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第三章
16.図書室
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フェスタ当日の朝、ノアはさくらを探していた。部屋に行ったが既にいなかったので、図書室に向かった。昨日のこと謝るつもりは毛頭ない。ただジュワンには近づかないように再度警告するつもりだった。
図書室に入ると、そこにいたのはジュワンだった。ジュワンはノアを見るとにこやかに挨拶をした。
「これは陛下。おはようございます」
ノアは忌々しそうに、ジュワンを見た。
「何故ここに? 第一の宮殿内の立入りは遠慮するように伝えたはずだが」
それを聞いたジュワンは寂しそうに笑うと、
「申し訳ございません。陛下。しかしこちらには亡き母の花園がございます。この城に戻った時は、毎朝、花園を散策することを日課にしておりましたので、今朝もつい出向いてしまいました」
そう言い、恭しく頭を下げた。
「また、気になる本がありましたので、こちらに立ち寄らせていただきました。しかし、ここに来てよかった。陛下にお会いできるとは」
ノアはその言葉に顔をしかめた。
「実は陛下にお願いがございまして、執務室にお伺いするところでした」
ジュワンは顔を上げ、爽やかに笑いかけた。
「今日のフェスタに王妃様をお連れしたいので、許可を頂きたいのです」
「何だと?!」
ノアはカッとなり、ジュワンを睨みつけた。やはり油断できない男だ。この男をさくらに近づけてしまった自分の不手際を悔やんだ。
「断る!」
ノアはジュワンを睨みつけたまま、怒鳴るように答えた。ジュワンはノアの態度にまったく怯む様子もなく、
「どうしても無理でしょうか?」
と困ったような顔をした。
「さくらはただの王妃ではない! 簡単に外に出すことは許されない!」
「しかし、せっかくのフェスタです。楽しんでいただきたいと思いませんか?」
「身の安全の方が最優先だ」
一歩も引かないノアに、ジュワンは溜息をつくと、肩をすくめた。
「だからと言って、この素晴らしい日に、城に一人で閉じ込めておくのはあまりにもお気の毒です・・・」
「何も一人というわけではない!」
ノアがキッと言い返した時、図書室のドアが開いて、誰かが入ってきた。振り向くと、二人を見て固まっているさくらがいた。
「・・・」
気まずそうに佇んでいるさくらを見て、咄嗟にノアは怒鳴った。
「今日は城から一歩も出るな!」
「ご自分は出かけられるのでしょう? どなたかと」
透かさずジュワンが割って入った。意味ありげな言い方に、ノアはもはや焼き殺さんばかりの激しい目でジュワンを睨みつけた。
さくらは自分を落ち着かせるように一呼吸すると、軽くノアを睨んだ。そしてスッと顔を背けると、
「分かりました。私はお城から一歩も出ません。そちらはどうぞ勝手に楽しんできてください」
と素っ気なく答えた。
「では私も共に城で過ごしましょう。このような日に一人で過ごすなんて寂しい」
気の毒そうにさくらを見てジュワンが言った。さくらは驚いて、
「とんでもない! せっかくお祭りを楽しみにしていらしたのでしょう? そんなの申し訳ないです! お気持ちだけで十分です。ありがとうございます」
と慌てて断った。自分とは打って変わって丁寧な態度のさくらを見て、ノアの怒りはますます大きくなった。
ジュワンはにっこり笑って、何かを思いついたように手を叩いた。
「そう、先ほど陛下は、城でも一人と言うわけではないとおっしゃっていましたね。そのお役目、私がお引き受けしましょう」
そう言うとノアに向き合った。
「陛下がフェスタをお楽しみの間、王妃が城から出ないようにしっかりと見張っていましょう。それなら問題ないでしょう?」
ノアは言葉に詰まり、唇を噛みしめた。悪びれない様子のジュワンをただ睨むしかできなかった。そんなノアの事など気にもかけないように、ジュワンは一冊の本を手に取ると、さくらの横に並ぶように立ち、さくらの前でその本を広げて見せた。
「これが昨日お話ししていた花ですよ」
さくらは躊躇した。目の前にノアがいる。昨日の件もあるし、流石に気になった。しかし、親切にしてくれるジュワンを邪険にすることもできない。仕方なく一緒に本を覗いた。その仲の良さげな様子にノアは我慢がならなくなり、無言で図書室を出て行った。
