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第三章

8.約束

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 翌日、さくらの足は再び腫れ上がってしまった。せっかく治りかけていたのに、昨日の街巡りで無理をさせてしまったのだと、ノアは悔やんだが、さくらは気にしてなかった。多少無理すれば腫れるのは承知の上だったし、それ以上に街に出られたことが嬉しかった。だが、本当は他にも理由があった。

 実は誰にも内緒でドラゴンの洞窟に通い続けているのだ。街へ出る前日も、監視の目を盗んで洞窟へ向かうと、その途中の道で、うっかり足を軽く捻ってしまった。かなり用心して歩いているつもりだったが、酷い獣道で足を取られたとき、つい、怪我している方の足に全体重をかけて、踏ん張ってしまったのだ。そのせいで既に足は少々腫れていたのだ。

 謝るノアに対し、後ろめたい気持ちを抱きつつも、ドラゴンのことを話すのは躊躇われた。
 それに、ノアが自分の足の完治を望んでいるのは、さくらを気遣ってだけではないこともわかっていた。もちろん自分のことを心配しているのは分かっている。だが、その裏の邪な気持ちにもちゃんと気付いていた。だからお互い様と割り切ることにし、少々後ろめたい気持ちは封印した。


☆彡


 ある日、さくらはテナーから新しい情報を入手した。それは来月の九月の初めにまたフェスタが開催されるという情報だった。

「秋の実りを願うフェスタなのです。夜には花火も上がりますよ」

 テナーは興奮気味に話した。

「花火!?」

 さくらは食いついた。この世界にも花火があるとわかると嬉しくなった。

「花火ならお城からでも見えますよ!」

「見たい!! 花火!」

「たくさん上がりますから、期待してください」

 手を叩いて喜ぶさくらに、テナーは少し得意気に言った。

 早速、朝食の時にさくらはノアにその話を持ち掛けた。当然、ノアの顔は曇った。もちろん、この反応は想定内だった。以前に祭りの最中に拉致されたわけだから、この反応は当たり前だった。

「イルハンさんや、あと、カイトさんやダンさん達にご一緒していただいてもダメですか?」

 さくらは最近顔見知りになった、近衛隊の兵士たちを引き合いに出した。この際、ノアとお忍びで城下へ出かけた時のような自由はいらない。ガチガチに警護されている状態なら可能性はあるのではないかと思ったのだ。

 しかし、ノアの顔はますます渋くなった。祭りの危険性もそうだが、さくらの口からイルハン以外の男の名前が出てきたことが何より気に入らなかった。いつの間に、近衛隊の奴らと親しくなったのか。

「・・・なぜ、カイトやダンを知っている?」

「?? だって庭園内を見回っていますから。行き会った時は、皆さんと挨拶していますよ?」

「・・・」

 不思議そうにするさくらに、ノアは思わず黙ってしまった。高貴な令嬢だったら見回りの兵士には自ら声をかけないものだ。しかし、さくらは元の世界では平民の出だと聞いている。ゴンゴでも、身分の低い侍女たちや兵士たちにも決して驕った態度は見せず、丁寧に接していたことを思い出した。そして、そんなさくらの魅力に囚われた兵士もいた。
 ノアは無防備なさくらに危機感を抱き、彼女と親しくなった近衛隊の兵士を苦々しく思った。

(第一の宮殿内の警備体制は、一度見直そう)

「やっぱり近衛隊の方と一緒でも無理でしょうか・・・?」

 無言のノアに、さくらは上目遣いで聞いてくる。

(これも作戦か?)

 ノアは、さくらの仕草に一々動揺する自分に腹がった。それだけではない。近衛隊に対し、くだらない嫉妬心を抱いている自分にも腹がった。だが一番は、自分のヤキモチに気が付かない、鈍感なさくらに苛立ちを感じていた。

 ノアは自分の気持ちを落ち着けるように、ふーっと長く息を吐くと、お茶を一口飲んだ。

「・・・その日は俺も一緒に行けるように何とか調整しよう」

「!!!」

さくらはテーブルに手をついて立ち上がると、目をパチパチさせてノアを見た。そしてみるみる顔が笑顔になっていった。

「本当ですか!? 超うれしい!!」

 口元に両手を当て、今にも小躍りしそうなほど喜んでいる。自分との外出をここまで喜ぶさくらを見て、ノアの苛立ちはあっという間にとこかへ飛んで行ってしまった。

「当日は花火も上がるんですよね!」

 さくらは興奮気味に叫んだ。それを聞いてノアは思い出したように、

「花火を見るのにいい場所がある。」

と言った。すっかり平常心に戻ったノアはニッと笑った。

「全体がよく見える場所だ。そこで一緒に見よう」
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