上 下
7 / 61

しおりを挟む
朝食を終え、自室でまったりと読書を楽しんでいると、侍女のパトリシアがお茶を持ってきた。

「お嬢様。今日は良い天気でございますよ! 気晴らしにお出かけされてはいかがでしょうか?」

お茶を淹れながら、パトリシアがやたらと声を弾ませて提案してきた。
うーん、こちらにも気を使わせてしまっているわ。全然、落ち込んでいないのに。

「ほ、ほら! 行ってみたいカフェがあるとおっしゃっていたではありませんか! 他にも・・・、そうそう! 今、公演中の歌劇! とっても評判らしいですよ! 最近全然行けていなかったではありませんか? お嬢様は歌劇が大好きなのに!!」

一生懸命、私を元気づけようとしている彼女に、少し罪悪感が生まれる。
それでも、彼女だって私がレオナルドと上手くいっていないことを知っていたはずなのに・・・。まあ、いくら上手くいっていないからって婚約破棄されれば、普通のご令嬢なら傷付いて落ち込むものね。

「知っているわ。若いご令嬢にとっても評判がいいみたい。確か純愛ものよね」

「はい!! お嬢様!」

私がにっこりと答えたので、安心したのだろう。パトリシアは元気に頷いた。

「そうねぇ、でも今日はカフェに行きたいわ。午後のティータイムに会わせて出かけましょう。お買い物もしたいし。付き合ってちょうだい、パトリシア」

「はい! 喜んで!」

こうして、午後になったら城下へ出かけることになった。
久しぶりのショッピングだ! 今日は思いっきり楽しんでやる!


☆彡


街に繰り出すと、早速、友人に聞いてからずっと行ってみたかったカフェでお茶をすると、その後はお気に入りのブティックでショッピングを楽しんだ。
解放感からか、ついつい買い過ぎてしまったのは反省するところ。後から家に届けられた品を見て、きっと「あ、要らなかった・・・」と思う物もたくさんありそうだ。
でも、今日は大目に見よう! 九年間頑張った自分へのご褒美なのだ。
「何でこんなもの買っちゃったんだろう」なーんてものが入っていてもいいじゃないか!

ルンルンと鼻歌交じりに歩いている時だった。

向かいから一人の男が歩いてきた。
その男はシンプルな麻のコートを羽織っており、フードで顔を隠すように俯き加減に歩いている。

それだけでもあまり良い感じは持てないのだが、足取りも怪しい。少しふら付いている。酔っぱらっているのだろうか。夕方近くとは言え、まだ明るいというのに。

少しずつ近づいてくると、男の荒い息遣いが聞こえてきた。
酔っぱらっているわけではなくて、具合が悪いのだろうか? 熱でもあるのか?
建物の壁に手を付きながら、何とか歩いている感じだ。

そして、すれ違う時、私は思わず男を二度見した。
男は私が二度見したことなど気が付かないようだ。私に振り向くことなく、フラフラと通り過ぎた。

私は立ち止まって振り向いた。

(え? 今の、レオナルド??)


☆彡


え? 何、あれ? レオナルド? 何で? 何であんな格好しているの?
あれ? 私の見間違い?

私は軽くパニックになり、ボーッと男の後ろ姿を見つめた。

「どうされました? お嬢様?」

急に立ち止まった私に、パトリシアは驚いて尋ねた。

「あ、ううん、えっと、何でもないわ」

慌てて笑って誤魔化したが、すぐにもう一度レオナルドの方に目を向けた。
彼は丁度角を曲がってしまい、姿が見えなくなった。

「では、行きましょう、お嬢様」

「え、ええ」

パトリシアに促されるまま、私も歩き出した。
だが・・・。

(あんなにふら付いて大丈夫なの?)

明らかに普通ではない。
息遣いも荒かったし、目の焦点も合っていなかった気がする・・・。あれは私が相手だからって無視したわけではない。完全に気が付いていなかった。歩くことに必死だったのだ。

(もう婚約者でもない。赤の他人なんだから、気にすることないか・・・)

そう思い直し、歩き続けるのだが、苦しそうなレオナルドの顔が蘇る。
これは放っておくのは人道的にまずいのでは?

とは言っても、相手は王族。敢えてあんなみすぼらしいコートを羽織っているなんて、きっと身分だけでなく、相当いろいろなものを隠しているのだ。安易に踏み入っていいものだろうか?

(それにしても、護衛も付けていないなんて・・・)

いくらお忍びだったとしても護衛の一人くらいいるはずでは・・・?
ということは、やはり、私の見間違いか?

(ううん、レオナルドよ・・・)

あのくっそ憎らしい顔を見間違えるわけがない。

私は再び立ち止まった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。 「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」 彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。 (なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語) そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。 (……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの) 悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

処理中です...