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「パトゥール夫人。その・・・レオナルド殿下は? 殿下は新しい婚約者を決めることになるのでしょう?」
「そうそう! そこ! 新しい婚約者はどなたになるのかしら? 気になるわ!」
「以前のお話ではウィンター家のご令嬢とクロウ家のご令嬢が殿下のお気に入りというお話でしたわよね? きっとこのお二人を側妃に迎えるだろうって」
「まあ、では、どちらかのご令嬢が婚約者候補に? どちらも伯爵家でしたわよね?」
「侯爵家よりは見劣りするかもしれないけれど、かなりのお力をお持ちの家だっていうお話でしたわよね? パトゥール夫人?」
「どちらが正妃でどちらが側妃になるのかしら?! バトルが起きそうですわね!」

ご婦人方はキャイキャイ捲し立てている。とっても楽しそうだ。人のゴシップって見知らぬ人をここまで楽しませるものなのね。ある意味、社会的に貢献しているのかも。

レオナルドにケーキを食べさせながら、耳をひたすら大きくさせて会話に聞き入った。
その合間に自分もケーキを口にする。お勧めと言うだけあって、なかなか美味。

「それが、皆様! 大変な事が起こりましたのよ!!」

パトゥール子爵夫人の声のトーンが一段と高くなった。
しかし、次には少し前屈みになり、内緒話でもするかのように声のボリュームを落とした。

「実は、その殿下のお気に入りである二人のご令嬢の内のお一人、ウィンター伯爵家のミランダ様が失脚されましたの」

来た! ミランダネタ!

「え?!」
「嘘?!」
「何故!?」

ご婦人方も驚きを隠せない。

「何とも汚らわしい理由で・・・。このような所で話すお話ではないのですけれど・・・。彼女、殿下以外にも御執心だった殿方がいたようで、その殿方と仲睦まじくしている姿を多くの人に見られてしまいましたのよ」

「仲睦まじく・・・?」

「ええ。しかも宮殿の客間で事に及んで・・・」

パトゥール夫人の声が更に小さくなる。私はさらに耳をそばだてた。

「人に見つかっても気が付かないほど夢中だったとか・・・。それどころか、数人がかりで引き離さないといけないほど、その殿方を求めていたって」

「んま!! 信じられない!」
「なんて破廉恥な!」
「とんだ尻軽女でしたのね、そのご令嬢!」

ご婦人方は各々怒りの声を上げる。

〔引き離さないといけないほどって、どれだけ・・・? 危ないところでしたわね、殿下〕
〔・・・〕

レオナルドを見ると血の気が引いている。

「そんな身持ちの悪い女が殿下の正妃になれるわけがございませんでしょう? だからと言って、側妃にというわけにもいかないでしょう。いくら殿下の一番のお気に入りだったとしても。それにレオナルド殿下だって、彼女に裏切られて、それはそれは大変にお怒りだというお話ですわ」

〔はあぁぁあ? むぐっ・・・〕
〔お静かに〕

奇声を上げかけたレオナルドの口をナプキンで塞ぐ。

「そうなると、新たな婚約者の第一候補はクロウ伯爵家のレベッカ様でしょうね。でも、分かりませんわよ? 殿下のお気に入りのご令嬢は他にもおりますもの。ハサウェイ家のアニエス様でしょう、それにマーロウ家のロザリー様。後はコクトー家のクリスタ様、ロワール家のリリアナ様・・・他には・・・」

〔ま~、そんなにたくさん? すごいですわね、殿下〕
〔誰だ、そいつら・・・? 俺は知らんぞ・・・〕

「そんなにたくさんの女性が?」
「だって、レオナルド殿下はとても美しいですもの! ご身分だけでなく、そのご容姿からだって、相手は選り取り見取りですわぁ!」

〔ふっ・・・。うぐ・・・〕
〔失礼、お口にチョコレートが〕

ご婦人方に容姿を褒められて、満更でもなさそうに前髪をいじる仕草に、猛烈にイラッとくる。つい、乱暴にレオナルドの口元をナプキンで拭いた。

「でもね、皆様。わたくしはね、実のところ、レベッカ様ではなくて、コクトー家のクリスタ様が殿下の婚約者の第一候補になるのではないかと睨んでおりますのよ」

パトゥール夫人は大きな秘密でも教えるかのように、前のめりになった。

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