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第二章
29.対の指輪
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馬に揺られながら、さくらはこれから先をどうすればよいのか必死になって考えていた。しかし、城が近づくにつれて思考回路がどんどん崩れていく。あっさり捕まった自分の失態を悔やみ、涙が出てきた。この二人の命はどうなるのだろう。自分のせいで殺されてしまうのではないかと思うと不安で胸が押し潰されそうだった。
ここは何としても国王に頼み込むしかない。さくらはそう考えた。国王に気に入られれば何とかなるかもしれない。プライドなんてかなぐり捨てて、国王陛下の前にひれ伏そう。自分にできることはそれだけだ。
さくらはそう決心することで、押し潰されそうになる心を何とか保っていた。
☆彡
とうとうさくらたちは城にたどり着いてしまった。さくらは馬から降ろされると、ガイに伴われ、大きな中庭に通された。ノアもイルハンも連行された。そこには天蓋つきの玉座があり、一人の男が座って待っていた。
ガイはさくらと共に国王の前に出ると、片膝を付いて頭を下げた。さくらはガイの傍に立ったまま、国王を見つめた。
(この方が国王陛下・・・)
さくらが佇んだままでいるのに気が付き、ガイは小声でさくらに跪くように指示した。さくらは慌てて両膝をつくと、頭を下げた。
国王は怪訝そうにボロボロのさくらを見た。そして自分の横にやってきたトムテに何か囁いた。トムテの存在に気付いたノアとイルハンは怒りで体を振るわせた。一方トムテはイルハンには気が付くが、一兵士の形をしているノアには気が付かず、イルハンの部下と思い込んだ。
「さくらと言ったな。面を上げよ」
太く重厚感のある声が、さくら頭から降り注いできた。さくらは恐る恐る顔を上げた。
その時、すぐ後ろで、ノアとイルハンが無理やり連れて行かれたと思うと、二メートルほどの杭に、それぞれ括り付けられ始めた。さくらは後ろを振り向き、息を呑んだ。
「どこを見ている!」
国王の声が響き渡り、さくらは慌てて国王の方に向き直った。国王の目はとても冷ややかだった。その冷たい目でさくらをじっくりと観察すると、不意に片手を上げて、誰かに合図をした。
すると、一人の身なりの良い中年男性がさくらに近づき、おもむろにさくらの左手を手に取った。驚いたさくらは手を引こうとしたが、力強く手首を掴まれ、ビクともしない。男はさくらの指輪を国王に見せるように、左手を上に持ち上げた。
「ローランド王族の指輪でございます。これを外し、我が陛下と対の指輪を身に着けていただけましたら、夫婦として成立し、『異世界の王妃』は我が国のものです」
中年男がそう説明すると、国王は、頬杖をつき、早くしろとばかり、空いている方の手を雑に振った。中年男は国王に頭を下げると、さくらの手を掴んだまま、近くにある大きな木のテーブルまでやってきた。
そのテーブルはノアとイルハンが縛られた杭の前に置いてあった。縛られた二人と大きなテーブルを挟んだ状態で向かい合わせに立たされたさくらは、左手をテーブルの上に置かされた。中年男はさくらの手の上に自分の手が重ねると、何やらブツブツと唱え始めた。
さくらは不審そうにその男を見つめた。初めは何も感じていなかったが、少しすると、自分と魔術師の手の間から、黄色い煙が上がってきた。その途端、薬指に激痛が走り、さくらは堪らず叫び声を上げた。
「さくら!!」
それを見てノアが叫んだ。その声にトムテが反応した。聞いたことがある声だ。思わず、目を細め、イルハンの部下と思っていた男をよく観察した。その男がまぎれもないノアだと分かると、嬉々として喜んだ。ローランド王国も一緒に亡き者にできる願ってもいないチャンスだと、体が喜びで震えた。
さくらは激痛に耐え、必死で声を抑えた。自分の寝巻の袖口を噛み、歯を食いしばった。しかし、指の肉ごと剥がそうとするかのような激痛に耐えきれず、とうとう絶叫した。
その時、魔術師の手がさくらから離れた。途端に嘘のように痛みが消えた。さくらは脱力して呆けた状態で自分の指を見た。痛みの涙で歪む視界の中、指輪は変わらずさくらの薬指にはまっていた。
さくらの足元には、魔術師が汗だくで意識朦朧となってへたり込み、恐れるようにさくらを見ると、
「術が・・・効かない・・・」
と呟いて、気を失ってしまった。
「どういうことだ?」
この想定外の事態に、国王は隣に立っているトムテに尋ねた。静かだが、恐ろしく低い声だった。トムテは背筋に冷たいものが流れるのを感じたが、すぐに気を取り直し、
「まだ手段はございます」
と恭しく王に頭を下げた。
「夫婦の証は共通の指輪でございます。さくら殿の指輪が外れぬのであれば、その対の指輪を陛下のものにすればいいだけの事・・・」
トムテの言うことに、国王は怪訝そうな顔を向けた。トムテはニヤッと口角をあげると、
「あの男の指輪を外し、国王の指輪になさいませ! あの男はノアです!」
そう叫ぶと、ノアを指差した。
「なに!?」
流石のゴンゴ国王も驚き、思わず立ち上がった。そしてトムテが指差した男を見た。
その男は臆せずに、国王である自分を鬼の形相で睨んでいた。
ここは何としても国王に頼み込むしかない。さくらはそう考えた。国王に気に入られれば何とかなるかもしれない。プライドなんてかなぐり捨てて、国王陛下の前にひれ伏そう。自分にできることはそれだけだ。
さくらはそう決心することで、押し潰されそうになる心を何とか保っていた。
☆彡
とうとうさくらたちは城にたどり着いてしまった。さくらは馬から降ろされると、ガイに伴われ、大きな中庭に通された。ノアもイルハンも連行された。そこには天蓋つきの玉座があり、一人の男が座って待っていた。
ガイはさくらと共に国王の前に出ると、片膝を付いて頭を下げた。さくらはガイの傍に立ったまま、国王を見つめた。
(この方が国王陛下・・・)
さくらが佇んだままでいるのに気が付き、ガイは小声でさくらに跪くように指示した。さくらは慌てて両膝をつくと、頭を下げた。
国王は怪訝そうにボロボロのさくらを見た。そして自分の横にやってきたトムテに何か囁いた。トムテの存在に気付いたノアとイルハンは怒りで体を振るわせた。一方トムテはイルハンには気が付くが、一兵士の形をしているノアには気が付かず、イルハンの部下と思い込んだ。
「さくらと言ったな。面を上げよ」
太く重厚感のある声が、さくら頭から降り注いできた。さくらは恐る恐る顔を上げた。
その時、すぐ後ろで、ノアとイルハンが無理やり連れて行かれたと思うと、二メートルほどの杭に、それぞれ括り付けられ始めた。さくらは後ろを振り向き、息を呑んだ。
「どこを見ている!」
国王の声が響き渡り、さくらは慌てて国王の方に向き直った。国王の目はとても冷ややかだった。その冷たい目でさくらをじっくりと観察すると、不意に片手を上げて、誰かに合図をした。
すると、一人の身なりの良い中年男性がさくらに近づき、おもむろにさくらの左手を手に取った。驚いたさくらは手を引こうとしたが、力強く手首を掴まれ、ビクともしない。男はさくらの指輪を国王に見せるように、左手を上に持ち上げた。
「ローランド王族の指輪でございます。これを外し、我が陛下と対の指輪を身に着けていただけましたら、夫婦として成立し、『異世界の王妃』は我が国のものです」
中年男がそう説明すると、国王は、頬杖をつき、早くしろとばかり、空いている方の手を雑に振った。中年男は国王に頭を下げると、さくらの手を掴んだまま、近くにある大きな木のテーブルまでやってきた。
そのテーブルはノアとイルハンが縛られた杭の前に置いてあった。縛られた二人と大きなテーブルを挟んだ状態で向かい合わせに立たされたさくらは、左手をテーブルの上に置かされた。中年男はさくらの手の上に自分の手が重ねると、何やらブツブツと唱え始めた。
さくらは不審そうにその男を見つめた。初めは何も感じていなかったが、少しすると、自分と魔術師の手の間から、黄色い煙が上がってきた。その途端、薬指に激痛が走り、さくらは堪らず叫び声を上げた。
「さくら!!」
それを見てノアが叫んだ。その声にトムテが反応した。聞いたことがある声だ。思わず、目を細め、イルハンの部下と思っていた男をよく観察した。その男がまぎれもないノアだと分かると、嬉々として喜んだ。ローランド王国も一緒に亡き者にできる願ってもいないチャンスだと、体が喜びで震えた。
さくらは激痛に耐え、必死で声を抑えた。自分の寝巻の袖口を噛み、歯を食いしばった。しかし、指の肉ごと剥がそうとするかのような激痛に耐えきれず、とうとう絶叫した。
その時、魔術師の手がさくらから離れた。途端に嘘のように痛みが消えた。さくらは脱力して呆けた状態で自分の指を見た。痛みの涙で歪む視界の中、指輪は変わらずさくらの薬指にはまっていた。
さくらの足元には、魔術師が汗だくで意識朦朧となってへたり込み、恐れるようにさくらを見ると、
「術が・・・効かない・・・」
と呟いて、気を失ってしまった。
「どういうことだ?」
この想定外の事態に、国王は隣に立っているトムテに尋ねた。静かだが、恐ろしく低い声だった。トムテは背筋に冷たいものが流れるのを感じたが、すぐに気を取り直し、
「まだ手段はございます」
と恭しく王に頭を下げた。
「夫婦の証は共通の指輪でございます。さくら殿の指輪が外れぬのであれば、その対の指輪を陛下のものにすればいいだけの事・・・」
トムテの言うことに、国王は怪訝そうな顔を向けた。トムテはニヤッと口角をあげると、
「あの男の指輪を外し、国王の指輪になさいませ! あの男はノアです!」
そう叫ぶと、ノアを指差した。
「なに!?」
流石のゴンゴ国王も驚き、思わず立ち上がった。そしてトムテが指差した男を見た。
その男は臆せずに、国王である自分を鬼の形相で睨んでいた。
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