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第三章
20.葛藤
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突然振り向いたさくらに驚いて、ノアは慌てて目線を逸らした。だが、さくらはそんなことお構いなしに、まるで転がるようにノアのもとに駆けてきた。あまりにも勢いよく駆けてきたので、本当に転がって池に落ちてしまいそうになったところを、ノアが慌てて捕まえた。
「何をしている! 危ないだろう!」
ノアはさくらの両腕をしっかり支え、自分の前に座らせた。ノアの説教など耳にも入っていないかのように、さくらもノアの両腕を掴み返して、食い入るようにノアを見つめた。
「陛下! もしかして、ここにドラゴンが住み着いていたこと知っていましたか?!」
「!」
ノアはその言葉にギクリとし、固まってしまった。
「ここにドラゴンが住んでいたんですっ! イルハンさんが知っていたのだから、陛下もご存じだったんですか?」
興奮気味に自分を見つめるさくらに、言葉に詰まり、黙っていると、
「・・・知らなかったですか?」
自分の両腕を掴んでいるさくらの手が離れた。
「・・・ああ、知らない・・・」
ノアもそう答えると、さくらの腕をそっと離した。
さくらはがっかりしたように溜息をつくと、その場に膝を抱えて座り直した。
「陛下がいらっしゃらない間、ここにドラゴンが住み着いていたんですよ・・・」
池を眺めながら小さい声でさくらは言った。
「とっても頼もしくて優しい子だったんです。私、いつもその子と一緒にいて・・・。すごく仲良くしてもらっていたんです」
「・・・」
「私がゴンゴに攫われた時、一番に助けに来てくれたんです。でもその時、魔術にかかって子犬ほどの大きさになってしまって・・・。大怪我までさせちゃって・・・。私のせいで・・・」
さくらの声はどんどん掠れていき、上手く話せなくなっていった。
「今どうしているかとても心配で・・・。小さい体で生きて行けなかったら私のせいなんです・・・。あの時、あの子を手放さなければよかった。もうちょっと待っていれば一緒に連れて帰ったのに・・・」
さくらは膝に顔を埋めて嗚咽を堪えていた。自分を責めるさくらにノアは胸が締め付けられる気がした。だが、すべてを告白しようと何度も思っても、どうしても言葉が出てこない。どうしてもあと一歩勇気が出てこなかった。
「・・・おそらくそのドラゴンは無事だ・・・」
やっとの思いでノアは一言を口にした。さくらはゆっくり顔を上げて隣に座っているノアを見た。
「小さくなってもドラゴンはドラゴンだ。奴らは魔術を使う。体力が戻れば自分で魔術を解くだろう。心配するな」
「・・・本当に・・・?」
「ああ・・・」
その言葉に、さくらは少し考えこむと何かを思いついたようにノアを見た。そして、ピシッと正座して姿勢を正すとノアに向き合った。
「陛下! もしあの子が・・・ドラゴンが帰ってきたら、またここに住んでもいいですか?」
さくらは真剣な眼差しでノアを見つめた。
「私が責任をもってお世話をします! お願いします!」
さくらは、地面に手をついて頭を下げた。ノアはさくらの健気な態度に胸が熱くなった。ドラゴンのためにここまでするさくらに対して、不誠実さが大きくなっていくようで居たたまれない思いがした。すぐにでも真実を告白するべきだと思う自分と、それを知った時のさくらの反応を恐れている自分がいる。二人の自分が心の中で葛藤した。
無言でさくらを見つめていると、さくらはそっと頭を上げて、
「お城の方にはご迷惑かけません。皆さんを驚かせないように絶対誰にも言いません。それでもダメですか?」
ノアを見上げると、コテンと首を傾げた。
「・・・そんなことはない。お前の好きにして構わない」
ノアの返事にさくらの顔が輝いた。花のように輝く笑顔にノアは見惚れてしまった。ずっと見たかったさくらの笑顔だ。ノアの右手が無意識にさくらの頬に近づいた。
「!」
ノアの手が自分の頬に触れそうになって、さくらは慌てて立ち上がった。
「ありがとうございます! 感謝しますっ!」
そう言ってペコリと頭を下げると、くるっと向きを変え、急いで洞窟の入り口に戻った。
(何、普通に話してるの? 私ってば!)
