ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼

文字の大きさ
上 下
51 / 98
第二章

22.滝つぼの主

しおりを挟む
 さくらは急いで立ち上がると、ドラゴンに駆け寄り、顔に抱きついてキスをした。魔術が解けて元に戻ったと思ったのだ。
 しかし、ドラゴンは大きく顔を大きく振り、さくらを振り飛ばした。さくらは洞窟の壁の岩に叩きつけられた。

「・・うぐっ!」

 壁に激突したさくらは、痛さでうめき声を上げ、その場で腰を押え、丸く蹲った。痛さに耐えながらも、ドラゴンに声をかけた。

「ごめんね、突然抱きついて。驚かせちゃったよね?」

 腰を摩りながら謝り、起き上がろうとするさくらの前に、ドラゴンが仁王立ちしていた。その佇まいに異様な雰囲気を感じ取った。やっと自分のドラゴンとは違うことに気が付き、背中に冷たいものが流れるのを感じた。

 よく見ると、そのドラゴンは自分の知っているドラゴンよりも大きく、顔には傷があった。右後ろ脚を見てみると、金のリングなどしていない。さくらは血の気が引いた。

 ドラゴンはゆっくり口を開けた。口の中にチョロチョロと炎が見えた。さくらは慌てて頭を抱えて地面に伏せた。
 次の瞬間、さくらの頭上で炎が舞った。小さい火の粉が降って来る。体はびしょ濡れだったため、さして問題はなかったが、さくらは恐ろしくて地面に伏した体勢のまま固まってしまった。

「お前、何者だ?」

 低い声がさくらの頭上から聞こえた。一瞬さくらは自分の耳を疑った。

「なぜ、ここにいる?」

 やはりドラゴンが発していた言葉だった。言葉が話せることに驚いたが、イルハンが稀に人の言葉を操れるドラゴンがいると言っていたことを思い出した。とは言え、さくらは怖くて顔を上げることができない。

「わ、私は・・・そ、その、攫われこの国へ来てしまった者です・・・。お城から逃げ出して・・・。途中、追手に捕まりそうになったので、ここに隠れました・・・。」

 ひれ伏した状態のまま、震える声で何とか答えると、

「ここが、あなたの住処とは知りませんでした!本 当に申し訳ございません!」

 頭の上で両手を合わせ、祈るように謝った。

「・・・なぜ、お前は私を恐れない?」

 ドラゴンはさらに聞いてきた。恐れないどころか、恐怖の絶頂にいるさくらには、その質問の意味がわからず、口ごもってしまった。
 答えないさくらに、ドラゴンは苛立ったように、

「さっき、私に抱きついただろう」

と言った。途端にさくらは意味を理解した。抱きついた上に、キスまでした自分を思い出し、恐怖の中から恥ずかしさがじわーっと込み上げてきた。

「ごめんなさい! 友達のドラゴンと間違ってしまったんです! 大変失礼しました!」

「嘘をつくな!」

 ドラゴンは怒鳴って、また軽く火を噴いた。

「ドラゴンと親しくする人間なんぞ、居らんわ!」

「嘘じゃないしっ!」

 喋っているうちに少しずつ恐怖が薄らいできていたさくらは、カチンときて、顔を上げて言い返した。

「ほう・・・」

 ドラゴンは目を細めて、さくらを見据えた。

「人間は我々を醜く邪悪な生き物として、ドラゴン狩りをする。私の顔の傷も人間につけられたものだ」

「・・・!」

 さくらは、ドラゴンの顔の傷を見て言葉を失い、俯いた。

「そんな人間が、ドラゴンと親しくするなど、あり得ない!」

「・・・人間の方が愚かなんですよ・・・。きっと・・・」

 さくらは俯いたまま、呟くように言った。その言葉に、ドラゴンは驚いたように目を丸くし、無言でさくらを見つめた。

「・・・人間って、この世の中で神の次に自分たちが強いと思っている愚かな生き物なんですよ・・・。この世界のヒエラルキーのトップにいるって信じて疑っていないんです・・・」

 さくらは地面を見つめながら続けた。

「ドラゴンが自分たちより強いことをちゃんと理解しているのに、認めたくないので、勝手に邪悪なものと位置付けて自分たちの尊厳を守っているんですよ、きっと・・・」

「・・・」

「あくまでも自論ですけど・・・」

 さくらは顔を上げると、真っ直ぐドラゴンを見据えた。

「他の人間たちはどうか知りませんが、私には本当にドラゴンの友達がいるんです。一頭だけですけど。大親友なんです。嘘じゃありません」

 そう言い切った時、洞窟の奥からヒョコヒョコと小さな子供のドラゴンが現れた。子供は親のドラゴンの横にちょこんと座ると、不思議そうにさくらを見つめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

処理中です...