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第二章
22.滝つぼの主
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さくらは急いで立ち上がると、ドラゴンに駆け寄り、顔に抱きついてキスをした。魔術が解けて元に戻ったと思ったのだ。
しかし、ドラゴンは大きく顔を大きく振り、さくらを振り飛ばした。さくらは洞窟の壁の岩に叩きつけられた。
「・・うぐっ!」
壁に激突したさくらは、痛さでうめき声を上げ、その場で腰を押え、丸く蹲った。痛さに耐えながらも、ドラゴンに声をかけた。
「ごめんね、突然抱きついて。驚かせちゃったよね?」
腰を摩りながら謝り、起き上がろうとするさくらの前に、ドラゴンが仁王立ちしていた。その佇まいに異様な雰囲気を感じ取った。やっと自分のドラゴンとは違うことに気が付き、背中に冷たいものが流れるのを感じた。
よく見ると、そのドラゴンは自分の知っているドラゴンよりも大きく、顔には傷があった。右後ろ脚を見てみると、金のリングなどしていない。さくらは血の気が引いた。
ドラゴンはゆっくり口を開けた。口の中にチョロチョロと炎が見えた。さくらは慌てて頭を抱えて地面に伏せた。
次の瞬間、さくらの頭上で炎が舞った。小さい火の粉が降って来る。体はびしょ濡れだったため、さして問題はなかったが、さくらは恐ろしくて地面に伏した体勢のまま固まってしまった。
「お前、何者だ?」
低い声がさくらの頭上から聞こえた。一瞬さくらは自分の耳を疑った。
「なぜ、ここにいる?」
やはりドラゴンが発していた言葉だった。言葉が話せることに驚いたが、イルハンが稀に人の言葉を操れるドラゴンがいると言っていたことを思い出した。とは言え、さくらは怖くて顔を上げることができない。
「わ、私は・・・そ、その、攫われこの国へ来てしまった者です・・・。お城から逃げ出して・・・。途中、追手に捕まりそうになったので、ここに隠れました・・・。」
ひれ伏した状態のまま、震える声で何とか答えると、
「ここが、あなたの住処とは知りませんでした!本 当に申し訳ございません!」
頭の上で両手を合わせ、祈るように謝った。
「・・・なぜ、お前は私を恐れない?」
ドラゴンはさらに聞いてきた。恐れないどころか、恐怖の絶頂にいるさくらには、その質問の意味がわからず、口ごもってしまった。
答えないさくらに、ドラゴンは苛立ったように、
「さっき、私に抱きついただろう」
と言った。途端にさくらは意味を理解した。抱きついた上に、キスまでした自分を思い出し、恐怖の中から恥ずかしさがじわーっと込み上げてきた。
「ごめんなさい! 友達のドラゴンと間違ってしまったんです! 大変失礼しました!」
「嘘をつくな!」
ドラゴンは怒鳴って、また軽く火を噴いた。
「ドラゴンと親しくする人間なんぞ、居らんわ!」
「嘘じゃないしっ!」
喋っているうちに少しずつ恐怖が薄らいできていたさくらは、カチンときて、顔を上げて言い返した。
「ほう・・・」
ドラゴンは目を細めて、さくらを見据えた。
「人間は我々を醜く邪悪な生き物として、ドラゴン狩りをする。私の顔の傷も人間につけられたものだ」
「・・・!」
さくらは、ドラゴンの顔の傷を見て言葉を失い、俯いた。
「そんな人間が、ドラゴンと親しくするなど、あり得ない!」
「・・・人間の方が愚かなんですよ・・・。きっと・・・」
さくらは俯いたまま、呟くように言った。その言葉に、ドラゴンは驚いたように目を丸くし、無言でさくらを見つめた。
「・・・人間って、この世の中で神の次に自分たちが強いと思っている愚かな生き物なんですよ・・・。この世界のヒエラルキーのトップにいるって信じて疑っていないんです・・・」
さくらは地面を見つめながら続けた。
「ドラゴンが自分たちより強いことをちゃんと理解しているのに、認めたくないので、勝手に邪悪なものと位置付けて自分たちの尊厳を守っているんですよ、きっと・・・」
「・・・」
「あくまでも自論ですけど・・・」
さくらは顔を上げると、真っ直ぐドラゴンを見据えた。
「他の人間たちはどうか知りませんが、私には本当にドラゴンの友達がいるんです。一頭だけですけど。大親友なんです。嘘じゃありません」
