ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

文字の大きさ
上 下
76 / 98
第三章

16.図書室

しおりを挟む
 フェスタ当日の朝、ノアはさくらを探していた。部屋に行ったが既にいなかったので、図書室に向かった。昨日のこと謝るつもりは毛頭ない。ただジュワンには近づかないように再度警告するつもりだった。

 図書室に入ると、そこにいたのはジュワンだった。ジュワンはノアを見るとにこやかに挨拶をした。

「これは陛下。おはようございます」

 ノアは忌々しそうに、ジュワンを見た。

「何故ここに? 第一の宮殿内の立入りは遠慮するように伝えたはずだが」

 それを聞いたジュワンは寂しそうに笑うと、

「申し訳ございません。陛下。しかしこちらには亡き母の花園がございます。この城に戻った時は、毎朝、花園を散策することを日課にしておりましたので、今朝もつい出向いてしまいました」

そう言い、恭しく頭を下げた。

「また、気になる本がありましたので、こちらに立ち寄らせていただきました。しかし、ここに来てよかった。陛下にお会いできるとは」

 ノアはその言葉に顔をしかめた。

「実は陛下にお願いがございまして、執務室にお伺いするところでした」

 ジュワンは顔を上げ、爽やかに笑いかけた。

「今日のフェスタに王妃様をお連れしたいので、許可を頂きたいのです」

「何だと?!」

 ノアはカッとなり、ジュワンを睨みつけた。やはり油断できない男だ。この男をさくらに近づけてしまった自分の不手際を悔やんだ。

「断る!」

 ノアはジュワンを睨みつけたまま、怒鳴るように答えた。ジュワンはノアの態度にまったく怯む様子もなく、

「どうしても無理でしょうか?」

と困ったような顔をした。

「さくらはただの王妃ではない! 簡単に外に出すことは許されない!」

「しかし、せっかくのフェスタです。楽しんでいただきたいと思いませんか?」

「身の安全の方が最優先だ」

 一歩も引かないノアに、ジュワンは溜息をつくと、肩をすくめた。

「だからと言って、この素晴らしい日に、城に一人で閉じ込めておくのはあまりにもお気の毒です・・・」

「何も一人というわけではない!」

 ノアがキッと言い返した時、図書室のドアが開いて、誰かが入ってきた。振り向くと、二人を見て固まっているさくらがいた。

「・・・」

 気まずそうに佇んでいるさくらを見て、咄嗟にノアは怒鳴った。

「今日は城から一歩も出るな!」

「ご自分は出かけられるのでしょう? どなたかと」

 透かさずジュワンが割って入った。意味ありげな言い方に、ノアはもはや焼き殺さんばかりの激しい目でジュワンを睨みつけた。

 さくらは自分を落ち着かせるように一呼吸すると、軽くノアを睨んだ。そしてスッと顔を背けると、

「分かりました。私はお城から一歩も出ません。そちらはどうぞ勝手に楽しんできてください」

と素っ気なく答えた。

「では私も共に城で過ごしましょう。このような日に一人で過ごすなんて寂しい」

 気の毒そうにさくらを見てジュワンが言った。さくらは驚いて、

「とんでもない! せっかくお祭りを楽しみにしていらしたのでしょう? そんなの申し訳ないです! お気持ちだけで十分です。ありがとうございます」

と慌てて断った。自分とは打って変わって丁寧な態度のさくらを見て、ノアの怒りはますます大きくなった。
 ジュワンはにっこり笑って、何かを思いついたように手を叩いた。

「そう、先ほど陛下は、城でも一人と言うわけではないとおっしゃっていましたね。そのお役目、私がお引き受けしましょう」

 そう言うとノアに向き合った。

「陛下がフェスタをお楽しみの間、王妃が城から出ないようにしっかりと見張っていましょう。それなら問題ないでしょう?」

 ノアは言葉に詰まり、唇を噛みしめた。悪びれない様子のジュワンをただ睨むしかできなかった。そんなノアの事など気にもかけないように、ジュワンは一冊の本を手に取ると、さくらの横に並ぶように立ち、さくらの前でその本を広げて見せた。

「これが昨日お話ししていた花ですよ」

 さくらは躊躇した。目の前にノアがいる。昨日の件もあるし、流石に気になった。しかし、親切にしてくれるジュワンを邪険にすることもできない。仕方なく一緒に本を覗いた。その仲の良さげな様子にノアは我慢がならなくなり、無言で図書室を出て行った。

 バタンッと乱暴に扉が閉まる音が図書室に大きく響き渡った
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

処理中です...