さくらは、持ち帰る果物の入った袋を手に取り、元来た道に戻ろうとしたとき、動揺していたのか、躓いて転びそうになった。しかし、すぐに後ろから手が伸び、体を支えられた。
ノアは無言でさくらから手を離した。だが、すぐに今度はさくらの右手を取ると帰り道を歩き出した。さくらは反射的にその手を引っ込めようとしたが、ノアはぐっと握って離さない。そして、ジッと懇願するような目でさくらを見つめた。
「・・・」
その瞳にさくらは何も言えなくなった。二人は一言も会話をせず、手を繋いだまま城まで戻って行った。
「何をしている! 危ないだろう!」
ノアはさくらの両腕をしっかり支え、自分の前に座らせた。ノアの説教など耳にも入っていないかのように、さくらもノアの両腕を掴み返して、食い入るようにノアを見つめた。
「陛下! もしかして、ここにドラゴンが住み着いていたこと知っていましたか?!」
「!」
ノアはその言葉にギクリとし、固まってしまった。
「ここにドラゴンが住んでいたんですっ! イルハンさんが知っていたのだから、陛下もご存じだったんですか?」
興奮気味に自分を見つめるさくらに、言葉に詰まり、黙っていると、
「・・・知らなかったですか?」
自分の両腕を掴んでいるさくらの手が離れた。
「・・・ああ、知らない・・・」
ノアもそう答えると、さくらの腕をそっと離した。
さくらはがっかりしたように溜息をつくと、その場に膝を抱えて座り直した。
「陛下がいらっしゃらない間、ここにドラゴンが住み着いていたんですよ・・・」
池を眺めながら小さい声でさくらは言った。
「とっても頼もしくて優しい子だったんです。私、いつもその子と一緒にいて・・・。すごく仲良くしてもらっていたんです」
「・・・」
「私がゴンゴに攫われた時、一番に助けに来てくれたんです。でもその時、魔術にかかって子犬ほどの大きさになってしまって・・・。大怪我までさせちゃって・・・。私のせいで・・・」
さくらの声はどんどん掠れていき、上手く話せなくなっていった。
「今どうしているかとても心配で・・・。小さい体で生きて行けなかったら私のせいなんです・・・。あの時、あの子を手放さなければよかった。もうちょっと待っていれば一緒に連れて帰ったのに・・・」
さくらは膝に顔を埋めて嗚咽を堪えていた。自分を責めるさくらにノアは胸が締め付けられる気がした。だが、すべてを告白しようと何度も思っても、どうしても言葉が出てこない。どうしてもあと一歩勇気が出てこなかった。
「・・・おそらくそのドラゴンは無事だ・・・」
やっとの思いでノアは一言を口にした。さくらはゆっくり顔を上げて隣に座っているノアを見た。
「小さくなってもドラゴンはドラゴンだ。奴らは魔術を使う。体力が戻れば自分で魔術を解くだろう。心配するな」
「・・・本当に・・・?」
「ああ・・・」
その言葉に、さくらは少し考えこむと何かを思いついたようにノアを見た。そして、ピシッと正座して姿勢を正すとノアに向き合った。
「陛下! もしあの子が・・・ドラゴンが帰ってきたら、またここに住んでもいいですか?」
さくらは真剣な眼差しでノアを見つめた。
「私が責任をもってお世話をします! お願いします!」
さくらは、地面に手をついて頭を下げた。ノアはさくらの健気な態度に胸が熱くなった。ドラゴンのためにここまでするさくらに対して、不誠実さが大きくなっていくようで居たたまれない思いがした。すぐにでも真実を告白するべきだと思う自分と、それを知った時のさくらの反応を恐れている自分がいる。二人の自分が心の中で葛藤した。
無言でさくらを見つめていると、さくらはそっと頭を上げて、
「お城の方にはご迷惑かけません。皆さんを驚かせないように絶対誰にも言いません。それでもダメですか?」
ノアを見上げると、コテンと首を傾げた。
「・・・そんなことはない。お前の好きにして構わない」
ノアの返事にさくらの顔が輝いた。花のように輝く笑顔にノアは見惚れてしまった。ずっと見たかったさくらの笑顔だ。ノアの右手が無意識にさくらの頬に近づいた。
「!」
ノアの手が自分の頬に触れそうになって、さくらは慌てて立ち上がった。
「ありがとうございます! 感謝しますっ!」
そう言ってペコリと頭を下げると、くるっと向きを変え、急いで洞窟の入り口に戻った。
(何、普通に話してるの? 私ってば!)
さくらは、持ち帰る果物の入った袋を手に取り、元来た道に戻ろうとしたとき、動揺していたのか、躓いて転びそうになった。しかし、すぐに後ろから手が伸び、体を支えられた。
ノアは無言でさくらから手を離した。だが、すぐに今度はさくらの右手を取ると帰り道を歩き出した。さくらは反射的にその手を引っ込めようとしたが、ノアはぐっと握って離さない。そして、ジッと懇願するような目でさくらを見つめた。
「・・・」
その瞳にさくらは何も言えなくなった。二人は一言も会話をせず、手を繋いだまま城まで戻って行った。
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