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第三章
22.誤解
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翌日は丸々一日、さくらは部屋から出なかった。誰にも会わず、ひっそりと過ごした。ドラゴンのことは気になったが、部屋から出て、もしノアと鉢合わせたらと思うと、外に出ることが躊躇われた。
二日ほど部屋に籠っていたが、三日目には流石に辛くなり、ジュワンの花園に行ってみた。
ジュワンは朝にその花園を散歩するのが日課だ。もう十時も回っているので誰もいないだろうと思い、花園に向かった。だが、そこにはジュワンがまだいた。さくらに気が付くと、にっこりと笑って迎えてくれた。
「お待ちしていましたよ。さくら様」
ゆっくりさくらに近づくと、ベンチに座るように勧めた。
「この二、三日お会いできなかったので、心配していました」
「ごめんなさい。ご心配おかけして」
自分を待っていてくれていたのだと知り、申し訳なく思うと同時に、気にかけてくれたことをありがたく思った。
「実は、そろそろ自国に帰らないといけませんので、ご挨拶したかったのですよ」
隣に腰掛けながら、ジュワンが寂しそうに笑った。
「もうお帰りになるのですか?」
突然の報告にさくらは驚いた。
「いや、予定より長く滞在しました。やはり故郷は居心地がよいですね」
名残惜しそうに笑うジュワンを、さくらは残念そうに見つめた。折角できた知り合いがいなくなってしまう。ただでさえ寂しさの中にいるのに、また一人、知り合いがいなくなってしまうことに、さくらは途方もない孤独を感じた。
「折角ですから、帰国前にさくら様と過ごしたいと思いまして。一緒に街へ散歩に行きませんか?」
その申し出にさくらは目を丸くした。そんなことができるのだろうか?
「イルハンや近衛隊の兵士も一緒ならば、大丈夫でしょう」
「・・・許可が下りるでしょうか?」
さくらは不安そうに聞いた。一度許されたフェスタだって行くことが禁じられたくらいだ。そう簡単に許されるとは思えなかった。
「陛下は心配性でいらっしゃいますからね」
ジュワンは肩を竦めながら笑った。その言葉にさくらは苦笑いした。そして、
「もし、許可が下りたら是非お願いします」
と言ってほほ笑んだ。しかし、心の中では叶わないだろうと思った。ジュワンの気遣いに感謝しつつも、夢を見るのは止めようと思っていた。
☆彡
ジュワンと別れ、いつものように図書室で本を物色していると、大きな音を立てて扉が開いた。驚いて振り向くと、ノアが立っていた。鉢合わせしてしまった気まずさに、一瞬固まったが、ノアの異様な雰囲気に気が付き、嫌な予感がした。
つかつかっとノアが近づいてくる。その顔は怒りに満ちていた。さくらは思わずたじろぎ、数歩後ろに後ずさりした。ここまで怒ったノアを見たことがなかった。
「ジュワンから聞いた・・・」
ノアの低い声に、さくらは身震いした。ああ、やはり許可は下りないなと確信した。さくらは俯いた。
「街に出たいと、ジュワンに泣きついたそうだな」
(はい?)
さくらは耳を疑った。思わず顔を上げ、ノアを見た。ノアは相変わらず自分を睨んでいる。
(いやいやいや・・・。ちょっと、ジュワン様、あなた一体何て言ったの?)
