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第三章

14.お誘い

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 さくらとジュワンは花園や庭園を散策しながらいろいろなことを話した。花園に咲いている花々について、ジュワンが治めている小国について、自分がいた頃のローランドの流行など。
 ジュワンはあまり小難しい話はせずに、身近で興味をそそられる様な話をしてくれるので、さくらは聞いていて、まったく飽きることがなかった。

(会話術に富んだ人だな)

 さくらは感心しながら、ジュワンの話をうんうんと楽しく聞いていた。

「ところで、明日のフェスタですね。もちろん参加されるのでしょう?」

 小休止に庭園のベンチに腰掛けた時、ジュワンがさくらに聞いてきた。さくらは首を横に振った。
 あれからノアと一度も会っていないので、自分がフェスタに行けるかどうかわからなかった。しかし、あの時はきっとノアが一緒であるから街へ行く許可が下りたのだ。そのノア本人に約束を反故されたのだから、恐らく行くことは叶わないだろう。一人でイルハンに警護をお願いしても断られるに決まっている。

「私、前回のお祭りで誘拐されたので、おそらく今回は難しいと思います・・・」

「それは大変でしたね・・・」

 気の毒そうにジュワンが言うと、さくらは慌てて笑みを作り、

「夜には花火が上がるって聞いています。それはお城でも見られるようですから、一番よく見える場所を教えてもらって、一人で見るつもりです」

 元気にそう答えた。しかしジュワンは相変わらず気の毒そうに、

「一人で?」

と聞いた。さくらは言葉に詰まった。

「陛下とはご一緒されないのですか?」

「・・・。陛下は恋人の方とご一緒されるとそうですから・・・」

 さくらは言いづらそうに答えた。こんなこと話したくなかった。ジュワンの気遣う目線も辛い。思わず俯いてしまった。

「・・・陛下とは上手くいっていないのですか?」

 その問いに、さくらはきゅっと両手のこぶしを握ると、黙ってしまった。ジュワンは小さく溜息をつくと、

「確かにリリー嬢は素晴らしい女性ですからね・・・」

 呟くように言った。さくらは驚いてジュワンを見つめた。

「貴族ではないので、賛成しかねる者もいるようですが、陛下は以前から彼女に夢中でしたから。反対されるからこそ、燃え上がっているといいますか・・・」

 真っ青になり唇が微かに震えているさくらに、まったく気が付かないかのようにジュワンは続けた。

「とは言え、第一王妃を放っておくのは感心しませんね」

 呆れたように肩をすくめ、首を振ると、さくらを見た。さくらは慌てて顔を背けた。涙が浮かんできたのを見られたくなかったのだ。

「さくら様・・・?」

 ジュワンはさくらの顔を覗き込もうとした。さくらは急いて目じりの涙を拭くと、無理やりにっこりと笑った。

「いいんですよ! 所詮、私は陛下ご自身に選ばれて王妃になったわけではないのですから!」

「・・・」

 気の毒そうに自分を見つめるジュワンの目が痛かった。さくらは居たたまれなくなり、立ち上がると、

「そろそろ戻りましょうか」

と、できるだけ明るくジュワンに声を掛けた。ジュワンはさくらを見上げると、ふっと優しく笑って、

「私でよければ、フェスタにお付き合いいたしましょう」

と言いい、立ち上がった。

「え?」

 さくらは目を丸めて、ジュワンを見つめた。

「一緒に城下へ出かけられるように交渉してみましょう。もし無理だったとしても、花火はご一緒しましょう。一人で見るなんて寂しいこと言わないでください」

ジュワンの優しさにさくらの胸は熱くなってきた。鼻の奥が痛くなって、また涙が出そうになった。

「お心遣い感謝します。本当にありがとうございます」

 さくらはお辞儀をして、お礼を言った。おそらくジュワンが頼んでくれても外に出ることは無理だろう。さくらはそう思った。それに、もうフェスタには興味を削がれていた。と言うよりも、ノアとリリーという彼の恋人が楽しんでいると思うと、そんな場所には行きたくなかった。だが、自分のことを気にかけてくれたことが嬉しくて、ジュワンに心から感謝の気持ちを伝えた。

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