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「殿下の側近でわたくしが連絡を取れる方となると、アラン様の一択ですわね・・・」
私は一人の男の名前を挙げた。
アランはラブーレ伯爵家の子息で、近衛隊に属している騎士だ。学院に通っている頃からのレオナルドの取巻きの一人。
「・・・なぜ、アランなんだ?」
私の人選が気に入らないのか、レオナルドは低い声で睨みつけてきた。
「なぜって、それこそなぜです? まさか、彼は信用ならないのですか?」
私は驚いて目を丸くした。
だって、有り得ない。彼はレオナルド自ら自分の専属の騎士に任命しているほど信頼を寄せている人物だ。
「そんなことない!」
レオナルドは怒ったように、フイッとそっぽを向いてしまった。
「なら、よろしいではないですか? わたくしが殿下の取巻きの・・・側付きの方でお話しできるのはあの方くらいですもの」
「だろうな! アイツはお前の気に入りだもんな!」
「はい?」
私は丸くなった目が更に丸くなった。
「別に、今更隠さなくたっていい! お前がアイツと親しかったのは知っている。在学中だって、騎士コースの鍛錬場によく見学に行っていたじゃないか。アイツが目当てだったのだろう?」
レオナルドは腕組みをして不機嫌そうにムスッとしている。
「あら、よくご存じで」
確かに、鍛錬場にはよく通っていた。学院の生徒達が鍛錬場を見学するのは自由で、筋骨隆々の騎士コースの生徒達が訓練する光景は、ご令嬢方にはたまらない娯楽の一つでもあったのだ。
私は特に剣術の稽古姿が好きだった。だからと言って、毎回、自ら率先して通うほどの熱もなければ、推していた生徒もいない。つまり、アランを目当てに行っていたわけではない。
それでも、毎日のように通っていたのは、当時仲良くしていたご令嬢のエミリー嬢がアラン推しだったのだ。私はそれに付き合わされていただけなのだ。
「鍛錬場でも仲良く話していたものな」
そうね、確かに。エミリーがアランと話したがって彼に突進する割には、側によると恥ずかしがって私の後ろに隠れてしまうから、主に私が話していたわね。
「差し入れだって、よく渡していたじゃないか」
そうね、それも、エミリーからの差し入れだけど。どうしてか私経由で渡していたわね、今思い出すと。面倒だったわ、そう言えば。
それにしても・・・。
「よくご存じでしたわね、殿下。見ていらしたのですか?」
レオナルドの肩がピクッと揺れた。
「ア、アイツは俺の側近だ! 側近の鍛錬している姿を見に行く時はある!」
「ふーん、そういうものですのね」
「そういうものだ!」
なぜか慌てて怒ったように言い訳をするレオナルドを不思議そうに見ると、彼はまたプイッとそっぽを向いてしまった。
「そうですか。まあ、それは置いておいて」
そっぽを向いた幼児を無視して、私は話を続けた。
「どうやって彼と連絡を取るか・・・」
「お前は俺との婚約破棄後に、アイツとの婚約を狙っていたんだろう?」
「はぁあ?」
あまりにも突拍子もない質問に、私は素っ頓狂な声を上げた。
「でも、アイツは近々、遠縁のご令嬢と婚約するそうだ。残念だったな!」
あら、そうなんだ・・・。それはそれは、エミリー、ご愁傷様。
って、違ーうっ!
ええ?! 何言ってんの?! こいつ!?
☆彡
私はレオナルドのあまりにも的外れな発言に、完全に言葉を失って、数秒固まってしまった。
「フンッ! 図星だったようだな。当てが外れて残念だっだな! ざまーみろ!」
そんな私の態度を見て、レオナルドは的外れどころか、的中したと感じ違いしたようだ。ケッと吐き捨てるように言った。
私はブルブルッと頭を振って、一瞬、ずーっと遠くに引きかけた気持ちを無理やり引き戻した。気持ちが戻って来ると、今度は沸々と心の底から怒りが沸いてきた。
今までどんなに腹が立っても、暴力だけは振るわないように心に誓っていたが、今回は限界だった。
「殿下・・・。わたくしを見くびるのもいい加減になさいまし・・・」
私はレオナルドを無理やり振り向かせると、両手で彼の両頬をギューッと抓った。
「痛っ! 痛い! 何をするっ! 放せっ!!」
突然のことにレオナルドは驚き、私の両手を必死に剥がそうと暴れた。
「本当に貴方という人は、どこまでわたくしを怒らせたら気が済みますの? まるでわたくしが他の殿方に心移りした尻軽女のような物言い。ずいぶんですわね」
私は手の力を強め、ギッと彼を睨みつけた。
「いぃぃ・・っ! ち、違うとでも!?」
レオナルドも睨みつけてくる。痛みからか、目に薄っすらと涙が浮かんできた。
「ええ、全然違います。わたくしは誰かさんと違って、自分の立場を理解しておりますので」
「じゃあ、なぜ、アイツだけ・・・、アイツにだけは、あんなに親しくしていたんだ!? いつも楽しそうに笑っていたくせにっ!」
「愛想笑いに決まっているでしょう!! 貴方の目は節穴ですかっ?!」
「あ、愛想・・・?」
「ああ、でも、あの方は本当に紳士です。とても礼儀正しくて、お話していても嫌な気持ちになる事はありません。だから、笑顔になるのは当然でしょう。あの方だけですから、殿下の側付きのご令息方の中で、礼儀正しく、まともにわたくしとお話ししてくれる方は!」
「え・・・?」
レオナルドの目が点になった。私の話の内容を理解できていないらしい。
