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朝食を終えると、城下にあるというザガリーの家に行く支度を始めた。
レオナルドをベッドに座らせ、その横に昨日の夜に用意しておいたマイケルの服を並べる。
「殿下、さあ、お着替えしましょう」
私は獲物でも捕獲するように両手を構え、ジリジリとレオナルドに迫った。
「嫌だ! 自分でやる!」
レオナルドは己の身を守るように丸くなった。
「ご遠慮なさらず。右手も痛めているのに」
「大丈夫だ! 大丈夫だから、あっちへ行け!」
「本当にご自分で出来まちゅか~~? ちゃんと着れまちゅか~?」
「お、お前っ!」
レオナルドは真っ赤になって私を睨みつける。
まあ、揶揄うのはこれくらいでいいか。
私はレオナルドから離れると、ベッドの天蓋カーテンを降ろした。
「分かりました。お一人で着替えてくださいな。あと、殿下。わたくしも着替えますから、覗かないで下さいね」
「だ、誰がそんなことするか! それに、お前の着替えなんか興味ない!!」
「はいはい、そうでしょうね! それは結構でございます。念の為にご忠告したまでですわ」
イラッと来た私は奴を一睨みした後、シャッと乱暴にカーテンを閉めた。
☆彡
髪型のセット以外の身支度を早々と終えた私は、カーテン越しにレオナルドに話しかけた。
「殿下。お着替えは終わりましたか?」
返事はない。
「殿下・・・?」
「だ・・・っ、大丈夫だ! 問題ない! もう少し・・・!」
やはり、かなり手こずっているようだ。
仕方がない。少し待つとするか。私も早くパトリシアに髪をセットしてもらいたいのに・・・。
ソファに腰かけ、しばし様子を見る。
・・・。
少し間が経ったが、カーテンが開く気配が無い。
・・・。
モソモソとベッドの上で動いているのは分かる。
・・・。
まだ、カーテンは開かない。
「殿下?」
「ま・・・、まだだ! ・・・くそっ・・・」
・・・。
私は立ち上がった。元々気の短い私にはもう限界だった。つかつかとベッドに近寄ると、天蓋のカーテンをシャーッと開けた。
「残念ですが、時間切れです」
「うわっ! 勝手に開けるな!」
レオナルドは慌てて開けたシャツの胸元を合わせた。
「やっぱり・・・。ボタンを閉めるのは難しいのでしょう?」
ズボンと靴下は何とか履けているが、シャツのボタンを留めるのに苦労していたようだ。
私はベッドに腰かけ、レオナルドに向かって両手を伸ばした。
「はい、留めて差し上げますから、手を退かしてください」
「い、いい! 自分でやる!」
「残念、時間切れです。わたくしはさっさと貴方をザガリー氏の元に届けたいのです。一分でも一秒でも早く!」
そう言うと、無理やりレオナルドの手を退けて、シャツのボタンを留め始めた。
パッパッと手際よく留める私の手元を見て、戦意を失ったようだ。もう文句も言わず、成すがままにされていた。
最初から私に任せてくれれば、あっという間に終わったのに。いいや、最初から無理やり私がやればよかった。無駄に時間を費やしてしまったわ。まったく。
☆彡
「トミーは? 馬車は裏口で待っているの?」
私はドレッサーの前に腰掛け、髪を結っているパトリシアに尋ねた。
トミーは昨日の御者だ。当然ながら、彼には子供を見られている。
仕方がないので、昨日の内に、労いと称してレモンケーキを二つ献上した。もちろん、その下にお金を忍ばせて・・・。
「ええ。既にスタンバってます。誰にも見つからないようにお屋敷を出られる手筈も整えてくれました。お嬢様の口止め料が効いています。人は臨時収入に弱いですから」
「嫌な言い方は止めてちょうだいな。お駄賃よ、お駄賃」
「あはは。そうですね!」
パトリシアはカラカラと悪びれる様子もなく笑った。
「でも、そんなことをしなくても、私もトミーもいつだってお嬢様の味方ですよ! ご安心ください。さあ、出来ました!」
私は鏡に映った自分の髪形を一通りチェックすると、ゆっくり立ち上がった。そして、ソファに座って待っていたレオナルドの方に振り向いた。彼は所在無さげにちんまりと座っている。
私は地厚で大判のストールを手に取ると、レオナルドに近づいた。
「??」
怪訝そうに私を見上げるレオナルドに、
「さあ、お出かけしましょうね~。いい子ちゃんだからこれを羽織ってちょうだいね~」
そう言うと、何か言いたげな彼を無視して、すっぽりとストールで体を包み、抱き上げた。
「急ぎましょう、パット」
「はい。お嬢様」
パトリシアに振り向くと、彼女は急に真剣な顔になり、レオナルドの衣装の入った包みをギュッと抱きしめて頷いた。
そして、昨日の帰りと同様、またしてもコソコソとスパイのように―――いいや、二人して大荷物を抱えている。まるでこの屋敷で盗みを働いた泥棒のようだ―――馬車を待たせている裏口に急いだ。
レオナルドをベッドに座らせ、その横に昨日の夜に用意しておいたマイケルの服を並べる。
「殿下、さあ、お着替えしましょう」
私は獲物でも捕獲するように両手を構え、ジリジリとレオナルドに迫った。
「嫌だ! 自分でやる!」
レオナルドは己の身を守るように丸くなった。
「ご遠慮なさらず。右手も痛めているのに」
「大丈夫だ! 大丈夫だから、あっちへ行け!」
「本当にご自分で出来まちゅか~~? ちゃんと着れまちゅか~?」
「お、お前っ!」
レオナルドは真っ赤になって私を睨みつける。
まあ、揶揄うのはこれくらいでいいか。
私はレオナルドから離れると、ベッドの天蓋カーテンを降ろした。
「分かりました。お一人で着替えてくださいな。あと、殿下。わたくしも着替えますから、覗かないで下さいね」
「だ、誰がそんなことするか! それに、お前の着替えなんか興味ない!!」
「はいはい、そうでしょうね! それは結構でございます。念の為にご忠告したまでですわ」
イラッと来た私は奴を一睨みした後、シャッと乱暴にカーテンを閉めた。
☆彡
髪型のセット以外の身支度を早々と終えた私は、カーテン越しにレオナルドに話しかけた。
「殿下。お着替えは終わりましたか?」
返事はない。
「殿下・・・?」
「だ・・・っ、大丈夫だ! 問題ない! もう少し・・・!」
やはり、かなり手こずっているようだ。
仕方がない。少し待つとするか。私も早くパトリシアに髪をセットしてもらいたいのに・・・。
ソファに腰かけ、しばし様子を見る。
・・・。
少し間が経ったが、カーテンが開く気配が無い。
・・・。
モソモソとベッドの上で動いているのは分かる。
・・・。
まだ、カーテンは開かない。
「殿下?」
「ま・・・、まだだ! ・・・くそっ・・・」
・・・。
私は立ち上がった。元々気の短い私にはもう限界だった。つかつかとベッドに近寄ると、天蓋のカーテンをシャーッと開けた。
「残念ですが、時間切れです」
「うわっ! 勝手に開けるな!」
レオナルドは慌てて開けたシャツの胸元を合わせた。
「やっぱり・・・。ボタンを閉めるのは難しいのでしょう?」
ズボンと靴下は何とか履けているが、シャツのボタンを留めるのに苦労していたようだ。
私はベッドに腰かけ、レオナルドに向かって両手を伸ばした。
「はい、留めて差し上げますから、手を退かしてください」
「い、いい! 自分でやる!」
「残念、時間切れです。わたくしはさっさと貴方をザガリー氏の元に届けたいのです。一分でも一秒でも早く!」
そう言うと、無理やりレオナルドの手を退けて、シャツのボタンを留め始めた。
パッパッと手際よく留める私の手元を見て、戦意を失ったようだ。もう文句も言わず、成すがままにされていた。
最初から私に任せてくれれば、あっという間に終わったのに。いいや、最初から無理やり私がやればよかった。無駄に時間を費やしてしまったわ。まったく。
☆彡
「トミーは? 馬車は裏口で待っているの?」
私はドレッサーの前に腰掛け、髪を結っているパトリシアに尋ねた。
トミーは昨日の御者だ。当然ながら、彼には子供を見られている。
仕方がないので、昨日の内に、労いと称してレモンケーキを二つ献上した。もちろん、その下にお金を忍ばせて・・・。
「ええ。既にスタンバってます。誰にも見つからないようにお屋敷を出られる手筈も整えてくれました。お嬢様の口止め料が効いています。人は臨時収入に弱いですから」
「嫌な言い方は止めてちょうだいな。お駄賃よ、お駄賃」
「あはは。そうですね!」
パトリシアはカラカラと悪びれる様子もなく笑った。
「でも、そんなことをしなくても、私もトミーもいつだってお嬢様の味方ですよ! ご安心ください。さあ、出来ました!」
私は鏡に映った自分の髪形を一通りチェックすると、ゆっくり立ち上がった。そして、ソファに座って待っていたレオナルドの方に振り向いた。彼は所在無さげにちんまりと座っている。
私は地厚で大判のストールを手に取ると、レオナルドに近づいた。
「??」
怪訝そうに私を見上げるレオナルドに、
「さあ、お出かけしましょうね~。いい子ちゃんだからこれを羽織ってちょうだいね~」
そう言うと、何か言いたげな彼を無視して、すっぽりとストールで体を包み、抱き上げた。
「急ぎましょう、パット」
「はい。お嬢様」
パトリシアに振り向くと、彼女は急に真剣な顔になり、レオナルドの衣装の入った包みをギュッと抱きしめて頷いた。
そして、昨日の帰りと同様、またしてもコソコソとスパイのように―――いいや、二人して大荷物を抱えている。まるでこの屋敷で盗みを働いた泥棒のようだ―――馬車を待たせている裏口に急いだ。
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