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第三章
24.二度目の誘拐
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さくらは薄っすらと目を開けた。とてもよく眠っていた気がする。一体いつから眠っていたのだろうか。
「・・・んっー・・・」
さくらは寝転がったまま大きく伸びをした。
(・・・あれ?・・・)
心なしかベッドが固い気がする。それに、いつもの気持ちのいいシーツではない。違和感を覚えた次の瞬間にはすべてを思い出した。
ガバッと起き上がると、自分はただの床に薄い布切れを引いた上に寝かされていたことがわかった。
目の前には鉄格子があり、その向こう側には机と椅子がある。そして、その椅子には誰かが座っていた。
さくらが起きたことに気が付いたのか、椅子に座っていた人影が立ち上がり近寄ってきた。それはジュワンだった。
「よくお休みでしたね、さくら様。まさかこんなにぐっすり眠るとは予想外でした。かなり待たされましたよ」
ジュワンは相変わらずにっこりと笑っている。
「どういうおつもりですか!」
さくらは鉄格子に飛びついて叫んだ。
「どう見てもここは牢屋ですよね? 私が何かしましたか!?」
さくらの抗議に、ジュワンの笑みは明らかに侮蔑を込めたものに変わった。
「本気でその質問を? 理由はお分かりでは?」
さくらは唇を噛んだ。分かっている。単純に攫われたのだ。さくらは騙されたことが悔しくて、ジュワンを睨みつけた。
「そのように怒らないで下さい。本当は手荒な真似はしたくなかったのです」
ジュワンはなだめる様に優しく言った。しかし、目は相変わらず侮蔑がこもっているように見える。
「これも王座を手に入れるために仕方のないことなのですよ。私が国王になった暁には、もちろん、さくら様が王妃になるわけですから、すぐにここから出してあげます」
さくらは怒りで言葉が出てこなかった。鉄格子を握る手が怒りで震える。ジュワンはその手をそっと握ると、さくらに顔を近づけてきた。
「今暫く、ここで二人、仲良くお待ちくださいね」
そう言うと、目線をさくらの奥に移した。さくらはその目線を追って、自分の後ろを振り返った。そこには自分の他にもう一人の女性が力無く座っていた。さくらはその女性を見て血の気が引いた。
(リリーさん!?)
さくらはキッとジュワンに向き直った。
「何で彼女までいるんですか!?」
ジュワンはさくらの手を離し、鉄格子から一歩下がった。
「人質ですよ。大切な」
「人質? どういうことですか!? 私をあなたの国へ連れて帰ることが目的ではないんですか?」
ジュワンは呆れたように長く溜息をついた。
「想像以上に頭の働かない娘さんだ、先ほどの説明で理解できないとは。貴女のような人を第一王妃に迎えなければいけないと思うと、何とも先が思いやられる」
呟くように言うと、冷たい目線をさくらに送った。
「言ったでしょう、『王座を手に入れるため』と。私が欲しいのはこのローランドの王座です」
さくらの背中を冷たいものが流れた。上手く言葉が出てこない。
「つまり、交渉相手はノア自身。彼に直々に王座を明け渡して頂きたいのですよ」
ジュワンはさくらにまた近寄ってきた。そして顔を覗き込むと、さくらの左手を指差した。
「そのためには国王の証である指輪が必要なのです。『異世界の王妃』の夫である証の指輪が」
ジュワンの指がさくらの左手をすーっと撫でた。さくらはゾクッとして、慌てて鉄格子から離れた。
「・・・つまり陛下を呼び出す人質ってことですか?」
さくらは指輪を隠すように胸の前で手を組むと、ジュワンを睨んだ。ジュワンはにっこりと笑って頷いた。
「それにしても人質は二人もいらないでしょう! 彼女は返してください! 私一人で十分です!」
さくらは怒鳴ったが、ジュワンは呆れたように、肩を竦めた。
「おやおや、先ほど申し上げたでしょう。人質は貴女ではなくて、彼女ですよ」
「?!」
さくらは訳が分からなくて、瞬きして彼を見た。
「さくら様だけが人質では心もとないですから」
ジュワンは意地悪そうに眼を細めた。
「私はノアに密かに来てほしいのです。さくら様だけが人質では、いくら忠告しても王妃誘拐と言うことで、軍隊が動くことになる可能性が高い。当然ですがね」
そう言いながら、チラリと奥にいるリリーを見た。
「しかし彼女が人質ならば? きっとノアは約束を守るでしょう。残念だが、さくら様とリリーではそれだけの差があります。一国の王妃のためには国王の立場として軍隊を使い、恩自ら動くとはないが、彼女のためなら、ただの男として必ずや駆け付けるでしょう」
さくらは何も言い返せなかった。ぐっと喉の奥がつまり、小さく唸り声を上げた。悔しいが全くその通りだと思ったのだ。目じりに涙を溜めて、ただただジュワンを睨むしかできなかった。
ジュワンはそんなさくらを見て鼻で笑うと、一人の看守を呼び、
「これでも一応王妃だ。粗相のないように見張ってくれ」
わざとらしく声高らかに言うと、看守部屋から出て行ってしまった。
