39 / 97
38
しおりを挟む
「殿下の側近でわたくしが連絡を取れる方となると、アラン様の一択ですわね・・・」
私は一人の男の名前を挙げた。
アランはラブーレ伯爵家の子息で、近衛隊に属している騎士だ。学院に通っている頃からのレオナルドの取巻きの一人。
「・・・なぜ、アランなんだ?」
私の人選が気に入らないのか、レオナルドは低い声で睨みつけてきた。
「なぜって、それこそなぜです? まさか、彼は信用ならないのですか?」
私は驚いて目を丸くした。
だって、有り得ない。彼はレオナルド自ら自分の専属の騎士に任命しているほど信頼を寄せている人物だ。
「そんなことない!」
レオナルドは怒ったように、フイッとそっぽを向いてしまった。
「なら、よろしいではないですか? わたくしが殿下の取巻きの・・・側付きの方でお話しできるのはあの方くらいですもの」
「だろうな! アイツはお前の気に入りだもんな!」
「はい?」
私は丸くなった目が更に丸くなった。
「別に、今更隠さなくたっていい! お前がアイツと親しかったのは知っている。在学中だって、騎士コースの鍛錬場によく見学に行っていたじゃないか。アイツが目当てだったのだろう?」
レオナルドは腕組みをして不機嫌そうにムスッとしている。
「あら、よくご存じで」
確かに、鍛錬場にはよく通っていた。学院の生徒達が鍛錬場を見学するのは自由で、筋骨隆々の騎士コースの生徒達が訓練する光景は、ご令嬢方にはたまらない娯楽の一つでもあったのだ。
私は特に剣術の稽古姿が好きだった。だからと言って、毎回、自ら率先して通うほどの熱もなければ、推していた生徒もいない。つまり、アランを目当てに行っていたわけではない。
それでも、毎日のように通っていたのは、当時仲良くしていたご令嬢のエミリー嬢がアラン推しだったのだ。私はそれに付き合わされていただけなのだ。
「鍛錬場でも仲良く話していたものな」
そうね、確かに。エミリーがアランと話したがって彼に突進する割には、側によると恥ずかしがって私の後ろに隠れてしまうから、主に私が話していたわね。
「差し入れだって、よく渡していたじゃないか」
そうね、それも、エミリーからの差し入れだけど。どうしてか私経由で渡していたわね、今思い出すと。面倒だったわ、そう言えば。
それにしても・・・。
「よくご存じでしたわね、殿下。見ていらしたのですか?」
レオナルドの肩がピクッと揺れた。
「ア、アイツは俺の側近だ! 側近の鍛錬している姿を見に行く時はある!」
「ふーん、そういうものですのね」
「そういうものだ!」
なぜか慌てて怒ったように言い訳をするレオナルドを不思議そうに見ると、彼はまたプイッとそっぽを向いてしまった。
「そうですか。まあ、それは置いておいて」
そっぽを向いた幼児を無視して、私は話を続けた。
「どうやって彼と連絡を取るか・・・」
「お前は俺との婚約破棄後に、アイツとの婚約を狙っていたんだろう?」
「はぁあ?」
あまりにも突拍子もない質問に、私は素っ頓狂な声を上げた。
「でも、アイツは近々、遠縁のご令嬢と婚約するそうだ。残念だったな!」
あら、そうなんだ・・・。それはそれは、エミリー、ご愁傷様。
って、違ーうっ!
ええ?! 何言ってんの?! こいつ!?
