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レオナルドが横になったので、私も自分のベッドに向かう途中、何気なく窓辺に近寄り、外の景色を見た。

すると、庭園のずっと奥にある正面の門から小さな光が見えた。それはこちらに向かってくる。馬車だ。一台の馬車がこちらに向かってくる。

「お父様がお帰りだわ」

私の独り言に、レオナルドはガバッと起き上がった。
私はレオナルドに振り向いた。彼は神妙な顔で私を見ている。

「ちょっと探りを入れてきますわね」

私は急いでガウンを羽織ると、部屋と出て、急ぎエントランスに向かった。


☆彡


エントランスには既に知らせを聞いた母が父を迎えるために待っていた。
私はすぐには近寄らず、暫く二階の階段の手すりから様子を伺うことにした。

玄関が開くと、父が入ってきた。

「お帰りなさいませ、あなた・・・、うぐっ・・・」

母はいきなり父に力強く抱きしめられ、小さくうめき声を上げた。

「はあ~~・・・、お前の顔が見たかった・・・」

父は母にスリスリと頬ずりをしている。
母はそんな父の背中をポンポンと優しく叩いた。

「こんなに遅い時間まで・・・。お忙しかったのですね、お疲れでしょう? さあ、ゆっくりなさってくださいまし。すぐにお茶を淹れさせますわ」

「いいや・・・、ゆっくりしている暇はないのだ・・・またすぐに城に戻らねばならん」

「え?」

「必要な物を取りに戻っただけだ。後はお前の顔を見に」

父は母から体を離すと、目を丸めている母にチュッと口づけをした。そして、再びギューッと母を抱きしめた。

「エリーゼの顔も見たいのだが・・・。しかし、もう休んでしまったか・・・」

「お帰りなさいませ。お父様」

父の呟きに合わせたように、私は階段から降り始めた。

「おお! エリーゼ! 起きていたのか? おいで!」

父は片手で母の肩を抱きながら、もう片方の手を私に差し出した。
私はゆっくりと父に近づくと、彼に身を寄せた。

「はあ~~、お前たち二人の顔を見れば、父は疲れなど吹き飛ぶぞ」

そう言いながら、父は私と母をギュッと抱きしめた。

「あなた、お戻りになると言っても、少しくらいお休みする時間はあるでしょう?」

母は心配そうに父を見上げた。

「そうですわよ、お父様。お茶一杯くらいはよろしいでしょう? そんなにさっさと戻られては、エリーゼは寂しいですわ」

私も母と同じように父を見上げる。よく見ると父の目の下の隈が酷い。頬も心なしかこけているように見える。

「そうだな。一服してから戻るとしよう」

父は私たちの肩を抱き、一緒にリビングに向かった。


☆彡


「すまないが、明日も・・・いや、暫く邸には戻れんかもしれん」

父は用意された紅茶を一口飲むと、はぁ~~と長い溜息を付いた。

「まあ、どうして?」

母は目を丸くする。私も驚いた顔をしてみた。

「いや、なに。陛下から火急の用を受けてな・・・」

「そうですか。あまり無理をなさらないで下さいませ」

母は深く追及することなく、父に労いの言葉を掛ける。

「お父様。お城ではレオナルド殿下はどうお過ごしですか?」
「ブホォッ・・・!」

私の直球な質問に父はお茶を吹いた。
母もタブーな事柄に自ら触れた私を信じられないような目で見つめた。

「な、な・・・? なん・・で・・・?」

「なんでって・・・。わたくしとの婚約を破棄したことで、今頃生き生きとされているのではないかしらって、少しだけ恨めしく思っただけですわ」

私は少し拗ねたように目を伏せた。

「ううっ・・・、可哀相なエリーゼ・・・」

母はうるうると目を潤ませ、隣に座っている父の肩に顔を埋めた。

「い、いや! そ、そんなことはないぞっ! 殿下は先日の愚行を猛省されておられる! 大変後悔していたぞ!」

慌てて取り繕った。

「あはは! 安心しなさい、エリーゼ! そうだな、あの調子だと婚約破棄は取消されるぞ!」

「まあ! 本当に!?」

母はパアッと顔を輝かせて父を見た。

「ああ、そうとも! きっと、エリーゼの前に跪いて許しを請う筈だ! うん、そうだとも! いや、私がそうさせてみせる!」

「さすがですわ、あなた! 期待しておりますわね!」

うっとりと父を見つめる母に、父は汗を拭きながら威勢よく笑う。
いやいやいや、そんなことしなくていいですから。
父の嘘八百に、ついつい目が半目になるのを抑えられない。

猛省ね・・・。
確かに、今回の事件で周りに迷惑を掛けたことに関しては猛省しているようだけれど、婚約破棄についてはきっと何とも思っていないだろう。

まあ、これで箝口令が敷かれているということは分かった。

それともう一つ分かったこと・・・。
この父にはできる限り助けを乞わない方がいいということ。
恩を着せてしまったら、レオナルドは本当に私に跪いて婚約破棄を撤回する羽目になり兼ねない。

もう・・・、それこそ、冗談じゃないから。
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