バタンッと乱暴に扉が閉まる音が図書室に大きく響き渡った
図書室に入ると、そこにいたのはジュワンだった。ジュワンはノアを見るとにこやかに挨拶をした。
「これは陛下。おはようございます」
ノアは忌々しそうに、ジュワンを見た。
「何故ここに? 第一の宮殿内の立入りは遠慮するように伝えたはずだが」
それを聞いたジュワンは寂しそうに笑うと、
「申し訳ございません。陛下。しかしこちらには亡き母の花園がございます。この城に戻った時は、毎朝、花園を散策することを日課にしておりましたので、今朝もつい出向いてしまいました」
そう言い、恭しく頭を下げた。
「また、気になる本がありましたので、こちらに立ち寄らせていただきました。しかし、ここに来てよかった。陛下にお会いできるとは」
ノアはその言葉に顔をしかめた。
「実は陛下にお願いがございまして、執務室にお伺いするところでした」
ジュワンは顔を上げ、爽やかに笑いかけた。
「今日のフェスタに王妃様をお連れしたいので、許可を頂きたいのです」
「何だと?!」
ノアはカッとなり、ジュワンを睨みつけた。やはり油断できない男だ。この男をさくらに近づけてしまった自分の不手際を悔やんだ。
「断る!」
ノアはジュワンを睨みつけたまま、怒鳴るように答えた。ジュワンはノアの態度にまったく怯む様子もなく、
「どうしても無理でしょうか?」
と困ったような顔をした。
「さくらはただの王妃ではない! 簡単に外に出すことは許されない!」
「しかし、せっかくのフェスタです。楽しんでいただきたいと思いませんか?」
「身の安全の方が最優先だ」
一歩も引かないノアに、ジュワンは溜息をつくと、肩をすくめた。
「だからと言って、この素晴らしい日に、城に一人で閉じ込めておくのはあまりにもお気の毒です・・・」
「何も一人というわけではない!」
ノアがキッと言い返した時、図書室のドアが開いて、誰かが入ってきた。振り向くと、二人を見て固まっているさくらがいた。
「・・・」
気まずそうに佇んでいるさくらを見て、咄嗟にノアは怒鳴った。
「今日は城から一歩も出るな!」
「ご自分は出かけられるのでしょう? どなたかと」
透かさずジュワンが割って入った。意味ありげな言い方に、ノアはもはや焼き殺さんばかりの激しい目でジュワンを睨みつけた。
さくらは自分を落ち着かせるように一呼吸すると、軽くノアを睨んだ。そしてスッと顔を背けると、
「分かりました。私はお城から一歩も出ません。そちらはどうぞ勝手に楽しんできてください」
と素っ気なく答えた。
「では私も共に城で過ごしましょう。このような日に一人で過ごすなんて寂しい」
気の毒そうにさくらを見てジュワンが言った。さくらは驚いて、
「とんでもない! せっかくお祭りを楽しみにしていらしたのでしょう? そんなの申し訳ないです! お気持ちだけで十分です。ありがとうございます」
と慌てて断った。自分とは打って変わって丁寧な態度のさくらを見て、ノアの怒りはますます大きくなった。
ジュワンはにっこり笑って、何かを思いついたように手を叩いた。
「そう、先ほど陛下は、城でも一人と言うわけではないとおっしゃっていましたね。そのお役目、私がお引き受けしましょう」
そう言うとノアに向き合った。
「陛下がフェスタをお楽しみの間、王妃が城から出ないようにしっかりと見張っていましょう。それなら問題ないでしょう?」
ノアは言葉に詰まり、唇を噛みしめた。悪びれない様子のジュワンをただ睨むしかできなかった。そんなノアの事など気にもかけないように、ジュワンは一冊の本を手に取ると、さくらの横に並ぶように立ち、さくらの前でその本を広げて見せた。
「これが昨日お話ししていた花ですよ」
さくらは躊躇した。目の前にノアがいる。昨日の件もあるし、流石に気になった。しかし、親切にしてくれるジュワンを邪険にすることもできない。仕方なく一緒に本を覗いた。その仲の良さげな様子にノアは我慢がならなくなり、無言で図書室を出て行った。
バタンッと乱暴に扉が閉まる音が図書室に大きく響き渡った
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