☆彡
私はレオナルドのあまりにも的外れな発言に、完全に言葉を失って、数秒固まってしまった。
「フンッ! 図星だったようだな。当てが外れて残念だっだな! ざまーみろ!」
そんな私の態度を見て、レオナルドは的外れどころか、的中したと感じ違いしたようだ。ケッと吐き捨てるように言った。
私はブルブルッと頭を振って、一瞬、ずーっと遠くに引きかけた気持ちを無理やり引き戻した。気持ちが戻って来ると、今度は沸々と心の底から怒りが沸いてきた。
今までどんなに腹が立っても、暴力だけは振るわないように心に誓っていたが、今回は限界だった。
「殿下・・・。わたくしを見くびるのもいい加減になさいまし・・・」
私はレオナルドを無理やり振り向かせると、両手で彼の両頬をギューッと抓った。
「痛っ! 痛い! 何をするっ! 放せっ!!」
突然のことにレオナルドは驚き、私の両手を必死に剥がそうと暴れた。
「本当に貴方という人は、どこまでわたくしを怒らせたら気が済みますの? まるでわたくしが他の殿方に心移りした尻軽女のような物言い。ずいぶんですわね」
私は手の力を強め、ギッと彼を睨みつけた。
「いぃぃ・・っ! ち、違うとでも!?」
レオナルドも睨みつけてくる。痛みからか、目に薄っすらと涙が浮かんできた。
「ええ、全然違います。わたくしは誰かさんと違って、自分の立場を理解しておりますので」
「じゃあ、なぜ、アイツだけ・・・、アイツにだけは、あんなに親しくしていたんだ!? いつも楽しそうに笑っていたくせにっ!」
「愛想笑いに決まっているでしょう!! 貴方の目は節穴ですかっ?!」
「あ、愛想・・・?」
「ああ、でも、あの方は本当に紳士です。とても礼儀正しくて、お話していても嫌な気持ちになる事はありません。だから、笑顔になるのは当然でしょう。あの方だけですから、殿下の側付きのご令息方の中で、礼儀正しく、まともにわたくしとお話ししてくれる方は!」
「え・・・?」
レオナルドの目が点になった。私の話の内容を理解できていないらしい。
私はフーっと大きく息を吐くと、レオナルドの頬から手を離した。
私は一人の男の名前を挙げた。
アランはラブーレ伯爵家の子息で、近衛隊に属している騎士だ。学院に通っている頃からのレオナルドの取巻きの一人。
「・・・なぜ、アランなんだ?」
私の人選が気に入らないのか、レオナルドは低い声で睨みつけてきた。
「なぜって、それこそなぜです? まさか、彼は信用ならないのですか?」
私は驚いて目を丸くした。
だって、有り得ない。彼はレオナルド自ら自分の専属の騎士に任命しているほど信頼を寄せている人物だ。
「そんなことない!」
レオナルドは怒ったように、フイッとそっぽを向いてしまった。
「なら、よろしいではないですか? わたくしが殿下の取巻きの・・・側付きの方でお話しできるのはあの方くらいですもの」
「だろうな! アイツはお前の気に入りだもんな!」
「はい?」
私は丸くなった目が更に丸くなった。
「別に、今更隠さなくたっていい! お前がアイツと親しかったのは知っている。在学中だって、騎士コースの鍛錬場によく見学に行っていたじゃないか。アイツが目当てだったのだろう?」
レオナルドは腕組みをして不機嫌そうにムスッとしている。
「あら、よくご存じで」
確かに、鍛錬場にはよく通っていた。学院の生徒達が鍛錬場を見学するのは自由で、筋骨隆々の騎士コースの生徒達が訓練する光景は、ご令嬢方にはたまらない娯楽の一つでもあったのだ。
私は特に剣術の稽古姿が好きだった。だからと言って、毎回、自ら率先して通うほどの熱もなければ、推していた生徒もいない。つまり、アランを目当てに行っていたわけではない。
それでも、毎日のように通っていたのは、当時仲良くしていたご令嬢のエミリー嬢がアラン推しだったのだ。私はそれに付き合わされていただけなのだ。
「鍛錬場でも仲良く話していたものな」
そうね、確かに。エミリーがアランと話したがって彼に突進する割には、側によると恥ずかしがって私の後ろに隠れてしまうから、主に私が話していたわね。
「差し入れだって、よく渡していたじゃないか」
そうね、それも、エミリーからの差し入れだけど。どうしてか私経由で渡していたわね、今思い出すと。面倒だったわ、そう言えば。
それにしても・・・。
「よくご存じでしたわね、殿下。見ていらしたのですか?」
レオナルドの肩がピクッと揺れた。
「ア、アイツは俺の側近だ! 側近の鍛錬している姿を見に行く時はある!」
「ふーん、そういうものですのね」
「そういうものだ!」
なぜか慌てて怒ったように言い訳をするレオナルドを不思議そうに見ると、彼はまたプイッとそっぽを向いてしまった。
「そうですか。まあ、それは置いておいて」
そっぽを向いた幼児を無視して、私は話を続けた。
「どうやって彼と連絡を取るか・・・」
「お前は俺との婚約破棄後に、アイツとの婚約を狙っていたんだろう?」
「はぁあ?」
あまりにも突拍子もない質問に、私は素っ頓狂な声を上げた。
「でも、アイツは近々、遠縁のご令嬢と婚約するそうだ。残念だったな!」
あら、そうなんだ・・・。それはそれは、エミリー、ご愁傷様。
って、違ーうっ!
