32 / 76
31
しおりを挟む
「お嬢様!! 一体これはどういうことですか~!」
帰りの馬車の中、パトリシアが喚いた。
「一時間経っても戻って来ないし、迎えに行きかけたら、見知らぬ子供たちに呼び止められるし! しかも、私とトミーが駆け落ちって、どんな冗談ですか?!」
「うん、ごめんなさい。彼らにお願いするのに信憑性を増そうと思って、つい」
「それだけじゃないです~! その恰好、一体何なんですか!? 一瞬、誰だか全っ然分かりませんでしたよ! っていうか、いつまでしているんですか、そのカツラ!」
そうだった。忘れていた。
「それに、どうしてお友達のお子様がまだいるんですか?! もしかして、やっぱり・・・?」
「そう、その通りよ。パットの言う通り。やっぱり、押し付けられたわ」
私は投げやり気味にカツラを取ると、自分の髪の毛を手櫛で整えた。
「そんな! ど、どうするんですか?!」
「どうするもこうするもないわ。連れて帰るだけよ。面倒見るしかないもの」
「面倒見るって! そ、そんな簡単に・・・!」
「落ち着いて、パット。面倒を見ると言っても、この子を我が家に引き取るというわけではないから。ほんの数日預かるだけ」
「へ・・・? 数日・・・?」
アワアワしていたパトリシアは急にホケっと間抜け面になった。
「そう。数日間だけ、この子を預かるの。いいえ、預かると言うより、守るのよ」
「え・・・? 守る・・・?」
「そうよ。よく聞いて、パット」
私は声のトーンを落として、前屈みになりパトリシアの方へ身を乗り出した。
「実は・・・、実はね、この子、命を狙われているの」
「へ・・・?」
〔は?〕
ますますポカン顔のパトリシア。私の隣にちょこんと座っているレオナルドも呆けた顔をしている。
「昨日話したでしょ? この子の父親のこと。わたくしのお友達の暴力亭主。彼がこの子を自分の子供と認めていないようで、人買いに売ろうとしていたようなのよ!」
「はいぃぃ?! 何ですってぇ!」
〔?!?!?〕
パトリシアは我に返って叫び声を上げた。レオナルドは目をパチパチと瞬きさせている。話に付いて来られないようだ。
「昨日の段階ではそこまで深く話せなかったから知らなかったけど・・・。この子って素晴らしい金髪でしょ? わたくしの友人もその例のご亭主も金髪ではないの。だから、ご亭主は友人の不義を疑っていて・・・。でもね、彼女のお母様は金髪よ。お祖母様譲りなのだと言っても信じてくれないのですって」
「まあ!! だから、暴力を振るっていたのですね!! なんて奴!」
パトリシアは悔しそうに拳を握った。
「頑なに疑ってしまって、もうどうにもならないみたい。修復不可能のようよ」
「だからって、人買いに売るって! なんて人! 人として終ってる!」
「自分の子供でもないし、母親は貴族だし、高く売れると踏んだんでしょう」
「でも奴隷商売は法で禁じられています!」
「そうよ。だからこの子を守らないといけないの」
私は混乱し過ぎて目が点になっているレオナルドの頭を優しく撫でた。
「彼女は恥を忍んでご両親に相談するって言っていたわ。その間だけ、我が家で預かることにしたの。あんなに怪しい通りに構えているお宅より、侯爵邸の方がずっと安全でしょ?」
「確かに!」
パトリシアは大きく頷く。
「その間にこの子の髪の毛も色を変えるわ。念のために変装した方がいいってことになって。ほら、ご亭主は金髪に執着していたから。髪染めも貰ってきたの」
「それはいいですね! ナイスアイディアです!」
パチパチと手を叩くパトリシア。事態を飲み込めたのか、レオナルドはシラケたように目を細めて彼女と私を見ている。
「そうか、変装ね・・・。お嬢様、どうせなら、女の子の格好をさせたらどうですか? 性別まで変装すれば完全にその暴力亭主の目を欺けますよ!」
「はあぁ? う・・・むぐ・・・っ」
「まあ! それはいいわ! それこそナイスアイディアよ! パット!」
奇声を上げかけたレオナルドの口を塞いで、私はパトリシアの意見に同意した。
「そうね! それがいいわ! 数日預かるからにはお父様にもお母様にも許可を取らなければいけないし。女の子の方がお母様の警戒心が幾分か薄れるわ!」
「この子、とっても綺麗な顔立ちをしていますし、ドレスを着せたら可愛い女の子にしか見えませんよ、きっと!」
「そうね・・・、無駄に綺麗な顔立ちしているものね。中身もこれくらい綺麗だったらよかったのに・・・。本当に残念な人・・・」
「え・・・?」
「ううん。こっちの話。帰ったら、早速、変装させましょう! 手伝ってちょうだいね、パット!」
私はニッコリとパトリシアに微笑んだ。
隣では、頭を撫でるふりをして口を塞いでいる私から逃れようと、レオナルドが必死にもがいている。
「お任せください、お嬢様!! お人形さんのように可愛くしてあげましょう!」
フンガフンガと私の腕の中で暴れるレオナルドと、妙に張り切っているパトリシアを乗せて、馬車は軽快に我がミレー侯爵邸へ走って行った。
帰りの馬車の中、パトリシアが喚いた。
「一時間経っても戻って来ないし、迎えに行きかけたら、見知らぬ子供たちに呼び止められるし! しかも、私とトミーが駆け落ちって、どんな冗談ですか?!」
「うん、ごめんなさい。彼らにお願いするのに信憑性を増そうと思って、つい」
「それだけじゃないです~! その恰好、一体何なんですか!? 一瞬、誰だか全っ然分かりませんでしたよ! っていうか、いつまでしているんですか、そのカツラ!」
そうだった。忘れていた。
「それに、どうしてお友達のお子様がまだいるんですか?! もしかして、やっぱり・・・?」
「そう、その通りよ。パットの言う通り。やっぱり、押し付けられたわ」
私は投げやり気味にカツラを取ると、自分の髪の毛を手櫛で整えた。
「そんな! ど、どうするんですか?!」
「どうするもこうするもないわ。連れて帰るだけよ。面倒見るしかないもの」
「面倒見るって! そ、そんな簡単に・・・!」
「落ち着いて、パット。面倒を見ると言っても、この子を我が家に引き取るというわけではないから。ほんの数日預かるだけ」
「へ・・・? 数日・・・?」
アワアワしていたパトリシアは急にホケっと間抜け面になった。
「そう。数日間だけ、この子を預かるの。いいえ、預かると言うより、守るのよ」
「え・・・? 守る・・・?」
「そうよ。よく聞いて、パット」
私は声のトーンを落として、前屈みになりパトリシアの方へ身を乗り出した。
「実は・・・、実はね、この子、命を狙われているの」
「へ・・・?」
〔は?〕
ますますポカン顔のパトリシア。私の隣にちょこんと座っているレオナルドも呆けた顔をしている。
「昨日話したでしょ? この子の父親のこと。わたくしのお友達の暴力亭主。彼がこの子を自分の子供と認めていないようで、人買いに売ろうとしていたようなのよ!」
「はいぃぃ?! 何ですってぇ!」
〔?!?!?〕
パトリシアは我に返って叫び声を上げた。レオナルドは目をパチパチと瞬きさせている。話に付いて来られないようだ。
「昨日の段階ではそこまで深く話せなかったから知らなかったけど・・・。この子って素晴らしい金髪でしょ? わたくしの友人もその例のご亭主も金髪ではないの。だから、ご亭主は友人の不義を疑っていて・・・。でもね、彼女のお母様は金髪よ。お祖母様譲りなのだと言っても信じてくれないのですって」
「まあ!! だから、暴力を振るっていたのですね!! なんて奴!」
パトリシアは悔しそうに拳を握った。
「頑なに疑ってしまって、もうどうにもならないみたい。修復不可能のようよ」
「だからって、人買いに売るって! なんて人! 人として終ってる!」
「自分の子供でもないし、母親は貴族だし、高く売れると踏んだんでしょう」
「でも奴隷商売は法で禁じられています!」
「そうよ。だからこの子を守らないといけないの」
私は混乱し過ぎて目が点になっているレオナルドの頭を優しく撫でた。
「彼女は恥を忍んでご両親に相談するって言っていたわ。その間だけ、我が家で預かることにしたの。あんなに怪しい通りに構えているお宅より、侯爵邸の方がずっと安全でしょ?」
「確かに!」
パトリシアは大きく頷く。
「その間にこの子の髪の毛も色を変えるわ。念のために変装した方がいいってことになって。ほら、ご亭主は金髪に執着していたから。髪染めも貰ってきたの」
「それはいいですね! ナイスアイディアです!」
パチパチと手を叩くパトリシア。事態を飲み込めたのか、レオナルドはシラケたように目を細めて彼女と私を見ている。
