルドも声を上げて窓から外を覗いた。
セントラルパークの何がそんなに珍しいのかと、ライナスは不思議そうな顔をしている。

「ライナス様! お手数ですが、そこの小窓から御者に馬車を停めるように伝えて下さる? わたくし達、セントラルパークでランチをしますわ!」

「は? セントラルパークで? 何を言っている?」

ライナスは怪訝な顔をしたが、

「早くしろ! ライナス!」

レオナルドにも嬉々とした笑顔で命令され、仕方がなくトミーに指示を出した。
しかし、いざ馬車を降りる段階になって、ライナスに止められた。

「ちょっと、待ってください、殿下。公園で婦人と二人きりなんて無防備です!」

「大丈夫だ! なんのために変装していると思っているんだ!」

「公園で遊ぶためではないでしょう! 用心なさってください!」

ライナスの正論に、レオナルドはプクーッと頬を膨らます。

「だったら、ライナス様が護衛して下さればよろしいでしょう? ご一緒にいかが?」

私は魅力的なランチを前に、無駄に言い争いを避けるべく、不本意であるがライナスを誘った。

「は? 俺も?!」
「え~・・・」

目を丸くするライナスに対して、レオナルドは何故か渋い顔をする。私が渋るなら分かるが、何故にレオナルドがガッカリした顔になるのか?

「ライナス様がご一緒なら心強いですわ。ね? 殿下?」

私は意味ありげにレオナルドに片目を閉じて見せた。レオナルドはそれに気が付き、私に小さく頷くと、ライナスに向かってパァっと顔を輝かせた。

「そうだとも! ライナス! お前も一緒だととーっても心強いなあ!! 一緒に昼食を取らないかぁ!?」

若干棒読みなところが気になったが、ライナスには効果があったようだ。

「そ、そうですかぁ? しかたがないですね、ならば、お供しましょう」

こうして許可が下りたので、私たち三人仲良く(?)公園に向かった。


☆彡


「今日は何にしようかしら? 昨日のホットドックも美味しかったわ、もう一度食べたいくらい」
「俺は、肉の串焼きがいい!」
「二歳児の女の子が召し上がるにはワイルド過ぎません?」
「でも、昨日も気になっていたんだ!」

そんなことを話しながら、私はレオナルドの手を引き、ルンルンとご機嫌に公園内を歩く。その後ろをライナスが付いて来る。世間から見たら、まるで仲良し親子に見えるだろう。

いろいろな屋台が並んでいる広場に出ると、レオナルドは私の手を引っ張り、走り出した。

「ちょっと、殿・・・ミランダちゃん! 走ったら危ないですわ! そんなに急がなくても屋台は逃げませんわよ?!」
「屋台は逃げなくても、売り切れてしまったら食べられないぞ! あんなに人がいる!」
「ハッ! そうですわね! 急ぎましょう!」

私はレオナルドを抱き上げると、屋台に向かって走り出した。

「お、おい! 何をして・・・? 子供抱えて走るな! 危ないって!!」

後ろからライナスの声が聞こえるが、当然のごとく無視。小走りで、レオナルドのお目当てである串焼きの屋台まで駆けて行った。

行列に並び、目的の物を購入すると、私たちはパラソル付きのテーブルに着いた。
私はレオナルドのドレスが汚れないように、紙ナプキンを広げ、首元にエプロン代わりに付けてから、レオナルドに串焼きの肉を渡した。

「ほら、ちゃんと持ってください。落とさないように。串の先にご注意なさってね」

レオナルドはホクホク顔で串焼きを受け取ると、思いっきり肉にかぶり付いた。

「美味い! 美味いぞ!」
「本当? それはようございました」
「エリーゼも早く食べてみろ!」

私は同じ肉を白パンにはさんだ物を購入済み。包みを開くと肉の焼けた香ばしい香りとスパイスの香りがパッと広がる。食欲をそそる匂いだ。早速、口にした。

「ん~~~! 美味しい~~!」

私は思わず、手を頬に当てる。

「だろう?!」
「グッジョブです! 殿下! 最高!」

レオナルドと私は同時に手を挙げ、パチンとハイタッチを交わした。

そんな私たちの様子を、同じ串焼きを片手に持ったライナスが、口を半開きにしてポカンと見つめていた。

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