ええ?! 何言ってんの?! こいつ!?
☆彡
私はレオナルドのあまりにも的外れな発言に、完全に言葉を失って、数秒固まってしまった。
「フンッ! 図星だったようだな。当てが外れて残念だっだな! ざまーみろ!」
そんな私の態度を見て、レオナルドは的外れどころか、的中したと感じ違いしたようだ。ケッと吐き捨てるように言った。
私はブルブルッと頭を振って、一瞬、ずーっと遠くに引きかけた気持ちを無理やり引き戻した。気持ちが戻って来ると、今度は沸々と心の底から怒りが沸いてきた。
今までどんなに腹が立っても、暴力だけは振るわないように心に誓っていたが、今回は限界だった。
「殿下・・・。わたくしを見くびるのもいい加減になさいまし・・・」
私はレオナルドを無理やり振り向かせると、両手で彼の両頬をギューッと抓った。
「痛っ! 痛い! 何をするっ! 放せっ!!」
突然のことにレオナルドは驚き、私の両手を必死に剥がそうと暴れた。
「本当に貴方という人は、どこまでわたくしを怒らせたら気が済みますの? まるでわたくしが他の殿方に心移りした尻軽女のような物言い。ずいぶんですわね」
私は手の力を強め、ギッと彼を睨みつけた。
「いぃぃ・・っ! ち、違うとでも!?」
レオナルドも睨みつけてくる。痛みからか、目に薄っすらと涙が浮かんできた。
「ええ、全然違います。わたくしは誰かさんと違って、自分の立場を理解しておりますので」
「じゃあ、なぜ、アイツだけ・・・、アイツにだけは、あんなに親しくしていたんだ!? いつも楽しそうに笑っていたくせにっ!」
「愛想笑いに決まっているでしょう!! 貴方の目は節穴ですかっ?!」
「あ、愛想・・・?」
「ああ、でも、あの方は本当に紳士です。とても礼儀正しくて、お話していても嫌な気持ちになる事はありません。だから、笑顔になるのは当然でしょう。あの方だけですから、殿下の側付きのご令息方の中で、礼儀正しく、まともにわたくしとお話ししてくれる方は!」
「え・・・?」
レオナルドの目が点になった。私の話の内容を理解できていないらしい。
私はフーっと大きく息を吐くと、レオナルドの頬から手を離した。
96
あなたにおすすめの小説
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
揺れぬ王と、その隣で均衡を保つ妃
ふわふわ
恋愛
婚約破棄の断罪の場で、すべては始まった。
王太子は感情に流され、公爵令嬢との婚約を解消する。
だが、その決断は王家と貴族社会の均衡を揺るがし、国そのものを危うくする一手だった。
――それでも彼女は、声を荒らげない。
問いただすのはただ一つ。
「そのご婚約は、国家にとって正当なものですか?」
制度、資格、責任。
恋ではなく“国家の構造”を示した瞬間、王太子は初めて己の立場を知る。
やがて選ばれるのは、感情ではなく均衡。
衝動の王子は、嵐を起こさぬ王へと変わっていく。
そして彼の隣には、常に彼女が立つ。
派手な革命も、劇的な勝利もない。
あるのは、小さな揺れを整え続ける日々。
遠雷を読み、火種を消し、疑念に居場所を与え、
声なき拍手を聞き取る。
これは――
嵐を起こさなかった王と、
その隣で国家の均衡を保ち続けた妃の物語。
悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。
三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……
くわっと
恋愛
21.05.23完結
ーー
「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」
差し伸べられた手をするりとかわす。
これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。
決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。
彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。
だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。
地位も名誉も権力も。
武力も知力も財力も。
全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。
月並みに好きな自分が、ただただみっともない。
けれど、それでも。
一緒にいられるならば。
婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。
それだけで良かった。
少なくとも、その時は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる