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第三章

32.解かれた呪い

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 気が付くとそこは自分のベッドの上だった。さくらはゆっくりと顔を動かすと、ベッドの脇にルノーとテナーが座っていた。二人ともさくらが目覚めたことに気が付くと、すぐに立ち上がりさくらの枕元に飛びついた。

「お目覚めですか? さくら様!」

 ルノーもテナーも安堵した表情で覗き込んだ。二人とも目を潤ませている。テナーに至っては目が真っ赤に腫れ上がっていた。心配でずっと泣いていたのだろう。ルノーの目の下にも隈が見える。

「ごめんなさい・・・。またお二人に心配かけちゃいましたね・・・」

 さくらは二人に片手を差し出した。二人は首を振りながらさくらの手を取ると、

「ご無事で何よりでございます・・・」

 言葉を詰まらせながら涙を流した。

「・・・あの、陛下は・・・?」

 さくらは恐る恐る聞いた。答えを聞くのが怖かったが、何も知らないのは息ができないほど苦しかった。

 落ちた川の中で、確かにこの手でリングを壊した。しかし、その先の記憶がないのだ。もしも、人に戻れなかったら? それよりも・・・。
 
桜は兵士に襲われた時の光景を思い出した。ノアの肩から噴出した鮮明な血しぶき。のけ反り後ろに倒れ込む姿・・・。それらが目に浮かび、さくらは不安で胸が押し潰されそうな思いで、二人の答えを待った。

「・・・大怪我をされていますが、命には別状がないそうでございます」

 ルノーはさくらを握っている手に力を込めると、泣きながら微笑んだ。

「お手当ても無事に終わり、今は眠りの魔術でお休み中でございます」

「・・・よかった・・・」

 さくらはヘナヘナと全身の力が抜けた。

(生きていた! 無事だった! 人に・・・人の姿に戻れたんだ・・・!)

 さくらは目を閉じた。涙がどんどん溢れてくる。空いている方の手で目を押さえたが、嗚咽が止まらない。ルノーとテナーはそっとさくらの手を離した。さくらは両手で顔を覆い、声を上げて泣いた。


☆彡


 大泣きして落ち着くと、さくらはゆっくりと起き上がった。テナーが慌てて駆け寄り、さくらを支えた。さくらは上半身を起こすと、ルノーからお茶を手渡された。

「あの、私と陛下はどのように助けられたのですか?」

 さくらはお茶を受け取りながら、ルノーに尋ねた。

「さくら様がドラゴンに襲われて、川に落ちてしまった後・・・」

「・・・襲われた・・・?」

「はい。覚えておりませんか? さくら様はドラゴンに襲われ、引きずられるように川に落ちたと聞いております」

「・・・はあ、そうですか・・」

「少し流されたところで、陛下と一緒に岸辺に倒れているところを兵士に発見されたのです。その時には既に陛下は大怪我を負われていたと聞いています」

「きっと、陛下がドラゴンを倒して、さくら様を助けてくださったのですね!」

 テナーは興奮気味に叫んだ。ルノーも頷いた。

「そうだったんですね・・・」

 さくらは一口お茶を飲むと、ふーっと息を吐いた。かなり湾曲されているが、そういうことにしておいた方がいいかもしれない。
さくらはお茶をサイドテーブルに置くと、ベッドから飛び降りた。

「さくら様?!」

 突然のさくらの行動に、侍女の二人は慌てた。

「陛下のところに行ってきます」

 さくらはそう笑うと、扉の方に駆けだした。

「お待ちください! まだ安静にしていないと!」

 ルノーが叫んだが、さくらは扉に手をかけて、振り向くと、

「大丈夫ですよ! もう元気です」

とにっこり笑った。そして外に出ようとしたが、駆け寄ってきたテナーに扉を閉められた。

「さくら様・・・。でも、その・・・、御髪が・・・」

 テナーの気の毒そうな視線に、さくらはハッとした。そう言えば心なしか頭が軽い。首元に手をやると、自分の髪の毛のすそが目に入った。さくらは青くなり、ふらつきながら姿見鏡の前に立った。

「・・・!」

 長かった髪は、肩の上辺りで汚らしく不揃いに切られていた。ジュワンに切られた時の恐怖が蘇り、身震いした。思わず両腕を抱えると、テナーがそっと傍に来た。

「すぐに髪結いを呼びます」

 そして、労わるようにさくらの手を両手で握った。

「そ、そうね! ちゃんと綺麗にしてからじゃないと、陛下の前に出られないわよね!」
 
さくらは無理やり笑顔を作って明るく言った。テナーの目に涙が浮かんでいる。

「泣かないで、テナー。髪の毛なんてすぐ伸びるんだから!」

 さくらはテナーの手を握り返した。そして泣いているテナーの手を引いて、ベッドまで戻ると、髪結いが来るまでもうひと眠りすることにした。
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