そう言い切った時、洞窟の奥からヒョコヒョコと小さな子供のドラゴンが現れた。子供は親のドラゴンの横にちょこんと座ると、不思議そうにさくらを見つめた。
しかし、ドラゴンは大きく顔を大きく振り、さくらを振り飛ばした。さくらは洞窟の壁の岩に叩きつけられた。
「・・うぐっ!」
壁に激突したさくらは、痛さでうめき声を上げ、その場で腰を押え、丸く蹲った。痛さに耐えながらも、ドラゴンに声をかけた。
「ごめんね、突然抱きついて。驚かせちゃったよね?」
腰を摩りながら謝り、起き上がろうとするさくらの前に、ドラゴンが仁王立ちしていた。その佇まいに異様な雰囲気を感じ取った。やっと自分のドラゴンとは違うことに気が付き、背中に冷たいものが流れるのを感じた。
よく見ると、そのドラゴンは自分の知っているドラゴンよりも大きく、顔には傷があった。右後ろ脚を見てみると、金のリングなどしていない。さくらは血の気が引いた。
ドラゴンはゆっくり口を開けた。口の中にチョロチョロと炎が見えた。さくらは慌てて頭を抱えて地面に伏せた。
次の瞬間、さくらの頭上で炎が舞った。小さい火の粉が降って来る。体はびしょ濡れだったため、さして問題はなかったが、さくらは恐ろしくて地面に伏した体勢のまま固まってしまった。
「お前、何者だ?」
低い声がさくらの頭上から聞こえた。一瞬さくらは自分の耳を疑った。
「なぜ、ここにいる?」
やはりドラゴンが発していた言葉だった。言葉が話せることに驚いたが、イルハンが稀に人の言葉を操れるドラゴンがいると言っていたことを思い出した。とは言え、さくらは怖くて顔を上げることができない。
「わ、私は・・・そ、その、攫われこの国へ来てしまった者です・・・。お城から逃げ出して・・・。途中、追手に捕まりそうになったので、ここに隠れました・・・。」
ひれ伏した状態のまま、震える声で何とか答えると、
「ここが、あなたの住処とは知りませんでした!本 当に申し訳ございません!」
頭の上で両手を合わせ、祈るように謝った。
「・・・なぜ、お前は私を恐れない?」
ドラゴンはさらに聞いてきた。恐れないどころか、恐怖の絶頂にいるさくらには、その質問の意味がわからず、口ごもってしまった。
答えないさくらに、ドラゴンは苛立ったように、
「さっき、私に抱きついただろう」
と言った。途端にさくらは意味を理解した。抱きついた上に、キスまでした自分を思い出し、恐怖の中から恥ずかしさがじわーっと込み上げてきた。
「ごめんなさい! 友達のドラゴンと間違ってしまったんです! 大変失礼しました!」
「嘘をつくな!」
ドラゴンは怒鳴って、また軽く火を噴いた。
「ドラゴンと親しくする人間なんぞ、居らんわ!」
「嘘じゃないしっ!」
喋っているうちに少しずつ恐怖が薄らいできていたさくらは、カチンときて、顔を上げて言い返した。
「ほう・・・」
ドラゴンは目を細めて、さくらを見据えた。
「人間は我々を醜く邪悪な生き物として、ドラゴン狩りをする。私の顔の傷も人間につけられたものだ」
「・・・!」
さくらは、ドラゴンの顔の傷を見て言葉を失い、俯いた。
「そんな人間が、ドラゴンと親しくするなど、あり得ない!」
「・・・人間の方が愚かなんですよ・・・。きっと・・・」
さくらは俯いたまま、呟くように言った。その言葉に、ドラゴンは驚いたように目を丸くし、無言でさくらを見つめた。
「・・・人間って、この世の中で神の次に自分たちが強いと思っている愚かな生き物なんですよ・・・。この世界のヒエラルキーのトップにいるって信じて疑っていないんです・・・」
さくらは地面を見つめながら続けた。
「ドラゴンが自分たちより強いことをちゃんと理解しているのに、認めたくないので、勝手に邪悪なものと位置付けて自分たちの尊厳を守っているんですよ、きっと・・・」
「・・・」
「あくまでも自論ですけど・・・」
さくらは顔を上げると、真っ直ぐドラゴンを見据えた。
「他の人間たちはどうか知りませんが、私には本当にドラゴンの友達がいるんです。一頭だけですけど。大親友なんです。嘘じゃありません」
そう言い切った時、洞窟の奥からヒョコヒョコと小さな子供のドラゴンが現れた。子供は親のドラゴンの横にちょこんと座ると、不思議そうにさくらを見つめた。
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