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私、エリーゼ・ミレーが、わが国の第三王子の婚約者になったのは九年前の九歳の時。思い返せば、同い年のレオナルド殿下とはこの時から相性は良くなかったように思う。

お互い勝気な性格で、自分の主張が正しいと思うとそれを通そうとする。
意見が一致した時は、ガッチリとタッグを組むのだが、意見が合わないとどちらも譲らない。まるで敵国同士のように睨み合い、どちらも引かない。

しかし、この世の不条理かな。最終的に大人の前では私が折れることになる。
喧嘩であれば、どんなに向こうに非があろうが、私が彼に謝ることになり、二人の意見や希望が不一致であれば、レオナルドのものが通る。
当然と言えば当然だ。相手は「王族」であり、将来の「夫」であるのだ。相手の方が圧倒的に立場は上なのだから。

しかし、九歳まで侯爵家で蝶よ花よと育てられた私には、自分の思う通りにならないことはなかなか耐え難いものだった。とどのつまり、私も我が家の中でとんだ我儘お姫様だったのである。我儘同士、衝突して当然なのである。

そして、その不条理を何度も経験すると、子供ながらに徐々に学習していく。
私は少し大きくなり悪知恵がついてくると、レオナルドと衝突した時は、大人たちの前ではしおらしく彼の顔を立て、すぐに身を引くが、二人きりになった途端、先ほど大人たちの前で約束した内容をさっさと反故し、自我を通すようになった。
自分の名誉のために言っておくが、もちろん、理不尽且つ不道徳なものに限る。

当然、彼がこんな私の態度を気に入るわけがない。

お妃教育のために毎日のように登城し、レオナルドと過ごす時間も設けられていたが、二人きりなると喧嘩が絶えなかった。

13歳、14歳の思春期の頃になると、喧嘩は減ったが、比例して会話も減っていった。
15歳から王立学園に通い始めるようになると、お互いそれぞれに交友関係を広げていくようになり、レオナルドは殿方以外、ご令嬢方とも率先して交流を始めた。

結果、彼の周りにはヒラヒラとたくさんの蝶が舞うようになった。

終いには、学院内だけでなく、お茶会や夜会の席でも、彼は私のエスコートも忘れ、常に数人の女性を傍に侍らせるようになっていった。

レオナルドに対し特別な感情は持っていなかった私だが、婚約者である以上、この状況を温かく見守っているというわけにはいかないのだ。
特に、夜会などパートナーのエスコートが必要な時に放置されると全くもって立場がない。婚約者としての面子は丸潰れ。ミレー侯爵家の面子にも響くので黙っているわけにはいかないのだ。

それはレオナルドにも言える事なのだ。
婚約者を無視し、多くの令嬢を侍らせ、鼻の下を伸ばしているなんて、みっともないと言ったらない。王子としての品格がダダ下がりなのが分からないのだろうか。

だから、何度も何度も口酸っぱく注意をしたが、彼は聞き入れてくれるどころか、

『お前の小言なんかうんざりだ!』

そう怒鳴ってくるのだ。
私もカチンとくるので負けじとばかりに言い返す。そして、当然喧嘩が始まる。毎回その繰り返し。
益々仲が悪くなるのは当然だった。

ある時から、私は心の片隅にずっと抱えて思いがどんどん強くなってきた。
膨らんでは、無理やり揉み消し、必死に押し殺していた思い・・・。

そう、婚約者を降りたいという気持ちが。

一度、思いが強くなり始めたら、もうお終いだ。
急速に拡大し、留まるところを知らない。私の心の中はその思いで飽和状態になってしまった。

なにが『うんざりだ!』だ。

それこそこっちのセリフ! 私はほとほと疲れてしまったのだ。


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