上 下
46 / 61

45

しおりを挟む
「って、おい! 大丈夫か?! お前だってバレたら・・・」

パトゥール子爵夫人の一行の後を追い始めた私に、レオナルドは驚いたようだ。

「変装しているから大丈夫ですわよ。アラン様だってわたくしだって気が付かなかったくらいですもの」

私はスタスタと彼女らの後を追う。

「おい! エリーゼ、待てって!」
「ちょ・・・、何ですか!」

レオナルドはいきなり両手で私の頬を挟み、無理やり自分に向かせた。

「ミランダの話よりもお前の・・・、お前のことをネタにされるかもしれない」

そう言うと、申し訳なさそうに目を伏せた。

「あ、そうでしたわ。わたくしも時の人でしたわね」

すっかり忘れていた。私は夜会の場で婚約破棄された女だった。巷のご婦人たちには格好のネタではないか。

「ふん、丁度いいではないですか。どのようにわたくしの事をお話しされるか聞きたいわ」

「何言ってるんだ。嫌な思いをするかもしれないぞ?」

「ご安心なさいませ、嫌な思いをするのは慣れておりますから。誰かさんのお陰でね」

私はレオナルドに向かってニッと笑って見せた。

「でも・・・」
「あ! お店に入ってしまうわ! 急ぎましょう!」
「って、おい!」

パトゥール夫人一行が一軒のカフェに入っていく。
私は小走りで彼女たちを追いかけ、同じカフェに入った。


☆彡


パトゥール子爵夫人が選んだカフェは、私のお気に入りのカフェの二軒隣だった。なかなかお洒落だが、私のお気に入りよりもラフな感じだ。そのせいか、客の入りも多く、賑やかで、ゴシップネタを話すのには適した場所かもしれない。

私はパトゥール夫人のグループ近くの席を陣取ることに成功した。しかも、運よく、パトゥール夫人を背中合わせにした真裏。

初めて訪れたカフェなので、本当ならばスイーツを吟味したいところ。しかし、気持ちはそれどころではない。適当にお勧めのケーキ二つと、コーヒーとオレンジジュースを注文した。

「俺もコーヒーがよかった!」
「二歳児が飲むものではございません」

駄々をこねるレオナルドにピシャリと言い放つと、その後は背後の会話に集中する。
席に着いたばかりなので、彼女たちの会話はまだ至って普通の世間話だ。

暫くすると、同じタイミングで、ご婦人方グループと我々のテーブルにケーキと飲み物が運ばれてきた。

ボーイが立ち去ると、まるでそれが合図だったかのように、パトゥール夫人が弾んだ声で話し出した。

「皆様! 今日はとっておきの話がございましてよ! 宮殿内の出来事ですので、皆様にはあまり縁のない事かと思いますが、お知りになりたいでしょう?」

驚いた。いきなり上からか! 大した夫人だ。

彼女自身は貴族であるが、所詮子爵夫人であり、自分自身も同格の子爵家の出身だ。
本来であるならば、よほど大きな夜会でなければ王宮から声が掛かる家ではない。しかし、彼女がこんなにも社交界に詳しいのは、自分の母親が侯爵家出身であり、その母親の縁故で上位貴族と繋がりを持っており、その伝手を駆使して、上位貴族の夜会にも上手く入り込んでいるのだ。

だが、ここ近年、その母親が隠居した上に、その母親と縁のあった人達も第一線から退き始めており、パトゥール夫人は微妙な立場にいる。必死に上位貴族社会に食らい付こうと躍起になっている最中で、名のある侯爵家夫人や上位伯爵家夫人に媚びへつらっている姿を見かけたことがある。
当然、我がミレー侯爵夫人である母にも近寄ろうとしていたが、母はもともと社交界を好まず、公の場に出ることがあまりない―――と言うよりも、父が母を表に出さないと言った方がいいか―――ために事なきを得ている。

「第三王子レオナルド殿下の婚約者であるエリーゼ・ミレー侯爵令嬢が、先日の夜会で殿下から婚約破棄を言い渡されましたのよ!」

やっぱり、最初は私の話題ね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。 「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」 彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。 (なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語) そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。 (……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの) 悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

『お前よりも好きな娘がいる』と婚約を破棄させられた令嬢は、最強の魔法使いだった~捨てた王子と解放した令嬢の結末~

キョウキョウ
恋愛
 公爵家の令嬢であるエレノア・アークライトは、王国第一王子アルフレッド・ローレンスと婚約していた。しかし、ある日アルフレッド王子から「他に好きな女性がいる」と告白され、婚約破棄を迫られます。  王子が好きだという相手は、平民だけど実力のあるヴァネッサ。彼女は優秀で、その才能を大事にしたいと言い出した。  実は、王国屈指の魔法の才能を持っていたエレノア。彼女は面倒を避けるため、目立たないように本当の実力を隠していた。婚約破棄をきっかけに、彼女は本当の実力を解放して、アルフレッドとヴァネッサに復讐することを決意する。  王国第二王子であるエドガー・ローレンスは、そんなエレノアを支え、彼女の味方となります。  果たしてエレノアは、アルフレッドとヴァネッサへの復讐を遂げることができるのでしょうか?  そして、エドガーとの関係は、どのように発展していくのでしょうか。エレノアの運命の行方は――。 ※設定ゆるめ、ご都合主義の作品です。 ※カクヨムにも掲載中です。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

処理中です...