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「許されない恋・・・」
パトリシアは私の話に想像以上に食い付いてきた。そのせいで私は調子に乗ってついつい話を広げてしまった。
「そうよ、『許されない恋』。彼女の婚約者はね、彼女より二十歳も年上だったの」
「にじゅう?! おじさんじゃないですかっ!」
「でしょう? だからこそ、そのご亭主に夢中になってしまったのだと思うわ。わたくしはおよしなさいと忠告したのだけれど、聞く耳を持たれなかったわ」
「恋は盲目って言いますものね!」
分かる、分かるとパトリシアは頷く。
「ご両親からの説得にも彼女は耳を貸さなかったわ。最終的にご両親は怒って彼女を屋敷の物置に閉じ込めてしまったの。それでも彼女は屈しなかった」
「まあ・・・、なんてお強い方」
感心したような顔でパトリシアは呟いた。
「突然連絡が取れなくって心配になった恋人は、危険を承知で彼女に会いに行ったの。そうしたら、なんとまあ、愛しい人が物置に閉じ込められているじゃないの! しかも、自分との愛を貫くために!」
「そ、それで?」
パトリシアは両手を胸の前で組み、身を乗り出して来た。
「彼は怒ったわ。彼女の幸せの為なら喜んで身を引くつもりでいたけれど、実の娘にこんな仕打ちをする親に遠慮する必要は無いって。逆に彼に勇気を与えてしまったの」
「それで?!」
「壁越しに彼女に伝えたの。『必ず迎えに来るから! 絶対に迎えに来るから、俺を信じて待っているんだ!』って。彼女はその言葉を信じて辛くても待ち続けたのよ」
「それで、それで?!」
「ある日の夜、彼はもう一度お屋敷に忍び込んだわ。そして、彼女を物置から救い出すことに成功した!」
「やった!」
パトリシアは嬉しそうにパチパチと手を叩いた。
「でも、喜ぶのはまだ早いわ。庭園に放たれていた番犬たちが二人の気配に気が付いてしまったの。大きな声で吠えながら二人を追いかけて来たわ。その声のせいで家中の人に二人の逃亡が気付かれてしまった」
「きゃあ! そんな!」
今度は両手で頬を押さえる。
「家中の人が飛び出して来た。犬たちは追ってくる。二人は必死に逃げたわ。逃げて逃げて、やっと塀まで辿り着いた。塀をよじ登っているところで、とうとう父親に追い付かれてしまった」
「~~~っ!!」
「父親の手には拳銃が握られていた。父親はその拳銃を男に向けて発砲したの」
「うそ・・・、なんてことを・・・」
「幸い銃は男の頬を掠っただけ。父親は叫んだわ。『今のは警告だ! 次は本当に撃つ! 娘を離せ!』と。でも、答えたのは彼女。『さようなら、お父様! 私の愛する人と生きていきます! 親不孝をどうか許して!』。そう叫ぶと塀の向こうへ二人で飛び降りた」
「それから!?」
彼女の目は爛々と輝いている。
「二人は用意していた馬に飛び乗ると、颯爽と駆けて行ってしまった。父親が急いで門から通りへ飛び出した時には、遥か向こうを馬が走っていたの。もうずっと遠くを」
「やった! 逃げられたのですね!」
「そう。二人の逃避行はこうして成功したのよ」
「よかったぁ~!!」
パトリシアは胸を撫で下ろした。どうやら、彼女の満足する話に仕上がったようだ。
私もホッと一息ついた。
しかし―――。
「でも、そんな愛の逃避行までして結ばれた二人がどうして・・・。そこまで奥様を愛していたのに暴力を振るうなんて・・・」
パトリシアは顎に人差し指を当て、考え込むように首を傾げた。
しまった! そうだった!
調子に乗り過ぎて、暴力亭主という最初の設定を忘れてしまった! 膨らませ過ぎてしまった! どう巻き返そう??
