54 / 98
第二章
25.再び合流
しおりを挟む
ノアの考え通り、イルハンは入江へ急いていた。走りながら、上手く二人が船まで辿り着いていることを祈っていた。
朝日が完全に登っているので、ノアはドラゴンの姿に戻っているはずだ。無事に船に着いていれば、さくらを船に残し、自分を探しに来るだろう。ドラゴンでいる時の視覚と嗅覚は人間でいるときの数倍はあると聞いていた。ましてや小さい姿で敵に見つかりにくい。きっとノアの方が先に自分を見つけ出すだろうと考えていた。
(でも、もし道中に朝日を迎えていたら・・・)
一抹の不安が過る。
もしも、さくらの目の前でドラゴンの姿になってしまったら・・・。
そう思うと生きた心地がしなかった。いくらさくらがドラゴンに心を許しているとは言え、正体が陛下だと知ったらどれほど驚くだろう。何よりも陛下は、自分が醜いドラゴンであることをさくらには絶対知られたくないはずだ。
しかし、道中に出会ったのは人の姿のノアだった。
お互い追手だと思い、危うく襲い掛かるところだった。ノアだと分かると、イルハンは感動で言葉を失ってしまった。
「詳しい話は後だ」
感極まっているイルハンに、ノアは間髪入れずにそう言うと、すぐに一緒に来るよう命令し、もと来た道へ走り出した。イルハンは慌ててその後を追った。
二人がもう少しで滝つぼが見えるところまで戻ったとき、何か巨大な影が空を飛んだ。見上げると大きなドラゴンが旋回しているのが見えた。そしてその足元には人らしいものを掴んでいた。
「なっ!」
ノアとイルハンは絶句した。巨大なドラゴンが足に掴んでいるのは、まぎれもないさくらだったからだ。
二人は急いで近くにある木や岩に登り、ドラゴンの姿を追った。ドラゴンが一気に城の後ろの山に向かって飛んで行ったことを確かめると、二人は急いでドラゴンの後を追って走り出した。
☆彡
さくらは、東に向かって山道を下り始めてすぐに後悔した。どう考えても、一人であの滝つぼまで戻るのは不可能だった。
それだけではない。昨日の夜から飲まず食わずで激しい運動と過酷な労働をした上に、温泉まで浸かるなどという無謀なことをしてしまったので体力を消耗し切っており、もはや脱水症状の寸前だった。
(やっぱり、もう一度、親ドラゴンにお願いしてみよう・・・。このままじゃ、ヤバイ・・・)
そう思いながら川に向かって戻ろうとした。だが、もう頭はクラクラしてどこにどう行けばいいか分からない。フラフラになりながら歩いているところを、ゴンゴの一隊の捜索隊にあっさりと見つかってしまった。
恐らく東に向かおうが西に向かおうが、さくらが見つかるのは時間の問題だっただろう。ドラゴンがさくらを掴み、空高く飛び立って行ったのを見たのはノアやイルハンだけではなかった。当然だが、ゴンゴの兵士たちほとんどが目撃していたのだ。そのため、急遽標的を変え、兵士総動員で城の後ろの山へ向かってきていたのだった。
ゴンゴの兵士はさくらを保護すると、まず水を与えてくれた。そして屋根のない輿に乗せると、山道を下り始めた。
さくらは兵士たちが運ぶ輿の上で横になり、ミノムシのように体を丸めていた。少しずつ頭が正常に働いてくると、さくらは自分がとんでもない状況にいることに気が付いた。
なんという失態を犯してしまったのだろう。ノアとイルハンの努力を無駄にしてしまったのだ。これからどうすればいいのか。
さくらは不安に駆られ、さらに体とぎゅっと丸めた。
(考えろ!考えろ!)