私はフーっと大きく息を吐くと、レオナルドの頬から手を離した。
私は一人の男の名前を挙げた。
アランはラブーレ伯爵家の子息で、近衛隊に属している騎士だ。学院に通っている頃からのレオナルドの取巻きの一人。
「・・・なぜ、アランなんだ?」
私の人選が気に入らないのか、レオナルドは低い声で睨みつけてきた。
「なぜって、それこそなぜです? まさか、彼は信用ならないのですか?」
私は驚いて目を丸くした。
だって、有り得ない。彼はレオナルド自ら自分の専属の騎士に任命しているほど信頼を寄せている人物だ。
「そんなことない!」
レオナルドは怒ったように、フイッとそっぽを向いてしまった。
「なら、よろしいではないですか? わたくしが殿下の取巻きの・・・側付きの方でお話しできるのはあの方くらいですもの」
「だろうな! アイツはお前の気に入りだもんな!」
「はい?」
私は丸くなった目が更に丸くなった。
「別に、今更隠さなくたっていい! お前がアイツと親しかったのは知っている。在学中だって、騎士コースの鍛錬場によく見学に行っていたじゃないか。アイツが目当てだったのだろう?」
レオナルドは腕組みをして不機嫌そうにムスッとしている。
「あら、よくご存じで」
確かに、鍛錬場にはよく通っていた。学院の生徒達が鍛錬場を見学するのは自由で、筋骨隆々の騎士コースの生徒達が訓練する光景は、ご令嬢方にはたまらない娯楽の一つでもあったのだ。
私は特に剣術の稽古姿が好きだった。だからと言って、毎回、自ら率先して通うほどの熱もなければ、推していた生徒もいない。つまり、アランを目当てに行っていたわけではない。
それでも、毎日のように通っていたのは、当時仲良くしていたご令嬢のエミリー嬢がアラン推しだったのだ。私はそれに付き合わされていただけなのだ。
「鍛錬場でも仲良く話していたものな」
そうね、確かに。エミリーがアランと話したがって彼に突進する割には、側によると恥ずかしがって私の後ろに隠れてしまうから、主に私が話していたわね。
「差し入れだって、よく渡していたじゃないか」
そうね、それも、エミリーからの差し入れだけど。どうしてか私経由で渡していたわね、今思い出すと。面倒だったわ、そう言えば。
それにしても・・・。
「よくご存じでしたわね、殿下。見ていらしたのですか?」
レオナルドの肩がピクッと揺れた。
「ア、アイツは俺の側近だ! 側近の鍛錬している姿を見に行く時はある!」
「ふーん、そういうものですのね」
「そういうものだ!」
なぜか慌てて怒ったように言い訳をするレオナルドを不思議そうに見ると、彼はまたプイッとそっぽを向いてしまった。
「そうですか。まあ、それは置いておいて」
そっぽを向いた幼児を無視して、私は話を続けた。
「どうやって彼と連絡を取るか・・・」
「お前は俺との婚約破棄後に、アイツとの婚約を狙っていたんだろう?」
「はぁあ?」
あまりにも突拍子もない質問に、私は素っ頓狂な声を上げた。
「でも、アイツは近々、遠縁のご令嬢と婚約するそうだ。残念だったな!」
あら、そうなんだ・・・。それはそれは、エミリー、ご愁傷様。
って、違ーうっ!
ええ?! 何言ってんの?! こいつ!?
☆彡
私はレオナルドのあまりにも的外れな発言に、完全に言葉を失って、数秒固まってしまった。
「フンッ! 図星だったようだな。当てが外れて残念だっだな! ざまーみろ!」
そんな私の態度を見て、レオナルドは的外れどころか、的中したと感じ違いしたようだ。ケッと吐き捨てるように言った。
私はブルブルッと頭を振って、一瞬、ずーっと遠くに引きかけた気持ちを無理やり引き戻した。気持ちが戻って来ると、今度は沸々と心の底から怒りが沸いてきた。
今までどんなに腹が立っても、暴力だけは振るわないように心に誓っていたが、今回は限界だった。
「殿下・・・。わたくしを見くびるのもいい加減になさいまし・・・」
私はレオナルドを無理やり振り向かせると、両手で彼の両頬をギューッと抓った。
「痛っ! 痛い! 何をするっ! 放せっ!!」
突然のことにレオナルドは驚き、私の両手を必死に剥がそうと暴れた。
「本当に貴方という人は、どこまでわたくしを怒らせたら気が済みますの? まるでわたくしが他の殿方に心移りした尻軽女のような物言い。ずいぶんですわね」
私は手の力を強め、ギッと彼を睨みつけた。
「いぃぃ・・っ! ち、違うとでも!?」
レオナルドも睨みつけてくる。痛みからか、目に薄っすらと涙が浮かんできた。
「ええ、全然違います。わたくしは誰かさんと違って、自分の立場を理解しておりますので」
「じゃあ、なぜ、アイツだけ・・・、アイツにだけは、あんなに親しくしていたんだ!? いつも楽しそうに笑っていたくせにっ!」
「愛想笑いに決まっているでしょう!! 貴方の目は節穴ですかっ?!」
「あ、愛想・・・?」
「ああ、でも、あの方は本当に紳士です。とても礼儀正しくて、お話していても嫌な気持ちになる事はありません。だから、笑顔になるのは当然でしょう。あの方だけですから、殿下の側付きのご令息方の中で、礼儀正しく、まともにわたくしとお話ししてくれる方は!」
「え・・・?」
レオナルドの目が点になった。私の話の内容を理解できていないらしい。
私はフーっと大きく息を吐くと、レオナルドの頬から手を離した。
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