さくらは首を振って誤解を解こうとしたが、
「強かな女だな。そこまでして外に出たいのか」
ノアに吐き捨てるように言われ、怒りが沸いてきた。そしてつい、
「ええ、出たいですが。何か?」
とそっぽを向きながら言い返した。
「ふざけるな! いい加減に自分の立場を理解しろ!」
さくらの態度にノアは大声で怒鳴った。さくらはノアの方に振り向きもせず、
「『自分の立場』とは?」
と切り返した。
「お前は『異世界の王妃』だ! 『異世界の王妃』はどの国からも狙われている! 何もゴンゴだけではない」
ノアはイライラし、さくらの両腕を掴むと、無理やり自分の方に向かせた。
「その存在はひた隠しにされるものだ。本来なら一番上の塔の部屋から一歩も出さないでおきたいくらいだ。それを第一の宮殿内は自由にさせている。それだけでもありがたいと思え!」
腕を掴まれてもさくらはノアを見ようとしなかった。顔を逸らし、目線は斜め下の床を見ている。ノアのさくらの腕を掴む力はますます強まった。
「この間は、奇跡的に死者も出さずに救い出せたからいいが、お前が攫われることで戦争になりかねないのだぞ!この国にとってどれほどの損害なるのか分からないのか!?」
さくらは唇を噛んだ。そんなことは言われなくても分かっている。でも、どうにも納得できないものがある。そんなに重要な人物がなぜ『私』なのか・・・。
「私は好きでその『異世界の王妃』になったわけではありません」
さくらは目を伏せながら、小さく呟いた。
二日ほど部屋に籠っていたが、三日目には流石に辛くなり、ジュワンの花園に行ってみた。
ジュワンは朝にその花園を散歩するのが日課だ。もう十時も回っているので誰もいないだろうと思い、花園に向かった。だが、そこにはジュワンがまだいた。さくらに気が付くと、にっこりと笑って迎えてくれた。
「お待ちしていましたよ。さくら様」
ゆっくりさくらに近づくと、ベンチに座るように勧めた。
「この二、三日お会いできなかったので、心配していました」
「ごめんなさい。ご心配おかけして」
自分を待っていてくれていたのだと知り、申し訳なく思うと同時に、気にかけてくれたことをありがたく思った。
「実は、そろそろ自国に帰らないといけませんので、ご挨拶したかったのですよ」
隣に腰掛けながら、ジュワンが寂しそうに笑った。
「もうお帰りになるのですか?」
突然の報告にさくらは驚いた。
「いや、予定より長く滞在しました。やはり故郷は居心地がよいですね」
名残惜しそうに笑うジュワンを、さくらは残念そうに見つめた。折角できた知り合いがいなくなってしまう。ただでさえ寂しさの中にいるのに、また一人、知り合いがいなくなってしまうことに、さくらは途方もない孤独を感じた。
「折角ですから、帰国前にさくら様と過ごしたいと思いまして。一緒に街へ散歩に行きませんか?」
その申し出にさくらは目を丸くした。そんなことができるのだろうか?
「イルハンや近衛隊の兵士も一緒ならば、大丈夫でしょう」
「・・・許可が下りるでしょうか?」
さくらは不安そうに聞いた。一度許されたフェスタだって行くことが禁じられたくらいだ。そう簡単に許されるとは思えなかった。
「陛下は心配性でいらっしゃいますからね」
ジュワンは肩を竦めながら笑った。その言葉にさくらは苦笑いした。そして、
「もし、許可が下りたら是非お願いします」
と言ってほほ笑んだ。しかし、心の中では叶わないだろうと思った。ジュワンの気遣いに感謝しつつも、夢を見るのは止めようと思っていた。
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つかつかっとノアが近づいてくる。その顔は怒りに満ちていた。さくらは思わずたじろぎ、数歩後ろに後ずさりした。ここまで怒ったノアを見たことがなかった。
「ジュワンから聞いた・・・」
ノアの低い声に、さくらは身震いした。ああ、やはり許可は下りないなと確信した。さくらは俯いた。
「街に出たいと、ジュワンに泣きついたそうだな」
(はい?)
さくらは耳を疑った。思わず顔を上げ、ノアを見た。ノアは相変わらず自分を睨んでいる。
(いやいやいや・・・。ちょっと、ジュワン様、あなた一体何て言ったの?)
さくらは首を振って誤解を解こうとしたが、
「強かな女だな。そこまでして外に出たいのか」
ノアに吐き捨てるように言われ、怒りが沸いてきた。そしてつい、
「ええ、出たいですが。何か?」
とそっぽを向きながら言い返した。
「ふざけるな! いい加減に自分の立場を理解しろ!」
さくらの態度にノアは大声で怒鳴った。さくらはノアの方に振り向きもせず、
「『自分の立場』とは?」
と切り返した。
「お前は『異世界の王妃』だ! 『異世界の王妃』はどの国からも狙われている! 何もゴンゴだけではない」
ノアはイライラし、さくらの両腕を掴むと、無理やり自分の方に向かせた。
「その存在はひた隠しにされるものだ。本来なら一番上の塔の部屋から一歩も出さないでおきたいくらいだ。それを第一の宮殿内は自由にさせている。それだけでもありがたいと思え!」
腕を掴まれてもさくらはノアを見ようとしなかった。顔を逸らし、目線は斜め下の床を見ている。ノアのさくらの腕を掴む力はますます強まった。
「この間は、奇跡的に死者も出さずに救い出せたからいいが、お前が攫われることで戦争になりかねないのだぞ!この国にとってどれほどの損害なるのか分からないのか!?」
さくらは唇を噛んだ。そんなことは言われなくても分かっている。でも、どうにも納得できないものがある。そんなに重要な人物がなぜ『私』なのか・・・。
「私は好きでその『異世界の王妃』になったわけではありません」
さくらは目を伏せながら、小さく呟いた。
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