上 下
60 / 98
第二章

30.かけられた魔術

しおりを挟む
 上空で、ドラゴンはさくらたちを何処でも好きな場所で降ろすと言ってくれた。イルハンは船が隠れている入り江を教えると、ドラゴンはその入江に向かって一直線に飛んで行った。

 小舟では三人の兵士が、今か今かとノアたちの帰りを待っていた。そこに巨大なドラゴンが現れ、慌てふためいた。それぞれ武器を取り出したが、足元に人影らしいものに気が付き、それがノアたちと分かると青ざめた。

 ドラゴンはゆっくり入江に近づくと、砂の上に三人を放った。相変わらず容赦のない放り方だ。さくらはすでに痛めていた左足首から着地してしまい、とうとう自力では立てないほど痛めてしまった。

 ノアはすぐにさくらのもとに駆け寄ると、上半身を抱き起した。さくらは激痛で顔面蒼白だった。それでも、何とかドラゴンの方に体を向けると、深々と頭を下げた。

「助かりました・・・。本当にありがとうございました」

 イルハンもそれに習い、共に頭を下げた。すると、それを見た兵士たちは慌てて武器を置いた。しかし、ノアだけは納得がいかにようにドラゴンを見つめていた。

「あの・・・、でも、何で助けてくれたんですか?」

 さくらはドラゴンに尋ねた。

「子供のためだ」

 ドラゴンはそう答えた。さくらは首をかしげると

「あの子は温泉をすっかり気に入った。お前のことも気に入ったようだ。泣いていたお前を気にしていた」

 そう溜息をついた。

「仕方なくお前を探していたら、悲鳴が聞こえた。だから助けた」

 さくらは感動した。山ではすっかり見放されたと思ったのにそんなことはなかったのだ。やはりドラゴンだって善意は持っているのだとさくらは思った。

「もういいだろう」

 ノアは話を遮り、さくらを横に抱きかかえるとサッと立ち上がった。あまりにも自然に自分を抱きかかえたノアにさくらは目を丸くした。
 ノアは無言で踵を返し船に向かおうとしたが、思いとどまって、ドラゴンに振り向いた。

「俺からも礼を言う」

そう言い、イルハンと共に船に戻ろうとすると、ドラゴンがノアに声をかけた。

「おまえだけ残れ。話がある」

 ノアはドラゴンに振り返ると、さくらをイルハンの腕に預けた。そして二人だけ先に船に戻らせた。


☆彡


「おまえ、魔術がかけられているな」

 ノアと二人きりになると、ドラゴンは切り出した。ノアは頷いた。

「誰にかけられた?」

「自国の・・・ローランドの精霊山にいるドラゴンだ」

 ノアが答えると、ドラゴンは呆れたように、

「それはとんでもない奴に術をかけられたな」

と呟いた。そして改めてノアを見据え、

「気付いていると思うが、術は半分以上解けているぞ。もう勝手にドラゴンに変化することはないだろう。だが気を付けろ。もし怒りなどで我を忘れた時、また体に残っている術が噴出し、再びドラゴンに変化するだろう。そうなったら、もはや朔の夜であろうとも、人の姿に戻れないと覚えておけ」

 そう忠告すると、翼を広げ、一気に空へ舞い上がった。そして、挨拶のようにその場で一度旋回すると、飛び去って行った。

 さくらは小舟から飛び立ったドラゴンにありがとうと叫び、姿が見えなくなるまで手を振っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

この度、変態騎士の妻になりました

cyaru
恋愛
結婚間近の婚約者に大通りのカフェ婚約を破棄されてしまったエトランゼ。 そんな彼女の前に跪いて愛を乞うたのは王太子が【ド変態騎士】と呼ぶ国一番の騎士だった。 ※話の都合上、少々いえ、かなり変態を感じさせる描写があります。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

捨てられ令嬢は、異能の眼を持つ魔術師になる。私、溺愛されているみたいですよ?

miy
ファンタジー
アンデヴァイセン伯爵家の長女であるイルシスは、『魔眼』といわれる赤い瞳を持って生まれた。 魔眼は、眼を見た者に呪いをかけると言い伝えられ…昔から忌み嫌われる存在。 邸で、伯爵令嬢とは思えない扱いを受けるイルシス。でも…彼女は簡単にはへこたれない。 そんなイルシスを救おうと手を差し伸べたのは、ランチェスター侯爵家のフェルナンドだった。 前向きで逞しい精神を持つ彼女は、新しい家族に出会い…愛されていく。 そんなある日『帝国の砦』である危険な辺境の地へ…フェルナンドが出向くことに。 「私も一緒に行く!」 異能の能力を開花させ、魔術だって使いこなす最強の令嬢。 愛する人を守ってみせます! ※ご都合主義です。お許し下さい。 ※ファンタジー要素多めですが、間違いなく溺愛されています。 ※本編は全80話(閑話あり)です。 おまけ話を追加しました。(10/15完結) ※この作品は、ド素人が書いた2作目です。どうか…あたたかい目でご覧下さい。よろしくお願い致します。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

処理中です...