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「エ、エリーゼ・・・?」
レオナルドの言葉にハッと我に返り、私は慌てて突き上げた拳を降ろした。
「オホホホ! わたくしとしたことが、少々興奮してしまったようですわ。はしたなかったですわね、失礼いたしました。では、改めまして殿下、婚約破棄の件につきましては、喜んで・・・もとい、謹んでお受けいたしますわ」
私はドレスの裾をチョイと持ち上げ、レオナルドに向かって優雅に首を垂れた。
「エ、エリーゼ・・・、お前・・・、本気か?」
「はい?」
「婚約破棄って・・・、本気で言っているのか?」
首を傾げる私に、レオナルドは少し青い顔で聞いてきた。
「はあ・・・? それはわたくしの方が先に殿下にお聞きしましたはずですわね? 『本気の本気の本気ですか?』と。それに対し、しっかりと肯定のお返事を頂いておりますが?」
「ぐっ・・・」
「まあ! もしかして嘘をお付になられたのですか? わたくしの気を引きたくって? 嫌ですわぁ、殿下ったらぁ!」
私は大げさに両頬を押さえて見せた。
「そ、そんなわけないだろうっ!」
「ですわよね~。そちらのお二人、いや、お三方のご令嬢に失礼ですわよね? 気をお引きになりたいのはそちらのご令嬢方でしょうから」
「く・・・」
私はニッコリとレオナルドたちを見た。令嬢方は少し悔しそうに私を睨みつけながらレオナルドの腕にしがみ付いている。当のレオナルドも悔しそうに唇を噛んで私を睨みつけた。
フンッ! なによ! あんたに睨みつけられる筋合いないわ!
「さあ、殿下! 折角の公の場でございます! 是非、もう一度高らかにご宣言を! 今日ここにいらっしゃる全ての方が証人になって下さいますわ!」
私は大げさに両手を広げて見せた。
「な、な・・・!」
レオナルドは怯んでいる。何を今さら怯んでいるのか? さっきはあんなに大声で言ったくせに。お陰で、ダンスの音楽まで鳴り止んで、こんなにシーンとなってしまったというのに。
「さあ! 殿下! お慕いしているそちらのご令嬢方に誠意と雄姿をお見せする時でございますわ! さあ!! どうぞこのわたくしに、今一度、婚約破棄の宣言を!!」
私は大げさに畳みかけた。
―――チッ・・・。
小さく舌打ちが聞こえた。気のせいかもしれない。
私が首を傾げたその時、レオナルドは一歩大きく前に出た。
「俺は・・・、エリーゼ! お前との婚約を破棄する!!」
レオナルドはそう言い切った。声高らかに。
はいーーーっ! 頂きましたぁ! 婚約破棄ぃ!!
「仰せのままに」
私はレオナルドに深々と頭を下げた。
そして、顔を上げると、真っ直ぐレオナルドを見つめた。
「殿下。二言はございませんわね? よもや、覆すなんて事はございませんね?」
「・・・っ! あ、あ、当たり前だっ・・・!」
少し歯切れが悪いようだが、認めたのだからどうでもいい。
私はニッコリと微笑んだ。この男に向ける最後の笑顔。私は渾身の笑顔を向けた。
「レオナルド殿下。長いようで短い九年間でしたわ。今までありがとうございました。さようなら! どうぞお元気で!」
もう一度、頭を下げると、私はダンスのターンのように華麗に向きを変え、大広間の出口向かって歩き始めた。
周りの視線をビシバシと浴びまくる中、堂々と扉に向かう。しかし、その視線は冷やかしのようなものは少なく、同情、もしくは、話に付いて行けず呆然とした視線がほとんど。お陰様であまり痛くない。
出口の前で私は大広間に振り返った。
「皆様、お騒がせいたしました! わたくしはお先に失礼させていただきますわ。ごきげんよう!! 素敵な夜をお過ごしくださいませ!」
そう叫ぶと、気分良く大広間を後にした。
レオナルドの言葉にハッと我に返り、私は慌てて突き上げた拳を降ろした。
「オホホホ! わたくしとしたことが、少々興奮してしまったようですわ。はしたなかったですわね、失礼いたしました。では、改めまして殿下、婚約破棄の件につきましては、喜んで・・・もとい、謹んでお受けいたしますわ」
私はドレスの裾をチョイと持ち上げ、レオナルドに向かって優雅に首を垂れた。
「エ、エリーゼ・・・、お前・・・、本気か?」
「はい?」
「婚約破棄って・・・、本気で言っているのか?」
首を傾げる私に、レオナルドは少し青い顔で聞いてきた。
「はあ・・・? それはわたくしの方が先に殿下にお聞きしましたはずですわね? 『本気の本気の本気ですか?』と。それに対し、しっかりと肯定のお返事を頂いておりますが?」
「ぐっ・・・」
「まあ! もしかして嘘をお付になられたのですか? わたくしの気を引きたくって? 嫌ですわぁ、殿下ったらぁ!」
私は大げさに両頬を押さえて見せた。
「そ、そんなわけないだろうっ!」
「ですわよね~。そちらのお二人、いや、お三方のご令嬢に失礼ですわよね? 気をお引きになりたいのはそちらのご令嬢方でしょうから」
「く・・・」
私はニッコリとレオナルドたちを見た。令嬢方は少し悔しそうに私を睨みつけながらレオナルドの腕にしがみ付いている。当のレオナルドも悔しそうに唇を噛んで私を睨みつけた。
フンッ! なによ! あんたに睨みつけられる筋合いないわ!
「さあ、殿下! 折角の公の場でございます! 是非、もう一度高らかにご宣言を! 今日ここにいらっしゃる全ての方が証人になって下さいますわ!」
私は大げさに両手を広げて見せた。
「な、な・・・!」
レオナルドは怯んでいる。何を今さら怯んでいるのか? さっきはあんなに大声で言ったくせに。お陰で、ダンスの音楽まで鳴り止んで、こんなにシーンとなってしまったというのに。
「さあ! 殿下! お慕いしているそちらのご令嬢方に誠意と雄姿をお見せする時でございますわ! さあ!! どうぞこのわたくしに、今一度、婚約破棄の宣言を!!」
私は大げさに畳みかけた。
―――チッ・・・。
小さく舌打ちが聞こえた。気のせいかもしれない。
私が首を傾げたその時、レオナルドは一歩大きく前に出た。
「俺は・・・、エリーゼ! お前との婚約を破棄する!!」
レオナルドはそう言い切った。声高らかに。
はいーーーっ! 頂きましたぁ! 婚約破棄ぃ!!
「仰せのままに」
私はレオナルドに深々と頭を下げた。
そして、顔を上げると、真っ直ぐレオナルドを見つめた。
「殿下。二言はございませんわね? よもや、覆すなんて事はございませんね?」
「・・・っ! あ、あ、当たり前だっ・・・!」
少し歯切れが悪いようだが、認めたのだからどうでもいい。
私はニッコリと微笑んだ。この男に向ける最後の笑顔。私は渾身の笑顔を向けた。
「レオナルド殿下。長いようで短い九年間でしたわ。今までありがとうございました。さようなら! どうぞお元気で!」
もう一度、頭を下げると、私はダンスのターンのように華麗に向きを変え、大広間の出口向かって歩き始めた。
周りの視線をビシバシと浴びまくる中、堂々と扉に向かう。しかし、その視線は冷やかしのようなものは少なく、同情、もしくは、話に付いて行けず呆然とした視線がほとんど。お陰様であまり痛くない。
出口の前で私は大広間に振り返った。
「皆様、お騒がせいたしました! わたくしはお先に失礼させていただきますわ。ごきげんよう!! 素敵な夜をお過ごしくださいませ!」
そう叫ぶと、気分良く大広間を後にした。
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