「そうか、変装ね・・・。お嬢様、どうせなら、女の子の格好をさせたらどうですか? 性別まで変装すれば完全にその暴力亭主の目を欺けますよ!」
「はあぁ? う・・・むぐ・・・っ」
「まあ! それはいいわ! それこそナイスアイディアよ! パット!」
奇声を上げかけたレオナルドの口を塞いで、私はパトリシアの意見に同意した。
「そうね! それがいいわ! 数日預かるからにはお父様にもお母様にも許可を取らなければいけないし。女の子の方がお母様の警戒心が幾分か薄れるわ!」
「この子、とっても綺麗な顔立ちをしていますし、ドレスを着せたら可愛い女の子にしか見えませんよ、きっと!」
「そうね・・・、無駄に綺麗な顔立ちしているものね。中身もこれくらい綺麗だったらよかったのに・・・。本当に残念な人・・・」
「え・・・?」
「ううん。こっちの話。帰ったら、早速、変装させましょう! 手伝ってちょうだいね、パット!」
私はニッコリとパトリシアに微笑んだ。
隣では、頭を撫でるふりをして口を塞いでいる私から逃れようと、レオナルドが必死にもがいている。
「お任せください、お嬢様!! お人形さんのように可愛くしてあげましょう!」
フンガフンガと私の腕の中で暴れるレオナルドと、妙に張り切っているパトリシアを乗せて、馬車は軽快に我がミレー侯爵邸へ走って行った。
19
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
素直になるのが遅すぎた
gacchi
恋愛
王女はいらだっていた。幼馴染の公爵令息シャルルに。婚約者の子爵令嬢ローズマリーを侮辱し続けておきながら、実は大好きだとぬかす大馬鹿に。いい加減にしないと後悔するわよ、そう何度言っただろう。その忠告を聞かなかったことで、シャルルは後悔し続けることになる。
私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
公爵令嬢は愛に生きたい
拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。
一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。
モブですが、婚約者は私です。
伊月 慧
恋愛
声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。
婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。
待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。
新しい風を吹かせてみたくなりました。
なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。
わたし、何度も忠告しましたよね?
柚木ゆず
恋愛
ザユテイワ侯爵令嬢ミシェル様と、その取り巻きのおふたりへ。わたしはこれまで何をされてもやり返すことはなく、その代わりに何度も苦言を呈してきましたよね?
……残念です。
貴方がたに優しくする時間は、もうお仕舞です。
※申し訳ございません。体調不良によりお返事をできる余裕がなくなっておりまして、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じさせていただきます。
領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
悪役令嬢は夜汽車に乗って ~旅の始まりは婚約破棄~
aihara
恋愛
王国で将来は大公位を賜る予定の第二王子の婚約者だった侯爵令嬢・ロベリア・アンジェリカは、ある日の王家の夜会で第二王子から冤罪によって追放刑を受ける。
しかし、婚約破棄とその後の対応を巡って周囲が騒然とする中、「追放刑なら喜んで!」とばかり夜会をさっさと退席し侯爵家のタウンハウスへ急ぐ侯爵令嬢。
どうやら急いでいる理由は…「夜汽車」のようで…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる