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「あ、そうだわ。噂と言えば・・・」
アランとの会話で、私は先日のパトゥール子爵夫人のことを思い出した。
「アラン様。わたくしたち、先日、『殿下が御執心のミランダ嬢に裏切られてとってもお怒りだ』という噂以外にもいろいろ耳にしましたのよ」
「俺は執心してない!」
レオナルドの突っ込みを無視して続ける。
「先ほどのお話の通り、殿下の婚約者の第一候補はクロウ家のレベッカ様であるだろうということ。けれど、レオナルド殿下にはお気に入りのご令嬢が、それはもうたーくさんいるので実際のところは分からないということ」
「気に入りなんておらんわっ!」
「しかし、とある子爵夫人の見立てによりますと、コクトー家のクリスタ様が有力なのではないかって」
「だから、知らないって言ってるだろっ! そんな令嬢!」
「コクトー家のクリスタ嬢が?」
アランは私の報告に首を傾げた。
「ええ。このように、常に殿下のお傍にいたというのに、まともに覚えてもらえないような、とても残念なご令嬢なのですが」
「ぐぬ・・・」
「ミランダ嬢の影に隠れるように殿下のお傍にいた、あの令嬢ですね。浮上してもおかしくはないかもしれません・・・」
アランは急に思案顔になった。
「ミランダ嬢とレベッカ嬢の圧が強すぎて、他の令嬢が近づけなった中、お一人だけその輪に入れていたわけですから。周りから見たら、お気に入りの一人と見られても当然ですね」
「でしょう?」
「う・・・」
「コクトー家か・・・。彼らは伯爵家とは言え、今は名ばかりでウィンター家の傘下です。この家も洗ってみるように、極秘部隊と連携を取ります。貴重な情報をありがとうございます、エリーゼ様」
アランは姿勢を正し、私に一礼した。
「いいえ。アラン様のお役に立てて何よりですわ」
私はにっこりと微笑んだ。
「それから、エリーゼ様。呪術師のザガリー殿からは何か連絡はありませんでしたか?」
「それが、あれ以降連絡がありませんの。もう一度、ザガリー様のもとをお訪ねしたいと思っているのですけれど・・・」
「それは、およしになった方がいい。ザガリー殿の家もウィンター家の奴等に見張られているかもしれません。幼児を連れて訪ねたら疑われます。いくら女児の姿とは言え」
「もちろん、殿下は連れて行きませんわ。わたくし一人で・・・」
「はぁあ?」
「ご婦人一人など、もっといけません!」
アランとレオナルドが同時に声を上げた。
「では、アラン様が付いてきてくださらない?」
「はああああ?」
「私ですか? 私がお供するのであれば・・・」
「ダメに決まっているだろう!!」
レオナルドはアランの言葉を遮り、身を乗り出した。そして、私に振り返ると、ギッと睨んだ。
「アランは俺の側近として身バレしいてるんだぞ! アランが一人、もしくは部下を引き連れて訪れるなら調査の一環と誤魔化せるが、お前を連れて行ったら怪しまれるに決まっているだろう!」
「もちろん、このように変装しますわよ?」
私は、金髪の長い髪を掴んで見せた。
「それでもダメだ!!」
「確かに・・・、変装されていても、私がご婦人を伴って訪れたら警戒されるでしょうね・・・」
アランは納得したように頷いた。
「ならば、アラン様も変装なさればよろしいのではありません? そうすれば、ただのカップルのお客に見えるのではないかしら?」
「カップルだぁあ?」
「あ! なるほど!」
目を剥くレオナルドに対し、ポンッと手を打つアラン。
「アラン様ってバレないように・・・、そうねぇ、ちょっとお腹周りを布切れでも入れて小太りにして、禿げのカツラを被って、チョビ髭付けて・・・」
「・・・おい」
「・・・禿げ・・・?」
うん、いい感じにイメージが沸いてきた。
「いかにも成金っていう風情で、『いくらでも金を積むから、希望の薬を作れ!』って言いそうな中年男なんて如何かしら? そんな男に寄り添う、金髪の若く美しい女性。絵に描いたような不倫カップルではごさいません!?」
これなら完璧だ! 絶対に殿下の事件と関わりある人物だなんて思われない!
それこそ、媚薬でも買い求めに来たバカップルに見えるのではないか?
「ハゲで・・・デブ・・。さらにチョビ髭って・・・。それのような恰好を私が・・・?」
「すまない、アラン・・・。こいつ、妄想癖があるんだ。無視してくれ」
「ちょっと! 良い案だと思いませんこと?」
呆れ顔の二人に腹が立ち、キッと睨む。すると、レオナルドが急に穏やかな顔になり、
「ああ、良い案だ、エリーゼ。でもダメだ」
まるで小さい子供を宥めるように私の肩をポンポンと軽く叩いた。何故、二歳児に小さい子共扱いされなければならないのだ!
「何故です!?」
「無駄に危険な目に遭う必要は無い。大人しくザガリーの知らせを待てばいい」
「でも~」
「アラン。ご苦労だった。もう城に戻っても構わない」
「はっ。では、今日はこれで。新しい情報が入りましたら、すぐに報告いたします」
「ちょっと、待って、アラン様! 良い案だと思いません??」
「失礼いたします。殿下、エリーゼ様」
「ちょっと! また無視?!」
アランは、私の呼びかけを完全無視して、逃げるように馬車から降りて行った。
自分は見た目がそこそこイケていることを自覚しているのか?
禿げでデブの中年男の格好をするのはプライドが許さないと見える。肝の小さい男め!
アランとの会話で、私は先日のパトゥール子爵夫人のことを思い出した。
「アラン様。わたくしたち、先日、『殿下が御執心のミランダ嬢に裏切られてとってもお怒りだ』という噂以外にもいろいろ耳にしましたのよ」
「俺は執心してない!」
レオナルドの突っ込みを無視して続ける。
「先ほどのお話の通り、殿下の婚約者の第一候補はクロウ家のレベッカ様であるだろうということ。けれど、レオナルド殿下にはお気に入りのご令嬢が、それはもうたーくさんいるので実際のところは分からないということ」
「気に入りなんておらんわっ!」
「しかし、とある子爵夫人の見立てによりますと、コクトー家のクリスタ様が有力なのではないかって」
「だから、知らないって言ってるだろっ! そんな令嬢!」
「コクトー家のクリスタ嬢が?」
アランは私の報告に首を傾げた。
「ええ。このように、常に殿下のお傍にいたというのに、まともに覚えてもらえないような、とても残念なご令嬢なのですが」
「ぐぬ・・・」
「ミランダ嬢の影に隠れるように殿下のお傍にいた、あの令嬢ですね。浮上してもおかしくはないかもしれません・・・」
アランは急に思案顔になった。
「ミランダ嬢とレベッカ嬢の圧が強すぎて、他の令嬢が近づけなった中、お一人だけその輪に入れていたわけですから。周りから見たら、お気に入りの一人と見られても当然ですね」
「でしょう?」
「う・・・」
「コクトー家か・・・。彼らは伯爵家とは言え、今は名ばかりでウィンター家の傘下です。この家も洗ってみるように、極秘部隊と連携を取ります。貴重な情報をありがとうございます、エリーゼ様」
アランは姿勢を正し、私に一礼した。
「いいえ。アラン様のお役に立てて何よりですわ」
私はにっこりと微笑んだ。
「それから、エリーゼ様。呪術師のザガリー殿からは何か連絡はありませんでしたか?」
「それが、あれ以降連絡がありませんの。もう一度、ザガリー様のもとをお訪ねしたいと思っているのですけれど・・・」
「それは、およしになった方がいい。ザガリー殿の家もウィンター家の奴等に見張られているかもしれません。幼児を連れて訪ねたら疑われます。いくら女児の姿とは言え」
「もちろん、殿下は連れて行きませんわ。わたくし一人で・・・」
「はぁあ?」
「ご婦人一人など、もっといけません!」
アランとレオナルドが同時に声を上げた。
「では、アラン様が付いてきてくださらない?」
「はああああ?」
「私ですか? 私がお供するのであれば・・・」
「ダメに決まっているだろう!!」
レオナルドはアランの言葉を遮り、身を乗り出した。そして、私に振り返ると、ギッと睨んだ。
「アランは俺の側近として身バレしいてるんだぞ! アランが一人、もしくは部下を引き連れて訪れるなら調査の一環と誤魔化せるが、お前を連れて行ったら怪しまれるに決まっているだろう!」
「もちろん、このように変装しますわよ?」
私は、金髪の長い髪を掴んで見せた。
「それでもダメだ!!」
「確かに・・・、変装されていても、私がご婦人を伴って訪れたら警戒されるでしょうね・・・」
アランは納得したように頷いた。
「ならば、アラン様も変装なさればよろしいのではありません? そうすれば、ただのカップルのお客に見えるのではないかしら?」
「カップルだぁあ?」
「あ! なるほど!」
目を剥くレオナルドに対し、ポンッと手を打つアラン。
「アラン様ってバレないように・・・、そうねぇ、ちょっとお腹周りを布切れでも入れて小太りにして、禿げのカツラを被って、チョビ髭付けて・・・」
「・・・おい」
「・・・禿げ・・・?」
うん、いい感じにイメージが沸いてきた。
「いかにも成金っていう風情で、『いくらでも金を積むから、希望の薬を作れ!』って言いそうな中年男なんて如何かしら? そんな男に寄り添う、金髪の若く美しい女性。絵に描いたような不倫カップルではごさいません!?」
これなら完璧だ! 絶対に殿下の事件と関わりある人物だなんて思われない!
それこそ、媚薬でも買い求めに来たバカップルに見えるのではないか?
「ハゲで・・・デブ・・。さらにチョビ髭って・・・。それのような恰好を私が・・・?」
「すまない、アラン・・・。こいつ、妄想癖があるんだ。無視してくれ」
「ちょっと! 良い案だと思いませんこと?」
呆れ顔の二人に腹が立ち、キッと睨む。すると、レオナルドが急に穏やかな顔になり、
「ああ、良い案だ、エリーゼ。でもダメだ」
まるで小さい子供を宥めるように私の肩をポンポンと軽く叩いた。何故、二歳児に小さい子共扱いされなければならないのだ!
「何故です!?」
「無駄に危険な目に遭う必要は無い。大人しくザガリーの知らせを待てばいい」
「でも~」
「アラン。ご苦労だった。もう城に戻っても構わない」
「はっ。では、今日はこれで。新しい情報が入りましたら、すぐに報告いたします」
「ちょっと、待って、アラン様! 良い案だと思いません??」
「失礼いたします。殿下、エリーゼ様」
「ちょっと! また無視?!」
アランは、私の呼びかけを完全無視して、逃げるように馬車から降りて行った。
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