パトリシアは私の話に想像以上に食い付いてきた。そのせいで私は調子に乗ってついつい話を広げてしまった。
「そうよ、『許されない恋』。彼女の婚約者はね、彼女より二十歳も年上だったの」
「にじゅう?! おじさんじゃないですかっ!」
「でしょう? だからこそ、そのご亭主に夢中になってしまったのだと思うわ。わたくしはおよしなさいと忠告したのだけれど、聞く耳を持たれなかったわ」
「恋は盲目って言いますものね!」
分かる、分かるとパトリシアは頷く。
「ご両親からの説得にも彼女は耳を貸さなかったわ。最終的にご両親は怒って彼女を屋敷の物置に閉じ込めてしまったの。それでも彼女は屈しなかった」
「まあ・・・、なんてお強い方」
感心したような顔でパトリシアは呟いた。
「突然連絡が取れなくって心配になった恋人は、危険を承知で彼女に会いに行ったの。そうしたら、なんとまあ、愛しい人が物置に閉じ込められているじゃないの! しかも、自分との愛を貫くために!」
「そ、それで?」
パトリシアは両手を胸の前で組み、身を乗り出して来た。
「彼は怒ったわ。彼女の幸せの為なら喜んで身を引くつもりでいたけれど、実の娘にこんな仕打ちをする親に遠慮する必要は無いって。逆に彼に勇気を与えてしまったの」
「それで?!」
「壁越しに彼女に伝えたの。『必ず迎えに来るから! 絶対に迎えに来るから、俺を信じて待っているんだ!』って。彼女はその言葉を信じて辛くても待ち続けたのよ」
「それで、それで?!」
「ある日の夜、彼はもう一度お屋敷に忍び込んだわ。そして、彼女を物置から救い出すことに成功した!」
「やった!」
パトリシアは嬉しそうにパチパチと手を叩いた。
「でも、喜ぶのはまだ早いわ。庭園に放たれていた番犬たちが二人の気配に気が付いてしまったの。大きな声で吠えながら二人を追いかけて来たわ。その声のせいで家中の人に二人の逃亡が気付かれてしまった」
「きゃあ! そんな!」
今度は両手で頬を押さえる。
「家中の人が飛び出して来た。犬たちは追ってくる。二人は必死に逃げたわ。逃げて逃げて、やっと塀まで辿り着いた。塀をよじ登っているところで、とうとう父親に追い付かれてしまった」
「~~~っ!!」
「父親の手には拳銃が握られていた。父親はその拳銃を男に向けて発砲したの」
「うそ・・・、なんてことを・・・」
「幸い銃は男の頬を掠っただけ。父親は叫んだわ。『今のは警告だ! 次は本当に撃つ! 娘を離せ!』と。でも、答えたのは彼女。『さようなら、お父様! 私の愛する人と生きていきます! 親不孝をどうか許して!』。そう叫ぶと塀の向こうへ二人で飛び降りた」
「それから!?」
彼女の目は爛々と輝いている。
「二人は用意していた馬に飛び乗ると、颯爽と駆けて行ってしまった。父親が急いで門から通りへ飛び出した時には、遥か向こうを馬が走っていたの。もうずっと遠くを」
「やった! 逃げられたのですね!」
「そう。二人の逃避行はこうして成功したのよ」
「よかったぁ~!!」
パトリシアは胸を撫で下ろした。どうやら、彼女の満足する話に仕上がったようだ。
私もホッと一息ついた。
しかし―――。
「でも、そんな愛の逃避行までして結ばれた二人がどうして・・・。そこまで奥様を愛していたのに暴力を振るうなんて・・・」
パトリシアは顎に人差し指を当て、考え込むように首を傾げた。
しまった! そうだった!
調子に乗り過ぎて、暴力亭主という最初の設定を忘れてしまった! 膨らませ過ぎてしまった! どう巻き返そう??
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