さくらは慌てて鉄格子に飛びついて、ジュワンの名前を叫んだが、ジュワンは振り向きもしなかった。
「・・・んっー・・・」
さくらは寝転がったまま大きく伸びをした。
(・・・あれ?・・・)
心なしかベッドが固い気がする。それに、いつもの気持ちのいいシーツではない。違和感を覚えた次の瞬間にはすべてを思い出した。
ガバッと起き上がると、自分はただの床に薄い布切れを引いた上に寝かされていたことがわかった。
目の前には鉄格子があり、その向こう側には机と椅子がある。そして、その椅子には誰かが座っていた。
さくらが起きたことに気が付いたのか、椅子に座っていた人影が立ち上がり近寄ってきた。それはジュワンだった。
「よくお休みでしたね、さくら様。まさかこんなにぐっすり眠るとは予想外でした。かなり待たされましたよ」
ジュワンは相変わらずにっこりと笑っている。
「どういうおつもりですか!」
さくらは鉄格子に飛びついて叫んだ。
「どう見てもここは牢屋ですよね? 私が何かしましたか!?」
さくらの抗議に、ジュワンの笑みは明らかに侮蔑を込めたものに変わった。
「本気でその質問を? 理由はお分かりでは?」
さくらは唇を噛んだ。分かっている。単純に攫われたのだ。さくらは騙されたことが悔しくて、ジュワンを睨みつけた。
「そのように怒らないで下さい。本当は手荒な真似はしたくなかったのです」
ジュワンはなだめる様に優しく言った。しかし、目は相変わらず侮蔑がこもっているように見える。
「これも王座を手に入れるために仕方のないことなのですよ。私が国王になった暁には、もちろん、さくら様が王妃になるわけですから、すぐにここから出してあげます」
さくらは怒りで言葉が出てこなかった。鉄格子を握る手が怒りで震える。ジュワンはその手をそっと握ると、さくらに顔を近づけてきた。
「今暫く、ここで二人、仲良くお待ちくださいね」
そう言うと、目線をさくらの奥に移した。さくらはその目線を追って、自分の後ろを振り返った。そこには自分の他にもう一人の女性が力無く座っていた。さくらはその女性を見て血の気が引いた。
(リリーさん!?)
さくらはキッとジュワンに向き直った。
「何で彼女までいるんですか!?」
ジュワンはさくらの手を離し、鉄格子から一歩下がった。
「人質ですよ。大切な」
「人質? どういうことですか!? 私をあなたの国へ連れて帰ることが目的ではないんですか?」
ジュワンは呆れたように長く溜息をついた。
「想像以上に頭の働かない娘さんだ、先ほどの説明で理解できないとは。貴女のような人を第一王妃に迎えなければいけないと思うと、何とも先が思いやられる」
呟くように言うと、冷たい目線をさくらに送った。
「言ったでしょう、『王座を手に入れるため』と。私が欲しいのはこのローランドの王座です」
さくらの背中を冷たいものが流れた。上手く言葉が出てこない。
「つまり、交渉相手はノア自身。彼に直々に王座を明け渡して頂きたいのですよ」
ジュワンはさくらにまた近寄ってきた。そして顔を覗き込むと、さくらの左手を指差した。
「そのためには国王の証である指輪が必要なのです。『異世界の王妃』の夫である証の指輪が」
ジュワンの指がさくらの左手をすーっと撫でた。さくらはゾクッとして、慌てて鉄格子から離れた。
「・・・つまり陛下を呼び出す人質ってことですか?」
さくらは指輪を隠すように胸の前で手を組むと、ジュワンを睨んだ。ジュワンはにっこりと笑って頷いた。
「それにしても人質は二人もいらないでしょう! 彼女は返してください! 私一人で十分です!」
さくらは怒鳴ったが、ジュワンは呆れたように、肩を竦めた。
「おやおや、先ほど申し上げたでしょう。人質は貴女ではなくて、彼女ですよ」
「?!」
さくらは訳が分からなくて、瞬きして彼を見た。
「さくら様だけが人質では心もとないですから」
ジュワンは意地悪そうに眼を細めた。
「私はノアに密かに来てほしいのです。さくら様だけが人質では、いくら忠告しても王妃誘拐と言うことで、軍隊が動くことになる可能性が高い。当然ですがね」
そう言いながら、チラリと奥にいるリリーを見た。
「しかし彼女が人質ならば? きっとノアは約束を守るでしょう。残念だが、さくら様とリリーではそれだけの差があります。一国の王妃のためには国王の立場として軍隊を使い、恩自ら動くとはないが、彼女のためなら、ただの男として必ずや駆け付けるでしょう」
さくらは何も言い返せなかった。ぐっと喉の奥がつまり、小さく唸り声を上げた。悔しいが全くその通りだと思ったのだ。目じりに涙を溜めて、ただただジュワンを睨むしかできなかった。
ジュワンはそんなさくらを見て鼻で笑うと、一人の看守を呼び、
「これでも一応王妃だ。粗相のないように見張ってくれ」
わざとらしく声高らかに言うと、看守部屋から出て行ってしまった。
さくらは慌てて鉄格子に飛びついて、ジュワンの名前を叫んだが、ジュワンは振り向きもしなかった。
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