さくらはぎゅっと目をつぶって、自分に言い聞かせていた。その時――。
二つの人影が音もなく、いきなり攻めてきた。さくらは自分の輿が下に降ろされるのを感じたが、自分の思考に夢中で、暫く顔を上げなかった。しかし、叫び声と異様な物音で慌てて顔を上げると、目の前に自分を保護した一隊の兵士全員が地面に倒れていた。
その光景に唖然としているさくらの腕をつかんだのはノアだった。
ノアはさくらを立たせると、輿から降ろした。そしてイルハンと共にすぐにその場を立ち去ろうとしたが、一足遅かった。
三人は後から来た二組の捜索隊に追い付かれ、すべての行く手を阻むように周りを囲まれてしまった。
朝日が完全に登っているので、ノアはドラゴンの姿に戻っているはずだ。無事に船に着いていれば、さくらを船に残し、自分を探しに来るだろう。ドラゴンでいる時の視覚と嗅覚は人間でいるときの数倍はあると聞いていた。ましてや小さい姿で敵に見つかりにくい。きっとノアの方が先に自分を見つけ出すだろうと考えていた。
(でも、もし道中に朝日を迎えていたら・・・)
一抹の不安が過る。
もしも、さくらの目の前でドラゴンの姿になってしまったら・・・。
そう思うと生きた心地がしなかった。いくらさくらがドラゴンに心を許しているとは言え、正体が陛下だと知ったらどれほど驚くだろう。何よりも陛下は、自分が醜いドラゴンであることをさくらには絶対知られたくないはずだ。
しかし、道中に出会ったのは人の姿のノアだった。
お互い追手だと思い、危うく襲い掛かるところだった。ノアだと分かると、イルハンは感動で言葉を失ってしまった。
「詳しい話は後だ」
感極まっているイルハンに、ノアは間髪入れずにそう言うと、すぐに一緒に来るよう命令し、もと来た道へ走り出した。イルハンは慌ててその後を追った。
二人がもう少しで滝つぼが見えるところまで戻ったとき、何か巨大な影が空を飛んだ。見上げると大きなドラゴンが旋回しているのが見えた。そしてその足元には人らしいものを掴んでいた。
「なっ!」
ノアとイルハンは絶句した。巨大なドラゴンが足に掴んでいるのは、まぎれもないさくらだったからだ。
二人は急いで近くにある木や岩に登り、ドラゴンの姿を追った。ドラゴンが一気に城の後ろの山に向かって飛んで行ったことを確かめると、二人は急いでドラゴンの後を追って走り出した。
☆彡
さくらは、東に向かって山道を下り始めてすぐに後悔した。どう考えても、一人であの滝つぼまで戻るのは不可能だった。
それだけではない。昨日の夜から飲まず食わずで激しい運動と過酷な労働をした上に、温泉まで浸かるなどという無謀なことをしてしまったので体力を消耗し切っており、もはや脱水症状の寸前だった。
(やっぱり、もう一度、親ドラゴンにお願いしてみよう・・・。このままじゃ、ヤバイ・・・)
そう思いながら川に向かって戻ろうとした。だが、もう頭はクラクラしてどこにどう行けばいいか分からない。フラフラになりながら歩いているところを、ゴンゴの一隊の捜索隊にあっさりと見つかってしまった。
恐らく東に向かおうが西に向かおうが、さくらが見つかるのは時間の問題だっただろう。ドラゴンがさくらを掴み、空高く飛び立って行ったのを見たのはノアやイルハンだけではなかった。当然だが、ゴンゴの兵士たちほとんどが目撃していたのだ。そのため、急遽標的を変え、兵士総動員で城の後ろの山へ向かってきていたのだった。
ゴンゴの兵士はさくらを保護すると、まず水を与えてくれた。そして屋根のない輿に乗せると、山道を下り始めた。
さくらは兵士たちが運ぶ輿の上で横になり、ミノムシのように体を丸めていた。少しずつ頭が正常に働いてくると、さくらは自分がとんでもない状況にいることに気が付いた。
なんという失態を犯してしまったのだろう。ノアとイルハンの努力を無駄にしてしまったのだ。これからどうすればいいのか。
さくらは不安に駆られ、さらに体とぎゅっと丸めた。
(考えろ!考えろ!)
さくらはぎゅっと目をつぶって、自分に言い聞かせていた。その時――。
二つの人影が音もなく、いきなり攻めてきた。さくらは自分の輿が下に降ろされるのを感じたが、自分の思考に夢中で、暫く顔を上げなかった。しかし、叫び声と異様な物音で慌てて顔を上げると、目の前に自分を保護した一隊の兵士全員が地面に倒れていた。
その光景に唖然としているさくらの腕をつかんだのはノアだった。
ノアはさくらを立たせると、輿から降ろした。そしてイルハンと共にすぐにその場を立ち去ろうとしたが、一足遅かった。
三人は後から来た二組の捜索隊に追い付かれ、すべての行く手を阻むように周りを囲まれてしまった。
11
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
オカン公爵令嬢はオヤジを探す
清水柚木
ファンタジー
フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。
ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。
そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。
ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。
オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。
オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。
あげく魔王までもが復活すると言う。
そんな彼に幸せは訪れるのか?
これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。
※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。
※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。
※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜
秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』
◆◆◆
*『お姉様って、本当に醜いわ』
幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。
◆◆◆
侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。
こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。
そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。
それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
蓮華
釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる