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翌朝、早い時間にまたアランから手紙が来た。昼頃にまた同じ場所で会いたいという旨が書かれていた。
早速新たな報告があるのか。事態が急転したのか?
私たちは期待と緊張を胸に、待ち合わせ場所に向かった。

昨日と同じ場所で馬車が停まる。
アランはトミーと話をしているのか、なかなか馬車の扉が開かない。

「失礼します」

やっと扉が開いたと思ったら、聞こえてきた声がアランではない。一瞬、体中に緊張が走る。咄嗟にレオナルドを隠すように抱きしめ、乗り込んできた男を見た。

「ライナス様・・・?!」

私は目を見張った。目の前の座席にゆっくり腰を下ろした男は、ライナス・クローリー侯爵子息。レオナルドの側近だ。

「ライナス? ライナスか?!」

レオナルドは抱きしめている私の肩越しから顔をピョンと出した。

「で、殿下?! 本当に・・・本当に殿下なのですか?」

ライナスは挨拶も忘れて、二歳児のレオナルドに見入った。

「アランから話は聞いてはいたものの、どうしても、この目で確かめたくて・・・」

目には薄っすらと涙が浮かび、身体はフルフルと微かに震えている。

「心配をかけてすまなかったな、アラン」

「殿下・・・っ!! ご無事で・・・、ご無事で本当に良かった・・・!」

レオナルドが差し伸べた手をライナスはギュッと握りしめた。
だが、すぐに感極まって男泣きした涙をクイッと拭うと、今度は私をギロリと睨んだ。

「しかし、このようなお姿をされているなんて! 一体どういう事だ? エリーゼ嬢!!」

こともあろうに、この私に怒鳴ってきた。

「は? お薬を飲まれたからって聞いているのでしょう? 何をおっしゃっ・・・」
「違う!! 何故、殿下に女児の格好をさせているのかと聞いているのだ!!」

私の言葉を遮って怒鳴る。

「髪の色まで変えた上に、女装させるなんて! そこまでする必要がどこにある?! これは暴挙だ! 無礼にもほどがある!」

私は彼のあんまりな発言に、一瞬、ポカンとなりかけたが、すぐに我に返って睨み返した。

「必要があるからに決まっているでしょう! アラン様から経緯を聞いていらっしゃらないの? お二人の間でしっかりと情報共有なさってくださいませ!!」

このライナスという男は、レオナルドの一番の側近であり、一番親しい友人だ。レオナルドに対する忠誠心の高さは私も一目を置く。しかし、いかんせん、この男、私への傲慢無礼さが半端ではないのだ。自分は王子でもないくせに、レオナルドと同じ目線で私を見てくるのだ。

それは、自分の主人が嫌っている女だから軽視しているというだけではなく、彼の家系に寄るところ大いにある。同じ侯爵家という家柄でありながら、我がミレー家の当主はこの国の宰相であるのに対し、クローリー家当主は一大臣に過ぎない。クローリー一族がそれなりに栄華を極めた時代もあったようだが、それも今は昔。昨今は目立った活躍もなく、資金力や実力のある伯爵家に圧され気味でとても影が薄い。それこそ我が家の影にすっぽり隠れている状態なのだ。それが、息子のライナスは気に入らないらしい。

つまり、やっかみだ。そんな嫉妬も相交じり、私への敵対心は丸出しなのだ。

「まともに情報共有できないなんて、殿下の側近として如何なものかしら?」

私はツンッと顔を背けた。

「話は聞いている! 聞いているからこそ腹立たしいのだ! 何も女装させることはないだろう!? しかも、こんなにゴテゴテに飾り立てて・・・! 殿下を人形か何かと思っているのか!」

「ま、その辺に関して否定しませんわね。折角なら可愛らしくしたいですもの」
「おい・・・」

「なに!?」

「多少、わたくしの細やかな復讐も入っておりますから」
「やっぱりな・・・。そうだと思った・・・」

「何と!? 不埒千万!! いだっ・・・!」

ライナスは怒りに任せ、狭い車内で立ち上がり、天井に頭をぶつけて蹲った。バカか? こいつ・・・。

「大丈夫か・・・? ライナス」

レオナルドは心配そうに声を掛ける。

「エリーゼ嬢!」

ライナスはガバッと顔を上げると、レオナルドの言葉に返事をせず、再び私をギロッと睨んだ。

「貴女は事の重大さを分かっておられるのか?! よくも、そんなふざけたことを言えるな?! 遊び感覚で殿下をお守りしているのであれば、即刻、手を引かれよ!!」
「おい! ライナス!」

レオナルドは目を剥いたが、ライナスは聞いちゃいない。私を諫めるようにビシッと指を差した。

「分かりました。では、殿下は貴方様にお託しいたしますわ。どうぞ宜しく」

私はレオナルドをヒョイッ抱き上げると、ライナスに突き出した。

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